オリジナルマスター

ルド@

第1話 看破。

「それでは試合─────始めっ!!」
「オ───ラァアアアア!!!」
「……(始まった)」

とうとう始まった。予選会の出場資格を得るための模擬試合。
ガーデニアンが強引に予選会のトーナメント入れたにも関わらず、こうして出場資格を賭けた試合をする羽目となったジーク。
最初は多少文句を口にしたくはなったが、これも得るための試練だと、諦めて試合を行うことになった。

「シネェエエエエ!!」

相手は三年の先輩であるが、ジークも特に気にせず相手をすることにした。……相手の方は、何か因縁のようなものがある口ぶりをしていたが。

迫り来る相手を目の前にして、ジーク意識は、自身体内に宿る魔力へと移っていた。

その直後、相手が強化された腕を振り上げ、自分へ向かって殴りかかろうとしていたが。

(魔力解放。───魔力掌握エリア生成)

ジークは特に防御も回避も取ろうとせず、身に宿る魔力を自分を中心に放出して、敵を覆うくらいの魔力の空間を作り上げた。

「───!?」

ジークの魔力に覆われたところで、拳を振り下ろした相手の顔に違和感の色が見えた。だが、それが何か理解する前に─────

(──────『部分強化・加速アクセル』────『砕骨サイコツ』ッ)

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ部分強化で一部体を動きを速くしたジーク。

「───ギャふンッ!?」

次の瞬間、目のにも止まらぬ速さで、振り下ろそうとした相手の溝辺りをめがけて、魔力が込められたボディーブローを決めた。
決められた相手は、その勢いのまま吹き飛ばされ場外へと追い出されたのであった。


◇◇◇


「まあ……こんなもんかなぁ?」

審判を含め呆然とする周囲の視線を無視して拳を見下ろしながら呟くジーク。
一瞬で決めるために行った一連の動作、それを脳裏で巻き戻し自己評価を済ます。

ジークが考えた策。
その一つが無事に成功したことにまず安堵し、次に反省に入ることにした。

(自作の魔力無効化エリア。思った以上に使えたな)

安全に対戦相手を沈黙させる策がうまくいったと、僅かに嬉しそうな笑みを浮かべる。

先ほどジークが行った策とは─────踏み込んできた相手の魔力を一時的に無効化して、その一瞬だけ無防備となったところをさっさと決めるカウンター作戦である。 

まず始めにジークがしたことは、自身の魔力で一定範囲まで覆い、その空間を掌握して自分以外の魔力を使用できなくすることであった。

自身の圧倒的な魔力で相手の魔力を押し潰す。

以前相手したダハクのオリジナル。魔力を無へと帰す『無力無価オーダー・キャンセル』をアイデアに、魔法式の無い文字通り力技の魔力無効化エリアを作り上げたのだ。

(まあ手に入れた『無力無価オーダー・キャンセル』を使えば簡単なんだけね。さすがにこんな公衆の面前で使うわけにはいかないな)

心の中で皮肉まじりに述べるジーク。結局ジークを仕留める鍵とはならなかったが、それでも一時的に苦しめられたのには変わりなかったのだ。

まさかその手を今度は自分が使っていると考えると、と複雑な心境のジークであった。
それにリスクもあった。ジークの魔力は、調整なしでそのまま外に放出するのは危険なのである。

(けど、今回の戦いじゃ、これがとても有効的だもんだ)

あの時はジークの魔法が無効にされてしまったが、今回相手にするのは学生である。
ダハクの魔力操作技術は、大体Sランクに近いものであった。なので破るとなると、ダハククラスの魔力操作技術か、或いはジークの魔力を掻き消すほどの魔力所持者でもなければ、ほぼ破るのは不可能であるのだ。

仮に発動できても、威力、効果はほとんど発揮されないであろう。
魔力自体もとある魔法・・・・・によって、上手く相殺して加減が効いた状態で放出されている。

今後の予選会や大会でもこの手順で進めていけるであろうとジークは、この試合結果を見て手応えを感じた。

さらにジーク自身の魔力は異質で、感じ取るのはかなり難しく、高ランクの魔導師でも困難に近い。
出来る者でも正確には感じ取ることができず、寒気や身に降りかかる圧迫感などで見分けられることが多い。

(といっても、最近は感知できる人もいないけど)

冒険者になった最初の頃はそういった例によって、感覚的に感じ取れた者もいたが────時が流れ、すっかり変わりきってしまった今のジークではそれも難しいのであろう。



────つくづく厄介なモノを身に宿してしまったなぁと、ジークは試合エリアの外に向かいながら苦笑を浮かべた。


◇◇◇


「どうやら、ワシの目に狂いはなかったようじゃ」
「なんですか、いきなり」

ジークが試合エリアから出ると、いきなりガーデニアンに捕まってしまった。
次の試合はまだ先のようなので、自分の番がくるまで隠れようかジークは考えたが、この人のおかげで出場できるようになったようなものなので、今回は大人しく聞きに回ることにした。

「余裕だったのぅ」
「そうでもないですよ」
「そうかのう? 周囲の連中は、目を丸くしておるぞ?」
「え」

言われて周囲を見渡すジーク。


すると────

「オイ……見たか?」
「あ、ああ……た……ぶん? あれっ? 見えたのか?」

同学年と思われる男子達が今見た、というか見えたか分からない光景に目を疑っている。
近くにいる者に確認しているが、他の者達も同じようだ。

「え!? 何が起きたの!? 突然先輩が飛んでったッ!」
「どういうこと!? え、あの最低先輩が勝ったの?」

初等部の生徒や高等部の一年生であろう、今起きた出来事が信じられないのか、大きく目を見開いて会話を飛び交っていた。

(ていうか、初等部にも結構拡がっているんだね……)

その際、『最低男』、『最低先輩』、『女の敵』なども飛び交っていた事実に、地味に傷付いてしまったジークがいった。

「じょ、冗談だろうルータスっ!?」  
「あのクズをボコボコにして晒すんじゃなかったのかよ!?」
「風紀委員にやられた傷が響いたのかっ!?」
「役に立たねぇな!  こんなことならもっと他の奴に任せりゃよかったぜ!」

ジークを抹殺したくてしょうがない男子生徒達のなんとも言えない会話。

「……」

言葉が出ない。
決して学園内で好感を持たれてるとは微塵も感じてなかったジーク。
さらに実力に関しても、結構隠してたので少しは驚かれると思っていた。

だが

「まさかここまで騒ぎになるとは─────みたいな顔じゃのう」
「あ、アハハハ……」

ニヒル笑みを浮かべジークに言ってくる教師ガーデニアンに、ジークは苦い顔で目線を逸らすことしか出来ない。
さらに視線を巡らせると、確かに皆信じられないといった表情で歩いているジークを見ていた。

「……」

その視線の中には彼の知るものもあったが、ジークは特に気にしなかった。

「ぬしの彼女とその姉のほうも驚いとるようじゃぞ?」
「誰のことですか」
「ルールブ姉妹じゃ」
「……彼女じゃありません」

────せっかく意識しないようにしたのに。と先ほどよりも苦い顔してガーデニアンを睨むジーク。

(彼女達も彼女達だ。なんでそんなに驚くんだよ!? 疑ってたんじゃなかったのか!)

視線をガーデニアンから遠くにいるルールブ姉妹に向ける。視線に恨みを乗せるのも忘れずに。

「「っ!」」
(お、なんか効果あった)

その視線に何故か後退る二人に不思議に思ったが。

「ホホ、どうしたのかのぅ?」
「……」

(まずこっちが優先だ)

視線をガーデニアンに戻して、向き合うことにしたジーク。
ガーデニアンもあの噂について知っていたようだが、いちいち驚く気になれない。

(寧ろこういう人だったような。アイリスの時も結構鬱陶しかったし)

そう心の中で言って、ジークが少しばかり目の前の教師との嫌な思い出を振り返っていると。

「ふふふっ、まあいい。それにしても、さっきの試合は見事だった」

意外にも簡単に引き下がるガーデニアン。
代わりに先ほどの試合について語り出したのを見て、また別の苦い顔するジーク。

(ちょっと不味かったかな?)

ついつい自作技を試してみたくなり、相手の力量に合わせず早々に終わらせてしまったジーク。
なにせこれまで試した相手が魔物だけであったこともあり、ちゃんと出来るかどうか半信半疑であったのだ。

(っと、反省は後だ)

と、つい深く考え込みそうなるのを堪えると、ジークは反省に回していた思考を切り替え、ガーデニアンに向き直した。

「大したものだな」
「そりゃどうも」

ガーデニアンからの賞賛の言葉に小さく頷くジーク。返答も短めなのはヘタに口を滑らさない為であるのだが。

(普通の褒められてるだけなのに…………なんだろう? すっごい違和感があるよ!)

これも普段の行いのおかげ───というより、行いの悪さのおかげか……。
普通に賞賛を向けられてるのに対して、ジークは酷く不気味に思えてしかたなかった。

とここで、笑みを浮かべていたガーデニアンが、ふと真面目な顔となり小さな声で彼に言った。

「本当に大したものじゃよ。明らかに過剰とも思える程の抑制魔法を身体中に巻きあげた状態で戦ったんだからな」
「──っ!?」

───何故バレた!? ジークの心に激しく動揺が走る。
全く予想外の台詞に動揺しているのが、ガーデニアンに筒抜けであった。

「珍しいのぉ。ぬしが表情をそこまで表に出すとは」
「な……なにを」
「隠していたつもりであったようだが、ちょっと迂闊であったのぉ」
「っ」

確かにガーデニアンの言う通り、迂闊過ぎたかもしれない。だが、それでもジークにとって、ソレが看破されたのは、本当に想定外であったのだ。

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