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第13話 規格外。
「っ! ────あ、あれっ!?」
嫌な音が聞こえて慌てて防御に使用した籠手を見るジーク。
「げっ!」
籠手の状態を見て絶句する。
そこには鋭い斬撃を受け過ぎて、複数の亀裂が入った無属性の籠手があった。
(出力を抑え過ぎたか!? 想像以上にキツイぞこれは!)
もともと『行動禁止』で魔力を制限しているところをいつものクセでそこからさらに加減をしてしまったのだ。
それがジークの失敗であった。
目の前の相手に…………彼女に──────
───────手加減など不要であったのだ。
それこそ『行動禁止』で魔力をセーブする必要などないほどに。
「スキやりッ!」
「っ───のわっっ!?」
亀裂が入った籠手に一瞬だけ茫然とした隙をミルルは的確に突いてきたのだ。
頭部を狙ったナイフの突き攻撃。
ジークは慌てて躱して一度距離を取るとミルルから離れたのだ。
「戦いの途中で考えごとなんて三流のすることじゃない」
「ははは……結構厳しいんだけど……」
「─────もっとしっかりしなさい」
呆れたような表情から一変、突き刺さりそうな鋭い殺気を放ちミルルが忠告してくる。
その手にあるナイフをクルクルと回して余裕を見せながら。
『───っ!?』
ミルルが放つ冷たい殺気に会場に緊張が走る。
彼女が放つ殺気は生徒だけでなく教員達も凍りつかせた。
まるで本当に殺し合いをしているかのような殺気。
その殺し合いの空気を知る者達は無意識の内に構えをとってしまっていた。
それを知らない者達も反応を見せていたが、やはり大半が体を硬直させしまい動けずに立ち竦んでいた。
観戦している者で平気そうにしている者がいるとすれば、教員の中で二名だけである。
そしてそれは一番向けられている。
ジークも同じであった。
「はぁ……ご忠告どうも」
ミルルの殺気に苦笑を浮かべるジーク。
肩をすくめるような仕草をするだけで、特に気圧された様子はなかった。
これぐらいの殺気は修業時代、大戦時で経験済みである。
(にしてもさすがに抑え過ぎたかぁ……。このままこのレベルの加減で、あの人と戦うのは無理そうだな)
まだ『行動禁止』を解除する気はないが、少しは加減をやめる必要があると判断した。
(普通の攻撃じゃダメだ──────ならば)
一度心の中で頷くと、ジークは掌を彼女の方へと向けて魔力を込める。
「これならどうかな? 『零の────透矢・一斉乱射』っっ!!」
ジークが魔力を解き放つと、掌と彼の周囲から数え切れないほどの無数の矢弾が発射された。
トオルとの戦いで見せた矢の豪雨であるが、あの時とは──────規模が大きく違った。
ミルルを容易に覆い尽くせるほどの大量の矢。
その攻撃範囲はとても広く、身体強化状態のミルルのスピードでも躱し切れない。
そして──────
『先生方! 障壁結界っ!! 外に漏れないように張り巡らしてくださいっ!!』
その影響は戦闘エリア外にも影響を及ぼすレベルであった。
場外判定があったため、それほど強力な結界を張ってなかったことが仇となってしまった。
普通は生徒が放つ魔法などは教員が一人程度の障壁でどうにかなるのだが、ジーク今放った矢弾は威力が高く、数も計り知れなかった。
「くっ、障壁を……っ!」
「ダメだ間に合わないっ!」
防ぐには教員一人ではとても足りないのだった───────────かの老魔導師がいなければ。
「やれやれじゃのぉ……『闇の大円高壁』展開じゃ」
戦闘エリアの外に出ようとした矢弾に、エリアを薄く覆う闇の障壁が立ち塞がった。
ガーデニアンが張ったのは上級の障壁魔法である。
どうも心許なさそうな見た目であるが、その障壁は外に出ようとする全ての矢弾を──────弾き返していた。
「さすが老師だ! これなら多少強めにやっても問題ないな!」
最悪のケースと想定しながらも放った矢であったが、ちょうど見ていたガーデニアンによってあっさり防がれた。
(また見てたのか。……けどこれで)
ガーデニアンの結界に不安が解消されたジークは思考を切り替え、ミルルへと向き合い放出する魔力の量を上げだした。
「──!」
魔力は感じ取れてないはずだが、ジークの雰囲気から威力や量が跳ね上がったことを察したミルル。
「さてミルル?  おまえは────どうする!?」
矢弾を放ちながらジークは叫ぶ。叫ぶ中、一切手を止めない。
どうやら彼はこれで終わりにするつもりのようだ。
そんな彼の問いかけに……ミルルは──────
「フっ!」
両手のナイフを構えて魔力を集中させていた。
先ほどまでよりもさらに強く、強靭な刃へと変える。
「ヤッッ! ハァッ────!!」
迫る雨の矢弾へとぶつかりに行くミルル。
スピードが上がってるところを見ると、纏っている身体強化も底上げしたようだとジークは推理した。
一切迷いないその動きに…………周囲の者達から感嘆の声があがっていた。
「すごいな…………けど───────まだだ」
自身に襲いかかる矢弾を全て斬っゆくミルルを見て、引き気味の表情となるジークだが、放つ矢弾の補充は忘れない。
叩き斬れていく矢よりも多くの矢を放ち続ける。
「う、うそだろう……どうなってんだよアレ」
「なんで魔力が切れないの……?」
「仮に下級魔法だとしても……あの量は異常だぞ?」
その矢の量は見ている生徒達が信じられない顔で唖然とするほど。
普通ならとっくに魔力切れを起こして、死んでしまうであろうほどの魔力を……ジークは顔色一つ変えず放出し続けている。
異常な光景であった。
その光景に唖然としていたのは生徒だけではなかった。
「馬鹿げてる……なんだあの矢の数は……」
「し、信じらない! どれだけ消費しているか分からないが、我々教員でも厳しいぞアレは!」
「教員どころではない。アレだけの量の魔力……一流の魔法師でも困難なはずだっ!」
「いったい……彼は何者なんだ!? まさか、どこかの名のある魔法師なのか!?」
教員達も彼が放ち続ける矢弾の数に愕然とした顔で自身の疑問を叫んでいた。
思考が追いつかず、自問自答している者までいた。
二人の教員を除いて。
「彼の魔法、……障壁を通してどう思いますかガーデニアン先生?」
「そうですな……。なかなかのもんじゃと思いますぞ。一発一発、威力がいい」
興味深そうにジークが放つ矢を見て意見を求めるリグラと外に漏れないよう、障壁を張って見張っているガーデニアンの二人。
他の教員達と違い、どちらも余裕な表情でジークとミルルの戦いを見ていた。
「あれが彼の全力なんでしょうか?」
「まだ、じゃろうな。どうみても加減をしておるわな……アレを外しとらんしのぉ……」
リグラの問いかけにヒゲを撫でながら答えるガーデニアン。
最後の部分は小さな声であったためリグラに聞こえなかったが、リグラから見てもジークが未だ本気を出してないのは予想ができていた。
「本当に興味が尽きない生徒ですね」
「そうじゃのぉ」
ジークが聞いていたら真っ青になっているであろう二人の共通認識。
お互いに楽しげな笑みを浮かべて頷きあっていると────────試合の流れに変化が生まれ出していた。
「っ、キリがないわ……!」
ジークが放つ矢弾に対して、避けたり斬ったりしていったミルルであったが、どんどん上がっていく威力や数に苦しそうな表情をしだした。
「きゃっ!? くっ……!」
長引くにつれてまったく無傷とも言えなくなるミルル…………掠ったりして直撃もしてきた。
(そろそろ我慢の限界かな?)
徐々に苦戦していくミルルを見て、ジークはそんな予感を感じていた。
彼女の性格を考えるとこのまま負けるという結果はなにがなんでも回避したいはず。
負けず嫌いなのだ。ジークはそんな彼女の性格を知っていたため、一つ賭けに出てみた。
失敗したら打首ものであるが、ジークは彼女を追い詰めることにした。
そして遂に─────その時がきた。
「あぁぁァァァ──────ッッ!! もうッッ!! アッタマにきたァァァ──────ッッ!!!!」
迫ってくる矢弾に対して遂に堪忍袋の尾が切れた。
彼女はその場で立ち止まると、力を込めた強い眼差しで──────本気を出した。
嫌な音が聞こえて慌てて防御に使用した籠手を見るジーク。
「げっ!」
籠手の状態を見て絶句する。
そこには鋭い斬撃を受け過ぎて、複数の亀裂が入った無属性の籠手があった。
(出力を抑え過ぎたか!? 想像以上にキツイぞこれは!)
もともと『行動禁止』で魔力を制限しているところをいつものクセでそこからさらに加減をしてしまったのだ。
それがジークの失敗であった。
目の前の相手に…………彼女に──────
───────手加減など不要であったのだ。
それこそ『行動禁止』で魔力をセーブする必要などないほどに。
「スキやりッ!」
「っ───のわっっ!?」
亀裂が入った籠手に一瞬だけ茫然とした隙をミルルは的確に突いてきたのだ。
頭部を狙ったナイフの突き攻撃。
ジークは慌てて躱して一度距離を取るとミルルから離れたのだ。
「戦いの途中で考えごとなんて三流のすることじゃない」
「ははは……結構厳しいんだけど……」
「─────もっとしっかりしなさい」
呆れたような表情から一変、突き刺さりそうな鋭い殺気を放ちミルルが忠告してくる。
その手にあるナイフをクルクルと回して余裕を見せながら。
『───っ!?』
ミルルが放つ冷たい殺気に会場に緊張が走る。
彼女が放つ殺気は生徒だけでなく教員達も凍りつかせた。
まるで本当に殺し合いをしているかのような殺気。
その殺し合いの空気を知る者達は無意識の内に構えをとってしまっていた。
それを知らない者達も反応を見せていたが、やはり大半が体を硬直させしまい動けずに立ち竦んでいた。
観戦している者で平気そうにしている者がいるとすれば、教員の中で二名だけである。
そしてそれは一番向けられている。
ジークも同じであった。
「はぁ……ご忠告どうも」
ミルルの殺気に苦笑を浮かべるジーク。
肩をすくめるような仕草をするだけで、特に気圧された様子はなかった。
これぐらいの殺気は修業時代、大戦時で経験済みである。
(にしてもさすがに抑え過ぎたかぁ……。このままこのレベルの加減で、あの人と戦うのは無理そうだな)
まだ『行動禁止』を解除する気はないが、少しは加減をやめる必要があると判断した。
(普通の攻撃じゃダメだ──────ならば)
一度心の中で頷くと、ジークは掌を彼女の方へと向けて魔力を込める。
「これならどうかな? 『零の────透矢・一斉乱射』っっ!!」
ジークが魔力を解き放つと、掌と彼の周囲から数え切れないほどの無数の矢弾が発射された。
トオルとの戦いで見せた矢の豪雨であるが、あの時とは──────規模が大きく違った。
ミルルを容易に覆い尽くせるほどの大量の矢。
その攻撃範囲はとても広く、身体強化状態のミルルのスピードでも躱し切れない。
そして──────
『先生方! 障壁結界っ!! 外に漏れないように張り巡らしてくださいっ!!』
その影響は戦闘エリア外にも影響を及ぼすレベルであった。
場外判定があったため、それほど強力な結界を張ってなかったことが仇となってしまった。
普通は生徒が放つ魔法などは教員が一人程度の障壁でどうにかなるのだが、ジーク今放った矢弾は威力が高く、数も計り知れなかった。
「くっ、障壁を……っ!」
「ダメだ間に合わないっ!」
防ぐには教員一人ではとても足りないのだった───────────かの老魔導師がいなければ。
「やれやれじゃのぉ……『闇の大円高壁』展開じゃ」
戦闘エリアの外に出ようとした矢弾に、エリアを薄く覆う闇の障壁が立ち塞がった。
ガーデニアンが張ったのは上級の障壁魔法である。
どうも心許なさそうな見た目であるが、その障壁は外に出ようとする全ての矢弾を──────弾き返していた。
「さすが老師だ! これなら多少強めにやっても問題ないな!」
最悪のケースと想定しながらも放った矢であったが、ちょうど見ていたガーデニアンによってあっさり防がれた。
(また見てたのか。……けどこれで)
ガーデニアンの結界に不安が解消されたジークは思考を切り替え、ミルルへと向き合い放出する魔力の量を上げだした。
「──!」
魔力は感じ取れてないはずだが、ジークの雰囲気から威力や量が跳ね上がったことを察したミルル。
「さてミルル?  おまえは────どうする!?」
矢弾を放ちながらジークは叫ぶ。叫ぶ中、一切手を止めない。
どうやら彼はこれで終わりにするつもりのようだ。
そんな彼の問いかけに……ミルルは──────
「フっ!」
両手のナイフを構えて魔力を集中させていた。
先ほどまでよりもさらに強く、強靭な刃へと変える。
「ヤッッ! ハァッ────!!」
迫る雨の矢弾へとぶつかりに行くミルル。
スピードが上がってるところを見ると、纏っている身体強化も底上げしたようだとジークは推理した。
一切迷いないその動きに…………周囲の者達から感嘆の声があがっていた。
「すごいな…………けど───────まだだ」
自身に襲いかかる矢弾を全て斬っゆくミルルを見て、引き気味の表情となるジークだが、放つ矢弾の補充は忘れない。
叩き斬れていく矢よりも多くの矢を放ち続ける。
「う、うそだろう……どうなってんだよアレ」
「なんで魔力が切れないの……?」
「仮に下級魔法だとしても……あの量は異常だぞ?」
その矢の量は見ている生徒達が信じられない顔で唖然とするほど。
普通ならとっくに魔力切れを起こして、死んでしまうであろうほどの魔力を……ジークは顔色一つ変えず放出し続けている。
異常な光景であった。
その光景に唖然としていたのは生徒だけではなかった。
「馬鹿げてる……なんだあの矢の数は……」
「し、信じらない! どれだけ消費しているか分からないが、我々教員でも厳しいぞアレは!」
「教員どころではない。アレだけの量の魔力……一流の魔法師でも困難なはずだっ!」
「いったい……彼は何者なんだ!? まさか、どこかの名のある魔法師なのか!?」
教員達も彼が放ち続ける矢弾の数に愕然とした顔で自身の疑問を叫んでいた。
思考が追いつかず、自問自答している者までいた。
二人の教員を除いて。
「彼の魔法、……障壁を通してどう思いますかガーデニアン先生?」
「そうですな……。なかなかのもんじゃと思いますぞ。一発一発、威力がいい」
興味深そうにジークが放つ矢を見て意見を求めるリグラと外に漏れないよう、障壁を張って見張っているガーデニアンの二人。
他の教員達と違い、どちらも余裕な表情でジークとミルルの戦いを見ていた。
「あれが彼の全力なんでしょうか?」
「まだ、じゃろうな。どうみても加減をしておるわな……アレを外しとらんしのぉ……」
リグラの問いかけにヒゲを撫でながら答えるガーデニアン。
最後の部分は小さな声であったためリグラに聞こえなかったが、リグラから見てもジークが未だ本気を出してないのは予想ができていた。
「本当に興味が尽きない生徒ですね」
「そうじゃのぉ」
ジークが聞いていたら真っ青になっているであろう二人の共通認識。
お互いに楽しげな笑みを浮かべて頷きあっていると────────試合の流れに変化が生まれ出していた。
「っ、キリがないわ……!」
ジークが放つ矢弾に対して、避けたり斬ったりしていったミルルであったが、どんどん上がっていく威力や数に苦しそうな表情をしだした。
「きゃっ!? くっ……!」
長引くにつれてまったく無傷とも言えなくなるミルル…………掠ったりして直撃もしてきた。
(そろそろ我慢の限界かな?)
徐々に苦戦していくミルルを見て、ジークはそんな予感を感じていた。
彼女の性格を考えるとこのまま負けるという結果はなにがなんでも回避したいはず。
負けず嫌いなのだ。ジークはそんな彼女の性格を知っていたため、一つ賭けに出てみた。
失敗したら打首ものであるが、ジークは彼女を追い詰めることにした。
そして遂に─────その時がきた。
「あぁぁァァァ──────ッッ!! もうッッ!! アッタマにきたァァァ──────ッッ!!!!」
迫ってくる矢弾に対して遂に堪忍袋の尾が切れた。
彼女はその場で立ち止まると、力を込めた強い眼差しで──────本気を出した。
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