オリジナルマスター

ルド@

第11話 呪われてた少女。

「なああああああっ!!『雷降いかづちおろし』ーっ!!」   

──バチバチバチバチッ!

デリカシーのない彼の発言にミーアが激怒する。顔を真っ赤にして憤慨した様子で拳を握り、『付加魔法』によって出した雷属性を纏ってジークに飛び掛った。

「まあ落ち着けって。ミー……ア!」

だが、その瞬間。向けれた雷魔法に対しジークも魔力を放出する。軽く魔法が使える程度の量で、拳が振りかかるよりも前に無詠唱で発現させた。

(『部分強化・敏捷性アジリティ』、走法『跳び虎』) 

部分的な身体強化と得意とする走法を使用した。一時的に俊敏に動くと小さなミーアの背後に回る。

「なぁ!?」

驚きの声を出すミーアの後ろ首を掴み呆気なく動きを封じた。
『跳び虎』はジークが使用する走法の中で最も奇襲・瞬間的な攻防などに適した走法。スピードはもちろん速いが、咄嗟の減速や細かな動きを可能として、『近接』、『一対多数』、『奇襲』、『緊急回避』などで力を発揮する。 

「少しは落ち着きなよ」

「ど、どうして……!?」

吊るされた様子でミーアが言う。我を忘れていたとはいえ、まったく反応できず驚いている。ポカンとした顔で背後から首を掴んでいる彼を見ていた。 

(ぜ、全然知覚できませんでした。……って!?)

「またッ!?  またとは何ですかっ!?」

驚きの様子だったのが、先ほどのデリカシーのない彼の言葉を思い出して一変。ムカッといった顔で噛み付きそうにして激怒していたが。

「え?  いや〜〜なんか前会ったより……ね?」

「何ですかっ!  ?  ですか!?」

「……あははははっ」

「笑って誤魔化さないでください!」

ジークは笑って済まそうとするが、それが返って逆効果だったようだ。吊るされた状態であるが、食い付かんばかりのミーアを見てマズったかと思ったが。

「あの……ほ、ほんとに縮んでいるでしょうか?」 

次第に落ち着いてくと逆に青ざめた様子で、額から汗を流している。元々気にしているからか、本気に感じて恐る恐る質問をしていたが。

「ん?  勿論ウソだよ」

さっきまでのやり取りは一体なんだったのか、当然のように嘘だと告げてジークはニヤリと笑った。

「なーー!?  な、何の為のウソですか!?」 

「ん?  ……面白いから?」

「んなって!?  こ、この人は〜〜っ!!」

「──っと」

そうして再び噴火したミーアからの後ろ蹴りを、ジークは掴んでいた腕を伸ばして逃れる。だが、ミーアの機嫌も大変な状態になっており、拳こそ飛んで来ないが代わりに言葉の嵐が沢山降ってきた。

「本当にもうーー!!  さっきから失敬ですよっ!  ジークさん!」

「いやいや、そこはお兄ちゃんでも、良いよ?」

「言いません!」 

「え、兄様でもダメ?」

「言いませんっ!」

「じゃあ……お兄ちゃまは?」

「兄から離れてくださいっ!」

「え、もしかしてパパの方が良いの?  いやーー流石にパパはちょっと──」

 「違がああああうーーーッ!!!」

遂に止まらなくなって足をブンブン振って攻撃する。だが、残念ながら背丈に似合った彼女の小さな足では届く筈もなく。

「この!  この!  この!  このぉッ!!」

彼女の蹴りは虚しい空振りばかりであった。


◇ ◇ ◇ 


「ハーっ!  ハーっ!」

「本当元気が良いな?  体力全然ないのに息切れするまで暴れなくても」  

「──ッだ、誰のせいですか……!?  誰の……!?」 

ゼハゼハと息を切らしながら横目でジークを睨む。噴火の如く激情して今にも燃えそうな雰囲気である。

(ていうか湯気まで出てないか?) 

心なしか彼の目には、彼女の体から陽炎がチラついているようにも見える。もしかしたら感情で体内の魔力が燃焼しているかもしれない。そんな様子のミーアを見てやり過ぎたかと笑みが引きつる。

(思えばこんな風に出会ったんだっけ?  俺とミーアって)

が、同時に懐かしくも感じた。シチュエーションは少々異なるが、彼女との出会いをふと思い返した。

彼女の名はミーア・ホーガ。先に言うが人間である。シャリアのような何処ぞの種族で見た目だけ若く見えるということではない。

しかし、見た目通りの年でもない。複雑な話ではあるが、それが彼女の災厄だった。

『呪属性』Sランク魔法『厄年逆転カースド・リバース』  

対象となった相手の容姿が、時が経つ毎に若返っていく魔法。
聞いただけなら素晴らしく、神の如き力だと思うのであろうが、現実はそれほど甘くない。殆どの人が望む若返りの魔法であるが、それはとても恐ろしい魔法だった。

歳が増える度に体が若返る魔法である。では、その終わりは何処か。
本人の意思で解除することが出来るのか、ある程度若返れば魔法解けるのか。──違う。

この魔法に終わりはない。解呪しない限り歳が重なる度に若返っていく。最終的には無の存在なって死んでしまう。成長を戻してしまうこの魔法──呪いは止まらない。

故に呪い『呪属性』のみが使用できる。非常に厄介な呪いの一つであり、この呪いを身に受けたミーアもまた苦しんだ。


彼女がこの呪いを受けたは七年前。当時Aランクの《達人》で現役の冒険者であったミーアは、とある地下ダンジョンにチームで挑んだ。
若いながらも彼女たちのチームは、全員がAランクという個人としてのレベルも高く、実戦経験も積んできた者たちだ。難易度の高いことで有名であった地下迷宮にも挑戦してどんどん進めて行った。出て来る魔物を蹴散らし罠も排除していき、大した障害もなく最下層までに到着した。──ところまでは良かった。

彼女たちの不幸は、そのダンジョンの最下層はまだ誰もクリアしたことがなく、入っても誰も帰って来なかった為、情報が一切なかったことだ。

その為、最下層に何が居るのかを彼女たちは知ることもなく、最下層に足を踏み入れてしまった。

そして最下層に居たダンジョンのボス。十一星の《魔神級》【厄災を呼ぶ死神デス・リーパー】  と遭遇する。彼女たちでは勝てないと直感で感じ取り、即座に撤退しようと魔物に背を向けて出口へ走ったが。

最後尾で殿を努めていたミーアが【デス・リーパ】の攻撃を、去り際に受けてしまい呪いを掛けられたのだ。

すぐにどんな呪いなのか判明し解呪を試みようとしたが、結果は失敗に終わる。その後も仲間のツテも借りてあらゆる手段を講じるも効果はなく、次第に体は若返ってしまい。

気が付けばこんな子供の姿になっていた。

「このっ!  このっ!  このっ!」

(これで実年齢が二十五〜六とか。最初に聞いたときはびっくりしたが)

未だにぶらぶらしているミーアを見ていると、どうしても自分よりも年上だとは思えないジーク。
それから月日が経ち六年が経った頃には、もう自分を慕っていた仲間も顔を見せなくなり、知り合いと呼べる人も数える程度しかいなかった。徐々に言葉も発せない赤子へ近づいていくミーアは、毎日悪夢でうなされ苦痛の日々を送ってきたのだ。

そんな彼女を救ったのが、街にやって来たばかりのジークである。
一年前、ジークはちょっとしたことから彼女と知り合い。そしてあんなことやこんなことなどがあったが、最終的にはパッパと呪いを解いてみせたのだ。それも簡単に。

使用したのはオーク戦で役立った魔法『聖霊の謳歌』。最初はミーアの呪いをどう解こうか考えたが、途中で面倒になり使用した。魔力コントロールが難しいが、決してできないわけではないので、呪いを聖属性で浄化するように解呪してみせたのだ。

(直前まで信じてなかったけど)

いざ解呪した時は半信半疑であったが、後ほど一緒に調べてみて本当に解呪されていることが分かると、しばらくジークを見ながら放心状態であった彼女の顔を今でも覚えていた。

(あの『ぽけ〜〜〜』とした顔は不謹慎だったが、可愛かった)  

そんな彼女も今は『雑貨ホーガ店』の店長として、第二の人生とも言える日常生活を満喫している。もともとジークと知り合う前から店を経営していたが、呪いが解けたこともあり、現在は心機一転してこの店に完全に腰を下ろしている。

店の中に居るのは彼女一人であり他の店員はいない。彼女の容姿は先程会っていたシャリアよりは上であるが、それでもまだまだ子供の分類。呪いの後遺症で解呪以前に失われた分は返ってこなかった。

だが、子供の容姿である以外は問題になることはとくにない。体も時が経てば自然と成長して、別に寿命が縮んだ訳でもないので、何かしらの障害がある訳でもなかった。
と、こんな感じにジークは考えるが、正直未だに目の前の少女が自分よりも年上とはどうしても……。

「何か、言うことはないんですか?」

腹の奥から吐き出したかのような凄みのある声。さっきまで憤慨していたのが、今度は暗い雰囲気でいるミーア。疲れた眼差しで僅かであるが剣呑をにじませて睨んでいるが。

「ゴメンゴメン。ついな?」

「ほぉ〜〜?」

実に軽い彼の謝罪しながら首を離して解放する。当たり前だがさっきまで掴まれたこともあり不満の顔なミーア。ただ、さっきまでのように怒って蹴ったりしないところを見ると疲れたか、それとももう意味はないと諦めたか、深く息をついて恨めしそうにしていた。

「つい、じゃありません。それに……何ですか?  さっきの呼び方は」

「ん?  呼び方?  ……ああ、アレは、んん、おほんっ。──ミーアちゅあ「はいストップですッ!」……どうした?」

振られたのでもう一度呼ぼうとしたが、すぐさまミーアが止めに入ってくる。不思議そうに首を傾げるジークだが、冗談ではないと慌てた様子でミーアが横に首を振っている。

「何故だか分かりませんが。ジークさんが言ったら絶対ダメな気がします」 

「そうかなぁ?」

「は・い!!」

呼び方について振ってきたのは彼女なのだが、指摘するのもためらう程の謎の凄みがあった。

「わ、分かった。止めてくれてありがとうミーア」

とりあえずその頭を優しくナデナデして礼を言うジーク。さっきから不機嫌にさせてばかりなので、ここで一度ご機嫌取りに撫でておくことにしたのだ。

「えへへっ。──はっ!」

撫でられたミーアは嬉しそうな顔をするが、しばらくしてハッとした顔をすると、俊敏な動きで彼の手から逃れるように距離を取った。 
そしてコホンと咳払いをすると改めてジークと向き合う。

「……それで、何しに来たんですか?」

ジークの顔を窺うような口調と仕草で尋ねる。そんな対応のされ方に地味に傷ついたジークだが、気を取り直して仕事の話をし出した。

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