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ルド@

妖精と魔法使い その2

迷いがなくなったわけではない。だが、先程まで雑念まみれな気配が嘘のようだ。
静かに息を整えたジークは、体内魔力に触れながら意識を集中させた。

「行くぞ、シャリア」

「おお、来い!」

高まった魔力は動力となって、彼の中にある魔法式を起動させた。 

(『身体強化ブースト』! 『魔力探知マジックサーチ』! 『透視眼クレアボヤンス』! 『短距離移動ショートワープ』!)

四連続の魔法で今度はジークが仕掛けた。『無詠唱』の最後に発動させた空間移動の魔法。シャリアの背後へ一瞬で移動すると、小さな首元目掛けて手刀を決めようとした。

「──! 移動したかっ!」

先程までとはまったく異なる背後から奇襲は、警戒していたシャリアの意表を突く。自身の掛けた『透視眼』と『魔力探知』のコンボで、もっとも反応し難いタイミングと場所を選択。シルバー時代の慣れた奇襲攻撃であった。

「こーーのぉ!」

だが、反応が遅れてもシャリアは焦らず退かず、既に発動中の『身体強化』の反射能力を高めていた。ギリギリの反応であったが、腕を使い防御する。受け流しの動きで、その威力まで抑えようとするが。

「──ぬぅ!」

僅かに遅かったか後方へ飛ばされる。飛ばされた拍子に倒れるが、すぐに体勢を整えて振り返ると、手を向けたジークから闇のオーラが出ていた。

(『黒の千本刀ブラック・ナイフ』)

【闇属性】Cランク魔法『黒の千本刀ブラック・ナイフ

『無詠唱』で闇魔法を発動させる。無数のナイフ状の黒刀が彼の周りに浮上。刃先のすべてがシャリアを捉えた。

(さぁ、行け)

合図と共に飛び出す黒ナイフの雨。壁として用意していた結界にもぶつかり、シャリアの視界を覆うようにナイフの軍団が迫っていた。

「ちっ、今度は闇系統か!」

ナイフの雨を見て舌打ちして悪態を吐くシャリア。苦手な属性ということもあるが、同時に闇系統の特性が厄介であった。

(一本でも刺さったら、精神干渉・・・・でアウトだっ!)

嫌そうな顔を隠さず、絶対に喰らうわけにはいかないと、相反する光のオーラを放出させた。

「“光の盾となれ”──『光の壁ライト・フォール』!」

『省略詠唱』による光の防御魔法。輝く光の障壁が展開させて闇のナイフから身を守らせた。
だが。

(──なっ! 障壁が!)

狙い通り最初は降り注ぐ黒いナイフを光の障壁が防ぐ。光に浄化されるように消えていく。
しかし、光の障壁もまたナイフが直撃する度に輝きを弱めてしまう。次第に障壁自体が小さくなってしまった。
消耗具合なら彼のナイフより激しく、その原因は言うまでもなかった。

「相互関係にある黒・光では、均衡が崩れるのは込めれた魔力と出数の差だ」

「ジークっ!」

気付けば飛んでいるナイフに紛れて、壁一枚向こうでジークが立っている。
どうやらホーミング技術に似た魔力操作で飛ばすナイフを操ったか、驚きつつも乱れないシャリアは攻撃魔法の準備を……。

「ダメダメ、遅いよ」

「──っ」

準備する暇も無く、ジークの攻撃の間合いに引き込まれてしまった。
二重の察知魔法でいち早く予期した彼は、容易く先手を取ってみせた。

(『部分強化・ダーク』)

付加系の闇属性の魔力を込めた右腕を構えた。黒刀ナイフですっかり薄壁となった光の障壁ごと、シャリアに向けて闇に染まった拳が放たれた。

放たれた黒の拳は障壁を突き破り、その勢いで逃げ切れないシャリアを捉えていた。

「ッ──グハっ!」

咄嗟に防御しようとガードするが意味を為さず、込められた重い一撃に均衡することもなく、シャリアの体は大きく後ろへ吹き飛ばされてしまった。

しかも、これで一旦距離を取れるどころか、彼女の逃げ道を余計に塞ぐ結果となってしまう。

(イカンっ! 結界が壁に……! 誘い込まれたか!)

体勢を立て直した彼女が立っていた場所は、訓練場を包む結界の端。誘導されたのは間違いなく、強力な結界を背にした状態でジークと向かい合ってしまった。

(この立ち位置は拙い! 一度移動しなくては!)

「させない」

「あ──っ」

緊急回避に移ろうとしたところで、発動中の魔眼で先読みしたジークの拳が飛ぶ。不意でもガードした腕ごと小さな彼女の体を結界の方へと飛ばす。

「がはっ!?」

吹っ飛ばすような衝撃で再び後方へ飛ばされる。だが、今度は結界が彼女の行く手を阻んでしまった。

結果、屋上から地面のコンクリートにでも叩きつけれたようなダメージが彼女を襲った。

「……うっ」

なんとか倒れなかったが、片膝を付きよろめきそうになる。

「まだだ、逃さない」

そして、ジークの攻撃は止まらない。
両腕の拳を黒く染め上げて連続で拳を繰り出していった。

「ッ」

まずは右側から拳を一発。強化した足と反射能力で彼女が左に避けて躱したが。

「シッ!」

待っていたかのように次はタイミングよく左に拳を放つ。『透視眼』で読めていた為、強化された彼女の動きも先まで読めていた。

「ぬっ!?」

自分の回避行動が誘導されて、目を見開き驚くシャリア。ギリギリ右肘で防いだが、強化して込めた魔力の密度や量は彼の方が上であった。
グラつき体勢が崩れてしまったところで、右の大振りストレートが打たれた。

「ッ〜〜!」

ガード越しに響いた激痛に、苦悶の声がシャリアから漏れる。これまでにない振り絞られた拳の勢いを押し切れず、背後の結界に背中を押し付けられてしまった。

「ぬ、ぬあっーー!! 『眩しき照明フラッシュ・ライト』っ!」

これ以上は危険だとシャリアは咄嗟に光魔法を繰り出す。目眩しで彼の視界を奪うと逃げ場のない位置から脱出を図った。

(っ、まずは距離を──ッ!?)

「言った筈だ。逃さない・・・・──と!」

目眩しなど関係ないのか、脱出しようとしたところで、見えない筈なのに行く手に脚を出して阻んで来た。

(魔力の流れや属性も見える。不意でも緩和が可能なんだよなぁ)

突然の光で魔眼も弱まってしまったが、彼には『魔力探知』がある。それで補えば瞬足で動く彼女にも、同じように強化すれば追い付ける。

(っ、衝撃で魔眼も弱まったか……。探知との誤差が出る前に切るか)

そして、眩んでしまった『透視眼』を解除。発動していた『魔力探知』を目に付与して、魔力の流れを眼で視えるように切り替えた。
さらに逃げようとするシャリアに追いついて、行く手を何度も阻んでいき追い詰めていく。

「ッ──『輝くの打撃シャイニング・ブロー』っ!」

脱出を阻まれて追い詰められそうになるシャリア。僅かに隙を作ろうとジークの胸元目掛けて、光魔法の打撃を与えようとしたが。

「なっ!?」

「甘いな」

薄い笑みを浮かべたジークがあっさりと拳の腕を掴んでいた。

「『闇の捕縛ダーク・バインド』」

魔眼がなくても経験則から読んでいたか、放たれた光の拳を容易く掴み取ると、闇系統の捕縛魔法で腕から闇の魔力を溢れ出す。シャリアの腕から全体を薄く包み込んだ。

「ちっ、これも読んでたか」

ワザと殴らせて拘束された。また誘導されたのだと悔いながら光魔法で拘束を外そうとするが。

「させない」

黙って見過ごす程、彼も甘くはない。用意していた魔法が発動した。

(『魔を祓う闇の霧ダーク・ディスペル』)

闇系統の魔法除去で発動されようとした光魔法を上書きするように発動を無効化した。

(っ、また読まれただと! さっきからどうなってる?)

連続で先回りされたジークの魔法戦・肉弾戦。いよいよおかしいと内心戸惑うシャリア。
先程から自分の動きだけでなく、魔力の動きや魔法の選択、自身の思考を読まれているかのような錯覚、攻守共に彼に翻弄されて先手先手を取られてばかりだ。
驚かされてばかりな為か、胸の動悸が今迄以上に激しく高鳴っていた。

(何かの魔法なのは間違いない。……だが)

分析の為に戦いが始まってから、ずっと『魔力探知マジックサーチ』を使用していた。これによって彼の魔力の流れを読み取って、どう動いてくるのか先読みしようとしていた。
“魔力を読んで戦略を固めていく”魔法使いの基本戦法の一つでもあったが。

(おかしい、どんな手段を使っているか知らないが)

信じ難い気持ちで魔力を探ろうとする。
しかし、長いことを生きているシャリアでも理解出来ない。不可思議な現象が彼の中で起きて彼女を混乱させた。

(魔力が──全く読めんっ! こんな近くでありえんぞ!)

普段の彼なら普通に読むこと出来た魔力。それが今は空想の存在だったか、微かにも感じ取ることが出来なかった。

「友よ、一体どうなってるのだ? そなたの魔力は」

「ノーコメント……と言いたいけど」

彼女の問い掛けを遮るように拒否を示したが、一度考える素振り見せた彼は協力者でもある彼女を見て……。

「そうだな、この模擬戦で俺に傷一つでも付けれたら教えてあげてもいいかな」

「……フフフっ、言ったな」

拒否されると思ったが予想外の彼の発言。拘束されていることも忘れ嬉しそうな笑みを出したシャリアは魔力を昂らせた。

「ではこの勝負、私の全てを出すこととしよう!」

これまで以上の魔力を噴き出す。力技で拘束魔法を振り解こうとした。

「はははっ、面白い!」

ジークもまた嬉しそうな笑みを作り、呼応するように濃密された魔力が炎のように体から溢れ出していた。




そして、……そんな見詰め合う二人を見ていた苦労人は。

「ちょっ、ちょっとお二人とも!? 私が居ること忘れてませんかっ!?!? 結界を張り続けるの結構大変なんですよぉーーー!?」

と、審判役であるキリアの悲痛の叫び声が訓練場に響くが。

「ふっ、フフフフフフフッ!」

「はっはは! アハハハハハハハハッ!」

肝心の二人の耳には全く聞こえていなかった。

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