元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

魔王復活と勇者帰還 その4。

「あの子……魔力が暴走してる」

 唖然とした顔の鷹宮が麻衣から溢れ出ている赤黒い魔力を捉える。
 薄々予感はしていたが、やはり彼女は普通の能力者とは違う。大地と同じで魔力を操れる者なのだと確信を得たが、異質以上に尋常ではない量の魔力の放出に流石のクールな彼女も冷や汗が止まらなかった。

 ほぼ外野の鷹宮がこんな反応をしているのだ。大地と同じように思いっきり関わっている龍崎は頭を抱えたい勢いで動揺して、零は難しい顔で事態をどうにか呑み込んでいた。

「クソ! 一番恐れてた事態だ。ヴィットの奴、こっちは大丈夫だって言ったくせにしくじりやがって!」

「この世界で監視していたアイツにしてもアレは想定外だってことだろう。けど、もう少し頑張ってほしかった」

 悪態を吐いている暇もない。
 危険な魔力を全身から放出している麻衣を放置は出来ないと止めに入ろうとしたが。

「ァァァァァアアアアアアアアッ!!」

「っ! 小森さんストップ!」

「待って! 冷静になるんだッ!」

 止めに入ろうとした時には既に遅過ぎた。
 取り出した黒い杖を剣のように構えた麻衣が飛びかかる。獣ような叫びからして完全に冷静さを失っているのは間違いなかった。

『ギィィィィィィィ!』

 対して魔王のそれは生き物の叫びとは違う。金属を無理やり引きちぎったのような耳障りな音。仮面の奥から空気ごと振動させているようだ。
 莫大な量の魔力を纏った麻衣の接近に臆した様子はなく、人形のような動作で仮面越しに彼女を目視した。

「ッ! 離せぇぇぇぇッ!」

 全身に纏っている暗黒のオーラが触手のように突っ込んで来た麻衣を縛り上げる。
 殺気を宿した瞳で麻衣が怒りのままに荒れ狂う。無意識に赤黒い魔力を刃のように研ぎ澄まして、目障りな触手の鎖を切り刻もうとしたが。

『ギィアアアアアアアアッ!』

 暗黒魔法――【カース・ドレイン】が触手越しで彼女の魔力を異常な吸収速度で搾り取っていく。

「――ぁ、ぁぁぁ……」

 干からびそうな勢いに命の危機すら感じ取った麻衣。流石に噴火していた頭の血も急速に鎮まったようだが、抜き取られ過ぎて既に貧血状態である。さりげなく魔王の黒い手のひらが慎ましい胸元に触れているが、怒り狂うことすらできなかった。

「せ、せんぱ……」

 思考もろくに回らず次第に意識が途切れて、彼女の全てが奪われ――

「離せよ」

『ッ』

 寸前に拘束が解かれる。
 完全に魔力と能力・・・・・を抜き取られる前に、背後から首を取ろうとした零の黒刀を避けたが、零が狙っていた第二目標の触手の鎖を斬り裂いた。

「よっと、と!」
 拘束が解かれた麻衣が地べたに落ちそうになるが、低空飛行をした龍崎がキャッチする。足先から炎の噴射と風を操りバランスよく着地した。

『ギィ……』

 すべてを奪えなかったが、手の元にある三枚のカード。黒と金と銀のカードに満足したかゆっくりと体内に取り込む。
 魔力もたらふく吸収したからか、ボロボロだった格好の修復されてヒビ割れた仮面以外は修復されていた。

「アレは……!」

 取り込まれたカードを偶然見ていた龍崎がハッとした顔で抱えている麻衣を見つめる。感じ取れていた筈の威圧的な気配が3つ。魔力消耗とは明らかに異なり消えているのが分かった。
 つまり……

「今のカード……彼女の」

 呆然としているが、仮面の魔王は止まらない。
 さらに手を高く伸ばす。すると倒した筈の三機の『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』が光り始める。粒子のように分解すると粒子の全てが魔王の元へ集まっていく。
 暗黒の光も増幅して魔王の一時的に隠すと……。

「三機を吸収して……融合したのか」

 光の中から現れたのは、機械の鎧を纏った魔王の姿。
 機械仕掛けの鳥の鋼翼、獅子のような獣の四つの脚、分厚い鎧越しの龍の胸元と剛力な巨大な腕、金属の大きな角も生やしており、機械のキメラのような姿をした仮面の魔王が降臨した。 

「ふん!」

 先手を打ったのは零。
 構えた黒刀の形状を変化させる。太さは同じのまま何メートルにも伸ばした刃を大振りで振るう。重さなどないから鋭い一閃が機械の魔王を襲う。

『ギァァァァァァァッ』

 しかし、魔王の周囲を張った円柱の結界が零の黒刀を阻む。その反動は振るった零を押し返すほど。
 体勢が崩れた零へ魔王は背中にある翼から太めのレーザーガンを連射で撃つ。暗黒の属性が付与されて全ての光線が禍々しい色をしていた。

「ッ!」

 咄嗟に黒刀を回転させて暗黒の光線を弾く。黒刀だけで相殺し切れず刀が刃こぼれを起こすが、零が手で触れると元の刃に戻った。

「相手は零さんだけじゃない!」

 麻衣を側にいた鷹宮に預けた龍騎がしかけた。足の炎の噴射で加速して燃え上がる炎の拳を叩きつけたが、ギシギシと軋む程度に終わった。

「硬過ぎっ!」

 愚痴ながら手の炎を消して電撃を纏う。魔王の仮面に手を当てて一気に放出したが、少し発動してすぐ逃げた。

「そうでした! 魔力を吸収するんだった! オレの馬鹿!」

「刃、焦るな」

 魔力吸収、魔王だけじゃなく融合した機械にも三機分も搭載されている。武器も使えるのならそのスキルが使えてもおかしくないのに、龍崎は焦りから無駄撃ちをしてしまった。
 雷が発生した途端、プスンと消化したみたいに消える。幸い自分の体内魔力までは奪われる前に回避できたが、散々な結果に頭を抱えた。

「大地は大丈夫なのか? 気配的には瀕死みたいだが」

「大丈夫じゃないですし、結界もそろそろ維持が限界です。外側から攻撃されてる感じからしてきっと人がいっぱい集まってるんでしょう」

 もう数分も保たない。しかも龍崎の集中力かやられたらその時点で解ける。外への被害回避は難しくなっていた。

(幸村君の治療も結界も全然時間がない! だが、短時間でこの怪物を倒す方法はオレには――)

「いや、あるかもしれない」

「何が? 勝つ方法か?」

 真っ先に思い浮かんだのは、協力者の時一から複製で貰った能力。
 次に思い浮かんだのは、自分の能力と奥手。

(どれを選んでも確実とは言えない。だが、零さんと組めばあるいは……)

 倒れている大地と麻衣を横目で一瞥した。

「……やるしかないか」

 そして1つの決断をする。リスク承知の案である。
 被害を覚悟して結界への集中を解こうとして、――突然の事態急変に手が止まった。

『ギィィィアアアアアアアアッ!?』

 苦悶の唸り声を上げる魔王が暗黒のオーラに飲まれる。
 その場から逃げ出すように急上昇して、覆っていた龍崎の結界を突き破った。

「は? なんで……?」

「飛んで行ったな。とりあえずこの場での最悪の展開は回避出来たか」

 そのまま明後日の方向へ飛んで行く。
 突然の暗黒の光に会場の外が一層騒がしくなる中、龍崎は唖然として固まり、零は一息を吐くと倒れている大地たちの元へ駆け寄った。
 

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