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第15話 【裏】確信と好敵手。
二日目の予選会の夜。
残った予選会は、勝ち続けた風紀委員長シオン・ミヤモト、副委員長クロウ・バルタン、風紀委員のエースであるジル・ガルダ、生徒会長ルーシー・ライブ、副会長メドルフ・ペンシル、生徒会役員の三年女子の戦いとなった。
色々と入り組んだ因縁がある生徒会と風紀委員会の頂上対決。
この試合はジークとティアの戦い程ではなかったが、それでも十分盛り上がった試合であった。
結果は一位シオン・ミヤモト、二位ルーシー・ライブ、三位クロウ・バルタンとなった。
試合解説役のジークも問題なくこなしていき、二年の参加メンバーの一人として選ばれ、他にも試合で善戦したトオル、サナ、ミルルの三名も無事メンバーに選ばれた。
そして試合も終わり王女達を見送った後、学長室に戻ったリグラ。……帰る際、ティア王女からなにやら殺気が滲んだ気がしたが。
◇◇◇
「……」
リグラは自分の椅子に座る。
隠し空間の中で台座に置かれたままの杖を見つめる。
昼休みの時間に急いで部屋に戻ったリグラだったが、部屋には誰もおらず、内部もなにも変わった様子はなかった。
隠していた杖も無事であった。
この杖は錆び付いてとても台座に似合う代物には見えない。
だが、これには秘めた力があることをリグラは確信していた。
かつて自分がこの学園で学生であった頃だ。
同世代の生徒の中に変わり者がいた。本人としては不本意であるが、その変わり者とは度々激突してきた。
授業関連では魔法理論や戦術講習などでぶつかり、チームでの模擬戦でもよく戦った。
そんなある日、卒業間近で行われた卒業研究で、変わり者を含む魔道具造りが趣味であった仲間が密かに改良が困難と言われた原初魔法を組み込んだ魔道具を開発したという情報を入手した。……というか、仲間の方が買い言葉で口走っていたのを聞いていたからだ。
当時リグラはそれを疑わず、確信を持っていたが、開発者達は外に持ち運ぶのは難しいと学園内に隠したため見つけることはできず、リグラも卒業していったのだ。
そして四年程前、大戦で《知将》として参加したあと。
リグラはこの学園で学長になることを決めていた。
元々は武器商人、貴族の商人だったが、大戦での惨劇が彼を動かした。その頃学長であった御年配の学園長から受け継いだのだ。
そうして仕事をこなしている最中、不意に過去の魔道具の騒動を思い出したリグラは学園長の立場を使って学園中を隈なく探して────見つけたのだ。
錆び付いた杖であったが、魔道具も取り扱う武器商人でもあったリグラの目にはそれが本物であると一目で分かった。
しかし、その杖は二つ大きな問題があった。
杖には特殊な封印が掛けられており、解除し扱うには『鍵』が必要だった。
しかもその鍵と呼べるそれの正体は彼には分からず、製作者か関係者でもなければ解くのは不可能であった。
さらに杖には他にも特殊な仕掛けが施されており、鍵が解かれない限り校舎の外には出せない仕組みになっていた。……もし出そうとすれば、結界などの接触障害か強制転移が発動して校舎の何処かに飛ばされるのだ。
一流の職人や魔法分析者か或いはガーデニアンにでも話して、なんとか解除とも考えたが、杖の存在が広まる危険も考慮し、やむなく杖を取り扱うのを断念した。
その杖は今、目の前にある。
形状も錆び付いた状態もそのままだ。
────だが、
「……やられたか」
リグラには理解できていた。
この杖にはもう何の力もない、ただの抜け殻であると。
元武器商人の感か《知将》の勘か、どちらにせよリグラはジークが原初魔法を手に入れたのだと分かっていた。
「かなり警戒していたが、あっさりやって退けたか。……まさか二つ名持ちの盗賊か?」
確たる証拠はないが、リグラの中では既にジークが部屋に侵入し杖の力を奪っていたことは確定されていた。方法など分からないが。
最後の盗賊云々は冗談であるが、それに近い実力を持つ者だというのは間違いないと感じた。
「構わないか。────知りたいことは知れた」
しかし、リグラの顔には動揺、激情の色はまったくなかった。
寧ろ確信が得られてスッキリした。知りたいことが知ることができた得心顔であった。
「前に話した際に杖を知ってるかもしれないと思ったが」
リグラは机の引き出しに掛けた鍵を開けて中に入っている大きめの封筒を取り出す。
封筒を開けて、中の資料も取り出した。
ジークも引き出しの中にあるこの封筒については把握できていたが、中身については魔眼を通してなかった。
そのことをきっと彼は酷く後悔することであろう。
─────【ジーク・スカルスに関する調査資料】
資料の最初のページにはそう書かれていた。
一年ほど前に対面した後、密かに調査させていた物だが、その後ジークが夜に行動することがなくなったので一時保留していたのだ。
「ラドラ村……」
調査で得た中にはジークが育った出身地が記載されていた。
調査した際は気にも止めてなかったが、リグラはその村の名前に心当たりがあった。
「あの女がいる村だ」
警戒の為、それとなく以前調べていたある人物の出身地だ。
杖の開発者の一人であり変わり者として学生時代、リグラがよく衝突したあの学生であった。
「もう一度調べ直す必要がある。……今回は徹底的に」
パサッと資料を机の上に放ったリグラは楽しげな笑みを浮かべる。
「君の関係者であることを期待しているよ。……《白銀の星光乙女》」
かつての好敵手の通り名を口にした。
残った予選会は、勝ち続けた風紀委員長シオン・ミヤモト、副委員長クロウ・バルタン、風紀委員のエースであるジル・ガルダ、生徒会長ルーシー・ライブ、副会長メドルフ・ペンシル、生徒会役員の三年女子の戦いとなった。
色々と入り組んだ因縁がある生徒会と風紀委員会の頂上対決。
この試合はジークとティアの戦い程ではなかったが、それでも十分盛り上がった試合であった。
結果は一位シオン・ミヤモト、二位ルーシー・ライブ、三位クロウ・バルタンとなった。
試合解説役のジークも問題なくこなしていき、二年の参加メンバーの一人として選ばれ、他にも試合で善戦したトオル、サナ、ミルルの三名も無事メンバーに選ばれた。
そして試合も終わり王女達を見送った後、学長室に戻ったリグラ。……帰る際、ティア王女からなにやら殺気が滲んだ気がしたが。
◇◇◇
「……」
リグラは自分の椅子に座る。
隠し空間の中で台座に置かれたままの杖を見つめる。
昼休みの時間に急いで部屋に戻ったリグラだったが、部屋には誰もおらず、内部もなにも変わった様子はなかった。
隠していた杖も無事であった。
この杖は錆び付いてとても台座に似合う代物には見えない。
だが、これには秘めた力があることをリグラは確信していた。
かつて自分がこの学園で学生であった頃だ。
同世代の生徒の中に変わり者がいた。本人としては不本意であるが、その変わり者とは度々激突してきた。
授業関連では魔法理論や戦術講習などでぶつかり、チームでの模擬戦でもよく戦った。
そんなある日、卒業間近で行われた卒業研究で、変わり者を含む魔道具造りが趣味であった仲間が密かに改良が困難と言われた原初魔法を組み込んだ魔道具を開発したという情報を入手した。……というか、仲間の方が買い言葉で口走っていたのを聞いていたからだ。
当時リグラはそれを疑わず、確信を持っていたが、開発者達は外に持ち運ぶのは難しいと学園内に隠したため見つけることはできず、リグラも卒業していったのだ。
そして四年程前、大戦で《知将》として参加したあと。
リグラはこの学園で学長になることを決めていた。
元々は武器商人、貴族の商人だったが、大戦での惨劇が彼を動かした。その頃学長であった御年配の学園長から受け継いだのだ。
そうして仕事をこなしている最中、不意に過去の魔道具の騒動を思い出したリグラは学園長の立場を使って学園中を隈なく探して────見つけたのだ。
錆び付いた杖であったが、魔道具も取り扱う武器商人でもあったリグラの目にはそれが本物であると一目で分かった。
しかし、その杖は二つ大きな問題があった。
杖には特殊な封印が掛けられており、解除し扱うには『鍵』が必要だった。
しかもその鍵と呼べるそれの正体は彼には分からず、製作者か関係者でもなければ解くのは不可能であった。
さらに杖には他にも特殊な仕掛けが施されており、鍵が解かれない限り校舎の外には出せない仕組みになっていた。……もし出そうとすれば、結界などの接触障害か強制転移が発動して校舎の何処かに飛ばされるのだ。
一流の職人や魔法分析者か或いはガーデニアンにでも話して、なんとか解除とも考えたが、杖の存在が広まる危険も考慮し、やむなく杖を取り扱うのを断念した。
その杖は今、目の前にある。
形状も錆び付いた状態もそのままだ。
────だが、
「……やられたか」
リグラには理解できていた。
この杖にはもう何の力もない、ただの抜け殻であると。
元武器商人の感か《知将》の勘か、どちらにせよリグラはジークが原初魔法を手に入れたのだと分かっていた。
「かなり警戒していたが、あっさりやって退けたか。……まさか二つ名持ちの盗賊か?」
確たる証拠はないが、リグラの中では既にジークが部屋に侵入し杖の力を奪っていたことは確定されていた。方法など分からないが。
最後の盗賊云々は冗談であるが、それに近い実力を持つ者だというのは間違いないと感じた。
「構わないか。────知りたいことは知れた」
しかし、リグラの顔には動揺、激情の色はまったくなかった。
寧ろ確信が得られてスッキリした。知りたいことが知ることができた得心顔であった。
「前に話した際に杖を知ってるかもしれないと思ったが」
リグラは机の引き出しに掛けた鍵を開けて中に入っている大きめの封筒を取り出す。
封筒を開けて、中の資料も取り出した。
ジークも引き出しの中にあるこの封筒については把握できていたが、中身については魔眼を通してなかった。
そのことをきっと彼は酷く後悔することであろう。
─────【ジーク・スカルスに関する調査資料】
資料の最初のページにはそう書かれていた。
一年ほど前に対面した後、密かに調査させていた物だが、その後ジークが夜に行動することがなくなったので一時保留していたのだ。
「ラドラ村……」
調査で得た中にはジークが育った出身地が記載されていた。
調査した際は気にも止めてなかったが、リグラはその村の名前に心当たりがあった。
「あの女がいる村だ」
警戒の為、それとなく以前調べていたある人物の出身地だ。
杖の開発者の一人であり変わり者として学生時代、リグラがよく衝突したあの学生であった。
「もう一度調べ直す必要がある。……今回は徹底的に」
パサッと資料を机の上に放ったリグラは楽しげな笑みを浮かべる。
「君の関係者であることを期待しているよ。……《白銀の星光乙女》」
かつての好敵手の通り名を口にした。
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