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第3話 準決勝とそれぞれの手始め。
午前の準決勝戦が始まろうとしていた。
参加メンバーであるジーク、ミルル、ルーシー、ルカ、シルベルトの五名は試合会場の中心で集まっていた。
その際、試合場を眺めていたジークが心の中で呟く。
(……広いな。これだけ広ければ、少し派手にやっても問題ないか)
今回は他の試合が午後の一つだけあるので、会場の全体が試合エリアであった。会場にいる観客すべてから見られている。
そして広範囲での戦闘が可能になったことは、ジークにとっても有難いことであった。
「準備はいいか?」
審判員に呼びかけられジークを含む全員が頷くと、距離を取ってから構えるように促した。
特に構えず、ジークは軽く首を鳴らす。
ミルルは腰に差しているナイフに手を添える。
生徒会長のルーシーは、魔道具と思われる小さな魔導書を取り出した。
ゴスロリ制服の《冥女》のルカは、魔道具らしき小さな杖を持つ。
黒と金の髪と瞳をした《天魔》のシルベルトは、背中に差している白と黒の二本の長剣を握り締めた。
そして審判員が全員の準備が整ったのを見届けて、合図を出した。
「それでは準決勝、第一試合────始めっ!」
決勝の一枠を決める重要な試合が今始まった。
◇◇◇
最初に動いたのは──────《冥女》のルカであった。
まず地の利を得ようと地面を蹴って、試合場に魔法を掛けた。
「闇よ来たれ───『常闇王の絶対領域』」
ルカを中心に闇のオーラが煙のように噴き出した。
『常闇王の絶対領域』の効果によって闇系統の能力が底上げされる上、効果範囲内に闇属性の特性が含まれる。
闇系統の特性は精神干渉と吸収。
このまま効果範囲が広まり、内側に入れば精神が沈み込み、魔力や気力を落とされてしまい弱っていくことになる。
それが分かっていた為、駆け出そうとした面々は足を止めて、広がっていく闇に警戒する。
不用意に中に入るのは得策ではない。様子を見て距離を取る者もいたが。
「光よ来たれ───『揺光王の絶対領域』」
ウルキア生徒会長のルーシーは魔道書を手にして、退がろうとしなかった。
ルカがしたように広範囲の属性魔法を発動させると、迫ってくる闇のオーラに自身の光のオーラをぶつけて相殺させた。
光系統の特徴は補整と侵食。
効果範囲が広がれば対象の魔力や気力、精神を侵食させて、または属性の付与や回復を促すことができる。
ルカとルーシーの魔法によって、試合場は二つに分れようとしていた。
「なら俺もやるか」
だがそこで、さらにもう一人の彼が動き出した。
この中で一番魔法の影響とは縁がなく、常にアドバンテージを握っている彼である。
「空よ来たれ───『空天王の絶対領域』」
「「ッ!!」」
不敵な笑みで風と無属性を融合し手を上げて、ジークは“空天”の魔法を発現させる。
二つの属性フィールドに挟み込むように上空まで展開された、淡緑色の“空天”が特徴である捕食によって光と闇を喰らっていく。
そのジークの割り込みに、先手を奪えたと思ったルーシーとルカは目を見張って言葉を失っていた。
「くっ……! ジーク・スカルス……!」
「悪いな。いけそうだったから割り込ませてもらった」
「スカルス君……!」
力押しで自身のフィールドを荒らそうとするジークに、ルカは憎々しげな顔で睨み苦悶の声を漏らし、ルーシーは困ったように魔導書を構えたままであった。
「はーー!!」
────その二人に奇襲を仕掛けたのはミルルであった。
魔法陣の召喚で飛び出した大量のナイフで二人に襲いかかる。
「『光の壁』!」
「ふ!」
ミルルの攻撃にハッとした顔で反応するルーシーとパンチっと指を鳴らしたルカは、発現させたフィールド魔法をそのままに、防御魔法を展開させた。
『光の壁』と『闇の壁』よって、降り注いできたナイフは彼女達まで届かず、張られた障壁によって弾かれる。
「では僕も攻撃するよ。『双魔の幻想剣』」
そして最後に行動に移ったのはシルベルト・オッカスである。
背中から抜かれた黒と白の剣を振るって剣魔法を発現させる。
光と闇の融合魔法の一つ『双魔の幻想剣』。
持っている黒と白の剣と同じ光が、宝石のように煌めき斬撃となって放たれた。
魔法紙に描かれた魔法陣を通して、ナイフを放つミルルへと向かう。飛んでいるナイフを破壊して彼女の迫っていた。
ミルルは迫ってくる斬撃を軌跡を追って、シルベルトと視線が向けた。
普段は見せない憎々しげな顔を見せてシルベルトを睨んでいたが、彼には
「天魔……!!」
「やぁ? 君は確か大会前にガンダール卿と一緒にいた───「『硬土の加重盾』っ! 『硬土の加重砲』!」────ッな!?」
だがそこで、咄嗟に躱そうとしたミルルの前に出るようにジークが割り込んできた。
土属性の専用技の防御で斬撃を受け止めると、手のひらから同じく専用技の重力大砲をシルベルトと放った。
「っ……ジーク・スカルス君か」
「よろしく」
融合魔法を帯びている剣を盾に、ジークの攻撃を受け止めたシルベルト。
恨めしそうな笑みでミルルの前に立つ、ジークを見据えると彼も笑顔で会釈をした。
「君のことは初日から見ていたよ。底が測られない、恐ろしい学生だとね」
「天魔にそう言われるなら光栄と受け取るべきかな? 未来のSSランク候補者?」
「どうでもいいけど、なんで私の前に立つの? 一応敵同士だよ?」
会話を交わす男性二人にミルルは呆れた顔でジークの後ろから挟み込んでくる。
手に持っているナイフで背後から刺してもいいが、どうせ防がれるか返り討ちにあう気がするので、手元でクルクルとナイフを回して様子を見ていた。
「いやクラスメイト同士だ、どうせなら共闘してもどうかなと思ってな」
「それなら同じ学園の先輩でもある私とも、共闘してもらえるのでしょうか?」
ミルルに横目で見ながら軽い口調で答えるジークにルーシーも近づいてくる。
ただし、周囲に光の魔法弾を携えた状態で同じく、闇の魔法弾を構えているルカを牽制して。
「ははははっ、どうでしょう? 先輩とはそこまで親しくありませんから」
「僕とはダメのかな? 同じ聖国の側だよ?」
「イケメンは論外……だ!」
ニコリと微笑んでシルベルトまで近づいてきたところで、ジークが手を振るって追い出す。
さらっと『零の透矢』を放ち突き離した。
「それは残念だっ!」
邪険に扱われるもシルベルトは笑顔で接近してくる。飛んでくる魔力矢を余裕な動作で切っていっている。
「……天魔は俺がやるからミルルは他をよろしくな」
「共闘は確定なんだ。……別にいいけど」
「あの〜〜私は無視ですか?」
近づいてくるシルベルトを見据え、ジークが背後にいるミルルに後を任せて、シルベルトと距離を保ちつつ駆け出した。
(というか、この状況で残されて共闘ともなにもない気がするけど)
そんな離れていく彼にミルルは呆れた顔で見送った後、必要以上に近寄ろうとしないルーシーと離れたところから狙っているルカを見る。
両者共ジークと同じようにフィールド魔法は発現させたまま、試合場は三色のオーラで埋め尽くされようとしていた。
(なるべく干渉されないように体全体を魔力で覆って戦った方がいいか)
「水よ纏え『身体強化・水の型』」
丸腰という訳ではないが、この二人を相手するなら少々武器が足りないとミルルは考える。あまり得意ではないが、水属性の身体強化を発現させて体にまとうことにした。
ミルルが臨戦態勢入ったのを見て、ルーシーは状態風に魔導書を構えてルカに告げる。
「ではこちらは三人の戦いということでよろしいですか? 私もできればあの後輩君とは極力戦いたくないので」
「どうでもいいわ。さっさと倒して本命を仕留めるから」
つまらなそうに答えチラリとジークの方へと向いたルカ。
ルーシーからはハッキリとは分からなかったが、彼女がジークかシルベルトと狙っているのはなんとなくだが理解できた。
「あら、本命がいたのですか?」
「……!」
どうでも良さげ呟いたルカのセリフにルーシーが聞き返したが、返ってきたのは無言の攻撃である。再び指を鳴らしたルカの周囲から無数の黒のナイフが出現して、ルーシーに襲いかかった。
闇系統のCランク魔法『黒の千本刀』であった。
余計なことはこれ以上言うつもりがないのだろう。
遠慮など一切ないナイフがルーシーへと向かう。……ミルルはそっと距離を取って射程外に逃れていた。
「やれやれです。“術式解放”」
困った顔で首を振ると魔導書を開いてルーシーは手をかざした。
するとルーシーの前に魔法陣が浮かび上がる。
魔導書の魔法を発現させているのだ。魔法陣から薄い光の城壁が出現して黒きナイフを退けてみせた。
「上位障壁の『光輝の絶壁』か!」
「ええ、“術式解放”」
自身の魔法を防がれて驚き問いかけるルカに、ルーシーに手をかざして答えると次なる魔法を発現させた。
彼女の上から魔法陣が出現すると無数の光の槍がルカへと飛び出された。
「ふっ」
光系統のBランク魔法『光の閃槍』である。
ルカは瞬時に認識すると手を向けて指を鳴らした。
すると闇の霧が渦のようにルカの前に壁となって出現。
自身に届く光の槍を闇の霧で相殺させると指をルーシーに向けて、鋭利なまま伸びる刃を放ってみせる。
その黒き刃は槍を切り裂き『光輝の絶壁』を貫通する。
「っ! これも無詠唱で発現できるんですか……」
迫ってくる刃によって障壁が破られる前に刃の軌道から避けていたルーシー。
通り過ぎた刃を横目で見て、ルカの方へと向いて驚きの顔をするが、ルカ本人は不本意な表情で吐き捨ててきた。
「この程度で驚かれても鬱陶しいだけだわ。さっさと退場して頂戴」
Cランク魔法の『魔を祓う闇の霧』。
Bランク魔法の『深き闇の黒刃』。
どちらも無詠唱で素早く発現させてみせたルカの力量に目を見張っていた。
どうやら異名を持ちは伊達ではないと納得し、伸びていく黒き刃が消えるのを確認して、魔導書をパラパラとめくってルーシーは笑みを向けた。
「ではここからは私も驚かせれるように頑張りましょう」
参加メンバーであるジーク、ミルル、ルーシー、ルカ、シルベルトの五名は試合会場の中心で集まっていた。
その際、試合場を眺めていたジークが心の中で呟く。
(……広いな。これだけ広ければ、少し派手にやっても問題ないか)
今回は他の試合が午後の一つだけあるので、会場の全体が試合エリアであった。会場にいる観客すべてから見られている。
そして広範囲での戦闘が可能になったことは、ジークにとっても有難いことであった。
「準備はいいか?」
審判員に呼びかけられジークを含む全員が頷くと、距離を取ってから構えるように促した。
特に構えず、ジークは軽く首を鳴らす。
ミルルは腰に差しているナイフに手を添える。
生徒会長のルーシーは、魔道具と思われる小さな魔導書を取り出した。
ゴスロリ制服の《冥女》のルカは、魔道具らしき小さな杖を持つ。
黒と金の髪と瞳をした《天魔》のシルベルトは、背中に差している白と黒の二本の長剣を握り締めた。
そして審判員が全員の準備が整ったのを見届けて、合図を出した。
「それでは準決勝、第一試合────始めっ!」
決勝の一枠を決める重要な試合が今始まった。
◇◇◇
最初に動いたのは──────《冥女》のルカであった。
まず地の利を得ようと地面を蹴って、試合場に魔法を掛けた。
「闇よ来たれ───『常闇王の絶対領域』」
ルカを中心に闇のオーラが煙のように噴き出した。
『常闇王の絶対領域』の効果によって闇系統の能力が底上げされる上、効果範囲内に闇属性の特性が含まれる。
闇系統の特性は精神干渉と吸収。
このまま効果範囲が広まり、内側に入れば精神が沈み込み、魔力や気力を落とされてしまい弱っていくことになる。
それが分かっていた為、駆け出そうとした面々は足を止めて、広がっていく闇に警戒する。
不用意に中に入るのは得策ではない。様子を見て距離を取る者もいたが。
「光よ来たれ───『揺光王の絶対領域』」
ウルキア生徒会長のルーシーは魔道書を手にして、退がろうとしなかった。
ルカがしたように広範囲の属性魔法を発動させると、迫ってくる闇のオーラに自身の光のオーラをぶつけて相殺させた。
光系統の特徴は補整と侵食。
効果範囲が広がれば対象の魔力や気力、精神を侵食させて、または属性の付与や回復を促すことができる。
ルカとルーシーの魔法によって、試合場は二つに分れようとしていた。
「なら俺もやるか」
だがそこで、さらにもう一人の彼が動き出した。
この中で一番魔法の影響とは縁がなく、常にアドバンテージを握っている彼である。
「空よ来たれ───『空天王の絶対領域』」
「「ッ!!」」
不敵な笑みで風と無属性を融合し手を上げて、ジークは“空天”の魔法を発現させる。
二つの属性フィールドに挟み込むように上空まで展開された、淡緑色の“空天”が特徴である捕食によって光と闇を喰らっていく。
そのジークの割り込みに、先手を奪えたと思ったルーシーとルカは目を見張って言葉を失っていた。
「くっ……! ジーク・スカルス……!」
「悪いな。いけそうだったから割り込ませてもらった」
「スカルス君……!」
力押しで自身のフィールドを荒らそうとするジークに、ルカは憎々しげな顔で睨み苦悶の声を漏らし、ルーシーは困ったように魔導書を構えたままであった。
「はーー!!」
────その二人に奇襲を仕掛けたのはミルルであった。
魔法陣の召喚で飛び出した大量のナイフで二人に襲いかかる。
「『光の壁』!」
「ふ!」
ミルルの攻撃にハッとした顔で反応するルーシーとパンチっと指を鳴らしたルカは、発現させたフィールド魔法をそのままに、防御魔法を展開させた。
『光の壁』と『闇の壁』よって、降り注いできたナイフは彼女達まで届かず、張られた障壁によって弾かれる。
「では僕も攻撃するよ。『双魔の幻想剣』」
そして最後に行動に移ったのはシルベルト・オッカスである。
背中から抜かれた黒と白の剣を振るって剣魔法を発現させる。
光と闇の融合魔法の一つ『双魔の幻想剣』。
持っている黒と白の剣と同じ光が、宝石のように煌めき斬撃となって放たれた。
魔法紙に描かれた魔法陣を通して、ナイフを放つミルルへと向かう。飛んでいるナイフを破壊して彼女の迫っていた。
ミルルは迫ってくる斬撃を軌跡を追って、シルベルトと視線が向けた。
普段は見せない憎々しげな顔を見せてシルベルトを睨んでいたが、彼には
「天魔……!!」
「やぁ? 君は確か大会前にガンダール卿と一緒にいた───「『硬土の加重盾』っ! 『硬土の加重砲』!」────ッな!?」
だがそこで、咄嗟に躱そうとしたミルルの前に出るようにジークが割り込んできた。
土属性の専用技の防御で斬撃を受け止めると、手のひらから同じく専用技の重力大砲をシルベルトと放った。
「っ……ジーク・スカルス君か」
「よろしく」
融合魔法を帯びている剣を盾に、ジークの攻撃を受け止めたシルベルト。
恨めしそうな笑みでミルルの前に立つ、ジークを見据えると彼も笑顔で会釈をした。
「君のことは初日から見ていたよ。底が測られない、恐ろしい学生だとね」
「天魔にそう言われるなら光栄と受け取るべきかな? 未来のSSランク候補者?」
「どうでもいいけど、なんで私の前に立つの? 一応敵同士だよ?」
会話を交わす男性二人にミルルは呆れた顔でジークの後ろから挟み込んでくる。
手に持っているナイフで背後から刺してもいいが、どうせ防がれるか返り討ちにあう気がするので、手元でクルクルとナイフを回して様子を見ていた。
「いやクラスメイト同士だ、どうせなら共闘してもどうかなと思ってな」
「それなら同じ学園の先輩でもある私とも、共闘してもらえるのでしょうか?」
ミルルに横目で見ながら軽い口調で答えるジークにルーシーも近づいてくる。
ただし、周囲に光の魔法弾を携えた状態で同じく、闇の魔法弾を構えているルカを牽制して。
「ははははっ、どうでしょう? 先輩とはそこまで親しくありませんから」
「僕とはダメのかな? 同じ聖国の側だよ?」
「イケメンは論外……だ!」
ニコリと微笑んでシルベルトまで近づいてきたところで、ジークが手を振るって追い出す。
さらっと『零の透矢』を放ち突き離した。
「それは残念だっ!」
邪険に扱われるもシルベルトは笑顔で接近してくる。飛んでくる魔力矢を余裕な動作で切っていっている。
「……天魔は俺がやるからミルルは他をよろしくな」
「共闘は確定なんだ。……別にいいけど」
「あの〜〜私は無視ですか?」
近づいてくるシルベルトを見据え、ジークが背後にいるミルルに後を任せて、シルベルトと距離を保ちつつ駆け出した。
(というか、この状況で残されて共闘ともなにもない気がするけど)
そんな離れていく彼にミルルは呆れた顔で見送った後、必要以上に近寄ろうとしないルーシーと離れたところから狙っているルカを見る。
両者共ジークと同じようにフィールド魔法は発現させたまま、試合場は三色のオーラで埋め尽くされようとしていた。
(なるべく干渉されないように体全体を魔力で覆って戦った方がいいか)
「水よ纏え『身体強化・水の型』」
丸腰という訳ではないが、この二人を相手するなら少々武器が足りないとミルルは考える。あまり得意ではないが、水属性の身体強化を発現させて体にまとうことにした。
ミルルが臨戦態勢入ったのを見て、ルーシーは状態風に魔導書を構えてルカに告げる。
「ではこちらは三人の戦いということでよろしいですか? 私もできればあの後輩君とは極力戦いたくないので」
「どうでもいいわ。さっさと倒して本命を仕留めるから」
つまらなそうに答えチラリとジークの方へと向いたルカ。
ルーシーからはハッキリとは分からなかったが、彼女がジークかシルベルトと狙っているのはなんとなくだが理解できた。
「あら、本命がいたのですか?」
「……!」
どうでも良さげ呟いたルカのセリフにルーシーが聞き返したが、返ってきたのは無言の攻撃である。再び指を鳴らしたルカの周囲から無数の黒のナイフが出現して、ルーシーに襲いかかった。
闇系統のCランク魔法『黒の千本刀』であった。
余計なことはこれ以上言うつもりがないのだろう。
遠慮など一切ないナイフがルーシーへと向かう。……ミルルはそっと距離を取って射程外に逃れていた。
「やれやれです。“術式解放”」
困った顔で首を振ると魔導書を開いてルーシーは手をかざした。
するとルーシーの前に魔法陣が浮かび上がる。
魔導書の魔法を発現させているのだ。魔法陣から薄い光の城壁が出現して黒きナイフを退けてみせた。
「上位障壁の『光輝の絶壁』か!」
「ええ、“術式解放”」
自身の魔法を防がれて驚き問いかけるルカに、ルーシーに手をかざして答えると次なる魔法を発現させた。
彼女の上から魔法陣が出現すると無数の光の槍がルカへと飛び出された。
「ふっ」
光系統のBランク魔法『光の閃槍』である。
ルカは瞬時に認識すると手を向けて指を鳴らした。
すると闇の霧が渦のようにルカの前に壁となって出現。
自身に届く光の槍を闇の霧で相殺させると指をルーシーに向けて、鋭利なまま伸びる刃を放ってみせる。
その黒き刃は槍を切り裂き『光輝の絶壁』を貫通する。
「っ! これも無詠唱で発現できるんですか……」
迫ってくる刃によって障壁が破られる前に刃の軌道から避けていたルーシー。
通り過ぎた刃を横目で見て、ルカの方へと向いて驚きの顔をするが、ルカ本人は不本意な表情で吐き捨ててきた。
「この程度で驚かれても鬱陶しいだけだわ。さっさと退場して頂戴」
Cランク魔法の『魔を祓う闇の霧』。
Bランク魔法の『深き闇の黒刃』。
どちらも無詠唱で素早く発現させてみせたルカの力量に目を見張っていた。
どうやら異名を持ちは伊達ではないと納得し、伸びていく黒き刃が消えるのを確認して、魔導書をパラパラとめくってルーシーは笑みを向けた。
「ではここからは私も驚かせれるように頑張りましょう」
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