オリジナルマスター

ルド@

第3話 模擬戦とリベンジ前。

予選会を終えた次の日からだった。ジークの気苦労が始まったのは。

「よろしく頼めるか? スカルス」
「……ええ、いつでもどうぞ」

ウルキア学園代表に決める予選会で使われた会場であった。
試合場の中心で、ジークは大剣を持つ三年の先輩らしき男子生徒と向き合っていた。

「ハァァァーーー!」
「……」

今ジークは模擬戦に追われていたのだ。

「はっ! はっ! ハー!!」

(動きは悪くないが、正攻法過ぎると躱しやすい)

連続で大剣を振るう先輩に、ジークは最小限の動作で躱してみせる。上体を左右後ろに僅かにズラすや片足で半歩ほど飛んで躱すなど。無駄なく躱し続けるジークである。

「っ───! ハーーーっ!!」

余裕のあるジークの戦い方に焦りの表情をして握る大剣に力を込めた。

大きく振りかぶって、ジークへ叩き込もうとするが────

「グググ……!」
「……」

───届かなかった。
振り下ろされた大剣は、ジークが素早く出した両手に挟まれ、白刃取りで掴まれてしまう。
斬り捨てようとした先輩も軽々と押し留めた。

「こ……クソォ……!」
「ス───はっ!」

すかさず掴んだ大剣を縦から横に逸らして、腹の部分を蹴って武器を捨てさせる。
驚いた相手は慌てた様子で魔法を唱えようとするが。

「っ!?  ───『風のウィンド……』」
「『翠風の音爆グリーン・ボム』」

相手が魔法を唱えるより先にジークが先手を取る。
無属性の『零の透矢』などと同じジークが扱う風属性の専用技スキルを使用した。

放たれた小さな風の弾を先輩の耳元で破裂した。

「があっ!?」
「シィッ!」
「なっ! ───ガハっ!?」

破裂音に驚き手で耳を抑える先輩の腕を取ったジーク。絡めるように背負い投げの要領で地面に落としてみせる。
強い衝撃で落とされた先輩から苦悶の声が上がった。

「続けますか?」

そんな彼を額に人差し指を向けて尋ねる。表情は笑顔であるが、見下ろしている目が少しも笑っていなかった。

「くっ! まだ───っ!?」

そんなジークの対応に頭に血が上ったか、先輩はカッとした顔で上体を起こして─────そこで止まった。

「……っ!」

まだだ、とでも言ようとでもしたのか、口を大きく開けたまま固まってしまっていた。

「どうかしましたか?」

薄い笑み口元に作って言うジークになんて白々しいのかと叫びたくなるが、言えなかった。

ジークが指す指先から微量ながら魔力が込められていたからだ。
─────風属性の色、緑色を帯びていた。

「ま、参った……! オレの負けだよ!」
「どうも」

『『『おおおおぉぉーーー!!』』』

先輩の降参と同時に試合場に大きなどよめきが起こる。
模擬戦を見学している者達だ。同学年から三年から一年。初等部の者達も来ていた。

現在学園は魔導杯に向けて、授業は午前か午後のみにして、残りの時間は大会参加者の為の訓練時間にしている。勿論参加者が優先である。
参加者以外は自習となっているがが、大半は見学しに来ていた。

(はぁ、居心地わるい)

周囲からの視線と歓声。ジークは鬱気味で次の試合の準備に入った。

「次は私ね。宜しくねスカルス君?」
「あ、は〜い」

次もまた先輩らしき人だった。……今度は女子であるが、ジークは気にせず軽く返事をする。

学園長からの特例によって二年枠で出場を決められたが、代わりとして異議を唱える者達からの挑戦……模擬戦を受けなくてはならなくなっていた。

(いや、別に受けるのはいいんだよ? 俺もさんざん好き勝手してきた手前、大会には出られないと思ってたし、これぐらいの条件は飲んでも悪くないって思ったさ。……けどさぁ)

「行くよぉ?」

何故か色気ある声で長細い槍を振り、魔力弾まで飛んでくる。
無詠唱で撃ってくるあたりこの者もなかなかの使い手だと冷静に分析する……そんな片隅で彼は思う。

(いったいあと何試合戦えばいいんだ?)

手を出し障壁を張りながら心の中で苦笑していた。
既に把握できていないが、かれこれ今日だけで十試合勝利して、今は十一試合目であった。テンポよく圧倒的なジークが勝つ為、待ち時間の方が長いくらいだった。

「『翠風の威嚇音グリーン・プレッシャー』」
「うっ! くぅぅ……!!」

風の威圧スキルによって沈んでいく女子生徒。
身体強化で抵抗しているようだが、その抵抗はジークの前では弱々しいものであった。

試合相手はジークと同じ大会出場が決まった者達だけではない。今の彼女もそうだが、予選会で失格になった者達も彼に挑んで来ていた。

正直拒否したいジークであるが、学園側の指示で一定時間は訓練場にいるよう言われているため拒否できないのだ。

「悪いけど運んでもらっていいですか?」
「え、ええ」

挑んできた先輩女子を風のスキルで気絶させた後、倒れた女子に近寄ってきた同じ先輩女子達に頼んで移動を頼んで、一旦一息に吐くのだった。


その後も連戦連勝。
昼休み時間に昼食を取った後も挑戦が続いて、気付けばジークの連勝記録は二十勝を超えていた。

「あ〜そろそろお開きでいいかな?  もう夕方近いし帰りたいんだが」
「いや、なんでお前の方はそんなに戦って疲れないんだよ。マジで人間か?」
「おい、散々戦わされた人に対して、人外扱いとか酷くないか?」
「いや、十戦以上平気で戦っている時点で普通じゃないから。……他の連中も同じみたいだぞ?」

コキコキと首を鳴らして提案するジークの側でトオルが呆れた顔で立っていた。ジークと模擬戦はしてないが、ずっと見ていたので彼の化け物ぶりは確認出来ていた。

しかも、それは見ていたのは彼だけではない。
呆れ顔のままトオルは四方に向けると、彼の話を聞いていた者たちが顔を上げて見ていた。

「ああ、まったくだ……」
「なんで魔力が切れないんだ……ありえない」
「あの試合は演らせだと思ったが、……やっぱバケモンだったか」
「おかしい……おかしいわ。魔法理論に当て嵌まらない」

「な?」
「……」

周囲の生徒達もトオルに賛同するように疲れて項垂れたまま頷いていた。
実は二回挑んだ生徒も中にはいて、奇襲の気味に全力で魔法を放ってはガス欠起こす者が沢山でていたのだ。

観戦者の中にもいつの間にか給水係ができていて、グッタリとして倒れている者や座り込んでいる者達の介抱をしていた。……ちなみに元気そうだったのでジークに近寄った人は一人もいなかった。

「人外だなまさしく」
「そこまで言うか? 挑まれたのこっちなんだぞ」

ジークの方も多少は疲れて汗もかいている。ただし、魔力関連はハッキリ言ってまったく消費してないため、倒れ込んでいる彼らのようなガス欠状態には一度もない。連戦でも全然足りないくらいなのだ。

「ていうか、まだまだ元気そうじゃないか。じゃあ最後はオレとも相手してくれねぇか? 見てるだけで退屈だったんだ」

正直帰りたいジークに対して、トオルが腰の鞘に触れて申し込んでくる。
ジト目のジークは睨み付けるが、気にした風もなく試合場の中心を指して促した。

「それが狙いか。てっきり反省して見てるだけだと思ってたが」
「ま、そのつもりではあったぞ?」

初めは本当に観戦だけのつもりだった。
しかし、ジークの試合を観ていくうちに抑えていた戦いの闘志が再燃焼したか、沸き立ち抑え切れなくなっていた。

「やっぱバトル中毒者ジャンキーだわオレ。観てるだけで衝動が沸き立ってくる」
「ああ、そうか。とりあえず病院行って治してもらえ。この中毒者」

しかし、すっかりやる気満々となったトオルとみれば、回避出来る気もしない。それが分かっていたのか、諦めたように溜息を吐いて準備し出す。

なにせ相手は宿主を狂わす妖刀持ちのトオルだ。彼がいると分かった時点で、こうなる気がしていたのだ。


◇◇◇


「待ちなさいトオル。それなら私にやらせなさいよ」
「え……?」

とそこへ第三者が割り込んできた。
観戦する人混みから女子生徒が一人近づいて来たのだ。

「サナ」

ジークが呆然と呟くと、やって来た女子生徒のサナは少し剣呑ある瞳で彼を睨む。

「私だって貴方は一度ちゃんと戦って起きたかったのよ。けど私の場合どうしても私怨が含まれるし、今はもうアリスのこともあるから遠慮していたの」

あの予選会以降、ジークに向けてくる視線は明らかに変わった。軽蔑的な視線が極端に減って好奇な目、奇異な目で見られることが多くなったのだ。……決して負の視線が全て消えたわけではないが。

比例するように彼女の心境にも、なにか変化があったようだ。一番の影響はやはりアイリスだと彼は予測するが、どうやらあの予選会の後、アイリスも学園に来るようになった。

長い間休んでいて授業に遅れていたこともあって、ジークやサナのクラスで授業をするのではなく、しばらくの間は補習部屋で授業して補うそうだ。……その際サナも一緒に付き添うようで、この三日間クラスの授業に参加していなかった。

詰まりに詰まっているか、周囲の不思議そうな視線もお構いなしにジークに詰め寄っていた。

「だけどトオル。予選会で暴走した貴方が戦ってもいいのなら私だって……」
「……そうだな。分かっ……」

色々と複雑な気持ちが漏れたサナを見て、もう必要以上避けることもない。挑戦を受けようとジークは頷きかけたが……。そこで待ったと掛けたのは、同じ挑戦者のトオルであった。

イヤイヤと手を振って割り込んできた。

「いやいやいや、何言ってだ。オレだって我慢してたんだ。急に入って来るなよルールブ」
「貴方は予選会で戦ってるでしょう? 今回くらい譲りなさいよ」
「だから大人しくずっと待ってたんだろうが。先にオレがやるからルールブは下がれ」
「戦闘狂の貴方に譲ったら次なんてないわよ。そっちが下がりなさい」

二人とも我慢していたせいか、お互い譲ろうとしない。
ジークとしては別に今日ではなく、また明日にすればと思うところだが、言動から二人ともかなり堪えていたのだなと同時に理解した。……ならば。

「じゃあ二人できなよ。二対一で」
「「……は?」」

呆然とする二人を置いて閃いたような顔でジークは提案した。
最初はあり得ないと鼻で笑ったトオルと呆れた様子のサナだったが、ジークが本気だと分かるや困惑した様子で彼に促された。

「本気かジーク?」
「後悔しても知らないわよ?」
「ああ、構わないぞ?」

試合場の中心で刀を抜いて構えるトオルとサナが言う。
二人共ジークの提案には、正直賛同しかねるどころか不満満載であった。

が、ジークがイヤラシイ笑みで『ほうぉ〜? ガルダ先輩の時は仲良く組んでたのに俺の時は必要無いって? サナとはまともに戦ったことはないが、まさか俺にボロ負けしたトオルにまでそんな反応されるとは』などと口にした途端、二人から殺意にも似た闘気が溢れ出した。

結局サナもトオルもジークをボコボコにしてやろうという認識が合致したことで、タッグを組むことを了承した。……その代わりジークに対するヘイトは増大したが。

そして、ふと準備をする最中、サナがジークに探るような視線を向けてきた。

「今回は逃げないわよね? 今までのこともあるから正直半信半疑だわ」
「ああ心配するな。あの時・・・とは違って今の俺はそこまで戦闘を避ける理由はないからな。……とりあえず相手はするさ」

ジークが口にしたあの時とは、ルールブ姉妹が狙われていた頃に起こった屋上での一件であろう。
あの時は潜り込んでいる敵をあぶり出すための行動であったが、まともに戦う気は当然なかった。

だが今は違う。
予選会で暴れた時点でもうそれほど隠す必要はなくなった。

強いて言えばまだ周囲の晒してない原初魔法くらいだ。オリジナル魔法については数云々関係なく。公衆の面前で一つも使用するのは避けなければならない。


「……ん? あの時・・・……?」

しかし、ジークが口にした言葉にサナはピクリと反応をしたが、すぐジークが言ったのが屋上でのことだと気付いた途端。

「ふ、フフフフフフッ……」
「お、おい……」

あの時の恨みが蘇ったか、突如薄い笑みを溢すサナ。
隣で立っていたトオルが身震いし数歩離れたが、居心地が一気に悪くなった試合場からさっさと出たくなった。

「ど、どうしたサナ?」

周囲の気温が心なしか下がってる気がする。
何か失言を口したのかと思うが、どうも心当たりのないジークは困惑しながらサナに尋ねたが。

その疑問もすぐに消え去った。

「そうだったわねぇ。服を・・脱がされたんだわ・・・・・・・・。あの時、有無言わせず一瞬で」
「……………………(あ、死ぬわこれ)」

鎮まっていたはずの絶望が復活してしまった。

「お前何してんだよマジで」

二人の段弁的な会話を聞ていたトオルは、笑顔で固まるジークに向かって呆れた眼差しでそう口にしたのが合図だった。

「よくも辱しめたわねえええぇぇェェェ!!!!」
「イヤああああっ!? お願いだから話し合いをさせてぇぇぇぇーーーー!!」

サナのリベンジ、或いは復讐劇が幕を開けた。





「…………オレも行くか」

遅れてトオルも参戦した。……現状のヤバさに少々足踏みしていた。

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