オリジナルマスター

ルド@

第10話 捜索。

「……スカルスがヤ・ス・ミ・ダ・ト?」
「は、ハイっ!」

クラス委員長の男子が一限目の授業でやって来たガーデニアン先生の質問に怯えた様子で返事をしていた。首を何度も縦に振り、見ているクラスメイト達は同情の眼差しをして、黙したまま見守るようにして座っていた。

「お、の、れぇ……」

だが、そんな生徒たちの様子も視界に入らず、憤怒に顔を歪めたガーデニアンは地獄の底から漏れ出したかのような声で、今この場にいないジークサボり魔に向けて呪詛を吐き捨てていた。

「あのバカ者めぇ……!」
「ヒっ」

額に血管が浮き出るほど激情するガーデニアンにすっかり引け腰になってしまった男子生徒。……見守る者たちも額に冷や汗を流して憤怒のガーデニアンを恐る恐る伺う、とようやく自分に向けられている視線に気づいたかガーデニアンはハッとした表情をするや声をかけていた男子生徒の顔色を見て慌てて謝罪する。

「あ、いやスマンのう、もう座っていいぞ」
「ハィィィ! 失礼しましたぁッ!」

もう軽く涙目である。しかしそれはしょうがないのだ。なにせ目の前にいるクロイッツ・ガーデニアンから発せられる威圧的な殺気を他の生徒よりも受けてしまっているのだ。寧ろそのまま気絶しないだけマシと言えるであろう。(漏らし掛けてたがそこは内緒で)

「はぁーあやつめぇ、……仕方ない授業を始めるぞ」

結局本人がいない以上、不満を漏らしていてもしょうがない、とガーデニアンは思考を切り替え、生徒たちに向けて指導を始めた。

ジークの知り合いであるトオルは頭痛でも訴え出しかのように手を額に乗せ深くため息を吐き「何をやってんだあのバカは…」と呟いていたが、誰の耳にも届かず。

同じく知り合いのミルルも半笑い状態で憤怒していたガーデニアンを眺めた後、教室の窓の外を眺め、遠くを見つめ呆れたようにため息を吐いていた。

……そして、かつての友人であるサナ・ルールブは、

「……」

何か思案するように机の上に目線を固定したまま、ノートも取らず終始黙り込んでは考えごとをしていた。

「……よし決めた」

長い熟考の末、小さく頷き独り言でそう呟いたサナ。
……当然ガーデニアンにバレてしまって怒られたが、ジークに対する激情に比べたら、天と地ほどの差があるほどの優しいお叱りであった。


◇◇◇


「うん。バッチしだ」

お馴染みの『偽装変装《ハロウィンハロー》』は、もう定番である。
サナを寮から追い出した後、すぐさま変装魔法で冒険者ジョドに変わって、誰にもバレないように寮を出た。

その後、街中に入り人混みに紛れながらゆっくりと歩く。服装はいつものローブを深く被っていた。

(さて、ではまず────『魔力探知マジックサーチ』)

怪しまれないよう無詠唱で探知魔法を使用して周囲の魔力に意識を集中する。

使用した理由は当然、敵の居場所を探す為である。

シャリアやキリアからは、一週間はルールブ姉妹の護衛に集中して欲しいと言われていたが、ジークからすれば敵が一週間後に動こうが、明日動こうが、動かれる前に潰して仕舞った方がずっと楽だと感じた。

こうして学園をサボってまで、殲滅しようと行動を起こしていた。

(どこだ? それほど遠くでないはずだが)

周囲の魔力を掻き分け、遠くを意識するように探知の範囲を広げていく。

探しているのは敵の魔力ではない。いくらジークでもコレだけ人が入り汲んでいる街全体から特定の魔力を探知するのは不可能に近い。それこそ意識しなくても感じ取れる膨大な魔力や異質な魔力でない限り、短期間で見つけるのは困難であった。

だから探すのは敵の魔力ではなく、彼がよく知る魔力の方である。 

───彼の魔力だ。

(見つけた)

探知始めて数分が経った頃、探していた彼自身の魔力を少し離れた場所から感知することに成功した。

人混み中、周囲の魔力に搔き消えるのではないかと、心配になる程小さい魔力であるが、彼はそんな心配など一切せず、安堵の息を吐いて笑みを浮かべる。

「ふふん、ロリ変態を殴った時のマーキング。残ってて助かったわ」

そう。前回の接触の際、敵の一人に居場所が分かるマーキングを付けておいたのである。
最初の敵を殴り飛ばした時である。自身の魔力を打撃を加えた箇所に集中して、ジーク特製の魔法陣として付着させ流し込んだ。

これによって彼の魔力が敵に付着して残り続ける。魔法陣自体が壊れてないか、彼が解除しない限り、魔法陣は永遠に残り続ける。

ある意味呪いとも取れる特製の魔法陣である。

「……彼処か」

しばらく反応のある方を目指して歩くと、遂に目的地の敵の拠点と思われる建物を発見する。

場所は街中の住宅地にある一軒。思ったよりも大きい家であるが、恐らく雇い主である貴族が見繕ったのであろうと、ジークは予想した。
《七罪獣》の拠点もそうだったので、寧ろ暴れやすい環境で有難いと感じた。

「て言っても、やり過ぎるとシャリアから大目玉食らうだろうな」

前回の殲滅戦の騒ぎに駆けつけた憲兵や学園側の者から、ギルドの方に「いったい何をしているんだ!?」と詰問を受けたそうだ。

どちらもジークが最後に誤魔化し処理をしなかったのが原因であるが、バレてしまった為、今現在シャリアとキリアが対処という名の尻拭いをしている。流石にこれ以上のやり過ぎ行為は控えていきたのだが……。

「まあ、なるようになるか」

作り笑顔で誤魔化しているが、内心は「最悪の場合は責任者キルドマスターであるシャリアに押し付けよう!」と考えてはいたが、脳裏で友である金髪幼女の涙目+テンパり顔を想像して、少しは自重しようかなと苦笑いを浮かべて考え直したのは言うまでのなかった。


◇◇◇


その頃、《魔境会》の拠点である建物内。
《メッセンジャー》……ダハク・ラールが部下たちと一室に集まり、武器チェックや作戦資料を見直しながら会議をしていた。

「では、予定について確認を」
「はい、決行は二日後の夕方、対象であるサナ・ルールブを確保します」

《魔境会》は標的を妹から姉のサナに変更していた。
本来の予定では、妹を確保して人質として姉も捕らえて、二人を交渉材料に『原初の記録オリジナルメモリー』の手に入れようとしていた。

しかし、それは謎の冒険者の手によって阻まれてしまい、作戦を変更せざる負えなくなった。
邪魔者なら排除すれば済む話であるが、相手の力量は排除するには余りにも巨大。まともに対峙すれば、こちらの損失が大き過ぎるのは目に見えていた。

なので、第二の策として用意していた手段を行使して、標的を姉のサナ・ルールブに変更した。
──ただ、

「ですが、本当に誘いに乗るでしょうか? 妹が一度囚われかけたのですよ? さすがに警戒するのでは?」

部下たちの不安を代表として、一人がダハクに意見するが、そんな部下たちの不安も払い退けるように淡々と言いのける。

「その為に準備を進めていたのです。大丈夫です必ず彼女は来ます。それに上手くいけば妹君もこちら側に来て頂けるかもしれません。────皆さん、次は失敗出来ませんよ?」
「「「「ハッ」」」」

再確認を終え不安な表情が消えた部下たちを見回してダハクは深く頷く。
いざとなれば自分だけで標的の確保や例の冒険者の排除をするつもりでいたが、やはり使える手駒はあった方が彼としても有難い。

今回の依頼で彼が仕える大司教祖よりお借りした使い捨ての部下たちであるが、どうせ使い捨てるのならより有効利用して効率よく使い切るのが良いとダハクは判断していた。

(もしもの時の保険はあるに越してことはないですしね)

元傭兵であるダハクは、如何にして仕事より成功へ繋げるかを経験から導き出している。駒たちを操り敵の意表を突く策を、自分が撤退する際に何人壁に使わせるか、……思考を巡らしていたダハクが再度案を熟考していると。


──その者は突如現れた。

「その話私も詳しくお聞かせ頂きたいな。───薄暗い牢の中で」

部屋の内部全体に通るような、しかし大声ではなく、間近で喋ったかのような、どこまでも届く声音が彼らの耳に、薄い刃の如く届いた。

「──ッ」
「「「「────ッ!?!?」」」」

反応の早さは僅かに差があった。ダハクはすぐさま臨戦態勢に入るが、部下たちはやや遅れて慌てた様子で剣やナイフ、杖などを持ち周囲を見渡す。

部下たちの反応の遅さに舌打ちを打ちたくなったダハクだが、今は敵……聴き覚えのある声からダハクは敵の正体を早々に気づいてしまい、もう一度舌打ちをしたくなってしまった。

そんなダハクと部下たちにまた声が掛かる。

「此方ですよ」
「「「「──っ!」」」」
「……」

部下たちは今度は声のする方にダハクよりも早く振り向き息を呑み込むようにして驚きの声を上げるなか、ダハクは眉を顰め無言のまま、部下たちに遅れながらゆっくりと声のする方へと体を向けた。

彼は「我々はもう手遅れなのか?」と軽く青ざめてしまった。

「貴方は……」

正体は向ける前から分かっていた。だが、ダハクは自然と尋ねるように彼に呟くと、彼は……ジークは、ジョドの姿で笑みを浮かべると、彼らを見渡すような位置に着いていた。


「朝早くからすみません。……お礼をしに参りましたよ」


仰々しく一礼をし─────『無詠唱』を唱えた。

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