オリジナルマスター

ルド@

第13話 浮かんだ疑問と新たな謎。

「う……」

昼食時間になった頃であった、戦闘でダウンし保健室で眠っていたサナが目を覚ましたのは。

「……こ、こは?」
「サナちゃん!?」
「気がついたの姉様!」

ベットで眠ていた彼女の視界に映った、リナ愛しい妹アイリス親友であった。どうやら目覚めるまで彼女を見ていたようだ。

「……あ、そっか、負けたんだ。私」

起きたばかりで寝惚けた口調であるが、少しずつ思考が回り、つい先ほどまでの記憶が鮮明に蘇っていく。……自分が敗北したことも共に。

「勝ったのは、やっぱりガルダ先輩?」

僅かに呆然とした顔でサナがアイリスに尋ねる。
アイリスは悲しげな顔をしてその問い掛けに頷いて答えた。

「サナちゃんが倒れてからトオル君がすっごく頑張っていたけど、あのガルダ先輩っていう人とんでもなく強くて、資格がないと使えない『一体化』まで使えたんだよ」
「い、『一体化』!?」

どのような技術か知っているサナは、アイリスからの言葉を聞いて呆然とした顔が一変、驚きの顔へと変わった。

「私の知識通りだったら、確かあれって会得難易度Sランク級だった筈よね……?」
「うん、そうだよ姉様」

つい自分の記憶違いを疑ってしまうサナに魔法関連好きのリナが頷く。

「ガルダ先輩、属性や魔力操作と一緒に身体訓練を沢山積んできたんだと思うんだよ。『一体化』は魔力操作も勿論重要だけど、対象となる物────属性に対する技量もかなり必要な筈だし、それに合わせて身体的な訓練の方も欠かさず行ってきたんだよ。ボクも初めて見たけど、ホント凄かった!」

何気にこの中で一番魔法知識が豊富であるリナは、自分の出番とばかりに立ち上がる。……忘れているかもしれないが、魔法の才で姉のサナに劣るが、彼女以上に魔法関連について探究心あるのだ。

矢継ぎ早しに口にしていくリナにサナとアイリスは苦笑であった。
余り素を表に出さない彼女がここまで、微笑ましくも思うが少々心配しそうになる。

「相性やセンスも必要だけど、それ以上努力を積み重ねだよね。……ボクもああいう人に憧れるかも」

自分にもあの人くらいの奮励努力があればな、と思わずに入れないリナ。魔法に関して意欲こそあるが、家族以外の周囲からの期待外れで嘲笑うような視線に耐え切れず、知識だけに留めることが多々だった。

あのような積み重ねの鍛錬の結果を見ていると、自分ももう少しどうなのかと自身に問いかけたくなるのだ。

「え!?」

しかし、そんな心境など言葉だけを聞いただけのシスコンのサナには分かる筈もなく、明らからに誤解のリアクションをして青ざめると周囲から冷気を放ち始めた。一歩間違えるとそのままガルダの元へ行って色々と殺しやってしまいそうな雰囲気だ。

「ちょっとサナちゃん!?」

慌てた様子でそれを見ていたアイリスが止めに入る、彼女の方はリナが言いたいことが理解できているようで、暴走しかけているサナを正気に戻そうとする。……が、それよりも早くリナが姉の状態に気づいて誤解を解いた。

「あ、勘違いしないでね姉様。そういうことじゃないから」

あくまで魔法との向き合い方に尊敬の念を抱いただけなリナ。流石に男性としては誰かを見たことはないのだ。そのことをしっかり姉の伝える。

「あ、そうなの」

すると誤解だと理解したのか、冷気を収めるサナを見て安堵するアイリス。彼女の暴走癖は昔から知っていることもあり、もし暴れられたらと思うと冷や汗を掻かずにはいられないのだ。

リナもそんな姉を知っているので暴走しそうになった姉を止めれて安堵の表情を浮かべいる。

ただ、

(今のところ、興味が尽きないのはあの先輩だけだね)

規格外な人物として、興味を抱いているジーク男性はいるが、それもまたサナが恐れている感情とは違う、羨望のような気持ちであるのだ。可能であれば教えを請いたいほどに。

(ミヤモト先輩との試合で強いのは分かってたと思ってたけど、まだまだだった。あの先輩全然本気じゃなかった……!)

頭の中でその二つの戦闘風景を映し、内心興奮な状態なリナ。

(本当に何者なんだろうあの先輩)

先日の二試合を思い返し、ふいにそう感じたリナ。……具体的なことは何も知らない。
考えるだけ無駄というものであるのも自覚はしている。
もう何度目か、数え切れないほど行き着いては最終的にいつも分からずで終わっているのだ。

(やっぱりただ考えてるだけじゃダメなんだろうな)

以前ジークから関わるなと警告を受けたにも関わらず、自分の好奇心はなかなか抗えない。……昨日の試合を見ても結論は変わらなかった。

「ん───くっ!」

ベットから起き上がろうとして腹部に痛みを覚えたサナ。ガルダとの戦いで受けたダメージがまだ残っているようだ。

「まだお昼休みだから休んでた方がいいよサナちゃん」
「ははは、ごめんなさい」

「……」

困ったような笑みを浮かべるサナがいるのに癖なのか、リナは密かに脳裏の中でジークに対する情報を順序立てて整理し出した。

(カリアちゃんから聞いただけでも、あの先輩は最初から普通じゃなかった。学園は高等部からの入学でそこまで普通だったけど……いきなりガーデニアン先生と実力テストの模擬戦をして接戦だったって話だし)

その頃にはアイリスや姉のサナと共も知り合いだったそうだが、そこまではリナも余り詳しく聞いていない。
ガーデニアンとの模擬戦も具体的は聞いていないが、見る目のある者には凄い試合だった。

(同時期にSランクの犯罪者からアリスさんを守ったし。犯罪者なんて全世界で指名手配中だった極悪人のヤバい人だった)

初めて聞いた時は流石に驚いたが、ちょうど《魔境会》に狙われていた時に思い出したので、リナはすぐ真赤・・との繋がりを疑った。

(だってタイミングが余りにも良過ぎるし、共通点も少なからず見え隠れしてる気がした)

犯罪者の正体については、後日カリアからの情報を集めて貰い知ったが、深入りし過ぎてジークにキツイ警告を受けてしまった。

……風の噂でカリアの方も姉からキツイ折檻を受けたそうだが、本人に聞いても毎回魂の抜けた顔で「エ、ナニソレ?」と片言返答しか返ってこなかった。……重傷である。

(けど、もし仮に先輩がこの間会った《真赤の奇術師》だったと仮定したら……どうなる?)

偶然などそうない。カリアの情報や姉の話を合わせれば、ジークの怪しさが数段増していた。

ジークが街にやってきた時期と《真赤》のジョドが現れた時期は、ほぼ同じである。

(意図的に口調こそ変えてたけど、雰囲気が似てた)

変装したジークにも出会っている。違和感ある敬語口調のせいで気付けなかったが、今にして思うとあの胡散臭さが何処と無く、近付いて感じたジークに似ている気がした。

(きっかけはボク達の警護。魔境会とも対決したみたいな)

ハッキリとは聞いてないが、休日、父に会いに行った際には、もう大丈夫だと聞いたリナとサナ。
父も全てを把握している訳ではないようだが、警護に当たった冒険者についていつか会ってみたいようなことを仄めかしていた。

(あ、それと元戦役者だったんだ。姉様がアイリスさんから聞いてたのを忘れてた)

あれだけ強いんだから戦場に出ていてもおかしくないと、今なら理解できるが、この情報もまたリナや聞いた姉のサナも驚き少なからず疑った。……余計な謎も増えてしまったが。

(ていうかあの人、一体いくつの時から戦場に参加してたのかな? ……ん?)

何気ない疑問につい考えていたが、ふと新たな疑問が脳裏に過った。

(あれ? 戦役者の情報って確かアリスさんのお父上様から出た話だったけど、アリスさんのお父さん……どうして戦役者だって分かったんだろう?)

─────その雰囲気、立ち振る舞いから?
否、当時のジークは今と同じくらい怠惰でのほほんとした顔をしている。
ガーデニアンや学園長は分からないが、大半の教師達が騙されている。少し考え難い。
仮にアイリスの父も騙されなかったとしても、戦役者だと分かるだろうか。

─────《真赤の奇術師》の正体を知っている?
否、アイリスが襲われた頃は、まだ《真赤》の噂は流れてなかった。
《真赤》の噂が流れ出したのは、もう少し後だった筈。

(どっちも違う? けど、どうして?)

────だとすれば、何が原因だったのか?
ますます混乱してくる疑問にリナは鈍い頭痛を覚えるながら、どうにか頭の中で整理して見る。

(元々知り合いだった? ……いや、違うか。……だとしたら何も共通点がない・・・・・・……?)

しばし、考え込むように黙り込むリナ。チラリとベットに寝そべっているサナを心配そうに見るアイリスに視線を向けて見た。

「あの、アリスさん」
「ん? なぁに? リナちゃん?」

あくまで確認のつもりである。自分が生んだ疑問を解消させる為、リナはアイリスに訊いてみることにした。

「一つ訊きたいことがあるんだけど……」
「うん? 何かなぁ?」

不思議そうな首を傾げるアイリスに、リナは少しだけ躊躇いを感じながらも思い切って訊いてみた。

「アリスさんのお父様って、じ、ジーク先輩と実は知り合いだったってことはない、かな? 一年前のあの一件で会う前に」
「リナ? あなた何を突然……」

妹の突然の質問にサナが戸惑いの声を出し遮ろうとする。
どういう理由があってか知らないが、いきなりジークの話題を振るのはどうなのかと言いたいのだ。

しかし、そんなサナの危惧も不要であった。

「うん、大丈夫だよ? サナちゃん」
「そ、そう?」

普段と変わらない微笑みのアイリスが制止てきたからだ。
ジークの名が出て少し口元が強張ったが、それだけで変わらずリナに向き合っていた。

「すみません、急に変な質問して」
「いいよリナちゃん、二人のお陰で少し気持ちが楽になったから」
「ほ、ホントなのアリス!?」

慈愛に満ちた笑みのアイリスの答えに、嬉しげな顔でサナがバッと起き上がりそうになる。……勿論、体の痛みでベットに倒れてしまうが。

「……そ、それで? 知り合いだったり、するの?」

冗談なのか本当なのか、もし本当なら外に出して大正解であったが、どちらにしろサナはともかくリナは、次のアイリスの言葉に意識が移ってしまっていた。

「え〜〜とねぇ? 前に聞いた時は別に知り合いだったっていう話はなかったよ? 事件が終わってジーくんとお父さんが会う機会があったんだけど、その時になにかお話してたみたいで、わたしの詳しいことは何も聞いてないけど……────あ」

アイリスが記憶を手繰り寄せるように話していると、何かハッとした顔してみせた。何か思い出したようだ。

「そうだ、確かあの時……」

リナは黙ったままアイリスの言葉を待つ。
ここで口を挟ませて会話途切れるのは避けたい。とにかく彼女は疑問を解消したかった。

なので、

「お父さんとジーくんの会話が終わってジーくんが帰った後、お父さん、何があったのか、自分の部屋で泣いてたみたいなの」
「……え、……な、泣いて、いた?」
「うん……何でか分からないけどね」

新たな謎が生まれてしまった時は、頭の中で大量のモヤが掛かり余計にむず痒くなってしまった。

(ど、どういうことをっ??)

その後、昼休みは保健室で姉とアイリスと共に過ごすこととなったが、その心の中では新たな疑問が膨らみ出して、もうパンパンな状態であった。

(もうぉ! いったい何をしたのあの先輩は!?)

リナの心の叫びなど当然だれの耳にも届きはしなかった。

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