オリジナルマスター

ルド@

第1話 大会開始と王族達の会話。

「……はぁ、いい朝だなぁ。……心の中は曇ってるけど」

皮肉な笑みを浮かべるジークは、憂鬱気味にベットから起き上がる。

大会開催の朝。微妙な目覚めで起床したジークは宿で朝食を取った後、制服に着替え大会場である、闘技場へ足を向けた。……異変はその時気付いた。

「……あれ? 全然人がいない。みんなどこ行ったんだ?」

おやと不思議そうに闘技場に向かうが、一向に他の生徒達を会えないジーク。まさか皆いち早く闘技場に向かったのかと、朝か元気だと感心する中、

ふと時計台があったので、今何時なのか見てみることにした。─────そして固まった。

「ん? ─────え、あれ? え?」

その時計はジークが予想した時刻の一回りほど飛んだ、時間帯を指していた。

……開会式から三十分程経った、まさに試合が開始し始めてる最中であった。

「…………あれま」

完全な寝坊である。


◇◇◇


「あはははは、すいません。やっちゃいました」

テヘっと全然可愛らしくない舌出しで発したジーク。学園別の控え室内がピリピリする中、のほほんとした口調で登場した彼に、その場で一番ピリピリしていたお二方から雷が落ちる。

「何がやっちゃいました、よ!!」
「遅いわバカ者がぁぁぁぁぁ!!」

怒り狂ったサナとガーデニアンから痛烈な鉄槌が、ジークの頭部に振り下ろされる。ゴツっと鈍い音と共にジークの体が大きく揺さぶれる。

「痛い……」
「っ、少しは痛そうにしなさいよ……!」
「それが嫌なら早く起きんか。どうしてこんな時まで寝坊できるんだ、お前は」

頭部に凄い衝撃が走るが、当のジークはボー読みで答える。そんな彼に二人から呆れ交じりのため息が吐き出される。

「まったく魔力層それは器用に扱えるくせに、何故起きるのがダメなんじゃ」
「先生、貴方はいつまで毛が生えると信じてましたか? 断念した時に一気に抵抗しなくなったでしょう? 今の俺がそうです」
「何を言っているかよくわからんが、ようするにお前は喧嘩を売っとるのじゃろう!?」

グラサンをギラつかせて手をポキポキ鳴らすガーデニアン。何故余計なことをいちいち言うのだろうか。ジークは生徒達の視線が集まる中、再びガーデニアンの鉄拳を受けることとなった。

「とっとと自分のブロックに向かえ!!」
「さっ、行くわよ!!」

ガーデニアンに喝を入れられたジークはサナに引っ張られるようにして、自分が試合するブロックの方へ移動していった。


◇◇◇


「本当にもう! 信じられないわ」
「あはは……、申し訳ない」

プンスカ怒るサナにジークは苦笑いで謝罪を述べながら移動している。闘技場のリング内付近、試合の際に上がる入り口まで移動していた。入り口まで移動する途中、何度もすれ違う他の学生服を着た生徒達をチラリと見るジーク。

(見た限り、大半が緊張しているな。ま当然か、まともな実践経験も少なくまだ色々と経験を積んでない学生じゃ、……これが普通なんだな)

どうも緊張感を持てないでいる自分を周りと比べて、場違いな気がするジーク。そしてそれはすれ違う生徒達だけではなかった。

「ジークくんって実は相当な大物なのかな? 私なんて緊張し過ぎて全然眠れなかったよ」
「まあ、それも良くないと思うが、正直ヒヤッとしたぞ。こんなことになら、朝面倒でも起こせば良かったぜ」

一緒にいるのはサナ以外にミルル、そしてトオルのいつもの二年メンバーも同じく緊張している様子であった。特に緊張している様子のミルルに至っては、額に汗を流して歩きもぎこちなかった。

ここで一度、大会形式の基本の説明に入る。

大会の方は殆ど問題もなく、開会式を終えて今無事に試合が開始されているのだ。
参加者は高等部一年から三年までの全学年で行うトーナメント戦である。

参加している学園はジークの学園以外のエリューシオンでは、王都のエイオン学園の二校。中立国アルタイオンから中都にあるセナリア学園。妖精国イシュリザクからナハブル学園。帝国ネフタリアから帝都のオータン学園。

計五校で人数で言うと、百五十名────最初は十五ブロックに別れて試合を行う。試合期間は五日間。最初の一日目で、午前と午後に別れて半分の七十五名に。二日目で三人だけ繰り上がって勝ち上げで四十名。三日目で午前で二十名、午後で十名まで選びその十名で決勝トーナメントと行う。

四日目からは二つのグループに分かれてバトルロイヤル形式で試合をする。そのグループの中で勝ち越した二名が五日目、最後の決勝で戦い合う。

運が良ければあまり戦わずに済むかもしれないし、運が悪ければ多く戦うハメになってしまう、長い予選後のトーナメントだ。

聖国のみが二校なのは開催地であることが理由である。だが必ずしも有利とは限らない。

(まあトーナメントの長さは、とりあえず忘れよう)

ジークはとにかく最初の試合を、目立たない範囲で終わらせるように努める。
自分の視界の先で試合場内で、学生達が力の限り戦ってるのが見えた。


◇◇◇


「ほほ、盛り上がっておるな」
「そうですわねあなた」

闘技場内にある観戦席……。

そこからさらに特別な者しか入れない貴族席……。

さらに超VIPのみが使用できる特別なフロアである王族席にて。

聖国エリューシオンの国王、ローガン・エリューシオンが闘技場で行われている試合を、楽しげに笑い見下ろしている。
その隣やその隣には彼の家族が座っていた。

隣に座るのは赤い髪をしたドレスを着た夫人。三十代か後半くらいに見えるまだまだ若々しい夫人の隣にも。

「ティアのおかげで、こうして剣も間に合ったしな。……それでティア─────」
「ふふふ、内緒です」
「まだ何も言っとらんぞ!?」

第二王女ティア・エリューシオンにあしらわれ狼狽するローガン。ここには妻や他の娘達もいるので真意は語らないが、ティアが密かにあのシルバーと接触したのだと、ローガンは戻ってきたクリスタルの魔法剣『アルトリウス』を見て確信していたのだ。

長いこと行方が知れなかった聖国が誇るSSランク冒険者の一人。
ローガンは剣が戻ってすぐ慌てた様子で、ティアに詰め寄った。

正直にところ二本の剣を揃えるのは諦めていたローガン。それがニコリと微笑んで剣を持ってきたティアを見れば驚かずにはいられない。現に自分だけでなく、剣の持ち主を知っていた騎士団の総大将や騎士団長、総ギルドマスターやギルドマスターは揃って、面白く驚愕していたのが良い記憶である。

それで何度か尋ねてみるが、今のように拒否されてしまう毎日。

それとなく専属護衛の二人にも旅の途中、何かなかった聞いたりもしたが、自分よりもティアの命令が絶対である二人にもしっかり口止めしているようで、リンの方は何か言いたそうではあったが、命令であると口を噤むんでいたのだ。

だが命令を無視してでも報告に来ないところを見ると、危険性はないのだろうと考えられる。

「父上よ。頼むから静かにしてもらないか? 声を聞くだけで吐き気を覚える」
「いや酷くないか!? わし一応国王だぞ!?」

第一王女のカトリーナ・エリューシオン。エリューシオン騎士団の騎士団長にしてエリューシオン剣術の現正統後継者なのだ。

あとついで言うならあのオーク並みに女性に嫌われた男《天空界の掌握者ファルコン》に惚れ込んだ変わり者でもあった。

「では国王、鼻息が気持ち悪いので息を止めて頂けませんか? 一時間程止めて頂けるだけでもいいですから」
「死ぬぅぅぅぅぅぅ!? そんなに息止めてたら失神どころか、わし死んじゃう!!」

ティアの隣に座り並び同じ緋色の髪でサイドテールした女性。そんな彼女からの毒舌に青ざめた顔でショックを受けるローガン。まさか娘から遠回しに死んでくれと言われてるなんて……と俯きブツブツと呟くローガンにさらなる攻撃が。

「アハハハ、お父様だらしないです!」
「だらしな〜〜い!」
「ぎゃっふんんん!?」

妻の前で小さな椅子に座っている第三、第四王女である二人の娘からも言われて、ガーーンと肩を落としてしまうローガン。とても一国を預かってる王とは思えない光景─────というか惨状であった。

……ちなみにティアの背後には直属の部下であるフウとリンが、カトリーナの後ろに騎士が二人控えている。王の後ろにもメイドが二人と執事が一人いるが、この三名も只者ではないようだ。

「……」

そして暫くすると皆試合に見入るようになり会話も少なっていく。……下の娘達ははしゃいでいるが。
ローガンはチラリと剣が置いてある席に視線を移す。

夫人とは逆の空席に立つのは二本の剣。
水色の結晶できた魔法剣『アルトリウス』。
気術を操る鍛冶屋によって造られた金色の名刀『紅炎喰い』。

ローガンの息子にして次期国王候補であった、ライン・エリューシオンが愛用した剣である。

ティアがウルキアでジークと二回目に密談した夜。ティアは彼から愛用していたクリスタル剣の魔法剣を渡されていたのだ。

その際、もう返さなくていいとジークから言っていたが、ティアの方はこれはあなたが持つべきだと主張して、この大会の終了後には返却されることになっている。

そうした事情を知らないローガンであるが、こうして思い出ある二本の剣を来て、民衆に誇らしくかざせれることを心の底から嬉しく思っていた。

だが、忘れるわけにはいかない。シルバー・アイズのことを。

ティアは誤魔化していたが、もしかしたら本人もこの街に来てるかもしれないと、ローガンは考えた。だが決してそれは恨みなどということからではない。

(どうしても聞かねばならん。ラインが隠していた可能性がある、あのことを。そしてわしが頼んだあの調査の結果を)

厳しい視線となった会場の戦いを眺めるローガン。彼もまたこの四年間、解消されない詰まる思いがあった。

広い闘技場の中で何面にも別れて、学生達が武器を取り魔法を使い凌ぎを削っている。試合も着々と進行している、そんな時であった。

「陛下」
「おお、ワーカスか。いつもは外周りなのに珍しいな、……弟子の応援か?」
「ええ、まあ」

試合を眺めていると背後から男が一人、膝ついて小さくお辞儀をしていた。

王都が誇るSSランク冒険者のギルドレット・ワーカスである。

ローガンが促すと後ろの席へ座るギルドレットだが……。

「ギル! 遅かったじゃないか!」

そんな彼の登場に観戦していた第一王女のカトリーナが視線を会場から移して、ギロリと眼光でギルドレットを捉える。

「よ、よぉお……王女様、それに姫様」
「おい、そのビクビクとした目はなんだ?」
「ごきげんようギルドレット様。お勤めご苦労様です」

バッと振り返ったカトリーナにヒッとた怯えた反応を見せるギルドレット。そんな彼に対象的な返事をする二大王女。鋭い眼力で睨むカトリーナに対して、ティアは微笑みを浮かべいた。

ギルドレットの反応から分かるが、彼はカトリーナに対して苦手意識を持っていた。

王女であり同時に騎士団長でもある彼女とは戦場、そして仕事でも付き合うことが多々あったが、その強面な雰囲気と謎の圧迫感から未だに慣れずにいたのだ。

……圧迫感に関しては完全に好意によるものだが、ギルドレットはまるで自分の心臓でも握られているような気分であり、とても他の女性のようにお近づきになろうとは考えなかった程だ。

「ギル貴様、最近任務後に私のところに報告に来てないな? 任務後は必ず来いと言ったのにどういうことだ? ───────罰として今後は任務後であろうとなかろうと、一日一回必ず来い。どうせ女の尻しか追ってないんだろう?」
「え、え?」

余りに理不尽な言動に言葉を失うギルドレット超越者

一体なぜ、自分が毎回事ある毎に苦手とする彼女に対面しないといけないのか、別に彼女はギルドマスターでもないし関係者でもないのに、とガクガク震えながら言いたくなる。……が恐怖の所為で口が思うように動かなかった。

「まあ、そのぐらいにせいカトリーナよ。見ろ、試合の方もなかなか────────」
「黙れ邪魔父」
「ジャマチチっ!?」
「や〜〜〜い! ジャマ父ぃです!」
「じゃまちちーーー!!」
「娘達がひどいよ母さんっ!!!」
「貴方邪魔です。試合が見えません」
「ガクっ!?」
「……」

家族にいいようにされてる国王を───────ギルドレットは霞にも視界に入れず、時間潰し気味にリングで行われている数々の試合を見ていた。



とその時であった。
ドンッという大きな衝撃音と共に生徒が一人、空へ跳ね上がり羽ばたくようフライしていたのは。

「なぬ?」
「は?」
「あ、(あの人は……)」
「……へぇ」

各々異なる反応を見せる。国王ローガンは俯いていた所為で何が起きた的な反応をするだけで、カトリーナは今起きた光景に強面な顔を崩してしまい、キョトンとして口ぽかんと開けてしまっている。夫人も下の娘達も似たようなリアクションをしている中

唯一このメンツの中でこの現象の原因を察したティアだけは内心、『はぁーー、何をしているんですか、あの天然魔法使いさんは』と呆れて顔をしかめてしまう。……あと顔には出してないが、後ろのフウも似た心境であった。

そしてSSランク冒険者であるギルドレットは。

(ほ〜〜? 変わった奴が居るようだな?)

と対して興味ない呟きを漏らすだけで、それほど試合には感心がなかった。
それよりも彼は今、この闘技場内にいるであろう。例の不審な男の捜索に視野を行使していた。

(まあ変わり者で言うならオレの弟子の方が間違いなく上だろうがな)

さりげなく弟子を変人扱いするギルドレット。
弟子としては有能なのは認めるが、それ以上にやはり変人である弟子のことを思い浮かべると、それだけは譲れないものがあった。

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