オリジナルマスター

ルド@

第4話 練習と再会。

「さてと」

目を瞑ると体内魔力の流れを感じ取りながら、落ち着いて魔法を発現した。

「『神経伝達の加速インパルス』」

【雷属性】ランク外魔法『神経伝達の加速インパルス

脳内神経や身体神経を雷系統のこの魔法で思考の促進・反射神経の加速させる魔法。

「……!」

魔法を発現したジークはその場で疾走して、目の前の林を駆け巡る。

「っ!」

立ち塞がる林を左右どちらか、あるいは飛ぶなどして躱して走るとペースを落とさず駆け進む。

「……」

そして走り続けていると────目標をロックした。

『──!』

対する目標の相手も駆けて来ているジークに気付いて臨戦態勢へ入った。

「……シっ!」

しかし、臨戦態勢に入った相手のことなど気にせず、ジークはそこで更に加速して一気に相手の懐へと入った。

『──!』
「……!」

ジークが懐に入った瞬間、相手は右手を振り上げジークを地面へと叩きつけるつもりで振り下ろして来た。

(左から来る!)

迫り来る相手の右手を『神経伝達の加速インパルス』の効果で瞬間的に思考が加速していたジークの目には、遅く映っていた。

そして『神経伝達の加速インパルス』が加速させたのは思考だけでなく、ジークの身体、反射能力にも及んでいたのだ。

(もう少し、もう少し……────今だ)

思考回路が普段の倍以上に加速していたジークは限界ギリギリまで、相手の攻撃の接近を許たのち、躱せるギリギリのラインで相手の攻撃を紙一重で躱して退けた。

『──!?』

あの状態で避けられたことに驚きの声を出すが、すぐに追撃を開始した。まだ避けただけで近くにいるジークに迫り、今度は左右からの両手攻撃を繰り出す。

「っ」

一手、二手……三手、四手、左右から襲い掛かってくる攻撃をジークは加速した思考回路と反射神経でギリギリ躱して、すぐにくる追撃を考え必要最低限の動作だけで躱し切る。

『〜〜〜!』
「……っ」

───だが相手も粘る。追撃を止めず攻撃の手を休めず次々とジークに向けて攻撃を与え続ける。

(まだまだいける!)

───そして、ジークも加速状態を駆使して襲い掛かって、攻撃の数々を避けるため、必死の形相で相手の攻撃に視線を向け躱し続けた。


◇◇◇


『ハァ……ハァ……そ、そろそろ止めんか?』
「ハァ、ハァ……そうだな」

互いに粘ること一時間ほど、どちらが共なくと顔見合わせると苦笑を浮かべ構え解いたのである。


『本当に人間か? アレだけの攻撃を身体強化も使わず躱し切るとは……』
「使用した魔法のおかげさ。それがなかったらいくら俺でも……お前の攻撃なんて三手が限界だ」
『それでも三手か……。やはり人間のフリをした魔族か獣人族と言われた方が説得力があるぞ?』
「そうかな? 俺以外の人間も最初一手ぐらいは躱せれると思うけど……まあSランク並みの実力が必要だけど」

どうも自分が人外扱いを受けてることに異議を申したくなったが、話していくうちにやっぱり人外かと若干であるが、ショックを受けていた。

(いや、寧ろ人外の人外ではないか?)

Sランク以上となるともう人外クラスと呼べていいのでSSランク《超越者》と呼ばれているジークはその人外頂点と言って他ならないと思った。

『Sランクとなるとアレか? 《魔女》くらいの奴らのことか? あの《魔女》なら四手、五手だけでなく魔法でなんとかして退けそうだが……』
「あの人は別格だ。というかお前なら魔法もどうにかしてしまうと思うけど?」

そう口にするとジークはかの者の巨体を見上げ、苦笑気味の顔で視線を合わせた。

そこに居たのは、二メートルはあるであろう巨体を起こし二本足で立つ一体の猛獣、発せられる存在感には並々ならぬ気配を纏い見上げるジークをジト目(ジークにはそう見える)で見下ろしため息を吐いた。

『あのなぁジーク。幾らこの森の守護獣である我でもあの《魔女》攻撃を正面から受け切れる自信などないぞ。……まあ大抵の魔法はこの我が皮膚が受け切ってしまうが』

そう言うと手で自身の腹を撫でる猛獣。身体中毛むくじゃらでそれ見たジークは、少しだけモフモフしてみたいなぁーと感じたのはナイショである。

「確かに、魔法どころか武器類もはじき返しそうだ」
『ふふふっそうであろう?』

ジークが感心するように呟くと嬉しそうに笑みを浮かべる猛獣。
そうしているとジークは背を向け歩き出す。

『なんだ? もう帰るのかぁ?』
「授業があるから。面倒だけどそろそろ戻らないとな」

少し寂しげな声を出す猛獣。聞こえてくる声音にジークは困ったような顔して振り返る。

「そんな声で言うなよ。また休日に来るから、見張り番よろしくな、クー」

《魔境会》との騒動、そしてシャリアとキリアの依頼終了の話をしたその日、珍しくも早く起床したジークは、動きやすい服装に着替え、空間移動の魔法でとある個人修行場に来ていた。

そこは『森の道』にあるとある場所である。ジークが討伐依頼関係で来た際見つけたのだが、近くには川、林、岩など地形や環境が様々で偶に行う修行にはちょうど快適な場所だと判断した。

そして魔道具や特製魔法陣など駆使して、この一定空間を外部からバレないように風景を偽装し人払いの結界などを張って、更に認識を逸らす効果も付け加え完全に外部から隔絶された修業場を設けた。魔物などにも有効であるが、ジークの調整で呼び寄せることが出来た。

一応木で出来た別荘のような家もあるので、寝泊まりも可能という危険区である『森の道』にとって楽園とも呼べる場所であった。

先ほどまで戦っていた猛獣ことクーがジークが作ったこの修行場を管理している。この『森の道』のボスとも呼べる守護獣であったが、ジークが依頼関係で『森の道』で遭遇した際に戦闘になり敗れて以来、シャリア以外にジークの言うことも聞くようになった。

それ以前は《暴君》と呼ばれ【十一星】の《魔神級》クラスの超危険生物として扱われて来た。シャリアが誤魔化してなんとかしていたが。

この場所の管理と見張りを頼んでいたが、今回はジークが修業を兼ねてオリジナルの一つを実戦練習をしていた。

「それじゃもう行くよ」
『おー! こっちは任せておけ!』

去って行くジークに手を振っていく猛獣。そんな猛獣を見てまた苦笑を浮かべると心底不思議そうに呟く。

「それにしても本当にとんでもなく強いような。……見た目は普通のクマ・・なのに」



言い忘れていたが、クーこと守護獣は世にも珍しくもないクマである。クマと書いて熊のあのクマである。

一応付け加えておくが、この世界にクマは普通のクマであって魔物などのジャンルには含まれておらず、一般的な動物類としてカウントされている。

決して先ほどのようにジークとパンチ・フックなどの駆け引きのある格闘戦が出来るはずもなく、今のように手を振って挨拶するようなこともない。

それ以前に人と自然に会話を弾ませるクマはいない。

「何度考えても守護獣って答えだし。……マジでクマなのか? 実はクマの姿した霊獣系とかじゃないのか? ……クマの霊獣なんて聞いたことないけど」

出会い出会いだったので、正直あの存在を認めていいのかどうか、悩んだ日もあったほどであったが。

「帰るか」

汗をかいたのでシャワーが浴びたいと、疑問を放置したジークは空間移動の魔法を行使して帰って行った。


◇◇◇


「ふむ〜〜」

部屋に付いているシャワーでサッパリしたジークは、焼いたパンをかじりながら渋い顔で悩んでいた。

「思考が若干鈍ってる。反射能力を高め過ぎたか? 少し体が痛いな。最近接近戦が上手くいってないから『インパルス』を試してみたが、どうも難しい」

ジークが悩んでいたは、先ほどの修業で試した『神経伝達の加速インパルス』についてである。《七罪獣》や《魔境会》との接戦で何度か不覚を取ったので改善案として使ってみたが、結果は芳しくないものであった。

「もともと魔法一色で進めていくつもりだったから、体術系や剣術とかは後回しにしたかったけど、させてもらえなかったからな」

修業時代、満面なく鍛える方針であったジークの師匠は、仲間に頼んで剣術や体術など様々な分野を鍛えさせた。そのおかげで戦法が幅広くなったので一応感謝しているが、性格的に剣術や体術は気が進まなかった。……火力が過剰な魔法に悩まされてなければ選択肢に入れなかった筈だ。

「う〜〜ん、とりあえず『身体強化』とのコンボか魔法戦とかで使えそうだから、それで今後は対応を『ピンポーン』……ん?」

パンをかじりながら思案していた彼の耳に呼び鈴の音が……。
部屋に設置してあった呼び鈴が静かに鳴った。

───ピンポーン、ピンポーン

「まさか」

鳴る呼び鈴にジークは頰を引きらせ、同じクラス……といより昨日来た金髪巨乳娘を思い浮かべる。

───ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

そして鳴り響く呼び鈴は彼を急かすように部屋に響く。

「ハァー、しょうがないなぁ」

深く息を吐くとジークは残ったパンを食い切って、ドアの前へ───そして気付いた。


「……え」

自然に魔力を感知したジークはドア越しに相手があの金髪巨乳娘でないことに気づき。

そして、一体誰なのかも気付いてしまった。

「……」

幾分か眉を潜め思案するが、とりあえずドアを開けようと、……特に躊躇ためらわず部屋のドアを開けた。

ジークの視界に映ったのはサナに似た短めな金髪。低く背丈にあった慎ましやかな部位。学生服のスカートから出るスラーとした足。スレンダーと表現していい体型。

ザッ後輩女子とも呼べるが、同時に清廉さを醸し出した令嬢の印象もあった。
後者に関してはまず間違いなく見た目だけだとジークは否定する。

「おはようございます───先・輩」

金髪の女子は礼儀正しくお辞儀をして微笑を浮かべた。


◇◇◇


「初めまして……で良かったですか? ジーク・スカルス先輩?」
「まあ、初めましてでいいと思うかな? 何処ぞの金髪娘に似た短髪娘さん」

もし初対面であったのなら目があっちコッチに移ってしまいそうだが、既に見ていたのでそれほど動揺せず自然な感じで対応した。

しかし、それは悪手であった。これほどの可憐で清楚な印象のある女子がやって来たら、普通は動揺して多少は慌てふためいても可笑しくない筈が。

リナ・ルールブの企みや好奇、様々な感情に満ちた瞳に、彼は自然と感情を押し込めてしまった。

ジークは知らない間に奇妙な流へと巻き込まれていた。

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