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元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

魔王復活と勇者帰還 その10(決着)。

「――『勇者ブレイダー』!」

 カードを本にセットして起動させる。
 すると本からこれまでとは異なる虹色の輝きが溢れ出した。

「覚醒せよ! 我がうちに眠りし伝説の魂!」

『ギッ!?』

 溢れ出た虹色の光が俺を飲み込む。
 すると何故か魔王の方も苦しみ出して胸を押さえる。
 金属が軋むような音が辺りに響くと、奴の胸元が大きく裂けて中から同じ虹色の何かが飛び出した。

「な!? あ、あの光はまさか!」

 零さんと戦闘していた藤原の焦ったような声が聞こえる。
 よそ見でもしていたのか、零さんも無視して駆け出そうとしたが、その瞬間大量の藤原を巻き込むように黒炎が邪魔をする。
 本体が混じっていたか来る気配はなく、その間に飛び出た虹色の光は俺の手元に辿り着いた。

「これは……この剣は・・・・!」

 装飾が着飾った柄にダイヤのようなキラキラと輝く両刃の大剣。
 忘れる筈がない、向こうで半分の時間は共に過ごした俺の相棒。
 嫉妬した麻衣がホウキ代わりに使おうとして振り解かれ転がされた。 
 意思が宿っている俺にしか懐かない困った恋人。

「そうか、そこに居たのか……ずっと会いたかったぞ――『勇者の聖剣ブレイブ・カリバー』ッ!」

 応えるように刃が光り輝いた。
 俺が振るうと虹色の軌跡が描かれる。
 約3年ぶりに伝説の聖剣が俺の手元に戻ってきた!

『ギィアアアア!』

 宿敵の復活が嬉しいのか悔しいのか分からない雄叫び。
 魔剣へ莫大な量の魔力を込めた魔王は俺に向かって一閃。
 雷のような暗黒の斬撃を放って来たが、俺は片手で聖剣を前に出すだけ。

 放出された聖なる虹色の光が障壁となる。
 ボールでも扱うように暗黒の斬撃を横に弾いて、俺は聖剣の魔法スキルを発動した。

「雷鳴よ、地を砕け!【ボルテック・ハンマー】!」

 黄色の雷を帯びた聖剣を地面を叩き付ける。
 地割れを起こして衝撃と雷が合わさり標的の魔王を襲った。

「一点突破!【ブラスト・アタック】!」

『――ッ!?』

 そして衝撃を受けて痺れを起こして動けない魔王に俺は急接近。
 全力で駆けながら爆炎系の魔法スキルを発動して、真っ赤に炎を纏った聖剣の突きをお見舞いする。
 咄嗟に魔王も魔剣でガードするが、こちらの突きに押された魔剣は手元から弾き飛ばされた。

「チャンス――一気に決めるぜ!」

 厄介な魔剣は奴の手元から消えた!
 俺は畳み掛けるように炎を纏った聖剣で奴に攻撃し続けた。





「クソ、どういうことだ!? 話が違うじゃないか・・・・・・・・・!」

 零が発生させた黒炎から逃れた藤原が叫ぶ。
 生み出していた幻影が全て燃やして自分に迫った時は青ざめたが、この炎は彼の異能の延長線上にあるもの。
 物理的なダメージは少なく、精神・魂を対象にしているのだと察した。

「逃すか。諦めて大人しく捕まれ」

「くっ邪魔を……!」

 それでもまともに受けたら彼でもタダでは済まない。
 何より肉体ではなく本当に魂を燃やされてしまったら、冗談抜きで廃人確定だ。

 ――魂を狩り取る死神。

 魔法使いではないが、泉零の恐ろしさを今になって思い知っていた。

「だが、所詮は冥王神たち・・・・・の異物っ! 魂狩りの異能だけで勝てると思うな!」

 すると藤原が持つ杖から巨大で無数の魔法陣が浮かび上がる。
 暗黒のオーラと危険な気配を発して、黒炎を纏った零に睨んでいるようだ。

「さっさと地獄へ行け! 死神っ!」

 空中に飛んで勢いよく杖を振り下ろすと、複数の魔法陣の塊が零へ迫る。
 まるで先の見えない巨大な雲のようであるが、向けられている零は静かでただ両手をゆっくりと上げていた。

「【黑炎城楼コクエンジョウロウ】」

 黒炎で生み出された巨大な城が巨大な魔法陣の塊から彼を守る。
 破壊の魔法陣は城を破壊しようとするが、城塞のような黒炎が近付いてくる魔法陣を燃やしていった。

「能力だけじゃなく、ぼ、僕の破壊魔法まで燃やしただと……」

 唖然とする藤原に対し無言で手を下ろす零。
 無感情な目で宙に逃げている藤原を見つめると……一言。

「笑止」

 僅かに呆れたような声音で呟く。
 パンと両手を合わせて放出していた黒煙を一箇所に集める。 
 少し長めで細い1本の槍の形にしてクルクル回しながら構えて――

「アウトだ――【ー始槍ー黑槍貫通コクソウカンツウ】」

 そして軽い動作で槍を投げる。
 別に早い訳でもなく藤原は自然の動作で障壁を展開した。
 魔法すら破壊する厄介な異能であるが、障壁で防げれない訳ではない。

 寧ろな無駄な回避行動によって隙を突けられる可能性が高い。
 だから藤原のこの時の選択は決して間違っている訳ではなかった。

「『術式融合カードフュージョン』――【ー終槍ー】」

 零が所持している異能が1つだけだと、勘違いしていなければ。

「【黑槍ノ夜神ロンギヌス】」

 黒き雷と共に急加速した黒炎の槍が光となる。
 刹那、展開されていた分厚い障壁を容易く貫通して、冷静に対応していた筈の藤原の心臓を――コンマ秒後。

「あ、がっ!?」

 正確に射抜いた。





 ブレスレットを起動させる龍崎だが、いつもの術式を起動させているのではない。
 魔力を込めて操作するとブレスレットの中から透明な3枚のカードが浮かび上がった。

「いくぞ」

 素早く掴み取ってさらに魔力を注ぐ。
 強く念じるようにして集中すると、透明だった絵柄が変化を始める。
 3枚がそれぞれ別の色になって表の絵柄がハッキリと写っていた。


零さん・・・! 師匠・・! ヴィット・・・・!」


 1枚目は夜のように黒く輝いているカード。
 真っ黒な鬼の面と侍風の羽織姿の零が写っている。
 両手には大きな漆黒の鎌と鋭い刃付きの槍が握られていた。

【泉零】――ヴァージョン『死神・黑夜叉』

 2枚目は麻衣と同じ銀のカード。
 普段姿と違う師匠の姿が描かれているが、龍崎は気にしない。
 銀髪と銀の瞳をして魔法使いのフードを着けていた。

【ジーク・スカルス】――ヴァージョン『シルバー・アイズ』 

 3枚目は炎の赤色と海の水色の2色が斜め半々に付いたカード。 
 こちらの世界と違う少し大人びた姿で髪と瞳が炎色と水色。
 服装はロングコートで炎色の鳳凰と水色の青龍の模様が描かれている。
 左右には紅き剣と蒼き薙刀が装備されて、大地が見ても絶対分からないような真剣な眼差しをしていた。

【ヴィット】――ヴァージョン『精霊武装・朱雀青龍』
 

「『超融合』発動――我が下へ集え、伝説の戦士たち!」


 光り輝く3枚のカードを取り込む。
 龍崎の姿も溢れ出る光で隠れて……しばらくすると見たことない姿をした龍崎が現れた。


「『窮極原初形態ウルティムス・オリジン・フォーム伝説不滅の決闘者ハイエンド・レジェンド』」


 銀色と少し黒が混じった長い髪を後ろで結んでいる。
 腕の部分がない白銀色のローブを着て、前より少し高めの背丈。
 所々の関節部には炎色と水色の金属防具が装飾のように付いて、腰には刃付きでリボルバー式の白銀色と黒色の二丁銃が収まっていた。

「『精霊の強制執行エレメンタル・オーダー』」

 両手を構えて拳を握ると、左右の手に朱いオーラと蒼いオーラが込められる。
 一気に振るうと左右の手から『巨大な豪炎の鳥』と同じく『巨大な爆水の龍』が飛び出す。
 意思でも宿っているのかような動きで、飛びながら機械兵へと迫って行った。

『――ッ!』

 機械兵は『魔力吸収』で取り込もうとする。
 搭載されている武器類で迎撃も検討したが、左右から飛び回って迫って来るので狙いを定められない。
 ならば『魔力耐性』も備わっている自身の装甲で受け止めて、その魔力を取り込んでしまえばいい。

 ……筈だった。
 向かって来る2体の飛行物体から全く魔力感知が出来なかった。
 まともに受けてしまった武器装備が悲鳴のようにショートを引き起こす。
 左右の装着されていた機械仕掛けの『マンモス頭部』と『ゴリラの腕』がボロボロになっていた。

「ど、どうして攻撃が……」

「簡単な話だ。奴に吸収されない耐性すらない種類だからだ」

 魔力を対価にしているが、放出されているのは精霊の力。
 精霊の対策は魔法よりも弱い機械兵はすぐさま逃れようとしたが、『豪炎の鳥』は全身でしがみ付くように拘束して、『爆水の龍』が巨体に巻き付いて動きを抑えていた。

「『偉大な魔術師の奇跡ミラクル・イリュージョン』」

 彼の目の前に銀の魔法陣が展開される。
 その中から魔法使いのような服装をした銀髪の青年が出て来る。
 さらに魔法陣が移動して藤原と戦っている黒い死神の姿をした泉零。
 最後に融合したカードに描かれていた精霊武装化したヴィット。

 三方向から機械兵を囲うようにカードの力を利用して召喚された。

 銀髪の青年は取り出した銀の大剣から銀光の斬撃を。
 死神風の零は漆黒の大鎌から黒い斬撃を。
 ヴィットは構えていた紅き剣から紅蓮の斬撃を。

 一斉に動けないでいる機械兵へ放つ。
 斬撃は装甲の強度を打ち破って、背中の機械仕掛けの翼や砲身、十字の盾などを斬り裂いて破壊した。

『――!?』

 攻撃が防ぎ切れず武器装備も破壊される異常事態。
 このまま戦闘は続けるのは危険過ぎると判断した機械兵。
 一旦離れようとさっきの攻撃で拘束が解けた無事な装備を動かして、ブースターを噴射させようとしたが。

「【騎士の栄光】ッ!」

 逃さないと自身の能力を込めた矢を放つ鷹宮。
 剣だけでなく弓も扱えるようでずっとタイミングを見計らっていた。

「今よ!」

「ッ!」

 そして見事に噴射口に直撃するとエンジンが暴発する。
 飛び切れなかった機械兵がグラついたのを見て鷹宮が龍崎に叫ぶ。
 大きく頷いた龍崎の両手には黒と銀の銃が構えられていた。


「ああ、落ちろ――『終焉を告げる決闘者ラスト・オブ・レジェンド』」


 機械兵へ狙いを定めて引金を引く。
 左右の銃口から光り輝く黒い弾丸と銀の弾丸が放たれる。
 五発ずつ発射された弾丸は一直線に伸びて、フラついている機械兵を撃ち抜く。
 頑丈な装甲を容易く破壊していき、走行不能になった機械兵が倒れそうになったところで、急接近した龍崎の二刀銃が振り抜かれた。

「シィッ!」

 二丁に残されていた六発目の弾丸も同時に発射する。
 振り抜かれた勢いで弾丸も曲がって刃と同化する。
 黒と銀のクロスの一閃が生まれて、機械兵の龍の頭部とその胴体を綺麗に両断した。

 



「解放せよ! 虹色に輝く勇者の光!」

 炎剣で滅多打ちにした魔王に俺はトドメの一撃の準備に入る。
 また全身がボロボロになった魔王は、どうにか俺の攻撃から逃れて落とした魔剣を拾っていたが、その時には俺の刃に虹色のオーラが凝縮されていた。

 剣先で円を描くと虹色の魔法陣が発生する。
 勇者スキルの必殺技が解放された。


「闇を打ち消せ!【ブレイブオーバー・カリバー】ァァァァァァァァッ!」

『ギァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


 あの最後の戦いと同じ結末。
 だが、今度は魔剣を出させる暇も与えない。
 浄化の聖なる虹色の粒子砲を放出しながら俺は駆け出した。

「同じ手は二度もくらうかッ! 今度こそッ、終・わ・りだァァァァァッ!」

 飛び掛かるとオーラを放出しながら虹色の一閃を浴びせる。
 咄嗟に魔剣でガードした魔王だが、出力が最大状態になっていた聖剣は魔剣の刃を斬り裂く。

『――!?』

 一瞬だけ唖然として硬直した魔王も真っ二つにする。
 仮面越しで表情が見えなかったが、魔王から断末魔が聞こえることはなかった。

「俺の……いや、俺たちの勝ちだ。魔王・・

 全身が浄化されたか、塵になっていく亡骸を見ながら俺は呟いた。
 今度は魔剣もボロボロに崩れ出してあと少しで完全に消えようとしていた。

『消してたまるかァァァァァ!』

「ッ!? 藤原!?」

 が、その魔剣の消滅を許さない存在が視界の端から現れる。
 零さんが倒したと思ったが、何故かゴーストのように幽体化した藤原が手を伸ばして飛んで来た。

「させると思うか?」

『ッ! 死神ィィィ!』

 しかし、そんな面倒な行動を零が見逃す筈もない。
 いつの間にか魔剣と彼との間に割り込んで、手には死神に相応しい大鎌が握られていた。
 まだ余力は残っていたので俺も聖剣を構えて零さんに並んだ。

「諦めろ藤原。復活した魔王は倒された。あの機械たちも龍崎がスクラップにした。もう逆転は無理だろう? 大人しく零さんたちに捕まるか潔く成仏しろ」

『諦める? 僕が? フフフフっ、何を言うかと思えば……ふざけるなよ』

 肩を震わして笑っていた藤原だが、目が全然笑っていない。
 予想通りしばらくすると怒りで肩を震わしていたと察するような憤怒の形相を向けてきた。

『諦めるのは貴様らの方だッ! どっちが利用されているかも分かっていない餓鬼がッ! 分かっているような顔をするなァ!!』

 霧のような瘴気のオーラと透明な光の粒子が集まってくる。
 この場に残っている魔王の力と噴き出しているこの島の力を合わせているようだ。
 あのような姿であるが、何か奥の手でもあるのか、高くまで離れた藤原が笑いしながら全速力で襲い掛かろうとした。

『借り物の肉体を封じたら終わりだと思ったか!? アハハハハハハハハハハッ! 詰めが甘いんだよ! この姿でも貴様らを倒すなど雑作もな――』

「アウトだ――【黒鐘ノ死罪クロガネノシザイ】ッ!」

「滅びろ――『銃奏極の撃烈リボルバー・ギア・インパクト』!『精霊の龍星群エレメント・ストリーム』!」

「【スキル・コンタクト】――『魔導王マギステル』『勇者ブレイダー』ッ!」

 高笑いしていた藤原に向けて、零は死神の鎌からの巨大な斬撃を飛ばして、龍崎は二丁銃の光弾と関節部などに装備している炎と水色の防具から光の粒子が発射された。

「【ブレイブオーバー・フル・バーストー】ォォォォォッ!!」

 虹色と金色が混ざり合った聖剣の一撃を放つ。
 麻衣のカードも借りた渾身の粒子砲は、零さんたちの攻撃を一緒に迫って来ていた藤原へ一直線に伸びていく。

『ぐっ!? ガァアアアアアアアアアアアアア!?』

 何か奥手を仕掛ける直前に攻撃を受けたことで回避もガードも間に合わなかったようだ。
 どうにか障壁を展開して逃れようとするが、龍崎が放った弾丸の嵐が逃さず、その隙に零さんの斬撃が障壁を斬り裂いた。

 裂かれた障壁の間を俺の虹と金の粒子砲が入り込んで、逃げ切れなかった藤原を飲み込もうとしていた。
 零さんの斬撃も龍崎の弾丸の嵐も続けて藤原に襲い掛かり、その状況はもはや過剰攻撃以外の何ものでもなかった。

『な、何が……勇者、だ! 貴様は所詮……の手のひらで、踊らされて……るだけ、だぁあァァァァァァァァァァ!!』

 俺たちが放った攻撃の直撃音の所為でよく聞こえなかった。
 魔王の代わりに下らない断末魔を叫んでいるとしか考えてなかった俺はあまり気にしなかった。

 そして魔王と同じように浄化された藤原の幽体は燃え尽きる。
 リンクでもしていたのか島が大きく地響きを起こしていたが、一気に疲労が込み上げてきた俺は思考が鈍くなって脱力感から膝を付いていた。

「ん? これは……やっちまったか?」

「あー……やってしまい、ましたねぇー」

 なんとか倒れずに意識を保つ俺の耳に零さんと龍崎の声が聞こえてくる。
 なにやら不穏な言い方であったが、考えている余裕もなく騒ぎになる前に龍崎に頼んで島から脱出したのだった。

「はぁ……もう朝かよ」

「一応昨日の件で休校扱いだけど、事情聴取の為に呼ばれるんじゃないかしら?」

「勘弁してくれぇ……」

「あははははは、ドンマイだなぁー」

 街に戻って来た頃には夜が明けようとしていた。
 頭痛もあって恨めしそうに朝日を睨んでいると、鷹宮から同情気味に伝えられて軽く絶望した。

「あー、ぶん殴ってやりてぇ……いや、殴っていいか」

「やめておけ。余計に疲れるだけだから」

 龍崎からもドンマイと軽く調子で言われてイラッとしたが、零さんから体力の無駄遣いになると諭されて項垂れるしかなかった。

 こうして異世界から続いていた魔王騒動と勇者復活の一件は、色々と予期せぬ形ではあるが、みんなのお陰で無事に幕を下ろしたのであった。

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