オリジナルマスター

ルド@

第1話 序章。

空間移動で現場に到着したジークが始めにおこなったのは、保護対象であるリナ・ルールブの安全確保だ。サナの妹と思われる女の子の側にいたロリコンの一人をまずぶっ飛ばした。

「どちら様でしょうか?」

そして、周囲を一瞥して燕尾服の《伝達者メッセンジャー》であろうロリコンのリーダーから問い掛けられる。わざわざ素直に答えるのもどうかと思ったが、倒れて混乱しているリナにも味方だと認識してもらおうと少し悩みながら口を開くが。

「誰って………ストーカーかなぁ(たぶん内容的に)」

「「「「「……」」」」」

「……」

「…‥あ、あれ?」

わりと正直に答えたつもりであったが、妙な沈黙の空気に包まれた。
部下と思われるフードを着た者達と燕尾服を着た男性の目が点となっている。何かマズイことでも口にしたというのか、地べたに伏せるリナまでも同じかそれ以上にギョッ!? とした顔で目を大きく見開いた状態で固まっていた。少なくともその目は味方を見るような目ではなく、変質者なのかと疑うような目であった。

(お、おお? なぜに君も戸惑っているのかなぁ? 俺一応味方だよ? 何その目は!?)

年下から疑いの視線に地味に辛くなる。思わず頭を抱えたくなるが、ここで退いたら男として何か負けた気がした。

(ここはこの整形顔イケメンスマイルで流すか!?)

女性の扱いに困ったらこれで流してしまえ。取り敢えず挨拶としてニコっと笑みを作って首を傾げてみた。一応今はイケメン顔なので使える物は有効利用しようと狙ってみたが。

「……(──サッ)」

「──(ガッシャーン!!)」

結果、見事に顔ごと逸らされてしまった。
拘束されて身動きが取り難い状態でも素早く。完全に拒絶された現実にジークは一瞬だけ声も出ない状態で、頭の中で心のガラスが砕けた音が聴こえた。

(お、思いっ切り視線を逸らされた……! 結構可愛いからショックが大きいっ!)

出会って早々好感度が激減した気がした。少しばかり隅っこに座り込んで心の傷を癒したい。……だが、それは一旦置いて、非常に不承不承であるが置いておいて、彼女の怪我などないか外傷をチェックした。

(見たところ外傷はないようだけど……うん)

「……?」

リナの容姿は、やはり年下なので結構小柄だ。ジークはそこまで意識していないが、同学年の中でもかなり小柄で男女問わず好かれそうな可憐な印象があった。
姉のサナと違い目付きも鋭くない。それ程大きくない僅かな膨らみ・・・・・・もチラリと見て姉とは正反対だと感じた。

ダガンの情報と一致する執事のような男がいるのでほぼ間違いないが、念の為に本人かどうか確認してみた。

「お嬢さんはリナ・ルールブさんで間違いありませんか?」

「は、はい、……あの、あなたは?」

「少しお待ちください。まずは──この変態ロリコン共を一掃して追い帰しますんで」

頷くと確かに返事をしたリナに微笑みながら、バッサリと挑発とも捉える毒舌発言で周囲を凍り付かせた。
そして、視線をズラして執事率いるロリコン集団に鋭い視線をぶつける。言われ放題で腹が立ったか大半の部下達が睨みつけていたが。

「では変態様方、一つ宜しいでしょう──?」

尋ねると同時にジークの存在感が急激に増した。
原因は先程まで感じなかった桁違いな彼の魔力が圧力となって表に出てきたからだ。

「「「「「──っっ!?!?」」」」」

「っ! ……ほう」

押し寄せてきた魔力の圧力。桁外れのデカさに絶句する部下達と感心するような執事の呟きが彼に耳に届くが特に気にはしない。噴き出した圧倒的な魔力の奔流がこの場にいる全ての者に対して牽制となっていた。

絶対的な魔力量を保有している彼だからこそ出来る芸当。しかし彼はこの手をあまり好んで使わない。大き過ぎる力はそれだけ大きなリスクも存在したのだが、今回はどうやら大丈夫なようだと平静を装いながら安堵した。

「……?」

唯一潰されそうな魔力の圧力を感じ取っていないリナだけは、突然狼狽して恐れる《魔境会》の者達を不思議そうな目で疑問符を浮かべていた。

しかし、敵が驚いたのは彼の常識外な魔力のデカさだけではない。

「これは驚きました……!」

彼の存在感に戦慄して固まる部下達よりも、先に調子が戻った執事が口を開く。動揺した顔のままであるが、やや興奮した様子で笑みを浮かべていた。

「まるで魔力の大洪水ですね。しかし、一番驚かされたのはソレを今まで気付かせなかった貴方の技量だ」

「………」

動揺はあってもしっかり探ってくる執事の言葉に押し黙ったジーク。決して図星を突かれたからという訳ではない。というよりも──見当違いな解釈のされ方に言葉が見付からなかった。

(気付けさせなかったつもりはこれぽっちもなかったが。ハァー……難儀な魔力だなぁ、まったくよ)

他人ごとみたいに自身の異質な魔力に嘆きながら、“感知させ易くした”溢れ出る魔力の奔流で敵を包囲するように流し始めた。

「「「「ッ!!」」」」

「落ち着きなさい」

「「「「「ッ──はっ!」」」」」

「……へぇ」

息がどころか喉が潰されそうな錯覚を覚えて一斉に身構えるが、執事の冷たい視線によって抑えられる。強い眼力ではなかったが、冷めた視線には魔力に対する動揺もなく今後はジークが感心した小さな声を漏らした。

(別に本気の威圧じゃなかったけど、まさか耐えれる人が居るとは……。さっきの《悪狼》と同じくらいか或いはそれ以上か)

警戒レベルを一段上げながら先程戦闘した大剣持ちのダガンのことを思い出す。目の前の執事が彼と同じかそれ以上の敵だとすれば、それ相応の覚悟で対応すべきだ。……厳密には加減を諦めることを覚悟しないといけなかった。

(本当ならここで叩きのめすのが正解だと思うけど、……ここで暴れると流石にマズイか)

そもそも何故、到着してすぐに敵を制圧しようとしなかったか。理由は場所と倒れているリナであった。

公園の奥の森林の中。自分達以外がいないことから恐らく人除けの結界でも張ってあるようだが、先刻のように暴れたら流石にバレてしまう。……ちなみに人除けの結界も圧倒的な体内魔力ではね除けて無効化しているのでジークに違和感はなかった。

それでも通報されてしまい来るであろう騎士団や警備隊の憲兵達とのトラブル処理をギルドマスターシャリアに人任せする未来図が容易に想像出来た。

(只でさえ報告なしに色々とギルドの方に送ちゃってるし、これ以上は絶対宜しくないだろう。主に過酷な労働作業が大っ嫌いなシャリアのストレス的に)

動きたくても動けないジレンマにジークは途方に暮れる。もっと雑魚なら簡単であるが、さっきの威圧で呑まれない以上、生半可な相手ではないのは明らかだった。

だから挑発をやめない。
これでもかと挑発的な態度で執事に向けて敬語だが強気に出た。

「申し訳ありませんがロリコンさん方々はここでお暇して頂けないでしょうか? 私と彼女はこれから夜のデートがありますので。拒否するのであればまとめてこの場でゴミにしますよ?」

この場は退いて貰うことにした。
口調こそは敬語で低姿勢であるが、拒否権も許さない一方的な命令であった。

「で、デーっ!?」

ただジークのデート発言に今度はリナが動揺していた。混乱と羞恥の表情を浮かべて口をパクパクしているが、軽くスルーして執事に向き合う。奔流する桁違いな魔力を更に上げて威嚇していくと……。

「色々と訂正を求めたいところではありますが」

それに対し苦笑顔で執事が口を開く。僅かに思案するような仕草を取ると、やはり不利だと感じたか、仕方なさそうに肩を竦めた。

「仕方ありませんね、──退きましょう」

「「「「「っ!?」」」」」

撤退することを肯定した執事の言葉に、周囲の部下達から驚きと理由を求める視線が向けられるが、執事はそれらの視線を流してジークに一礼する。

「では我々はこれで失礼します。近いうちにまた・・お会いするでしょうが」

「えぇ、その時はまた・・

あっさり退場して行く執事。去り際に固まる部下達に指示をしながら、リナとジークから離れて森林の更に奥へと歩いて行った。
これ以上の牽制は不要だとも思ったが、取り敢えず視界に映る執事と部下達が消えるまで、魔力を周囲に流し続けた。

「ありゃ、相当やるなぁ。面倒だなぁ」

視界から消えて気配も消えたところで思わず呟いたジーク。これからの大変さを予期しながらも、取り敢えず今は倒れ伏しているリナとのオハナシニ・・・・・頭を悩ますことになった。


◇ ◇ ◇


「相当の使い手だと思われます」

「ほう……」

さっきまでいた公園の奥にある森林を抜け、尾行を注意しながら拠点へと戻った《魔境会》。執事の背後には部下達がしっかり付いて来ているが、誰もが納得いかない様子で不満の空気を少なからず発していた。

「何故退いたのですか!? 敵は一人ですよ? 我々が束になって掛かれば勝てた筈です!」

「確かに突然現れたあの巨大な魔力には驚かされましたが、《伝達者メッセンジャー》様の『オリジナル』があれば取るに足らない相手の筈!」

「せっかくのチャンスだったんですよ!? 学園の生徒に掛けた催眠・・ももう使えない使い捨て・・・・の貴重な闇魔石だったのに」

一時的に拠点とする館の客間に集まると、撤退宣言をした執事……《メッセンジャー》と呼ばれる男性に対して一斉に責めるような言葉が飛んできた。

「………」

だが、責められる《メッセンジャー》は沈黙のまま問い掛けに答えようとしない。何か思案するように腕を組むだけで、普段からの柔らかな笑みを消して無表情に近い表情で視線も向けようとしない。
その代わり僅かに殺気を滲ませて、次第に発している空気に冷たさが宿っていく。激しく詰問する部下以外の一部は、その普段は見せない妙な威圧感を肌に感じ取った為、責めるようなことはせず静観して執事からの返事を静かに待ち、徐々にヒートアップしていく部下達の責めと殺気が強まっていく執事に対して危機感を感じ始めたが。

「随分荒れてるな? 諸君」

ふと、そんな気不味い場に威厳のある声音が混じった。
声に反応して責めていた部下達は慌てて言葉を呑み込む。振り返り背筋を伸ばすとやって来た人物へ一礼をした。

現れた男性は貴族が身に着けるような外套とグレーに染めた髪をした、三十代くらいの威厳と風格のある人物である。背後には付き人と思われる二名のメイド服を着た三十代くらいの女性と執事服を着た《メッセンジャー》と同じ年くらいの男性が控えていた。ただ者でないのは見ただけで大半の者達が分かっていた。

「おや、これはケーブル伯爵ではありませんか」

そして先程まで黙したままであった《メッセンジャー》は、姿勢や身だしなみを一瞬で整える。無表情な顔から落ち着いたいつもの雰囲気のある笑みで声の主へと一礼した。

「これはいけませんよ伯爵様、此処へ来るのであれば一言頂かなくては」

「ハハっ申し訳ない。実は急遽入った情報でな、君達の安否の確認も兼ねて訪ねに来たのだ。勿論来る際は色々と対処を済ませているからバレる心配はないぞ」

チラリと背後の二人の付き人に視線だけ向ける。笑みを浮かべて問題ないと告げるケーブル伯爵に《メッセンジャー》は申し訳なさそうにしながら、あくまで落ち着いた口調でそこだけは譲れないと説得するように口を開いた。

「ですが、此方としても伯爵にわざわざ来て頂いた以上、それ相応の御もてなしをしなくては、我らが教、大司教祖様の顔に泥を塗ってしまいます」

「ふむ、そうだな。まぁ次からはそうしよう。次があればの話であるが……」

「……どういうことでしょうか?」

なにやら不穏なセリフを溢す伯爵から何か感じ取ったか、部下達と《メッセンジャー》は慎重に伯爵の表情を窺うと。

「つい先刻だが、同じく仕事を任せていた《七罪獣》の拠点と構成チームがこの街の冒険者によって壊滅されたらしい」

「「「「ッ!?」」」」

「……大変申し訳ありませんが、詳しくお聞かせ頂けますか? もしかしたら此方とも関係があるかもしれません」

その後、伯爵が語るのはこの数時間で起きた出来ごと。同盟を結んでいた《七罪獣》の幹部二名率いる構成部隊が学園、そして拠点にてギルドから派遣された冒険者と思われる者によって全滅されたという、俄かに信じがたい話であった。

特に《七罪獣》が今回の仕事で寄こした幹部二名は、どちらも《魔境会》も知る裏ギルドの中でも優秀な人材であったのは確かであった。
潜入していた《死狼》も強襲役であった《悪狼》にしても、《メッセンジャー》と同じくらいの実力が備わった者達であった筈だ。
それ程の二人を連戦で相手取る程の冒険者。間違いなくSランクに近い実力者であるのは明らかである。街でも数少ない元を含めたSランクの《達人》三名を伯爵は脳裏に浮かべたが、どれも当てはまらないと首を振り、ある一人の冒険者に関する噂話を思い出した。

“赤い髪と瞳をしたSランクの《達人》クラスに腕の立つ謎の魔法使いについてだ”

「噂程度にしかなかったが、ウルキアのギルドマスターが裏で雇っている《真赤の奇術師》という二つ名の冒険者がいるとは聞いていたが」

噂も何もその《奇術師ジーク》の仕業であるのだが、まだ情報が錯乱しているので確かなことは口に出来ない伯爵。実際に対面していれば話は違うだろうが、安全地帯にいる所為で決定的な情報までは得られていなかった。

「因みに《メッセンジャー》君達の前に現れたという魔法師はどうかな?」

「……」

尋ねられ再び思案するように目を瞑る《メッセンジャー》。雇い主の前なので時間も僅に数秒であるが、その場にいる者達には体感ではそれ以上、ヘタしたら何倍もの長時間に感じられた。
そして、重い沈黙が《メッセンジャー》の一言で破られた。

「相当の使い手だと思われます」

「ほう……」

全てを察した笑みを浮かべる伯爵。それは好奇心かそれとも歓喜かは誰にも分からない。
こうして《魔境会》が計画したリナ・ルールブ誘拐計画は、突如姿を現した謎の魔法使いの手によって潰えたが、これはただの序章でしかない。

ジークとルールブ姉妹、そして伯爵率いる《魔境会》との抗争は始まったばかりであった。

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