オリジナルマスター

ルド@

第11話 過剰。

そもそも何故、シルバー・アイズは最強の頂きであるSSランクの《超越者》となったか。
それは知っての通り大戦で上げた彼の成果だが、細かく辿ると少々複雑になってくる。彼がSSランクとなったのは大戦に参加して、約半年後のことであった。

ある時、敵の軍勢が重要拠点である一つの街に攻め入ろうしていた。寸前で街にいた部隊がその情報を入手したが、不幸なことにその時、別の場所でも交戦が行われおり、冒険者、騎士団、傭兵といった戦える大半の者たちが街から出払っていた。
それも敵の作戦だったのだろう。街に残っていた戦力も数える程度しかなく、情報で入手した敵の戦力と比較しても圧倒的に乏しかった。

敵の軍勢はすぐそこまで近づている。
緊急の対策会議も行われたが、街を捨て避難すべきという意見しか出てこなかった。不本意で悔しいことだが大半の者たちもそうするしかないと、撤退を支持した。

『すみません。ちょっといいですか?』

しかし、その会議の中には当時まだ少年だったジークの姿をあった。
偶々別の依頼で街にやって来ていた彼も会議に参加していたが、撤退すべきだと急かしている者たち顔を向ける。一体なんだと目を向けた者たちは、子供が突然に話に入ってきたかと鬱陶しそうに睨み付けたが……。

『皆さんは街でバリケードを敷いてください。敵は……オレがやります』

思わぬ彼の一言に話していた面々が一斉に黙り込んで沈黙する。ある意味これが彼にとって初めての介入だったかもしれないほど、大胆な意思表示であった。

『何を言い出すんだ、この子供は……』

『この忙しい時に誰が連れてきた?』

『……』

当然の誰も信じようとはしなかった。一部の関係者を除き。
面白半分で会議に入り込んだ子供が変なことを言い出した、と嘲笑する者、所詮子供の台詞だと呆れる者、彼の側に寄り宥めるように連れ出そうと微笑む者など反応は様々であったが。

『シルバー』

乱れた空気を打ち壊すような太く威厳のある声が響く。
重苦しそうに腕を組み座り込んでいた男性。その街のギルドマスターと会談する為にジークと共に来ていた同じギルドマスターであるガイ。

だから護衛として連れていた彼は知っている。
知っている者以外は信じようとすらしなかった彼の言葉を。その覚悟の重さを。

『頼めるか?』

背負わせたくないと感じつつもそう口にしてしまった。
その場で聞いていた者たちが目を疑い白黒させる中、ガイは街の責任者として参加している領主とギルドマスターなどに顔を向ける。当然何も知らない彼らも戸惑った様子で抗議したが、どうなっても責任は全て自分が取るとガイが告げると不承不承であるが承諾した。やはり街を捨てるのは惜しいと感じたか、どのみち逃げても厳しい状況なのだと観念したようだ。

最悪はガイにすべて任せて責任も押し付けてしまえと思ったのかもしれない。いざとなればガイに殿を務めさせることも考えていたのかもしれない。

だが、ガイは失敗するとは思っていなかった。籠城戦にしても戦力面で完全に負けているのでロクに時間も稼げない。なにより一度包囲されれば最後、そこから逃げるのもまず不可能であるのに。
それなのにガイは恐れてない。何故なら規格外過ぎる切り札を所持していたから。

『敵の戦力はこちらの十倍以上だ。殲滅しなければ厄介になる。本当に出来るんだな?』

『はい。確実に叩き潰した上で、すべて滅ぼします』

皆に聞こえるようにガイはジークに問い掛ける。これが最後の確認だと伝えるように。
対するジークも騒めく周りの者たちを無視して、ガイに視線を向けてハッキリと頷く。迷いなどない様子でなんでもない風に物騒なことを口にする。
最初は冗談だろうと吐き捨ていた者たちも今度ばかりは笑い飛ばせれなく、彼の雰囲気に押されたか息を呑んで冷汗を流す者まで出ていた。

そしてその結果を見て笑い飛ばしていた者たちは青ざめることになる。何もなかったが彼の機嫌を悪くしたかもと恐れて、彼が街を出るまで終始怯えていたとか。逆に母性本能を刺激されたか、大人な女性からやたらちやほらされて困ることになったとか。

結局会議後、攻め込もうとしていた敵の軍勢述べ十万以上を、たった一人で全滅してみせたジークの存在は、冒険者ギルド全体に広まり評価され協議された。
その時の評価もそうだが、前々から積み重ねてきた功績。その個人としての実力を認められる。更にギルドマスター三名の推薦条件も満たされ、大戦参加から僅か半年足らずでSSランクの《超越者》となった。 

彼は常識外の実力者であった。
それは普通ではあり得ない『オリジナル魔法原初魔法』の所有量だけが理由ではない。万能と呼ぶに相応しく《大魔導を極めし者マギステル》と大仰に呼ばれる程だった。

ただ彼を知る者から……特に魔法師の者からよく尋ねられたことがあった。

『一体いくつの属性魔法を持っている?』

度々戦いを見ていた者たちから、そう訊かれていたジークであったが、困ったように頰をかき決まって返答は……。

『さぁ?  いくつでしょうかね?』

惚けるだけでそれ以上は何も語らなかった。


◇ ◇ ◇


(こいつ、今なんて言った?)

『私の本職はどちらかと言うとこっちなんだ・・・・・・

赤髪に変装したジークの台詞に訝しげな表情をするダガン。ジークを包囲する部下たちも首を傾げ、なにを言っているのかイマイチ理解出来てない様子だった。

だが、彼はそんな彼らを無視して、左腕に装着されている腕輪に魔力を注ぎ入れる。

「?」 

目の前で見ていたダガンは不思議そうに眉を潜める。
おかしい何かがおかしい、だが理由が分からない、といった表情で呆然と見ている。

(なんだ?  どういうことだ?  何が)

何に引っ掛かっているのか。戸惑う彼を他所にダガンの野生の勘は、先程から必死に警告し何かを訴えていた。

(何がおかしい?  奴が身に付けている物が原因か?)

袖で隠れて左手首から姿を現した腕輪。それは銀色の腕輪でいくつかの宝石のような物が取り付けられている。遠目でよく分からないが、恐らく魔石であろう。
一目見ただけで魔道具の一種であるのは、ダガンにも分かっていた。
だが、逆に言えばそれだけしか分かっていなかった。

「行きますよ?」

どうやら準備が整ったようだ。ジークは腕輪が付いた左腕を前に出し、掌をダガンに向ける。
その動作だけでダガンの野生は更に警告を強め、『ニゲロ!  ニゲロ!』と叫んでいたが、やはり気付いていないダガンには不思議でしょうがなかった。
何が危険なのかどうしても理解出来なかった。

だから問い掛けてみた。無駄なと思うが一応。

「……何の真似だ?」

「逃げるか防御してください」

「何?」

「聞こえなかった?」

だが、意外なことに返答はあった。意味が分からなかったが、ダガンの頭の中で警報がこれでもかと鳴り響く。
話していたジークも今までの敬語口調から、毅然とした威圧感のある声音で告げた。

「死にたくないなら──全力で身を守れ」

「──ッ!  全員退がれェーーーーッ!!!!」

「「「「ッッ!?」」」」

ようやく危機的状況を理解したか、ダガンは張り裂ける怒声で部下たちに後退するよう指示。本人もすぐさまジークから距離取り、壁となる遮蔽物の後ろに隠れようとしたが。

時間切れだ・・・・・

騒然とする現場の中にジークの声が静かに届く。
終幕の合図にも聞こえる呟きに、その場に居た全員の顔が絶望の色に染まった。

「──ぐッ、まだだっ!!  『岩の絶壁ロック・クリフ』ッ!!」

唯一ダガンだけ諦めてなかった。
やはり幹部トップの一人だけあって行動が早い。逃げ切れないと悟ったか、魔力を全開して『詠唱破棄』で【土属性】の防御魔法を展開した。
自分だけでなく部下たちも覆うほどの巨大で分厚い岩壁を。

(ギリギリ間に合った!  雷とかなら最悪だが、これなら耐え切れる筈だ!)

(上級の防御魔法を一瞬で組み上げたか、防御系は苦手だと思ったが、意外と手札バランスが取れていたってことか)

恐らくSランク魔法までなら防ぎ切れる分厚く岩壁。不安はあるがダガンも保つと信じる巨大な壁だ。

(まぁ、無駄だけどな)

しかし、岩壁に囲まれた当のジークは、それでも勝利を確信した瞳でいる。囲う壁の先を見据えるように視線を送ると銀の腕輪を向けた。
注いで押し込めていた魔力を……。



──解放した・・・・



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同時に七属性・・・の魔法を一斉に発動する。
周囲全てが一瞬だけ七色に輝いて埋め尽くした。


──虹のように。


◇ ◇ ◇


腕輪の名前は『神隠し』。
銀の腕輪には宝石のような石が埋め込まれて、色は全部で紅・藍・黄・翡翠・琥珀・黒・白、そして無色の八つ。
埋め込まれている全てが『魔石』であり、全てに魔法式・・・が刻まれている。ランクも付けられない『魔道具』であった。

(大戦時はよく使ったが、今にして思うとホントに掘り出し物だったよな、コレ)

いつもお世話になる腕輪に再び魔力を注ぎ、撫でながら思い出す。
腕輪を作ったのは師匠の知り合い。ミーアに並ぶ《匠の職人マスター・スミス》の称号を持つ者だが、本人曰く失敗作だった。 

一般の魔道具にもあるが、この腕輪は『魔石』に保存されている魔法式を読み取り、発動する補助器のような物だ。
だが、一般の物とは性能が違い過ぎた。
一般の読み取って発動する魔道具は、保存して発動出来るのは一つのみ。読み取って保存するだけでも構造が複雑過ぎて一つが限界だった。
あと事実上・・・複数の魔法発動は不可能なこともあり、これまでも流行せず利用もされてこなかった。

『事実上不可能』──その理由は至ってシンプル。
魔法式専用の複数の『魔石』を発動するには、より高度な魔力操作が必要。さらに一度に大量の魔力も必須で、あまりにも使用者に対する負担が大き過ぎた。理論上は可能でも使用が出来ないのである。

魔法式が保存してある『魔石』から魔法を発動させるのは簡単だ。魔力を注ぐだけでその魔力に反応して、魔法式が自動的に処理を開始するので失敗はほぼ無い。

失敗の原因として述べるなら二つ。一つは発動した時の魔力操作だ。
自分が発動した訳でなく、あくまで『魔石』が変わりに発動している。
だから感覚的には自分ではない別の慣れない物で魔法を使っている気分だ。一つのみなら問題はないが、仮に複数の場合コントロールは極めて難しくなるので、ランクが高ければ高い程事故の可能性が高くなる。

二つ目は当然だが魔力の消費量だ。
使うのが『魔石』である為、この問題だけは絶対に避けられない。
上級の魔法式であればある程、通常発動する際の倍近く魔力を消耗してしまう。だから無駄に魔力を多大に消費するくらいなら、自分で魔法を発動した方が効率が良い、と考える魔法使いも少なくない。


更にこれら二つに共通する魔法式専用の『魔石』には、最大の問題点が存在する。


魔法操作に大事な『詠唱発動』が出来ないことだ。発動キーとして魔法名を口にして発動も可能であるが、その前の『詠唱』は出来ない。言っても意味がないのだ。
魔力を流せば魔法式が反応して魔法が発動する。このシステムには、魔力操作が苦手な者や魔力量が少ない者には、余りに不向きな代物であった。
だから使用する者が持つ『魔石』のランクも低いのが多い。所謂いわゆる緊急用であった。

不満点が満載な物が魔法式専用の『魔石』である。だから実戦で使用する者は殆どいない。
ジークが付けている腕輪も作った者の完全な趣味で、ジークが見つけるまでは置物同然に放置されていた。

しかし、機能を聞いてみれば、複数の『魔石』の魔法を同時に使える。
常識を無視して使う期間など永遠に来ない思われた代物だったが。

ジークにとってはこれ以上ない有能な魔道具であった。

「ウっ、て、テメェ……!」

「ん?」

崩れ落ちた岩壁の中から男性が一人。重りとなって乗し掛かっている岩を退かし、ガクガクと脚を震わしてダガンが立ち上がる。
他は全く立ち上がる気配がないが、恐らく全員気絶しているか、痛みで動けないのだとジークは察した。

(思ったよりタフ……いや、見た目通りタフだな)

立ち上がった男に感心しつつ、一つ良いことがあったと視線を巡らせる。偶然であったが、幸いにも建物は全壊していなかった。
間違いなくダガンが守りに使った岩壁のお陰だと気付く。耐え切ったことにも驚いたが、ジークにとっても嬉しい誤算であった。

建物もそうだが、お陰で殺さずに済んだと。

建物の全壊は諦めるしかないと頭の中で八割以上思っていた。咄嗟に防御魔法を展開したようだが、耐え切れるとは思っていなかった。
だからこそ、立ち上がった男性に賞賛の意の言葉を口にした。

「よく立ち上がれましたね。普通なら気絶してもおかしくないダメージの筈だが、ホントに大したものだ」

「ふんっ、それが素か?  上から目線だな。生憎とオレは他の奴らとは違うんだァ!!」 

言い方が気に入らなかったか、立ち上がったダガンは鋭い目付きジークを睨む。
だが、やはりダメージが大きかった。どうにか『身体強化』で防御を最大にして持ち堪えてもフラついていた。
しかし、ダガンはそんなことよりも気になることがあった。

(やっぱりそうだ。コイツ、戦ってる時は意識してなかったが、さっきの大魔法でようやく分かったぞ!)

これまでずっと引っ掛かっていた自分の野生の勘が何に反応していたのかやっと気付いた。

(コイツ、どういう訳か魔力を感じない・・・・・・・。腕輪を構えてた時もそうだが、ずっと魔力を感じなかった)

ありえない答えであったが、疑問はそれだけではなかった。

(オレはこの男を知っている?) 

そう思ったのは先程の魔法を受けた時に感じたジークの魔力である。
魔力として感知することは出来なかったが、寒気のような感覚が背筋に通ったのをダガンは確かに感じて、しかも覚えがあった。

(間違いねぇ。何処でかは思い出せねぇが大戦時、このガキの気配を肌に感じたことがある!)

しかし、それが何処なのかまでは思い出せない。
直接戦っていないので仕方ないが、もどかしい様子でダガンは頭を掻きまくった。

(こんな無茶苦茶な戦い方する奴がいたら忘れる筈が……クソっ、何処だ!?)

まだダメージで立ち眩みを起こす中、ダガンは必死に過去の記憶を呼び起こそうとするが、対峙してたジークがそれを待つ訳がなかった。 

「こっちとしては大人しく倒れてくれれば問題ないんだよ。というわけで──もう一度・・・・

「は?  え、ちょっ!?  待て──」

なにやら不穏なことを呟くジークに、慌てて待ったを掛けるようとするダガン。
もうこれ以上の戦闘は負担でしかない。幸いにも部下たちも死んでないので、多少不満ではあるが降参を……と思った矢先だった。

慌てるダガンは無視して、ジークは腕輪に込めた魔力を吐き出した。

(『真紅の砲弾クリムゾン・キャノン』!  『水泡の弾丸バブル・シュート』!  『電雷の大爪ボルテック・クロー』!  『大空の気破エア・バースト』!  『地の撃鉄アース・ハンマー』!  『新闇の侵食ダーク・インベイジョン』!  『輝く光の十字シャイン・クロス』ーーーーッッ!!!!) 

明らかに先程以上に力任せに放った七つの魔法は、一瞬で景色を虹色に染め上げ空間を覆い尽くした。
……ただ埋め尽くされる瞬間。

「だから待てと言って──ギャァアァアァアァアアアァアアァアアッ!!!!」

「「「「アアアアアアっ、隊長ーーッ!!」」」」

断末魔のようなものがジークの耳に届いた気がした。

「アレ?  何か言ったぁ?」

景色が虹色に染まっているので確認も出来なかったが。


結果として過剰。間違いなく過剰過ぎた攻撃であった。
この魔法による死亡者なく拠点も奇跡的に……本当に奇跡的に全壊していなかったが。

ジークのアレだけの過剰攻撃が果たして必要だったがどうか、疑問は尽きなかった。


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