オリジナルマスター

ルド@

第7話 悪寒。

「それにしても、ちょっとやり過ぎじゃなかったの?」
「トオルか?」

話題を変えようとしたミルルは不意につい先刻行われた、ジークとトオルとの試合について、ジークに問いただしてみた。

いくら大事な試合だったとはいえ、友人相手に過剰な攻撃であったのではと言いたいのである。

「ちょっとトオル君の様子がおかしかったけど、もしかしてそれとなにか関係があったの?」
「あ、あ〜アレはな……」

ミルルからの的確な質問に言葉を濁してしまうジーク。
トオルと一戦、あれはジークとして予想外の展開へと移まってしまった試合だった。

トオルが妖刀の力を使うこともジークにとっては予想外の行動であったが、それ以前にトオルと試合をするという展開自体が、彼にとって一番のイレギュラーだった。

(でもま、あれは確かにやり過ぎな気もしたがな)

そうして振り返る。トオルとの戦いを。

『ケケケケっ! チッ、アアア────!!!』
『っ、シッ!』

途中まではジークから見ても、良い勝負のように見えていたと思われる。
ジークの魔力の矢をトオルが妖刀の力で強化された肉体と剣技を駆使して、躱して切ったりしていた。

『っ───!』

変則性が増したその剣技とスピード。魔力を封じた状態でもトオルは十分強かった。
だが、部分的にでも体を強化してあったためジークでも躱すことは難しくなかった。

『『零の透矢ノーマル・ダーツ』!!』
『っ───グハっ!?』

徐々に慣れていたトオルの剣技に、ジークは隙を狙って魔力の矢を何発か命中させてみせた。

それによって動きが乱れたトオルにさらに殴る蹴るなどして、一気に終わらせようとしたジークであったが。

『ぐっ、が、がぁぁああああ!!!』
『トオル!?』

ジークの攻撃で意識が乱れたのか、或いは刺激を与えてしまったのか。


──────妖刀からこれまで以上の大量の妖気が溢れ出たのだ。


『あ、あ、アアアアアアっ──────!?』


(あ、やめよ。これ以上はキツイわ)

そこからはもう思い出したくないと、首を振って脳裏の映像を切るジーク。
暴走状態に入ったトオルはあろうことか、外野で見ていた他の生徒達に攻撃をしかけようとしたので……。

ジークは妖気で暴れるトオルを死なない程度にボコボコにしたのだった。

(うっ、少し思い出してしまった……。自分がやったことなのに)

そんなことを心の中で呟いていると、ミルルの方が話を進めてきた。

「それにジーク君って一年の頃から、何故かトオル君と戦うのは強く避けてたよね?」
「まあ……な」

それにも理由はあった。
単純に周囲に手の内を見せたくなったことと。
そしてトオルという一人の人間に対して、ヘタに刺激をしたくなかったこと。

妖刀持ちであるのは気づいていたので、刺激して襲い掛かられるのを危惧していたのだ。

「私はてっきり棄権すると思ってた。そしたらあんなに暴れて……どうして?」
「それもまあ、いろいろとな……」

歯切れの悪いジークにミルルはやはり何かあるのだと察したが。

「アレぐらいやらないと大変だったんだよ。それに相手も満足そうだったし」
「にしてもやっぱやり過ぎだよ……」

そうして適当にはぐらかされてるのは薄々分かったが、さらに何か言おうとする先にジークの方から話を切り出してきた。

「そういうお前はどうなんだ? 試合出てるんだろ?」

といっても試合関連の話に変わりはないが。
ジークは頬張るようにパンを食してから、ミルルにそう質問したのだ。

「ん〜〜まぁねっ!」

それに対しミルルの様子はどこか得意げな表情をして、ジークの方を横目でチラ見していた。

「このままいくと、あと二試合ぐらい先でジーク君と当たりそうだね?」

何故か嬉しげな表情をして、ジークに聞いてくるサナ。

「そうなのか?」

そんな嬉しげなミルルとは違い、ジークの方はどうでも良さげな表情で首かしげて見せた。

「なんで不思議そうに首を傾げるの? 対戦表は見てないの?」
「あったらトオルとの試合が始まる前に棄権を考えちゃうさ。……貰ったんだけど失くした」

不思議そうに聞いてくるミルルにジークはなんでもない風に言ってのける。

本当に興味がないのだろう。
なんにせ相手は友人とはいえ学生、トオルと違って危険な力も隠してる気配も感じられない・・・・・・

(まあ、軽く転がせれば終わりだな)

友人と戦うのに少々躊躇ってしまうジークであるが、トオルと戦うことに比べればと思うと、それほど苦でもないのが本音であった。

「あ〜っ! その顔、私なんて簡単に倒せれると思ってるんでしょう!」
「そんなことないって」

こればかりは表情には出せないと真面目な顔で取り繕うとするジーク。

「真剣な顔が胡散臭い」

かえって逆効果だったようだ。
ジト目で睨まれてしまうジーク。

「……ははは」

ジト目で睨まれてしまいつい苦笑顔で誤魔化してしまった。

「───ははははは」

しばらくするとミルルの方も笑い出した。
また怒鳴り散らされると思っていたジークは、彼女の反応を見て安堵の気持ちになりかけたが。




「はははは────を隠してるのはあなただけじゃないんだよ? ─────ジーク君?」


笑みが薄い笑みと変わり口にしたミルルの言葉に、背筋に強烈な悪寒を覚えてしまうジーク。


「は、ははは……」


────こりゃあ、あとが大変だろうなぁと。

ジークは冷や汗を額に流しながら、また自分がやらかしてしまったんだなと、情けなく肩を落としてしまうのであった。


◇◇◇


「ガーデニアン先生」
「ん、スカルスか」

昼食終え逃げるように食堂を出たジークはトオルの件でガーデニアンに会うことにしてた。

「ミヤモトの話か、答えは出たか?」
「まあ、そうですね。────俺は別にいいと思いますよ?」


───妖刀を使用したトオルの処分はなし。

それがジークの答えであった。


「確かに暴走して大変でしたが、まあ、いいかなって」
「そうか……」
「トオルの奴だってバカじゃないんですから、流石に二度はないと思いますし」

ジークの言葉に賛同するように頷くガーデニアン。
彼の言う通り、トオルという学生が二度も禁止指定を破るとは考えにくいと

口にしなかったが、ジークはあの時の暴走がトオル自身の所為だけはないとわかっていた。

トオルの刀である妖刀は分かってしまったのだとジークは予想した。


目の前の相手が主人が待ちに待った──────斬るべき宿敵であるということを。


「おや、ガーデニアン先生ですか?」


と、そこへ。

「ぬ?」
「?」
「そちらにいるのは……、二年のスカルス君ですか」

男性教員と思われるスーツ姿の濃い茶髪色の男性が、ガーデニアン、そしてジークを見ると。

「少し、私も会話に混ざってもよろしいですかな?」

小さく口元に微笑みを作り、ジーク達に尋ねてきた。


そんな中、ジークはこの教員の登場に、自身の警戒レベルを何段階か一気に引き上げ出したのだ。


(まさか、この人から話しかけられるとはね)


ジークが密かに警戒するその教員、彼の名はリグラ・ガンダール。


「話すのは久しぶりですね、スカルス君」
「お久しぶりです、学園長」


この学園の学園長であり。

ガーデニアンに続く、ジークが警戒している、要注意人物でもあるのだ。

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