オリジナルマスター
第10話 疑問。
「あの……先輩? 聞いてる?」
「ん? ああゴメン、ちょっとボーとしてたわ」
訝しげなリナに謝罪しながら苦笑するジーク。
そんな彼に不思議そうな顔したリナであったが、聞きたいことが他にあったので話を切り出した。
「前に話したカリアさんだけど…………なにかした? 最近すごく暗いんだけど」
「ん? あ、ああ新聞部の子か」
サナの戦いが終わりに近づく中、リナそんな質問をしだした。
あげられた名に首を傾げるジークだが、すぐに先日の話で情報を漏らした子だと思い出した。
「はははっ、心配ないよ。ちょっと知り合いの人にお説教されたらしいから」
「お、お説教?」
「ま、まあね」
必死に爆笑するのを堪えるジークを見て、呆然とするリナ。
あまりにも予想外の反応であったので、どうリアクションを取ればいいのか分からないのだ。
「なんで、笑うの堪えてるの?」
「ぅ、ちょっ、ちょっとね」
思い出しただけで吹き出しそうになる。
あのあと、時間が空いてるところ狙ってジークはギルドに赴きカリア・ネイルの姉であるキリア・ネイルに話をしたのだ。
クルドル・バイソンの情報漏れはその件を知るジーク以外の二人の内の一人──────キリアからであったのだ。
『すみません! すみません!  ────本当にすみませんでした!! 』
もう土下座の勢いでジークに謝罪するキリアであった。
シャリアもジークも唖然として固まる中、何度も何度も謝り続けた。
どうやらバイソンに関する情報資料をギルド職員達にバレないように整理する為、自宅に持ち帰り整理していた時に隙を見計らって見られてしまったらしい。
キリア曰く、新聞部に所属するだけあって、相当の無茶が過ぎて好奇心溢れる妹なのだ。
情報を盗み見て、流した罪は大きいが、流した相手がリナだけであったこともあり、今回はキリアが責任を取ってカリアを叱りつけることで丸く収めることとなったのだが……。
今回の件で相当激怒したキリアが泣き叫ぶ妹のお尻を何度もペンペンと叩きつけたらしいのだ。
これについては上司としてその場に居合わせていたシャリアが、苦笑いで説明していたので事実なのだと知った時はつい爆笑してしまったジーク。
今でも思い出してしまうと笑いがこみ上げてしまうジークは必死に堪えようとしているのだ。
流石の彼でも尻叩きは予想外だったのだ。
「とにかく、その子ならしばらくしたら調子が戻ると思うから、またやらかさないか見張っといてくれ」
「わ、わかった」
どうも腑に落ちないリナであったが、彼の顔を見てなんとなく大丈夫なんだろうと感じ取ったのだ。
そして、そうこう会話を進めていると。
「実は他にも気になってたことがあるんだけど、いい?」
「ん? 答えれる範囲ならな」
どうやら他にも聞きたいことがあるリナ。
ジークが特に拒否を示してないのを確認して、あの日聞こうとした質問をしてみることにした。
「あの時は聞きそびれたんだけど、アリスさんが襲われた件で気になることがあって」
「気になること?」
まさか襲ってきた相手についてそれとなく知りたいのかと疑うが、彼女の表情を見るとどうも違うようだと気づく。
不思議そうに首をかしげるジークにリナも、不思議そうな表情をして口を開いた。
「その……例のあの人がアリスさんを襲ったことなんだけど──────なんでアリスさんを襲ったのかな?」
本当になぜなのかと、理解出来てないといった顔でジークに質問してきたリナ。
「え、……なんで、って……」
リナの質問に少しばかり困惑した顔で見返すジーク。
アイリスを襲った物の名はクルドル・バイソン。
《黒蛇》と呼ばれて、かつてはジークと同じようにエリューシオン側として大戦に参加した者であったが、途中で国を裏切り……さらに当時シルバーであったジークの逆鱗に触れるようなことを仕出かした愚か者である。
結局、何年も逃げ続けることとなったバイソン。
そんな彼がなぜアイリスを襲ったのか……リナに質問されてジークは困惑するも、以前推察した内容をリナに伝えた。
「奴は各国から指名手配されてた。それにあの頃は街で人が襲われる事件が少々あったからなぁ。たぶん身の保証のために令嬢ぽい人を襲って誘拐するつもりだったんだろう」
─────持ってる物を確かめれば貴族かどうか、判断もつくと思うしな、と付け加える。
そして偶然街でアイリスを見かけたバイソンが彼女をどこかの貴族の令嬢だと思って襲いかかった。
ジークはそう推測したのだ。
だが、そんなジークの推察を聞いてもリナの表情に浮かんでいた疑問は消えなかった。
「そうかなぁ? なんだかカリアさんの話を聞くとちょっと違う気がするんだけど……」
「違う? 何が?」
何が違うのかよく分からず聞き返すジークにリナは表情を変えないまま答えてみせた。
「いや、カリアさんからの話だと、確かにその頃先輩が言ったようにそういう噂が出てたんだけど……少しだけ変なんだよ」
そこまで言うと一度視線をジークから逸らして、再度躊躇いがちに視線を合わせて口を開いた。
「なんか襲われてる人、実は女性だけだったらしく、気になってついでに調査したみたい」
好奇心溢れる子だとキリアから聞いていたジークはさして驚かなかった。
むしろまだ学生である身分であるのに、そこまで踏み込めれる度胸に少なからず賞賛の意を送りたくなった。
「凄いなその子。学外でそこまで……」
だけどそれだけキリアが苦労しているのだと思うと……ジークは苦笑を禁じ得なかった。
「で、でねっ? その結果、襲われた女性達には幾つか共通点があったようで」
「共通点が……?」
彼の苦笑にリナも多少言葉が濁す中、ジークは彼女が知っている共通点とは何なのか、気になって彼女の言葉に耳を傾ける。
すると、彼女の口から───────恐ろしい言葉が告げられた。
「その女性たちの髪と瞳が…………アリスさんと似た感じの薄い水色髪の蒼眼だったそうなの」
「────ッ!?」
彼女の言葉を聞き、驚愕の顔をするジーク。
だが、リナはそんなジークの様子に気付かずにどんどん疑問を口にしていく。
「他にも年がみんな結構近いみたいで、顔立ちもよく見ると似ていて……その全員がアリスさんに似てるってカリアさんが」
(ま、…………まさか……ッ!?)
その時、ジークは脳裏の中でアイリス髪と瞳と同じである。
とある少女の姿が脳裏によぎった。
「ジーク先輩、これって偶然で片付けて大丈夫なのかな? なんだかボク凄く嫌な感じがする」
「……」
ジークは答えられなかった。
リナの疑問に対して、返事をする余裕が彼にはなかったのだ。
(まさか……それが狙いだったのか!?)
彼は思考回路全開に回して、ある可能性に視野に入れて黙考するのだった。
◇◇◇
ジークとリナが会話をしている中、予選会場に一人の女性が駆け出していた。
「た、大変です! 学園長っ!!」
その女性教員は慌てた様子のまま、学園長であるリグラのもとに駆けつけてきた。
「どうかしましたか?」
「ハァハァハァハァ……あ、あの、ゴホッ!」
「随分息があがっとるのぉ。とりあえず呼吸を整えたらどうじゃ?」
リグラの側にはガーデニアンも一緒にいた。
どうやら予選会を一緒に見て回っていたようだ。
「ゴホっ、す、すみません……」
そしてガーデニアンに促された女性教員は一度呼吸を整えて直して、落ち着いた様子でリグラに向き合い口を開いた。
「先ほど女子更衣室に入った生徒から連絡があって、部屋で女子生徒が倒れていたそうなんです」
「なんじゃとっ!?」
「……」
教員からの言葉にサングラス越しに目を見開くガーデニアンと、その隣で真剣な表情で沈黙するリグラ。
「いったいどういうことなのじゃ!?」
「わ、私も詳しくは分からないのですが、駆けつけた教員の話ではその女子生徒に目立った外傷はなく気絶しているだけのようです……ただ」
「ただ……なんです?」
何か言いにくそうにする教員の口を開かせるようにリグラが話を続けさせる。
「その生徒、どうやら制服を盗まれたようで……他にも武器類が紛失して」
「……」
言いづらそうにしながら口にしていく情報をリグラは再び黙り込んで耳に入れいく。
「それでその生徒の名は?」
沈黙するリグラに変わりガーデニアンが教員に聞く。
一応、名ぐらいは聞いておきたいのだろう。
そしてガーデニアンに聞かれた教員は特に慌てず、連絡の際聞いた名を口にする。
「二年のミルル・カルマラです」
「……」
そうしてリグラは教員の情報を聞いてしばし塾考した後。
ふと懐から封を破れている手紙を取り出す。
封が破れていることから一度は読んでいるようだ。
「……なるほど」
再度読み直すリグラはなにか分かったような、楽しげな笑みを浮かべていた。
しばらくして手紙をしまうと、教員に向かって待機するよう指示して、リグラはガーデニアンと共に移動していった。
「ん? ああゴメン、ちょっとボーとしてたわ」
訝しげなリナに謝罪しながら苦笑するジーク。
そんな彼に不思議そうな顔したリナであったが、聞きたいことが他にあったので話を切り出した。
「前に話したカリアさんだけど…………なにかした? 最近すごく暗いんだけど」
「ん? あ、ああ新聞部の子か」
サナの戦いが終わりに近づく中、リナそんな質問をしだした。
あげられた名に首を傾げるジークだが、すぐに先日の話で情報を漏らした子だと思い出した。
「はははっ、心配ないよ。ちょっと知り合いの人にお説教されたらしいから」
「お、お説教?」
「ま、まあね」
必死に爆笑するのを堪えるジークを見て、呆然とするリナ。
あまりにも予想外の反応であったので、どうリアクションを取ればいいのか分からないのだ。
「なんで、笑うの堪えてるの?」
「ぅ、ちょっ、ちょっとね」
思い出しただけで吹き出しそうになる。
あのあと、時間が空いてるところ狙ってジークはギルドに赴きカリア・ネイルの姉であるキリア・ネイルに話をしたのだ。
クルドル・バイソンの情報漏れはその件を知るジーク以外の二人の内の一人──────キリアからであったのだ。
『すみません! すみません!  ────本当にすみませんでした!! 』
もう土下座の勢いでジークに謝罪するキリアであった。
シャリアもジークも唖然として固まる中、何度も何度も謝り続けた。
どうやらバイソンに関する情報資料をギルド職員達にバレないように整理する為、自宅に持ち帰り整理していた時に隙を見計らって見られてしまったらしい。
キリア曰く、新聞部に所属するだけあって、相当の無茶が過ぎて好奇心溢れる妹なのだ。
情報を盗み見て、流した罪は大きいが、流した相手がリナだけであったこともあり、今回はキリアが責任を取ってカリアを叱りつけることで丸く収めることとなったのだが……。
今回の件で相当激怒したキリアが泣き叫ぶ妹のお尻を何度もペンペンと叩きつけたらしいのだ。
これについては上司としてその場に居合わせていたシャリアが、苦笑いで説明していたので事実なのだと知った時はつい爆笑してしまったジーク。
今でも思い出してしまうと笑いがこみ上げてしまうジークは必死に堪えようとしているのだ。
流石の彼でも尻叩きは予想外だったのだ。
「とにかく、その子ならしばらくしたら調子が戻ると思うから、またやらかさないか見張っといてくれ」
「わ、わかった」
どうも腑に落ちないリナであったが、彼の顔を見てなんとなく大丈夫なんだろうと感じ取ったのだ。
そして、そうこう会話を進めていると。
「実は他にも気になってたことがあるんだけど、いい?」
「ん? 答えれる範囲ならな」
どうやら他にも聞きたいことがあるリナ。
ジークが特に拒否を示してないのを確認して、あの日聞こうとした質問をしてみることにした。
「あの時は聞きそびれたんだけど、アリスさんが襲われた件で気になることがあって」
「気になること?」
まさか襲ってきた相手についてそれとなく知りたいのかと疑うが、彼女の表情を見るとどうも違うようだと気づく。
不思議そうに首をかしげるジークにリナも、不思議そうな表情をして口を開いた。
「その……例のあの人がアリスさんを襲ったことなんだけど──────なんでアリスさんを襲ったのかな?」
本当になぜなのかと、理解出来てないといった顔でジークに質問してきたリナ。
「え、……なんで、って……」
リナの質問に少しばかり困惑した顔で見返すジーク。
アイリスを襲った物の名はクルドル・バイソン。
《黒蛇》と呼ばれて、かつてはジークと同じようにエリューシオン側として大戦に参加した者であったが、途中で国を裏切り……さらに当時シルバーであったジークの逆鱗に触れるようなことを仕出かした愚か者である。
結局、何年も逃げ続けることとなったバイソン。
そんな彼がなぜアイリスを襲ったのか……リナに質問されてジークは困惑するも、以前推察した内容をリナに伝えた。
「奴は各国から指名手配されてた。それにあの頃は街で人が襲われる事件が少々あったからなぁ。たぶん身の保証のために令嬢ぽい人を襲って誘拐するつもりだったんだろう」
─────持ってる物を確かめれば貴族かどうか、判断もつくと思うしな、と付け加える。
そして偶然街でアイリスを見かけたバイソンが彼女をどこかの貴族の令嬢だと思って襲いかかった。
ジークはそう推測したのだ。
だが、そんなジークの推察を聞いてもリナの表情に浮かんでいた疑問は消えなかった。
「そうかなぁ? なんだかカリアさんの話を聞くとちょっと違う気がするんだけど……」
「違う? 何が?」
何が違うのかよく分からず聞き返すジークにリナは表情を変えないまま答えてみせた。
「いや、カリアさんからの話だと、確かにその頃先輩が言ったようにそういう噂が出てたんだけど……少しだけ変なんだよ」
そこまで言うと一度視線をジークから逸らして、再度躊躇いがちに視線を合わせて口を開いた。
「なんか襲われてる人、実は女性だけだったらしく、気になってついでに調査したみたい」
好奇心溢れる子だとキリアから聞いていたジークはさして驚かなかった。
むしろまだ学生である身分であるのに、そこまで踏み込めれる度胸に少なからず賞賛の意を送りたくなった。
「凄いなその子。学外でそこまで……」
だけどそれだけキリアが苦労しているのだと思うと……ジークは苦笑を禁じ得なかった。
「で、でねっ? その結果、襲われた女性達には幾つか共通点があったようで」
「共通点が……?」
彼の苦笑にリナも多少言葉が濁す中、ジークは彼女が知っている共通点とは何なのか、気になって彼女の言葉に耳を傾ける。
すると、彼女の口から───────恐ろしい言葉が告げられた。
「その女性たちの髪と瞳が…………アリスさんと似た感じの薄い水色髪の蒼眼だったそうなの」
「────ッ!?」
彼女の言葉を聞き、驚愕の顔をするジーク。
だが、リナはそんなジークの様子に気付かずにどんどん疑問を口にしていく。
「他にも年がみんな結構近いみたいで、顔立ちもよく見ると似ていて……その全員がアリスさんに似てるってカリアさんが」
(ま、…………まさか……ッ!?)
その時、ジークは脳裏の中でアイリス髪と瞳と同じである。
とある少女の姿が脳裏によぎった。
「ジーク先輩、これって偶然で片付けて大丈夫なのかな? なんだかボク凄く嫌な感じがする」
「……」
ジークは答えられなかった。
リナの疑問に対して、返事をする余裕が彼にはなかったのだ。
(まさか……それが狙いだったのか!?)
彼は思考回路全開に回して、ある可能性に視野に入れて黙考するのだった。
◇◇◇
ジークとリナが会話をしている中、予選会場に一人の女性が駆け出していた。
「た、大変です! 学園長っ!!」
その女性教員は慌てた様子のまま、学園長であるリグラのもとに駆けつけてきた。
「どうかしましたか?」
「ハァハァハァハァ……あ、あの、ゴホッ!」
「随分息があがっとるのぉ。とりあえず呼吸を整えたらどうじゃ?」
リグラの側にはガーデニアンも一緒にいた。
どうやら予選会を一緒に見て回っていたようだ。
「ゴホっ、す、すみません……」
そしてガーデニアンに促された女性教員は一度呼吸を整えて直して、落ち着いた様子でリグラに向き合い口を開いた。
「先ほど女子更衣室に入った生徒から連絡があって、部屋で女子生徒が倒れていたそうなんです」
「なんじゃとっ!?」
「……」
教員からの言葉にサングラス越しに目を見開くガーデニアンと、その隣で真剣な表情で沈黙するリグラ。
「いったいどういうことなのじゃ!?」
「わ、私も詳しくは分からないのですが、駆けつけた教員の話ではその女子生徒に目立った外傷はなく気絶しているだけのようです……ただ」
「ただ……なんです?」
何か言いにくそうにする教員の口を開かせるようにリグラが話を続けさせる。
「その生徒、どうやら制服を盗まれたようで……他にも武器類が紛失して」
「……」
言いづらそうにしながら口にしていく情報をリグラは再び黙り込んで耳に入れいく。
「それでその生徒の名は?」
沈黙するリグラに変わりガーデニアンが教員に聞く。
一応、名ぐらいは聞いておきたいのだろう。
そしてガーデニアンに聞かれた教員は特に慌てず、連絡の際聞いた名を口にする。
「二年のミルル・カルマラです」
「……」
そうしてリグラは教員の情報を聞いてしばし塾考した後。
ふと懐から封を破れている手紙を取り出す。
封が破れていることから一度は読んでいるようだ。
「……なるほど」
再度読み直すリグラはなにか分かったような、楽しげな笑みを浮かべていた。
しばらくして手紙をしまうと、教員に向かって待機するよう指示して、リグラはガーデニアンと共に移動していった。
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