オリジナルマスター

ルド@

第12話 虚無と原初。

───『螺旋の炎幕スパイラル・フレイム』が防がれた時からダハクという男が使った魔法について分析していた。

───『魔鏡面世界ミラーワールド』と『範囲指定移動エリアワープ』との応用技が破られた際、オリジナルということが判明して、推測してある仮説を立てた。


そして、今《《わざと》》ダハクの魔法で受けて隙だらけとなり、強烈な魔法のラッシュから火系統の中でも強力な『剛炎鉄槌ストロングパイロ・ハンマー』を受けた瞬間、ジークは小笑を浮かべ嬉しそうに呟いた。

「───やっぱりか・・・・・

推測が核心へと変わり、ボコボコにヤラレテルと言うのに、ジークは高笑いの衝動に駆られていた。




「……なんだ? いま、何を言った?」

どうやら聴こえたようで、勝利の笑みを浮かべかけたダハクの表情がひびが入ったかのように固まっている。本当に驚いてしまっているようで、口調から敬語が消えていた。

対してジークは、先程までの攻撃の衝撃で被っていたフードが取れ、変装魔法で作ったイケメン顔が露わになっていた。

「……!」
「ククククっ」
「何が可笑しい……!?」

ダハクの視界には真っ赤な髪と瞳をし、整った顔立ちをした青年が仰向けで大の字で寝転ぶ。何か楽しげにイヤラシイ笑みをダハクに見せ、小さくクククっと笑う姿が映っていた。

「いやぁ〜いやぁ〜の推測が当たってたもんだから嬉しくてな。予定外の相手エモノに出会えって本当にラッキーだよ」
「なにをっ!? 貴様、なにを言っている!?」
「あーチョットな。それよりソレがアンタのシラフか? さっきまでの気持ち悪さが消えて有り難いけどさ」
「───ッ!」

突如変化したジークの口調に目を白黒して驚くばかりのダハク。
そんなダハクの表情にジークは楽しげな眼で、見上げた状態で観察していると。

(さて、どう逆襲イジメてやろうかぁ)

と言っているようにダハクには見えた。
同時に薄らと背筋に悪寒が走った気がした。

「何故だ。オレが使用した火魔法は全部通ったハズだ! 回避どころか障壁も、間に合わなかったハズなのに……何故だ!?」

己の負を吐き棄てるようにダハクは寝転ぶジークに噛み付いてくる。
対してジークは、もうヤル気なんてないと言いたげな表情と声音で、ダハクを挑発するかのように笑みを向けた。

「なんで平気かって? そんなの簡単じゃないかぁ。……単に効かなかっただけさ」
「……は?」

ダハクには彼が今なにを言ったか、声は聞こえても頭の中で理解が出来てなかった。

「ど、どういう……意味だ? 効かないだと? そんなバカなことがッ」
「別に信じてもらわなくても良いよ。アッハハハハハハハッーー!」

楽しげに笑い上げた後、ジークは警戒の色を示すダハクを無視して、上半身を起き上がらせるとニヤリ顔で眺める。

「さてと……じゃあ、ここからは俺の時間だ」

余裕そうな声音でそう口にする。
途端ダハクはキッと目付きを鋭くして、先手を取ろうと動き出した。

「貴方の時間など……永遠に来ないわッ!」

掌をジークに向けそう宣言すると、ダハクは攻撃魔法を使用した。

「『眼前の敵を封じ』! 『押し潰しそして焼き尽くせ』! ───『炎岩の重圧フレイムロック・プレッシャー』ッ!」

【火属性】+【土属性】混合Aランク魔法『炎岩の重圧フレイムロック・プレッシャー

(ん、これは……)

突如体が重くなり、身動きが取り難くなったと思えば、全身が焼けるように熱く、そして乗し掛かられるような感覚がジークを襲う。

「フフフっ流石に厳しいようですねぇ?」
「……」

この魔法は【土属性】の『重力』と【火属性】の『熱』を合わせた攻撃と捕縛の魔法である。……さらに言うなら拷問系でもある。
かかる重力が原因か、見上げていたジークの顔が下を向き、表情がダハクから見えなくなってしまった。

「どうしました? 俯いたりして? さっきまでの威勢は何処に行きましたかな?」

それがダハクからはまるで怯えているようにも見えた。イヤラシそうな笑みを浮かべてダハクはジークに問い掛けた。

「……」
「ふんっ黙りですか」

炎岩の重圧フレイムロック・プレッシャー』の影響でジークが動けないと判断したダハクは、小者でも見るかのように見下ろした後、つまらなそうに鼻息を吐く。

(これで完全に身動きを封じた上、ジワジワと苦しめることも出来る。出来ればこのまま時間を掛けて苦しめてやりたいが、思いの外、魔法を使い過ぎた。これ以上のムダな魔力の消耗は避けたい)

今度こそジークを仕留めるつもりで、ダハクが誇る最高レベルの攻撃魔法を発動させる。

魔法を使い過ぎてダハクも余裕ではなかった。トドメのつもりで放った魔法やそれ以前に使用した高ランクの魔法の数々。既に全体の体内魔力の四割を使用してしまった。

これ以上の消耗は隙を突かれて逆転されるリスクがある。
なのでもう手など抜かないと、最大火力でジークを殺そうと渾身の魔力を込めた。

「死体からでも魔法は奪える。無理に捕らえずとも、死体だけ持ち帰れば事足りる!」
「……」

笑みが消え、ダハクの目線には冷たい殺意が込められている。
ジークは視線を合わせずとも感じ取った。

「じっくり痛ぶるのもここまでだ。……今度こそ終わりだ」

未だに座り込むようにして動きを封じられているジークへ、ダハクは今度こそ確実に殺すつもりで、溜め込んだ魔力を解放した。

「さらばだ若き冒険者ッ! 『炎紅に呑まれよ』───『超炎紅の大爆撃ハイエクス・プロージョン』ッ!!」

【火属性】Sランク魔法『超炎紅の大爆撃ハイエクス・プロージョン

火系統最高位の魔法の一つ。紅の巨大な爆炎が強烈な爆音と共に、座り込むジークを覆い尽くして─────

「────ムダだ」
「……なッ!?」

ダハクは、いま目の前で起きた現象に思考が停止しそうになる。
何が起きたか、もし簡潔に説明出来るとすれば…………逸らされたのだ・・・・・・・。ダハクが放った最強の魔法が。

「あ、ありえない。ありえないっ!」

巨大な爆炎がジークを包み込もうとしたが、その包もうとした瞬間、炎が突然大きく揺らぎ出した。
ジークの至近距離で止まり、彼を中心に何かに阻まれるように上下左右に逸れていった。

驚愕の顔で固まるダハクからは、見えない何かの障壁が全てを逸らしたかの見えた。

(まあ、こうなるか)

包まれる寸前で磁石の反発作用にも似た現象を、ジークは他人事のように見ていた。……自分が意図的に起こしたことだというのに。

そして、炎の行く手を阻んでいた見えない壁の正体は────ジークの『魔力層』。

普段は殆ど外部には出さず、自身の肉体とほぼ同じ形として、表面に貼り付ける纏わせるようにして利用している『魔力層』。
自然に纏わせていた『魔力層』を障壁代わりとして、目に見えない球体の形で自分を守るように包ませていた。

因みに最初のラッシュ攻撃とフィニッシュ技で無傷であったのも、コレのおかげ。纏わせた『魔力層』が全ての魔力をはじき返し、受け付けなかった。本来はあり得ないことであるが。

鬱陶うっとおしい炎だ。……ジャマだ」

逸れて流れるように通過する炎を手で軽く触る。
すると触れた箇所の炎が煙だし、煙は炎の全体まで行き届く。文字通り煙のように消えていった。

「ま、まさか貴様も魔法無効のオリジナル……!?」
「ん、違うけど、教える気はないな」

それまで座り込んだままでいたが、ようやく起き上がる。若干凝ってしまった体を解すように背筋を伸ばし体を反らす。

いつの間には彼を拘束していた『炎岩の重圧フレイムロック・プレッシャー』が消えていた。

「あー……やっと動けるわ」
「く、く……!」

コキコキと首を鳴らす彼に警戒姿勢のダハク。なにせ先程の魔法の影響で、体内魔力が遂に半分以下の三割弱まで落ちてしまっている。こうなるともう残された手は……。

(い、いや! まだ手はある!)

ふと自分の胸元の内側ポケットにある物に意識を向ける。────猛毒が仕込まれたナイフ、『魔道具』である。

(また『無力無価オーダー・キャンセル』で隙を作って、隠しているコレでかすり傷さえ付ければ逆転出来る!)

強力な猛毒であり、例えSランクの冒険者であっても掠っただけで致命傷になりかねないレベルだ。大抵の高ランクの冒険者は毒耐性を付けている者が多いが、この毒であれば確実に倒せる筈だと、震えながらダハクは勝利の笑みを溢しかけたが……。

(……だ、だが、本当にこれで行けるのか? 魔法が一切効かない、あの化け物相手に)

だが、脳内でいくら打開案を模索しても、他の手が思い付かない。魔力不足以前に魔法が効かない時点で、こちらが圧倒的に不利なのだ。果たしてこの冒険者に毒がしっかり効くのかどうか。

(ど、どうすれば……)

……そう行き着いて直前で悩んでしまうダハクに対して、ジークは冷えた笑みを浮かべて、考えを遮るように告げた。

「あ〜そう身構えなくてもいいぞ?」
「っ!」

つい考え込んでしまったのをジークに気づかれたが、おかしなことに彼は攻撃をして来なかった。
訝し気に睨むダハクを前に、彼はただニコリと微笑みを向けた。

(わざわざ言って来たのか。今攻撃すれば終わっていたのに見逃したのか!)

間違いなく見逃された。その屈辱に顔が歪みかけるが、やはり年の功か先程までのような激情に駆られず、熱くなった頭を冷やし冷静なっていく中。

「だから構えなくていいって、言ってるんだ」

しっかり構えを取ろうとしたところで、またジークに言われる。
死角のはずであるが、まるで透けて見えているのか、若干呆れた目をしていた。

「なぜそう言う? 大人しく捕まる気にでもなったか?」

勿論そう考えているのなら、非常に有り難いと思い言うが、残念ながらジークの顔からは諦めの色は、全くと言っていいほど見えなかった。
だから口だけは落ち着いた風を装って、いつでも攻撃が出来るように心の刃を伏せていた。

「まあそうだな。申し訳ないけど捕まる気はないが、その前にアンタには賞賛の意を述べたかった。魔法無効……いや────無の定義を象徴とした【無属性】の派生【虚無属性・・・・】のオリジナル。使える人を見るのは三度目だが、いいものが見れた」

語り始めるジークにダハクは虚を突かれ、驚き顔で目が飛び出るかというほど見開く。額から大量の汗を流し出した。

「最初はただの魔法無効のオリジナルだと思ったが、実は魔法無効に似せた『虚無』による無への変化の魔法だ」
「な、なぜアレが『虚無』だと……」
「アンタもそれとなく、魔法無効を印象付けていたようだな。本当に無効化でさっきまでの現象がソレなら、効果は自分周囲、一定空間を範囲の魔法を無効にするってところだが、……俺はすぐその可能性を捨てた」

彼の声に迷いが一切なかったその言葉に、ダハクは必死に狼狽顔になるのを抑える。

「……どうして可能性が消えたんだ?」
「魔力感知とか不得意だろう」
「……何が言いたい?」

何か小馬鹿にするような言い方にイラつきを覚えると、ジークはため息を吐き淡々と言い切った。

「俺が核心を得たのは三回目の『虚無』の時、『身体強化』が無効化された時だ。────あの時『身体強化』の他にも『魔力探知』や変装魔法別の魔法を俺は自分に掛けていた」
「は、はぁ!?」

告げた途端、狼狽するダハクを見て、やはり気付いてなかったのかと呆れるジーク。同時にもうこれだけで説明は十分だと思うが、念の為補足しておこうと続けた。

「もし本当に無効なら『身体強化』以外も消されてるはず。まあ発動の度に一つしか消せないなら話は別だが、その狼狽振りを見るとその線は無いな」
「は、嵌めたと言うのか!?」
「自爆だろう。駆け引きがニガテな執事とか初めて見たわ」

もう小物にしか見えないと、両手をポキポキと鳴らしながら呆れの息を吐いていた。

恐らくダハクの【虚無属性】のオリジナルは、魔法を無へと変化す時に対象を認識してないと使えない。全てを無へと変えられば簡単だが、何かしらリスクがあると思われる。
もしジークが言ったように『魔力探知』などが得意であれば魔力の流れから最低でも『魔力探知』は見抜けた筈。

……例え感知が得意でも消せたのが『身体強化』と『魔力探知』だけな時点で分かったが。

───無効と似てるけど、そこにはやはり別とされている。

「まあいいわ。とりあえず……終わらそうか」

今度は彼がそう宣言すると、『身体強化』をかけ直して体を強化する。

「っ……だ、だが、まだ勝敗が決したわけではない! これがあれば十分逆転は可能だ!」

ダハクが吠えるようにそう言うと、懐から銀色のサバイバルナイフを取り出しジークに向けて構える。……恐らく毒だろうとジークは予想した。

「能力がバレたからといってなんだっ! 貴様が魔法を使えば私がそれを無へと帰せばいい!」

その隙にジークをナイフで切れば、その瞬間ダハクの勝利が確定する。……ダハクは『無力無価』が破れるとは全く考えていない。

ナイフを向けた瞬間、ジークの『物資簒奪シーフ』を発動。
男の手元にあったナイフを選択した途端、ナイフは男の手から離れて彼の元に飛んで手のひらに収まった。

「は?」

奪われたナイフを見て呆然とするダハク。あっさり切り札を奪われた現実を見て、鋭く研ぎ澄まされていた筈の意識があっさり揺らいでいしまった。

「あー」

若干申し訳ない気持ちなるジークは、手でナイフを回してながら男に告げる。

「まだ分からないのか? もうアンタの魔法の攻略法は見つけたぞ? 大体三通りほど」

三つも破る方法が見つかった。ジークが呆れた顔でダハクに言うと、ダハクは目を点にさせて構えたまま、固まってしまう。ここを狙えば普通に倒し切れるとジークは思ったが、さすがに可哀想になったので、最後の説明をする。 

「まず一つは、アンタの魔法は対象に出来るのは毎回一つか二つぐらいだろう? ならアンタの魔法発動が追いつかないほど、連続で魔法を発動して倒せばいい。

その場合家が崩壊してしまい、後始末でシャリアが泣きじゃくるのが目に浮かぶので遠慮したいが。

「二つめは魔法以外で倒す方法だ。魔法しか無に出来ないなら風とかの魔法で範囲外から武器とか岩とか飛ばして、物量で押し潰すという手があるが」

それやるとヘタしたら殺しかねないからコレも遠慮したい。

今挙げた二つともジークとしてはそれほど難しくない、現実味のある手段である。
一つは身に付けている『神隠し』を使えば瞬殺だ。
二つめの場合は闇系統か空間系で、異空間に収納している武器類を取り出して飛ばせばいいので、これも瞬殺だ。

三つめは────




「結局アンタでも消せない魔法・・・・・・で倒せば済む話だろう? こっちのオリジナル魔法が敗れたままとか嫌だしな」


軽い口調で言い終えると体内魔力を練り上げる。
茫然としてすっかり戦意を喪失したダハクには、ジークの魔力は特殊なので感知出来てなかった。


魔力を練り上げる中、両手で剣でも握るよう構える。

「──っ! い、いかんっ!」

直前でダハクが我に返って『無力無価オーダー・キャンセル』の発動態勢に入るが、ジークは気にしない。


「間に合おうが関係ない! このチカラにはあらゆる原初は無力っ!」
「そ、そんなことが……!?」


構えた状態でそのまま振り上げると、強化された体で力一杯振り下ろす。


その瞬間、彼が誇る一つ。
原初オリジナルが発現した。



「───『イクスカリバー・・・・・・』───」


ジークが呟くと同時に無転化魔法を使用したダハクだが、効果が見受けられず、その視界は一瞬で眩い光に染まり……。

「な、なんだ! この光は────」


魔法はダハクの意識を刈り取ったのであった。







この日、この街にルールブ姉妹を狙ってやって来た愚の者たちは、────《真赤の奇術師》と呼ばれる冒険者ジョドの手によって撃退された。




……色々と問題事を後回しにして。

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