元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

研究者もまた苦労人だと痛感した。

「い、以上で本日の能力テストを終了です。お疲れ様でした……」

「はぁーい。お疲れ様でーす」

 ひと暴れして満足したか、汗を拭った麻衣が軽調子で挨拶して、ボロボロになった施設を後にする。今回用意された場所は頑丈が売りな実験施設で、戦艦ミサイルでも簡単には壊れない壁や地面などであったが……流石に5日近くも付き合えば研究員たちも覚悟は出来ていたらしい。破壊尽くされた惨状を見ても魂が抜けている者は1人もおらず、代わりに無言で涙したり唇を噛んだり、気を紛らわせようと辞書の3倍はありそうな分厚い本を読みふけていた。

「お疲れです。その……頑張って」

「アハハハ……ハイ」

 こっちはただ要請を受け入れただけだが、なんか申し訳なくなってつい肩を優しく叩いて慰めてしまった。全員大学生や院生で年上だけど、子供みたいに涙目で落ち込んでいる姿に耐えきれませんでした。今度やる時はお菓子何か持って来ようと誓った。

「なんだなんだ? 全員お通夜みたいな顔しやがって」

 そうしていると実験室のCP室から如何にも博士のような真っ白な髭と髪をした男性がやって来る。ズーンと落ち込んでいる部下たちを見て呆れた溜息を吐く。

「これだから若い奴らは……実験施設なんか何が起きても問題ない壊れるのが前提の場所だろうが」

「そうですが日村教授、この有様を何度も目にすると……教授じゃあるまいし」

「最初の頃よりはだいぶマシになりましたが、この惨状を受け入れるには、まだまだ自分たちは精神はそこまで図太くなくて……教授ほど」

「「な〜?(チラ)」」

「――さり気なくワシに喧嘩売ってないか? クビにされたいならさっさと言え」

「「スンマセンでしたっ!」」

 即座に謝る良いコンビだ。心の中でそれとなく拍手していると、溜息をついたここ責任者の教授がこちらに向いた。俺に対しては普通だが、麻衣の方を見ると途端に険しいものになったが、いい加減慣れた。

「この5日で大体のデータは取れたが、やはり人外級だな。そこの小娘と青二才」

「喧嘩売ってますね。このクソジジイさん?」

 クソとか言わない。年頃の女子の言葉使いとは思えない。この数日でハッキリしたが、麻衣と教授はどうも相性が悪い。というか悪過ぎた。
 小娘と言われた程度で喧嘩売るような性格では……あるけど、ここまで喧嘩腰なのは珍しい。……いや、最近結構見ている気がするが、本来はもっと抑えてくれる方だ。

「ジジイ言うな。このペチャパイ」

「あ? テメェ……」

 相性が本当悪い! 教授も喧嘩だから負の連鎖が発生してるんだ。麻衣まで「テメェ」とか言っちゃってるし! 
 実験に支障出るほどではないが、全員頭抱えてる。縋るように俺に「助けてぇー!」って言う視線が集まってくる。面倒な……

「あんだ? やるか?」

「上等、外にでな!」
 キャラが崩壊してるぞ後輩、どっちも怖いもの知らずか! 殆ど毎回こんな感じで睨み合ってるけど、何がそんなに気に食わないんだ! あ、同族だからか? なんか勝手過ぎるところや金に目がないところとか似てるし。

 ……とりあえず

「ふぎゃ!?」

「上等でも外に出なでもないわ」

 後輩の襟首掴んで引き離した。猫みたいにフッシャーって威嚇してるが知ったことか。
 邪魔な後輩を下げさせて仏頂面な大人・・に向き合った。

「今のは忘れて、データを見ても?」

「……好きにせえ」

 気に入らなさそうな顔だが、一応俺にはある程度信用があるらしい。持っていたタブレット見せて貰うとそこには麻衣の能力データ。ついでに俺のデータも記載されていた。

「結論から言わせてもらえばお前さんたちの能力は既に能力の枠を超えてる。基本的には武器系ウェポン超人系ヒーローの特徴が見えるが、いくらなんでも汎用性が高過ぎる。言うなら特異系イレギュラーのそれに近い武器系ウェポン超人系ヒーローだろうな」

「『進化』……もしくは『覚醒』しているってことか?」

 敬語ではないのは本人からやめろと言われたからだ。部下にしている人たちや麻衣にも当然許可していないが、色々と話していくうちに認められたようだ。

 ちなみに『進化』や『覚醒』は能力に成長の先にあるものだ。ある程度強化された能力は壁に当たり、何かの拍子にぶち破ると追加効果が加わる――これが『進化』。大体が強化の延長線上のようなものだが。

 もう一つは壁など関係なくひょっとしたことで能力そのものが大幅に向上する――これが『覚醒』。こちらはかなりレアな現象だそうで、『進化』にも似ているが、こちらは圧倒的に強化されると言われている。

 似ているがかなり違うらしい。俺のクラスにはまだ『進化』経験者はいっても『覚醒』いない。他のクラスがどうかは知らないが、3年に数名……生徒会長や風紀委員長などは俺でも知っていた。

「お前らが感覚的にはどうなんだ?」

「どう……と言われてもな。最初からこんな感じでアイデアも浮かんだら色々と試したし」

 職業ジョブカードは最初から揃ってたし、特に壁にぶち当たった感覚もなく融合も出来て『戦神バトルマスター』も発現できた。正直『覚醒』と言われてもピンとこない。
 麻衣の方も同じだろう。俺と同じで契約していた魔物や他族の力を引き出せるようだが、それも最初からで特に大きな変化はないそうだ。

特異系イレギュラーは変わったのが多いが、ここまで変なのは見たことない」

 呆れながら俺が持っていたタブレットを奪う。指先で画面を叩くと俺の詳細ページを見せてきた。

「訳分からん本のようなものとカードらしきもので姿を変えてるが、原理そのものが意味分からん。能力も読み取れた波長パターンも変化して……何でもありか!」

「そう言われてもな」

「そこの小娘も同様に基礎盤が無茶苦茶だ。肉体そのものが変化しているのか、それとも変化しているように見えているのか、服装や体積や矛盾点が多過ぎてデータが纏まらんぞ」

「そ〜言われても〜ねぇ〜?」

「このク・ソ・カ・ギ……!」

 そんな感じで会話は打ち切りとなった。続けていたら死人が出そうな勢いだったから、喧嘩腰な麻衣にゲンコツ入れてさっさと施設を後にする。
 他の施設に予定もないので、昼前に学園島へ戻ることにした。 

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