オリジナルマスター

ルド@

第7話 いろんな対策。

「おいジーク」
「ん? なぁに?」

昼休みに入り、ジークが持参したパンを食べようしたところ、渋い顔で声を掛けて来たトオル。

「最近またやらかしたみたいだな?」
「やらかした?」
「惚けるな。ルールブの妹だ」

呆れ混じりに言うトオルを見て、ある程度予想していたジークは、話そうかどうか迷うが取り敢えず相槌を打つことにした。というか既にここまで広まってるということに対して、あのリナの行動力につい感心してしまっていた。

彼が休んでいた昨日のうちにあれやこれやと話を広がってしまっている。今朝の寮での場面は見られなかったが、登校中に複数の男子と女子に見られてた、とジークは苦笑する。

「あぁそれか」
「フォーカスの一件で懲りたと思ったが……。なに考えてるんだ?」

遺憾そうにが言うトオルを見て、ジークは軽く首を竦めてその疑問は最もだと思ってしまった。

トオルが言いたいのはつまり、三ヶ月前に学園でサナと並ぶ人気のあるアイリスと色々とやらかして、普通の男子なら間違いなく学園を出て行ってしまうほど酷い目に合わされているのに、また懲りずに女性関係でトラブルを、しかもあのサナの妹と。

トオルは目の前のバカが実はドMなのではと、先日出だした噂を聞いて疑いたくなった。

「アイリスは関係ないよ。それに今回も付き合ってるわけじゃないし」
「ほうー、じゃあなんでだ?」

これも以前と同じ、アイリスとの恋仲騒動が起きた時も飽くまで否定な姿勢を解こうとしなかったジーク。今回もという部分がやたら強調してあるのは気のせいではないだろう。

「相手はルールブの妹だ。まともな理由がないと痛い目みるのはお前だぞ?」

だからこそ、トオルもサナの妹との関係を否定するジークに追及しないと気が済まなかった。
曲がりなりにも友人が間違ったことを考えているかも知れない。もしそうなら正さねばならないとトオルは使命にも感情を出してジークの言葉に耳を傾けたのだが。

次のジークの言葉でそんな感情も消え失せて、無数の疑問符だけが脳裏に浮かんでしまう。

「まぁ色々あってなぁ〜。サナに妹さんの側にいるように頼まれたのが事の発端かなぁ。……あはははっ」
「……マジか?」
「えらくマジだぁ」
「何故楽しげに言う」

といった風になって暫く質問ばかりしてくるトオルに対して、曖昧に楽しげに言葉を交わすジークである。どちらにしろギルドやサナから聞いたルールブ家の問題については話す気がなかったので、詳しいことは一切語らなかった。

だが───。

「けど気をつけろよ。ルールブの姉妹はどっちも学園で人気が高いんだ。この噂もまだ出始めたばかりみたいだが」

トオルが危惧しているのはもう一つあるが、寧ろこっちがメインなのだろうとジークは苦笑気味になり、意見を聞いた。

「やっぱマズイか?」
「マズイだろう」
「付き合ってるわけじゃないぞ?」

何やら彼氏彼女みたいな話に発展してしまったようだが、ジークとしてはこの部分についてはなんとか晴らしたいと思っている。……が、だがトオルの渋い顔を見てそれは容易ではないと予想した。

「付き合ってなくても、初等部のお姫様と一緒にいりゃあ嫌でも目に付く。姉がアレだから当然下の子も人気があるし、そんな子の側で楽しげにしてたらクラスのアイドルが取られたと感じる。嫉妬深い初等部の男子に後輩好き年下好きの高等部の男子に一部の女子と姉のあいつと仲が良い奴ら、あとお前の事を知って嫌っている男女の連中……。数えたらキリがねぇが一種の軍隊みたいな絵図らが浮かぶぞ。そいつらが揃って手を組んで一斉にお前を仕留めようと────」
「わ、わかったわかったっ! もういい! もういいからっ!」

周囲から感じる殺気、それがいつもよりも鋭い気がしていたジークであったが、トオルの話を聞いてしまうと、さすがに冗談では流せない事態が起きてしまう予感を肌に感じてしまった。

(なんか胃が痛くなってきた)

以前はサナを筆頭として高等部の連中がジークをリンチにも似た行為で追い詰めてきたが、今回はそのサナの妹がジークの毒牙に、彼のあの件を知るの者なら無視する事など不可能であろう。

ジークとしても学園でそういったトラブルは御免であったが。

「でもまぁその件についてはちゃんと断ったし、妹さんの方は無視すれば済むから大丈夫だろう。……闇討ちには十分注意するが」
「闇討ち以外も気をつけた方が良い気もするが、まぁお前の問題だしな、オレもこれ以上は言わねぇよ」

どこか納得がいかないトオルであったが、こういう時のジークの側にいるとろくな事にならないことを一年前から知っていたので、仕方ないと呆れ顔でこれ以上は指摘せず、傍観を決め込もうと心の中で誓ったのであった。

(ま、なんだかんだで、さっさと逃げちまうとがコイツの得意分野なんだけどな)

────どっちにしてもジーク逃げ足の達人ならなんだかんだいって闇討ちも回避してしまうなぁと無意識に首肯したトオル。

決め手としてジークの逃げ足の疾さを信じているところをみると、トオルも十分アレな奴であるが、当の逃げ足を心の中で賞賛されていたジークはそんな彼に気づくことはなく、ずっとぼんやりした状態で窓の方から眠りを誘いそうな青空を眺めるだけであった。


◇◇◇


「さて、行きますか」

授業も終わり、夕方に差し掛かる空を眺めた後、ジークは学園を出て廊下を歩いていた。

「ハァ〜面倒ですなぁ〜」

ガーデニアンの話では予選会は明後日から始まるらしいので、ジークはそれまでに戦い易い手札を増やしておこうと、さっさと寮に戻って対策を練ろうとしていた。

「それにしても、今日は静かだったなぁサナは」

もうリナとジークの話は学園中に広まっている。いつものサナであれば、噂の切れ端でも掴めば一目散にジークに問い質しに、ついでにボコりに来るはずであったが、教室に一緒にいてもなにも言わず、ジークと視線すら合わせず、ただ普通に授業を終えて帰って行った。

「なにも無すぎてかえって怖い。あの女がなにも言わない? 制裁もなし? 明日は破滅の日か?」

と、いくら考えても理解出来なかったジークは、とくに深く考えることもなく、歩みを続ける。

「まあどうせ下らん理由だろう、たぶん。リナに何か言ったみたいだし、俺が相手にしなければ良いだけだな」

そうまとめた時には校舎の外に出ており、ジークは歩みを寮に続く道へ足を進める。

「……もう学園生活も終わりかなぁ。よく一年も保ったもんかな?」

そう呟くジーク。彼としては退学になって本当に構わないと考えてる。目的というわけでもなく、正直その後どうなっても特に困らない。

それにジョドについてもそうだ。ジークが一番バレると困るのは自分がシルバーであること。シルバーのことさえバレなければ、最悪ジョドが自分だと気づかれてもそれも大した問題ではない。それだけシルバーの名は彼には重い。

──だから出場することに一切迷いがなかった。目的、彼の一番の目的を果たす為に。彼はそれ以外の問題を無視してでもやり遂げようと動く。


──そして学園に入った理由は。

「……ただの気まぐれだ」

吐き捨てるように呟くとジークは早歩きで寮へと急いだ。


◇◇◇


───が、その時背後から声が掛かった。

「おい、ちょっと待ちな」
「ん? ……んっ?」

背後から野太い声が聞こえたと思ったら、気がつけば周囲に男子生徒ばかりが集まっていた。数にして約二十人ほど。

「え?」
「ちょっと話良いか?」

また野太い声が聞こえ、声のする方へ視線を向けると、そこには野太い声にあったデカい図体にスキンヘッドの不良のような制服の着方をした男子生徒がいた。制服についているネクタイの色からして恐らく三年だとジークは予想したが。

(ちょっと待って、ちょうだいな)

それよりもジークは考えないといけないことがあった。たらりと汗を流して心中で整理を始める。

(いつの間にこんなに人が、ていうか気づけなかったのか? いや、脅威と認識出来なくて自然に無視していた?)

特に強烈な殺気もなく危険な魔力も感じなかったジークは、今の状況よりもさっきまでの自分に自問自答していた。どうやらいつもの危険な魔物や人間を相手にしてきたので警戒する境界線を高くし過ぎていたようだとジークは推測して反省した。


こんな危険な状況の中で平然と。

(……あれ? もしかしてこれって────闇討ち?)

そしてしばらくして、やっと自分の今の状況に気づくジーク。
あまりの警戒心の無さにジークはマヌケにも危機に瀕してしまった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品