オリジナルマスター

ルド@

第1話 その夜と再会した男達。

「どうやら、彼らも彼のチカラのコントロールには成功しつつあるようですね。ふふふっ、私達だけではなく、まさか彼らがあそこまで再現しているとは」
「よろしいのですかな? 我が主人。アレはおそらく例のゴーレムの魔法ですぞ? あまり使われるのは色々とマズイのでは……」

王都内の建物の中で、《復讐の壊滅者リベンジャー》が大きな台座に乗せている巨大魔石を眺める中、尋ねてくるのは自身も禁呪で傀儡となった老人《死霊の墓荒らしネクロマンシー》である。

「構いません。私達のやるべきことは変わらない上、寧ろ好都合ですよ。『赤神巨人プロキオン』に『ガイア』が加えられている以上、吸収させて力をつけていくでしょう」

進言する老人に対して、《復讐の壊滅者リベンジャー》は心配した様子は一切なく、寧ろ楽しげに微笑んで事態の進行を見守る姿勢で立っていた。

こうして彼らが王都内で余裕滞在していられる大きな要素はやはり、協力者であるグレリアとリヴォルトの存在が大きいのだ。

なにより彼の計画にはそれほど支障はない。
少しは譲歩してもバチは当たらないと笑みを崩さず、魔石に視線を送り続ける。

(既に『ガイア』は穢れ、深淵に染まっている。あとは五日目までに集まった魔力を喰わせて、『ガイア』と彼の精神が共鳴リンクすれば……ふふ、最後の日が楽しみですね、シルバー)

そんな彼の感情に呼応するように、巨大魔石は脈動のように発光している。
魔石も待ち遠しいそうに疼いているように彼には窺えた。

「彼女を呼んでください」
「はっ」

魔石に視線を向けたまま、《死霊の墓荒らしネクロマンシー》と呼ばれる老人に指示をする《復讐の壊滅者リベンジャー》。

死霊の墓荒らしネクロマンシー》は頷くと広い部屋から出て行く。
そして数分が経過した頃、部屋のドアをノックして、入って来た小さな女性を横目で見据えて呼びかけた。

「ルカ」
「お呼びですか、お兄様」

呼び出された女性の瞳には光がない。
黒のゴスロリ服を着た、帝国第三王女のルカ・ネフタリアは小さくお辞儀をして側まで近寄る。

それを微笑んで見ている《復讐の壊滅者リベンジャー》はその頰に触れて撫でていると、誰もいない中、耳元で彼女にのみ聞こえるように囁いてみせる。

「明日の試合、もし彼と当たった時は……分かってますね?」
「はい、いつでも発動できるように準備を整えておきます」
「よろしい。……そうだ。念の為に保険もかけておきましょう」

平坦な口調で答えるルカに満足気に笑みを浮かべる《復讐の壊滅者リベンジャー》。

すっかり自分の思い通りに動く、生きた人形を眺めて《復讐の壊滅者リベンジャー》は嬉し気に撫でながら、ゆっくりと直立不動なルカの服に手をかけた。


◇◇◇


「……ここか」

三日目のその夜、ジークは密かに宿を向け出すと、とある建物の中に入っていた。……エイオンのギルド会館である。ちなみに服装は学生服ではなく、ジョドの時のような白ローブであった。

夜でも一応開いているが、基本この時間帯は職員も殆どいない。
だが、ジークとして好都合でそのまま奥の一室に向かう。……職員にもすれ違うことなく、目的の部屋に到着するとコンコンとノックする。

「────入れ」

中からそう返事がくるのを確認すると、ドアを開けてジークは中に入る。……中では二人の男性が待っていて、一人は設置しているデスクの椅子に腰をかけて、もう一人は客用のソファーに座って軽く、ウィスキーの酒を口にしていた。

「よ〜〜〜く来たなシルバー?」
「やぁ少年、久しぶりだな。一杯どうだ?」

ドスの籠もった声音で彼の名を呼ぶのは、このギルド長室の主人でデスクの席に座っているギルドマスターのガイである。

(めっちゃキレてるな。まぁ当然かぁー)

ニコリとしているが、目はちっとも笑っておらず、ギリギリと歯切りをして、首や眉間には憤怒から青筋を立っていた。……恨み辛み言いたいことが山程あるのだろう。ジークは困ったような苦笑を浮かべてしまう。

(経った四年じゃないな。四年も尻拭いしてくれたってことか)

そしてソファーに座っている男性は、今回ジークが協力を申し込んだ人物。
ジークと同じSSランクの称号を持つ、エイオンの監視の眼であり、翼の異名を持つ冒険者、ギルドレット・ワーカス。

(酔ってはないが……こっちはこっちで面倒そうだな)

怒りを抑えているガイに対して、ギルドレットの方は楽しげに笑みを浮かべおり、酒のグラスを掲げて誘っていた。

「色々思うところがあると思うが、まずガイ、その名で呼ばないでくれないか? 今の俺の名はジーク・スカルスだ。……ジークと呼んでくれ」

疲れたような息を吐きながらジークも座り込む。酒は当然はいらない。

(ガイにも相談するかは、正直どうかと考えたが……)

試合後にギルドレットから密かに連絡が来た時には、もう決定事項であった。


◇◇◇


「トオル君、大丈夫かな」
「結構重い一撃だったみたいだけど……」
「まぁ、大丈夫だろ」

気絶しているトオルが運ばれた医務室前。
心配そうにするミルルとサナと共にジークがいる。……不安げな二人に比べてそれほど心配はしてなかった。

「怪我と言っても、全部精神ダメージになってるんだ。そこまで重傷にはならない筈だ。なってたら大事件だしな」
「それは、そうだけど……」

試合場に設置している術式で傷などのダメージは、すべて精神ダメージに切り替わる。

さらに言うなら設置している術式には、安全装置も加えられている。
仮に致命傷な攻撃を受けたとしても、精神ダメージを軽減させて、たとえ重いダメージを負ったとしても、障害を残すようなことにはならないのだ。

「でも痛いものは痛いのよ? 予選会の時だってガルダ先輩に酷い目にあったんだから」
「うんうん! 私もお腹にキツイの貰った時なんて、息ができなくなって吐きそうになったんだからね?」
「あー……そうだったなぁ? ……悪い」

サナとミルルからジトとした目で言われて、少々失言だったと謝罪するジーク。

(……そういった致命的なダメージを受けてないから。魔法攻撃なら経験があるが、耐性持ちの俺には意味がないや)

ここに来て自身の体質が会話の障害になるとは。
痛みを味わった二人の気持ちを理解したいとは思わないが、会話のキャッチボールはしっかりしたい。

(だからってて物理的な攻撃をくらうのもやだしな。……さっきの雷槍との戦いで、あの槍を食らってたらただじゃ済まないし)

もし受けていたら最悪試合が中止になっていたかもしれない。ふと頭痛でも感じたか、疲れたように首を垂らして小さく息を吐いた。

(ていうか、試合場の魔法効果を受けない時点で、前提条件が二人と違うよな? 耐性持ちの俺の場合って……)

そもそも耐性の所為で試合場に設置している術式効果が無効なのだ。さっきも言ったが、予選会の時も大会でも、これまで術式の効果がハッキリと出るような物理的攻撃を受けたことがない。

(いや、受けたら血だらけになるから、その時点でアウトだな)

だからこれからも受けるわけにはいかない。
仮に受けてしまえば、確実に怪我を負って騒ぎになってしまうのだ。

(はぁ、これはこれで二人とは違う苦労だよなー。魔法を使えば物理攻撃もどうにか出来そうだけど、目立つ行為は必要以上したくは……ん?)

とその時、雷槍戦前まであった。あの奇妙な視線をジークは再び感じ取る。……悪意や殺気などはないから放置していたが、よく探ってみると彼の表情が僅かに難しいものへと変わった。

(こいつは……マジか?)

無言であるが、視線の種類を判別した途端、言い知れない不安感……というか面倒感? のような触れたくない、関わりたくない気配を感じ取って、正直無視したくなったが……。

「あーすまん。ちょっと席を外す。大丈夫だと思うが、トオルの方は任せた」

サナとミルルに言って席を外して、視線の方へと足を向けた。特に違和感はなかったが、サナとミルルには、その足取りが何処か重いように見えた気がした。

「……」

しかし、途中から肝心の視線がなくなってしまい、居場所が分からなくなった。
その時点で諦めて戻るべきだったかもしれないが、ため息まじりにジークは視線がした会場の廊下。……にある一つのソファーに視線を送る。

……微量だが、ソファーから魔力を感じ取れた。

(用心か、それともただ格好つけてるだけか?)

内心きっと後者だなぁーと察して、無言のままソファーを『透視眼』で調べてみる。

「うわ、あったよ」

手紙らしき物を見付けてしまった。……すぐさま捨てたいと思ったが、猫の手も借りたい気持ちだったので、諦めて封を開けた。

(あ、それだと比較対象の猫の方が失礼か。いかんいかん)

さり気なく比較した猫に謝罪して、手紙の主を猫以下に評価したのは、内緒であるが。


◇◇◇


「アレ以外にも連絡方法はあったんじゃないか?」
「君が一応正体を隠しているようだから気を遣ったんだよ」

随分回りくどいやり方だったと口にするが、ギルドレットは酒を口にしながら適当なことを言う。……本当に適当な感じなので、たとえ裏があっても納得し難いが。

手紙の内容はこの場所での密談の予定であった。
ギルドレットの方からも話したいことがあること。ギルドマスターのガイが同席をすることが書かれていた。

「雷槍との試合は見たぞ。……なんだあの最後の魔法は? お前の魔力利用したもののようだが、雷槍の小僧のオリジナルを奪ってたな?」
「さぁて、どうだったかなぁ? 俺はただ純粋に戦いを楽しんだ、だけだがなぁー?」

笑みを作り今度はジークが適当に答えると、ガイの方から深い溜息が漏れた。
書類整理で疲れた目を軽く瞑り──────ギロンッとした眼光でジークを睨んだ。

「惚けるのか? シルバー」
「ジークだ。間違えるなよガイ?」

眼光を強めるガイ。野獣のような彼の眼力には、多くの冒険者や商人などを容易く怯ませるものがあるが、睨み合いに慣れているジークには一切通じない。

正面から無表情で、背筋が凍るような冷たい瞳で見据えている。

冒険者になった頃や大戦時に何度も睨み合ってきた二人である。
今更相手に睨まれた程度で怯む筈もなく、たとえ数時間睨み合っても崩れることはないだろう。

だから先に折れたのは、色々と余裕がないガイであった。
相手の頑固ぶりはよく知っている為、早々に折れないと時間が無駄に浪費するので、適当なところで諦めた。

「……ジークでいいんだな?」
「ああ、それで頼みがあるが」

色々と言いたいが、ガイも現在の事態をギルドレットから聞き、ある程度は把握している。……非常に納得はいかないが、ガイはまず今の事態の解決に移ることにした。……本当に納得がいかないが。

「ギルからの報告だが。現在、王都全体にはお前の魔力で出来た目に見えない霧が蔓延しているそうだな? あとお前の魔力を宿している禁呪兵もいると」
「ああ、霧を出しているのは魔境会の《死霊の墓荒らしネクロマンシー》……だった傀儡だ・・・・・・
「やっはりアイツも禁呪なのか。まさか自分まで傀儡に変えるとはな」

ガイと報告し合う中、ジークと《死霊の墓荒らしネクロマンシー》の様子を見ていたギルドレットが、少しばかり驚いたように目を見開いている。

「他に何があったのか、可能な限り話してくれ」
「ああ」

そうして真夜中のギルド長室で話し合いが続いた。


◇◇◇


「……白髪の魔法師か」
「特徴的なのは両手や各部位を包帯で隠してることと、シルバーの魔力を体内に宿していることだ。似過ぎるもんだから、オレも最初はシルバーかと勘違いした」
「だからジークだってギルさん。俺も似た感じの奴らと会ったが、そこまでか……」

一通り報告を終えると、ジークは二人と一緒に話し合いを続ける。……気付けば時間は既に深夜遅くであった。

その合間にジークも聞きたいことを尋ねてみた。

「あの王都の生徒についてはガイもギルさんも知らないのか?」
「……まったく知らない訳ではないが、少なくとも奴らは今お前が警戒している奴とは無関係……とまでは言えないが、協力関係があるかもしれないが、ほぼ別枠だ」
「あの魔法は魔法式の残滓を封印した魔石を取り込んだからだろう。……どうやったかまでは分からんでもないが、オレの眼には無理やり取り込ませているように視えたな。あと魔力は全然違っていた」
「見当がつかない訳じゃないが、そこら辺もよく調査しないとな」

ガイもギルドレットも何か知ってそうな雰囲気であるが、多くを語ろうとしない。……おそらく王都の中でもトップの者が動いているだろうと予想する。

それ以上追及しようとはせず、最低限のことは聞けたと話を戻すことにした。

「とにかく敵の正体と居場所。そして霧をなんとかしないといかん。陛下に報告するにしても確かな対策案がないとな」
「そうはいうが、ガイさん。オレの『天眼』でも補足できないぞ?」
「……だよな……はぁ」

敵を捜索したくても、霧のせいで索敵できない以上、この場にSSランクが二人もいても意味がなかった。
だが、そうして悩まれる二人に対して、ジークが難しい顔でありながら、一つだけ思いついた案を二人に伝えることにした。……確実とは言えないものだが。

「……敵の正体は分からないが、この霧を晴らす方法なら……ある」
「ホントか!?」
「どうするつもりなんだ? お前の魔眼でも霧のせいで使えんだろう?」

ジークが告げると顔ごと向けて驚くガイであるが、ギルドレットの方は少し疑問そうな顔になる。……干渉が難しいあの霧をどうやって払うのか、ジークでも干渉ができないモノを。

「ギルさんとガイは相手の正体と計画を探ってくれ。霧については五日目までになんとかしてみるから」
「すぐにはダメなのか?」
「やってもいいが、それで相手が無差別に暴れ出すかもしれない。まだ居場所がハッキリしてない以上は危険だ」

どうしても不安要素は拭えない。
しかし、現状打開策がない以上、ジークの策を採用して様子を見てみる選択しか、彼らにはなかった。

「……分かった。いささか不安はあるが、とりあえずお前の案で試してみよう」
「どっちにしてもオレたちじゃ、アレはどうしようもないからな」
「なるべく期待に応えれるように頑張ってみるよ」

ガイもギルドレットも一旦ジークに委ねてみるのも悪くないと、彼の案に乗ることにした。


ただ、去り際にはガイから伝言があった。

「ああーそうそう、忘れていたが、バルトから伝言だ・・・・・・・・。明日の夜、街の外に来いだとよ。知らんうちに王都に来てたからビックリしたわ」
「………………え」

ガイから思わぬ伝言に、ジークは惚けた顔で口をポカンと開けてしまっていた。

その際、してやったりとした嬉しげな笑みをガイが浮かべていたのを、第三者的なギルドレットの目にはしっかりと映っていた。


◇◇◇


三日目の試合で、一撃で敗北したトオルはその日。
宿の部屋で一睡もできず朝を待っていた。

「……ちくしょう」

精神ダメージによる痛みはもう消えている。体が怠いがこれは過剰なまでの魔力の消耗が原因だった。
だが、体が休息を求めているのに対して、トオルの心は荒れており、暴れたくてしょうがなかった。

「あんなニセモノに……!」

ニセモノと吐き捨てたのは、彼に敗北を与えた相手のカルマ・ルーディスである。

トオルはあの虚空な表情をした男を思い出して、強く拳を握り締めて血が出るほど力を込めてしまう。
本来は負けただけでも悔しいと思うトオルであったが、それ以上に相手が彼がもっとも憎い男を模倣して、勝利を収めたことが許せなかった。

「オレは……ニセモノにすら勝てないのか?」

シルバー・アイズは必ず殺してみせる。
そう決意してこれまで剣を磨いてきたが、その努力も予期しない学生によって容易く脅かされてしまった。……雰囲気は本物とは全く違うが、戦い方のそれは限りなく近いので、余計にそう感じずにはいられなかった。

「クソ……! クソォォォっ!!」

思わずガンと机を殴ってしまう。
それほどまでに我慢ができなかった。もう一度戦わせろと願うトオルだが、敗北者に次はない。

「今度は妖気も使ってやる! 何がルールだっ!! オレは認めないっ! こんな結果なんてぜったい……!!」

認めてやるものかと叫び出そうとした。
だが、叫び出そうとしたところで、その勢いが思わぬ方向から届いた声によって不発に終わる。

「なら本物と戦ってはみませんか?」
「─────え?」

背後から聞こえてきた尋ねる男性の声。
何も考えず自然に振り返ったトオルであったが。

「偶然でしたが、良い憎しみですねぇ。ちょっと失礼しますよ?」

その瞬間、あっさりと意識を刈り取られて、代わりに身体中に溜まっている憎しみがさらに増しいくのを、意識がない中もしっかりと感じ取っていた。

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