オリジナルマスター

ルド@

第2話 集まる者達と隠されたこと。

会場内には千を超える沢山の観戦者が試合を見ている。
街に住んでいる者達だけではない、他の街から来た者や他国の者もこの大会を楽しみして、この街まで足を運んだのだ。

それは彼らの知り合い達もまた、例外ではなかった。


◇◇◇


「ほう、随分賑わっているな」

使用人を支えて歩く男性が一人。
高級そうなスーツを着て、深くシルクハットを被り、服の上からでもハッキリと分かる程の肉厚ある大柄な金髪の男性である。

「それはそうよ。一年に一度の大事な模様よ、貴方も知っているでしょう?」
「それもそうなんだが、どうも今年は多いように見えてしまってな……」
「ああ、ボクそうかも、やっぱり姉様が参加しているからかな?」

その隣には貴婦人のような赤いドレスの服装をした、同じく金髪の女性が一人と小柄な女性が一人、共に歩いていた。

どうやら貴族の家族のようで、使用人を三名連れられて貴族専用の席へと着くと、楽しげな表情で座って会場を見渡していた。

「さて、サナはいつ頃試合だろうかな?」
「はぁ、ちゃんと外の表に書いてあったでしょう? もうすぐよ、ほら」
「あ、姉様だ!」
「リナ、はしたないからちゃんと座りなさい」

呆れた顔でリング場を指す女性。するとそこには遠目であるが、よく知っている制服の姿で立つ、自分の娘がいるのが見えた。……彼らの娘であるサナ・ルールブだ。

姉の姿を見て座っていたリナ・ルールブが立ち上がりそうになるを嗜めるのは彼女たちの父──────ルールブ家当主である《金狼》。

「む、遠い……」
「仕方ないわよ。今日明日はまだ参加者が多いから」
「姉様なら大丈夫だよ! ……あの人に当たらなければ、だけど」
「……しかし、遠いな」

残念そうに呟くのはサナの父でありルールブ家当主のゼオ・ルールブ。側にいる妻の女性はかつて王都に付いた数少ない魔導師である

「水晶型の魔法石で見てみよう。決勝トーナメントまではそちらの方がいい」

ゼオは自分の席に置かれている、丸い水晶の置物に触れて、魔法を起動させる。
すると水晶が光が上げられる。……その光が画面となって試合の映像を映し出していた。

「これでサナの試合が見られるな」

満足気に頷くとゼオは深く座り、水晶によって映し出されている映像を見られるのであった


◇◇◇


「お父さんこっちだよ」
「ん」

そしてまた別の場所であるが、同じく貴族席にて。
親と思われるスーツを着た父と、ちょっとおめかししたようなワンピースのような服装をした女性。

アイリス・フォーカスとディック・フォーカスであった。

「サナちゃん達、勝ってるといいな……」
「……」

楽しそうに友達のことを呟いているアイリス。
だがその隣で立っている父ディックはどこか、浮かべている笑みに陰りが見られた。

(彼も来ているのか)

心の中でだけディックは呟いている。
視線の先には闘技場内で行われている試合が見られる。
ディックはその中で戦っているであろう、青年のことを思い浮かべていた。

「……ジーくんも勝ってほしいなぁ」

席で知り合い達の試合を待っている中、アイリスが呟きが耳に入るとチラリと彼女の方を覗き見るディック。

どこか切なそうな表情を見ただけ、娘がまだ彼のことを想っていることを理解させられた。

「……彼なら大丈夫だろう。余程の相手であっても問題なく、決勝トーナメントまで勝ち上がる筈だ」

特に負の感情を含ませず、ごく自然に答えてみせるディック。……過去の件でディックは娘を助けられ、精神的に傷つけられてしまったが、彼はジークを責めようという感情は一切なかった。

というよりも、とても恨みや怒りを抱くことができなかったのだ。

一年程前、アイリスが襲われた一件。

『……ふざけんなよ? アンタ……自分の娘を、なんだと思ってんだ?』

哀しげな表情で彼の前に立っているのは、自分の娘を助けてくれた当時一年のジーク・スカル。

事件の説明と一度礼をと考えて、ディックが呼び寄せた。……だがその際、彼からきた説明はアイリスのことだけではなく、自分のもう一人の娘であるアティシアについても含まれていたのだ。

これにはディックも驚かずには入られなかったが、すぐにその表情は真っ青な絶望なものへと変わっていた。……娘の死が彼の心を冷たく突き刺さった。……そしてもう一つ

『なんで……おばさんとアティシアにそんなことを』
『……あの時の私には必要なことだった。彼女たちには本当にすまないと思ってる』

対面しているジークから肌に突き刺さるような殺気を感じ取りながら、彼の言葉に耳を傾けた。

ディックには二人の娘がいた。
一人はアイリス・フォーカス。正真正銘、妻と自分の娘である。

そしてもう一人、アティシア・コーラス。……名を聞けば分かると思われるが、書類的にはディックとアティシアは親子ではない。

どうしてこのようになったかと言うと、ディックのお家での貴族らしい決まりと、そしてそれに繋がりを持つ、ある二人の女性が関係していた。

ディックは昔から今の妻との婚約が家関係で決まっていた。……そして若くしてその女性との婚約が決まった。お互いの家系に引っ張られるように。

だが、そんなディックにも実は昔から、心の底から愛しく思う女性がいったのだ。彼女は貴族のコーラス家の次女でフォーカス家のディックとも、昔から知り合っていた。

……そして自然と互いに惹かれ合うようになったが、先程話したようにディックには既に婚約がおり、彼女と結ばれることはありえなかった。……断るという選択が初めからなかった。

そんな複雑な心境の所為か、婚約した妻との間に後継である子供が、なかなか生まれなかったのだ。……妻と少しであるがギクシャクしていた生活をおくっていたディックは、息苦しい家庭に嫌になって、同じく会いたがっていた彼女と密かに再会を果たし、イケないと分かっている筈が、

コーラスの女性と────────愛し合ってしまったのだ。

その一年半には彼女との間に子供が生まれてしまった────────アティシアと名乗る子供が。数年後には妻との間にも子供────────アイリスが生まれた。

密かに女性と密会してその間に子供を作ってしまう。確かに問題行為であったが、そんな問題を上回る程の大問題を───────彼は、彼らは犯してしまっていた。




─────────コーラスの長女・・・・・・・である妻との結婚しているにも関わらず、コーラスの次女・・・・・・・と関係を結んでしまうという大罪を。



そしてあろう事か、ディックはその事実を隠蔽する為、彼女ら親子を切り捨て、娘である筈のアティシアを……。

『仮に!! 今さらお前を殺したって……アティシアは喜ばないし、あの人たちの悲劇が消えるわけでもない』

最終的に男を釣って子供を作ってしまったこととなり、アティシアと彼女の母親は罪として貴族界を追われ、追放扱いを受けることとなった。……ジークがその親子に出会ったのは、それから数年後の話であった。……アティシアの母はジークと出会った翌年に病で亡くなってしまった。

『母を亡くしたアティシアが……どれだけ悲しんだと……! 貴様は父親でもなんでもない。ただの───!!』

(狂い切った貴族……か)

責められるのは寧ろ自分であった。……いつ向けられても分からない刃に怖れて、ディックはアイリスが引き籠もっている間も一切手出しせず、逃げるように目をつぶっていたのだ。

「お父さんはどうしてジーくんをそこまで信頼してるの? なんだか勝ち上がっていくのが当たり前のように聞こえるよ?」
「信頼とは少し違う。確信というべきか。彼の実力は学外でも十分通じて凌駕しているだろう。……少なくとも学生レベルでは相手にもならないだろうね」
「へぇ……」

当然のように口にする父であるディックを、アイリスはもの珍しそうに見詰めている。
自分の父は昔から物静かな人で、こうして説明的に口を開いたり会話も殆どないのである。……その所為か母ともなにか溝ができているのを娘のアイリスは、鈍くても感じ取っていた。

(お父さんがここまで言うなんて、やっぱりお父さんはジーくんの正体を知ってるのかな?)

そんな父をアイリスは少しだけ探るように目で見ている中、

「──────えっ、え?」

───────ドンッと会場全体に響き渡るほどの巨大な衝撃音が彼女の思考を断ち切った。


◇◇◇


「アイツは……彼処か」
「っいたのん?」
「ああ、どうやら第八エリアのようだ」

会場のトーナメント表の前で二人の男女が立っていた。
片目眼帯の大男と白衣を着ている薄黄色髪の眼鏡の女性。

「ジーク坊や……大丈夫ですかのん……」
「心配ねぇだろう。すっかり腑抜けになってもアイツは──────」

不安げに零す声に大男の方がふざけた口調で、フォローのつもりでなにか口にしようとしたが。

「──────のほ〜〜ん? バルトぉ、そんなにあっしに仕置きされたいんの?」
「ちょ!? 冗談だ冗談っ!」

ニコリと笑っているが、目がちっとも笑っておらず、低い声音と鋭い眼光で男の方を睨みつけていた女性。……心なしか目が光ってるように見えるのは、その眼に宿している魔眼の影響であろうか。

慌てた様子で男の方が手を振って、訂正し彼女から距離を取った。

茶髪で片目眼帯の大男のバルト・ランサーと薄黄色髪の女性のカム・スパナは、共に魔導杯会場へやって着ていた。

「ま、けど何かやらかすかもなぁ。アイツどこか天然なところあるし」
「……それは否定しきれんのん」

苦笑を浮かべるバルトに対して、不安げな眉を寄せるカム。……こればかりは否定できない
試合も既に始まっていることもあり、二人はさっさと席へと向かう。

「まいいか、いざとなれば、ジークのお師匠さんがどうにかするだろ」

と他人事のようにニヤリ笑みをしてバルトは一般席に座ると、水晶魔石でジークの試合画面を探した。

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