オリジナルマスター

ルド@

第9話 雷槍と空天の激闘と謎の笑み。

「魔力を───」
「制限ですか?」
「はい、今のジークは魔力を抑えています」

雷槍戦が始まってすぐ、ジークが攻めあぐねているように見えたアイリスとリナに、同席しているジークの師であるシィーナが答えてみせた。……視線を水晶魔石の画面に映っているジークを眺めながら口にする。

「魔法名までは教えられませんが、ジークは最初の試合から常に自身の魔力を、一定以上放出できない、抑制タイプの魔法をかけています。ですが、それが重荷となって今彼を苦しめているのです」
「……」

だが聞いているリナは不意に落ちないものがあった。シィーナの言葉にアイリスが驚く中、疑問をシィーナに投げてみた。

「違和感はそれだったんですが、……でもどうして、そんなことを? わざわざ戦力ダウンを?」

リナからしたら意味が分からなかった。
制限をかけるなど、まるで負けたがっている、もしくは相手を愚弄しているようなものだ。

しかし、画面に映る彼がそんなことを考えているとも思えない。あれだけ予選会で派手に暴れたのだ、今更負けたがっているとは考えにくい。

納得のいく理由が思い浮かばず、首を傾げるリナであったが、疑問の答えたはシィーナがあっさりと、そして哀しげな声音で告げた。

「殺したく、ないからですよ」


◇◇◇


「だぶん『限定限界リミテーション』なのん」
「だろうな、相手に対する気遣いだろうが、アレをつけた最大の理由はやっぱり─────」
「……殺したくないから……のん」

一般的の会場でジークの試合を眺めていたカムとバルトだが、シィーナ達と同じく攻めあぐねているように見えるジークに、燃焼の悪いくすぶるような憤りを感じていた。

「歯痒いとはこんな感じだな、……たく、だだでさえ頭も体も鈍ってんだから、さっさと解除すりゃいいのによ」
「それができたら苦労しないのん! ……けど、たぶんそろそろ限界だと思う」

最初は少し苛立った感じでバルトに噛み付くカムだが、画面でジークが雷槍の槍から伸びている風鈴のように紐のついた雷の球体を、彼に向かい振り回している。……雷の球体が地面にぶつかる度に抉れているを見えて、カムは諦めたように首を振った。

「あの槍使いを相手に、制限状態でしかも今の彼のままでは・・・・・・・・厳し過ぎるのん。解除するのも時間の問題のん」
「─────どうかな? オレはまだ分からないと思うぜ?」

しかし、隣にいるバルトは違っていた。
不敵な笑みで画面を見ていると楽しげな声音でカムに告げた。

「確かに制限のまま厳しいが、逆に言えば制限のままであれば、ジークは特に怪しまれず殺すこともなく、本気の気持ちで戦えるってことだ」

バルトは見てみたいのだ。
力が強過ぎて本気を出せず、いつも周囲に気を配っていたジークが、制限をかけた状態で思い切り戦っているさまを。

「けど、相手は有名な《雷槍》なのん。いくらジーク坊やでも魔力を抑えたまま状態じゃあ……」

不安そうな画面の方を見ているとちょうどシムラが放っている、雷の球体がジークを当たったところである。回避が遅れたのか、そのまま転がるように横に倒れて起き上がるジークだが、ヒットした右腕が痛いのか左手で押さえていた。

「うう……」
「大丈夫だ。アイツはあの程度じゃ挫けないさ。なんせオレが鍛えたんだからな」

腕の筋肉を膨らませて見せ、ニヤリと笑っているバルトに内心イラッとするカムであった。

(その鍛え方の所為で素直な子供だった彼が、いつの間にか歪んじゃったんでしょうが!!)

一発殴り飛ばしてやろうか、真剣に考え出すカムであったが……。
彼が口にした言葉に自然と怒りが引っ込めてしまう。

「オレもそろそろだと思うんだ。オレが教えた戦闘スタイル用の『融合』技法の中には、《雷槍》のガキが相性がいいタイプもある」

そうカムに言っている間に試合にも変化があったようだ。
《雷槍》と距離を取っていたジークが突然、《雷槍》に向かって走り出していた。

(制限を解除せずなら放出量が高いタイプは無理だな、系統が二つまでなら・・・・・・……たぶん風系統の“空天”か“翼天”だな)

試合もいよいよ最高潮となる中、心の中で予想つけてみるバルトであった。


◇◇◇


「距離を取っていたが、来るのか!」
「やるしかないだろう」

シムラに向かって駆け出しているジーク。最中に言葉を投げ合っているが、本心は少々違っていた。

(……またこれだ、試合始めに覚悟を決めたはずなのに、どうして俺は毎度毎度と後手に回るんだ……)

なんだかんだで苦戦を強いれているこの状況に、内心深い溜息を吐きたくなっていた。慣れたと思っていた対人戦であったが、やはりまだどこか体と思考が鈍いようだ。

(ギリギリまで追い込んでオリジナルを使わせようとしたら、逆に追い込まれるとか……はぁ、戦闘狂のバルトが見てたら呆れられそうだ)

実は既に見れられていることに気がついていないジーク。
脳裏で実践関係で世話になった、恩師である彼のことを思い出し苦い顔をする。

(いい加減思い出せ。あの時の師匠や皆さんとの修業の日々を……!)

無意識に先程躱し損ねて、雷球がヒットした右腕を押さえているが、別に痛くはない。……本人的には肌がヒリヒリするぐらいである。

「さぁどうする! いつまで逃げるつもりだ!?」

槍から伸びている雷球を飛ばしながら迫ってくるシムラが叫んでいる。
まだ余裕があるのか、楽しげで焦りのない表情であるのを見て、つい羨ましく思う中、ジークはこの男の力量を模擬戦で戦ったシオン並みだと判断した。……加えて直感だけならSランク並みかもしれない。

( ……相性もいい“空天”で、対応するか)

そう決断すると行動は早かった。
迫ってくるシムラを捉えながらジークは体の魔力の波長を二種類に分ける。

左には無透明なオーラの無属性を。
右には緑色のオーラである風属性を。

「っ!」

ジークの行動にシムラは迫っていた足を止めて、不用意には近付かず後退して距離を取ってみる。……これも直感なのか、シムラの体と槍から放出している雷が鋭さを増していた。

だが、シムラの変化に構うことはない。
二つの魔力を合わせると、ジークはSランク技法である『融合』を発動させた。

「はああああああ!!!」

混ざり合い解放された魔力の色は、緑色よりも薄い淡緑色であった。閃光を放って風を巻き起こして存在を、アピールしているようにも見える。

現にその圧倒的な存在感溢れる、淡緑に輝いている突風は会場にいる観戦者を魅入らせていた。

上空まで上っていくその光景に観戦者だけでなく、他の場所で試合していた選手達の手を止めてしまう程の影響を与えていた。

「『空天の皇嵐衣スカイ・テンペスト』ッ!!」

溢れ出す突風が収まった中心に立っていたジークに、観戦者の視線は当然のように集まっていた。

その中にはシルバー時代、彼が世話になったギルドマスターや現在世話になっているギルドマスターの幼女と秘書。よく見える王族席からも面倒そうな、騎士団長の王女からの強烈な眼力が肌に届いている気もした。

……内心やってしまったと思考の隅で予感させたが、すぐに外に追いやった。

「随分派手にやるな」

対戦しているシムラからしたら、末恐ろしいものを感じずにはいれないが。
内心苦笑を浮かべていても戦闘体勢はしっかりしている。

(こいつのヤバイ感じは久しぶりだ。魔物なら【十一星】の《魔神級》か【十二星】の《最上神獣級》はいくか?)

これも冒険者としての経験の賜物であろう。
若くしてAランク冒険者と様々な厄介な敵と死闘を繰り広げてきたのだ。

《炎槍》と呼ばれた師から何度も死に目にあってきたシムラには、こんな光景など日常茶飯事である。ただ、このような状況の場合は大抵が死にかけそうになったが。

そう思ったところでシムラの口元が獰猛な笑みとなって、握られている槍に目を向ける。

「久々の強敵だ、頼むぜ『劉麒麟』!」

愛用である槍の名を口にして、より本気の闘気を発し出していくシムラ。……今のジークには全力で迎えるべきだと、直感など関係なく見ただけで理解していた。

「おおおおおーーー!!」
「──────」

激しい雄叫びと雷導を膨れ上がれらせて、淡緑に輝いているジークへ一直線に雷槍で射抜きにいくシムラ。……稲妻の如く雷速で伸びていくシムラの槍を、ジークは半歩横に移動して紙一重のように躱してみせる。

(『空撃の手刀スカイ・カッター』)

横目でシムラが槍のように通過していくのを、ハッキリと捉えていたジーク。通過する際にその横腹に空天用のナイフ型の魔力弾をぶつけて、シムラのリズムを狂わせる。

横腹からくる衝撃と痛み、試合で怪我は致命傷になる殺傷系も含めて魔力ダメージ。
精神ダメージを変化するが、その受けたダメージに比例して魔力、精神ダメージも大きくなり、誤魔化すことなくシムラにダイレクトに伝わせた。

「ぐっ」
「……早い、もう立て直すか」

苦しむように呻いて転がってしまうシムラ。すぐに体勢を立て直したのは流石であるが。

その僅かな間をジークは見過ごさない。

「『空撃の竜巻刃スカイ・トルネード』ーーーッ!!」

起き上がってみせたシムラに向かって両手で振るわれるジークの手から淡緑の風が吹き荒れて、横からの竜巻へと変化してシムラに叩きつけようとする。───────しかし

「──────“解放”射貫け雷槍っ!!」

立ち上がりかけていたシムラは途中で止まって逃げようとせず、なんと手をジークに向けて詠唱を口にする。……簡単な省略詠唱のようだが、その影響はジークの背後にあった。

「────遅延魔法か」

魔力の気配して背後に視線を、少しだけ移動したジークの瞳に映ったのは、先程までシムラが立っていた床から魔方陣が浮き出ていて、雷の槍が複数こちらに飛んでいるところであった。

(そうか、駆け出す前に遅延魔法をかけていたのか。……用意のいい奴だ、捨て身でやりあうつもりだったのか)

だが、短めに考えている間に槍はもうジークのすぐ後ろ。回避や防御魔法も検討したが、ジークはえて魔法の発動を止めずシムラに向かうと。

「「っ!」」

シムラの体が淡緑の竜巻に叩きつけられると同時に、ジークの背後を狙っていた複数の槍が彼を穿とうと飛来した。背中に衝撃が走るが、ジークは気にせず駆け出している。

右手に“空天”の魔力を込めて次の攻撃に移っていたのを、シムラは竜巻を剥いでいる中でも察知しており、迎撃用の魔法の整えていた。……槍をクルクルと回して地面へと突き刺すと、槍から発せられているいかづちから魔法が放たれる。

「おおおおおっ!! 『雷の捕縛サンダー・バインド』っ! 『稲妻鳥の羽撃きサンダー・バード』っ!」
「斬り裂け『空喰いの魔剣スカイ・イーター』っ!!」

シムラの槍から放たれた雷の鎖と大きめの鳥。
どちらも電光を纏ってジークに迫っているが、彼に届く前に彼が発現し西洋剣の形をした魔剣によって真っ二つに分けられてしまった。

(この聖国の二年、余裕で斬ってみせたぞ!? 背中に受けた筈の『雷の迅槍サンダー・ランス』にも堪えた様子もないって、どうなっている? )

自身の魔法がまったく効いてないように見えて、深く考えないようにしても、頭の隅から生まれ出す混乱によって思考が狭まりそうになる。……体勢こそ乱してないが、思考の処理が全く追いつかないでいた。

「……これも保たせるか────────集え、風と無の元素よ」

そのシムラの雷魔法を容易く断ち切ってみせたジークは彼を追い詰めるべく次なる一手を打ってでた。

『跳び兎』を使用して高く跳躍してみせると、上空で片手で持っている剣を掲げて、風属性と無属性の魔力をエネルギーの球体として集めあげる。

彼の両端に共に浮かんでいる二色の球体はそれほど大きくはないが、実は大量の魔力を凝縮されている球体であるそれは、ジークの周りで小さな流星のように光の線を描いて回っていく。

「ァアアアアッ!」

二色の球体が掲げている剣に到達したところで、ジークはシムラに向かって突風のように降下し二色が混じり合わせると、勢いよく輝いている魔剣を振り下ろした。

「─────っ!! 『電雷の絶壁ボルテック・クリフ』」

淡緑に閃光を煌めかせ降り立つ流星と共に迫り来るジークの一撃を前に、シムラは目を大きく見開きながらも咄嗟に雷の防御魔法を発現させる。

雷を帯びている槍を壁のように回して発現させたのは、彼の二倍ある高さと分厚い黄色をした雷の壁だが……。


混合Aランク魔法『翠星の一閃ラヴジョン・ストライク

雷系統のBランク魔法『電雷の絶壁ボルテック・クリフ


上級クラスである二つの強力な魔法はその存在を主張するように、衝突と同時に激しい稲光を撒き散らして、観戦する者達の視界をも潰しかねない程、輝き増していき、互いを削り合いぶつかり続けていった。




「なんて反応の速さだ」
「なんて化け物だな」

立ち上っていた激しい光が収まった中心に立つのは、淡緑のオーラを纏って剣を構える者と、もう一人は黄色のオーラを纏って雷を発する槍を構えている者。

……どちらも相手が無傷であると知ると、俯いて苦笑い気味に一言を口を零して再度相手の方へ顔を向けた。





しかし、槍を握りしめて気迫の籠められた瞳で放っているシムラと異なり、……ジークの表情は少しはいつもと違っていた。

「あれも、切り抜けれるのか、……──────強い」

どこか呆けた力のない瞳と笑みで浮かべる。
肩の力まで抜いて、ダランとした手で握られている剣が不透明に発光している様子は、見ている者達になにか不吉なものを感じさせる。

「強い……強いな」
「……これでも一応、鍛えているからな」

ジークの声音から薄ら寒さを含まれているのを、対しているシムラは注意を払いつつ感じ取っていた。……殺気はないが、何か異質なものを漂わせ始めていた。

「それだけ強いなら……いいよな?」

空気が違い過ぎる。どんな心境の変化があったのか分からないが、ジークは呆けた笑みでシムラを見ると、彼は妙なことを尋ねた。

「そろそろ戦いを始めても・・・・・・・……いいよな?」
「……は?」

その時のシムラには、彼が何を言っているのかまったく理解できなかった。……ジークが口にした意味、それを理解したのはそれからほんの少しだけ後となる。

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