元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
謎が解けても絶望しか待ってなかった。
「異世界の魔神は『神々の戦い』ダメージが重くすぐ死んだそうだが、魂までは死んでなかった。魔神の使者はその意思に従ってこの世界に棲みついていたんだ」
「なるほど、傍迷惑もいいところだ。潔く成仏して使者のカスもとっとと地獄にでも帰省してほしかったわ」
「お、おお……カス扱いとは、あのクールなセンパイが相当ご立腹な様子です」
「ご立腹? は、まさか――見かけたら殴り飛ばして串刺しにしたい気分なだけだ」
「で、デンジャラスなお兄ちゃんだぁ。本当に珍しい」
驚いた様子で2人が言ってくる。俺ってそんなに冷めてるキャラなのか? 怒る時は結構怒るぞ。
「ところで幸村君。1つ訊きたい」
「なんだ?」
使者の説明に入った直後、龍崎が俺に何か尋ねてくる。正直前の話で気持ちが追いついてないが、確認でもあるのだろう。俺が聞く姿勢を取ると切り出した。
「この世界の魔物と戦闘して、何か違和感を覚えなかったか?」
「? 違和感って? 具体的には?」
「言い方を変えよう。君が戦ったあの世界の魔物と何処か似ていると感じたことはないか?」
「……」
あの世界とは当然異世界のことだ。その世界の魔物とこの世界の魔物……こちらはモンスターと呼ばれているが。
「センパイ……」
「そうだな。……ある」
入学したばかりの麻衣も初めて戦闘した際に言っていた。その時は言葉を濁して誤魔化したが、俺も同じ気持ちだった。
「明確な答えを知っているわけじゃない。この世界のモンスターは異世界の魔物と似ているが……明らかに一体一体が弱い。知性も低く見えて能力も劣る」
「そう、同じでもまるで劣化した存在。コピーでもされたかクローンのような存在に見える失敗作ってところか?」
「失敗作とまでは言わない。現にヤバいのも中には混じってる。四獣とかも」
「そのヤバいのはここ最近じゃないか? もっと正確に言うなら君が入学してすぐ。零さんからも報告にもあるが、君が入学してすぐ島の方で良からぬ現象が発生したと」
「現象って……まさか」
「……」
聞いていた麻衣がハッとした顔でこちらを見る。俺が入学した直後に起きた現象。弱いモンスターばかりなのに急に強くなった奴らが出始めた。去年の四獣戦もその影響を受けていたか、虫どもの思わぬ襲撃と数に押されてチームが崩れたところが何組もあって、やむなく俺が緊急出動したんだ。
「あの時は俺も驚いた。何せその現象を引き起こしてる奴は倒した筈の魔王の関係者だと分かったからだ」
その後俺は鷹宮や橘、一部の連中から目を付けられてそれどころではなかった。学園側が今回のように調査部隊を派遣したが、結局今回のように何も分からず、色々と島への立ち入りへの規則が増えて終わりとなった。
「零さんと再会した時にも奴はちょっかいを掛けて来た。撃退したが、奴には不可解なことが多かった」
その現象は未だに消えていない。度々起きていると俺も耳にしている。何故かモンスターが異常種となる原因不明の現象。……奴が龍崎が言っている使者なのなら、俺たちを狙ってくる理由も分かる。
「『パニックエラー』を引き起こしている奴は今回の四獣戦でも俺を狙おうとしてた」
「狙って来て当然だ。ここまで言えば大体分かるだろう?」
俺たちを見つめる龍崎。部屋の空気が重くなり緊張が走る中、明らかとなった事実を彼は告げた。
「この世界にいる者の正体は倒された魔神の使者であり、同時に影で魔王を操って異世界を実験場にしていたイカれた奴だ。君らを呼び出そうとした人間たちや魔王も利用して、この世界も異世界のように作り変えようとしたが、君が魔王を倒した際に残留因子となっていた魔神の魂を零さんが倒した」
「零さんが?」
「そうして魔神が残していた呪いは解かれた。異世界の方は新たな魔王も現れず、すっかり平和に……いや、人間同士の戦争は続いてるから素直に平和とは言えないか」
「いや、あの魔王の件だけでも片付いていたのなら俺も満足だ。少し心配な人たちもいたが、そこは仕方ないさ」
言っても数人だけだが、最後の戦いの時点で別れは告げている。こっちに戻った時点で諦めもついていたから、そこまでショックではなかった。
「まぁ人たちと言いつつ、センパイの場合は王女とか魔王の娘とかでしょう? 私に内緒で随分と親しくしていたようですしぃ〜?」
「え、何それ? 空は聞いてないよお兄ちゃん?」
なんて後輩の茶化しもあったが、とりあえず龍崎の話はまだ続く。
「相手は間違いなく実験を台無しにされて恨んでいる。魔神の倒したのは零さんだけど奴からしたら君も十分関係者だからな」
「恨んでるなら何故すぐに俺たちを襲わなかったんだ? 帰還してすぐなら倒せたかもしれないのに」
「そっちの後輩さんが居たからかな? オレから見ても凄まじい魔力量を保有してる。正直羨ましいくらいだ」
「えへんですね!」
凄まじい魔力量と言われて嬉しく思ったか、真っ平ら胸を突き出して偉そうにする後輩。
「あんまり褒めないでくれ。すぐ調子に乗って仕出かすから」
「仕出かすってなんですか! ちゃんと褒めてくださいよぉ! 褒めたらその分嬉しいことがありますから!」
いやないだろう。迷惑行為が追加されるだけにしか思えない。
なんて雑談が増えた頃には夜も遅くなり、龍崎も悪いと言って連絡先を交換したのち部屋を後にした。制服もそうだが、スマホなんて何処から用意したのか何気なく尋ねたところ、
「オレもあまりよく知らないが、この世界にも色々と裏があるってことさ」
なんか薄笑い顔でそう言われた。そのスマホ入手の際に何があったというのか、訊いてみたい気がしたが、寒気がしたのでここは大人しく遠慮することにした。
なんだか衝撃的な説明会であったが、なんとか無事に終わりを迎えたのだった。
その深夜のことだった。
「早速呼び出されるとは思わなかった」
「悪いな。けどあの場ではどうしても話せなかった。それに君もまだ話したいことがあるんじゃないか?」
真夜中に急に龍崎から連絡があって、俺は1人でマンションの屋上に来ていた。普段は入れない場所であるが、龍崎が手を回していたのだろう。待っていた彼は謝りながら2人で話したかったと告げて、俺も同意するように頷いた。
「零さんから俺の能力は訊いてるか?」
「知ってる。倒したという魔王幹部とやらのカードを持っていることも、それを利用した強引な強化を使っていることも」
『戦神』のことか、あれ自体は基本職カードの融合であるが、その際に俺の中に何故か宿っている『魔王の力』まで混ざってくるのだ。
どうして宿っているか不明であるが、その力のお陰で幹部たちのカードも利用出来るらしい。零さんからは使用控えるように言われていたが、この間の四獣戦で結構使ってしまい力の侵食がかなり進行してしまった。
「魔王とは魔神の力によって生み出された存在。そういうことでいいんだよな?」
「そういう認識で合ってる」
「モンスターを異常種にする『パニックエラー』も?」
「魔神の力を薄めたもので間違いない。魔物にとって魔神の力は毒物というより薬物に近いからな」
「あのマシンも同じ」
「そうだな、同じだ」
ここまではいい。予想通りの回答だ。
問題は次の問いである。
「なら――俺たちは? 俺たちの力は何が原因だ?」
「……」
即答はなかった。沈黙した龍崎は無表情で俺を見ている。
龍崎の説明を聞いた際に浮かんだ疑問とは、俺や麻衣の異世界の力――さらに言うと能力者たちの力の正体。
魔力に似ている力を消費して能力を使う。諸説では大昔にいた天然系の能力者たちが技術を広げて今に至っていると言われているが、魔神の話を聞いて少なからず不安が過った。
「その質問を答える前にオレたちが隠している任務を伝えたい」
唐突に龍崎は話を切り出す。無表情のままでジッとこちらを見据えて告げてきた。
「オレたちの任務は師匠の力の回収。『神々の戦い』の際に敵側の攻撃で魔導神である師匠は負傷した。その際、連中は師匠の魔力因子を奪い取って逃走して、その力を利用して色々な実験をした」
「魔力の因子?」
「君と会った零さんも同じ任務を受けていた。最終的には君に全てを委ねて任務を放棄したが、先日の彼女の様子を見て……少し危うく感じてる」
「麻衣のことかが? 出会ってたことは零さんに内緒にしろと言われたが、なんでそこまで麻衣を警戒する?」
言いながら言葉の端から不満を溢れているのが分かる。生意気な後輩であるが、アイツだってあの魔力に散々苦労してきた。『魔導王』になったことである程度安定したように見えるが、感情によって魔力が暴れそうになる。そんな彼女を零さんたちは何を危惧しているのか、しっかり聞かないとどうしても気が済まなかった。
「後輩思いの良い先輩ところ悪いが――小森麻衣には注意しろ。あれに背中を預けると命が危ないぞ」
「……!」
一瞬だが、キレそうになった。龍崎は何を言った? 麻衣を注意しろだと?
それでは本当に危険人物扱いじゃないか、俺は無意識に殺気が発し始めたが、龍崎は止まらない。
「彼女は君以上に厄介なものを抱えてる。場合によって使者よりも危険な存在になるかもしれない。使者は彼女を狙う可能性があるから今後はガードも忘れるな」
「待てよ……」
「可能ならレイダーの戦いにも引き離したいが、刺激して覚醒されても困る。不安はあるが、君に任せるしかない。零さんもそう結論付けたのかもしれない」
「待てって言ってんだッ!」
らしくなく声が荒げてしまう。けど止まれる気がしない。焦りが合わさって興奮を
淡々と言っている龍崎にとうとう我慢が出来なくなった。
「だからどういう意味だ! いい加減質問に答えろ! 確かに麻衣はトラブルを呼び込む天才だが、そこまで言うほどか! 守れとか引き離したいとか……」
「君のように魔王の力を隠しているだけじゃないんだ。彼女の場合はオレの師匠の力もある。『戦神』の力を宿している君よりもずっと濃い力が……」
「――は?」
今なんて言った? 麻衣の中に魔王の力が? なんのことだ?
俺はただ俺たちの力の正体が知りたいだけだが、龍崎は何を考えて俺にそう伝えたんだ? 本当に『戦神』が何か関わっていたのか?
「予想しての問いじゃなかったのか? なら答えよう。――その通りだ」
何故そこで龍崎の師匠が出て、しかも『戦神』の単語が出てくるのかと呆然とする俺に……夜よりも冷たい目をした龍崎がハッキリと答えた。
「君らのいた異世界とここの世界は『戦神』が管理している世界だ。そこを死にかけた魔神が干渉して師匠から掠め取った魔力因子と自分の力を組み合わせて――魔王を生み出した。魔王の正体は魔神の力であるが、その一部には魔導神の力も混じってる」
理解が追い付いた気がした。龍崎や零さんが麻衣を危惧している理由。それが魔王だけじゃないと分かり、魔導神が繋がっているのだと察したところで……
「そして君の後輩は――君のように『戦神』の恩恵や魔王の力だけじゃない。『魔導王』――魔導神の力を色濃く宿している。残っていた因子の全てが彼女の中にあるんだ」
彼らの任務の本当の意味が分かってしまった。
マシンや使者よりも危険視しており、刺激させたくないということは……
「オレたちの任務は師匠の魔力回収。つまり小森麻衣の中に宿っている魔力も同じだ。零さんは君を信じて彼女を見逃したが、オレはあの人のように君らを特別視したりしない。もしまだ暴走する可能性があるなら、オレはどんな手を使ってでも彼女を止めないといけない」
「……っ」
鋭い目付きでこちらを捉える。俺以上の鋭利な刃物のような殺気を乗せて、静かな恐怖が俺の体を硬直させた。
「もし今回の騒動の末、戦神、魔王、魔導神の因子を所持する君らが世界を脅かす存在だと、危険な存在だと判断したら――命までは取らない。ただ、その因子だけは絶対に取り除かせてもらう」
死刑を告げる裁判官のように龍崎は言う。拒否など一切許さない雰囲気でただ静かに俺が頷くのを待っていた。
『作者コメント』
どうにか説明会プラス深夜のこっそり説明会も終わりました! ややこしい続きで結構疲れました! もう十分喋った気分です!
ここで補足説明です(本編では書き切れそうになく、こちらに書きました)。
刃と零の任務は魔神が送り込んでいる機械兵の破壊と麻衣と大地に宿っている別世界の因子の回収です。
本来は異世界にいる最中に零と協力者のヴィットが回収して、代わりに魔王や魔神の魂を倒す予定したが、後輩の為に一生懸命強くなろうとしている大地に我慢出来ず零が介入。鍛えた上に影ながら何度も露払いして、こっそりと魔神の魂を破壊することに成功。2人を無害扱いにして見逃した。
その後、元の世界に帰還した大地が困っていることを魔導神のジークを通じて知り、ジークの力で再び再開を果たす。戦神の力を引き出しやすくしたが、複数の因子が混ざっている彼と麻衣が心配になり、潜入中のヴィットにこれでもかと念押しをして帰って行った。
ちなみに宿している因子の数と種類について。
幸村大地
『戦神の因子』(異世界で職業の力を手にした際と能力者学園で能力を手に入れた時)
『魔王の因子』(異世界の最終決戦で死に際の魔王に埋め込まれる)
小森麻衣
『戦神の因子』(異世界で職業の力を手にした際と能力者学園で能力を手に入れた時)
『魔王の因子』(魔王が残した武器をこっそり持ち帰って取り込んだのが原因)
『魔導神の因子』(修業中に儀式と言われて王族側に因子の石を何度も取り込まされていた)
刃たちが危険視しているのは魔王の因子のみで、暴走さえしなければ強引に取り除くつもりはない。
ただ、麻衣の方は戦闘中に何度も感情的に暴れることがあり、放置は危険なのではと監視役のヴィットから聞かされていた。
「なるほど、傍迷惑もいいところだ。潔く成仏して使者のカスもとっとと地獄にでも帰省してほしかったわ」
「お、おお……カス扱いとは、あのクールなセンパイが相当ご立腹な様子です」
「ご立腹? は、まさか――見かけたら殴り飛ばして串刺しにしたい気分なだけだ」
「で、デンジャラスなお兄ちゃんだぁ。本当に珍しい」
驚いた様子で2人が言ってくる。俺ってそんなに冷めてるキャラなのか? 怒る時は結構怒るぞ。
「ところで幸村君。1つ訊きたい」
「なんだ?」
使者の説明に入った直後、龍崎が俺に何か尋ねてくる。正直前の話で気持ちが追いついてないが、確認でもあるのだろう。俺が聞く姿勢を取ると切り出した。
「この世界の魔物と戦闘して、何か違和感を覚えなかったか?」
「? 違和感って? 具体的には?」
「言い方を変えよう。君が戦ったあの世界の魔物と何処か似ていると感じたことはないか?」
「……」
あの世界とは当然異世界のことだ。その世界の魔物とこの世界の魔物……こちらはモンスターと呼ばれているが。
「センパイ……」
「そうだな。……ある」
入学したばかりの麻衣も初めて戦闘した際に言っていた。その時は言葉を濁して誤魔化したが、俺も同じ気持ちだった。
「明確な答えを知っているわけじゃない。この世界のモンスターは異世界の魔物と似ているが……明らかに一体一体が弱い。知性も低く見えて能力も劣る」
「そう、同じでもまるで劣化した存在。コピーでもされたかクローンのような存在に見える失敗作ってところか?」
「失敗作とまでは言わない。現にヤバいのも中には混じってる。四獣とかも」
「そのヤバいのはここ最近じゃないか? もっと正確に言うなら君が入学してすぐ。零さんからも報告にもあるが、君が入学してすぐ島の方で良からぬ現象が発生したと」
「現象って……まさか」
「……」
聞いていた麻衣がハッとした顔でこちらを見る。俺が入学した直後に起きた現象。弱いモンスターばかりなのに急に強くなった奴らが出始めた。去年の四獣戦もその影響を受けていたか、虫どもの思わぬ襲撃と数に押されてチームが崩れたところが何組もあって、やむなく俺が緊急出動したんだ。
「あの時は俺も驚いた。何せその現象を引き起こしてる奴は倒した筈の魔王の関係者だと分かったからだ」
その後俺は鷹宮や橘、一部の連中から目を付けられてそれどころではなかった。学園側が今回のように調査部隊を派遣したが、結局今回のように何も分からず、色々と島への立ち入りへの規則が増えて終わりとなった。
「零さんと再会した時にも奴はちょっかいを掛けて来た。撃退したが、奴には不可解なことが多かった」
その現象は未だに消えていない。度々起きていると俺も耳にしている。何故かモンスターが異常種となる原因不明の現象。……奴が龍崎が言っている使者なのなら、俺たちを狙ってくる理由も分かる。
「『パニックエラー』を引き起こしている奴は今回の四獣戦でも俺を狙おうとしてた」
「狙って来て当然だ。ここまで言えば大体分かるだろう?」
俺たちを見つめる龍崎。部屋の空気が重くなり緊張が走る中、明らかとなった事実を彼は告げた。
「この世界にいる者の正体は倒された魔神の使者であり、同時に影で魔王を操って異世界を実験場にしていたイカれた奴だ。君らを呼び出そうとした人間たちや魔王も利用して、この世界も異世界のように作り変えようとしたが、君が魔王を倒した際に残留因子となっていた魔神の魂を零さんが倒した」
「零さんが?」
「そうして魔神が残していた呪いは解かれた。異世界の方は新たな魔王も現れず、すっかり平和に……いや、人間同士の戦争は続いてるから素直に平和とは言えないか」
「いや、あの魔王の件だけでも片付いていたのなら俺も満足だ。少し心配な人たちもいたが、そこは仕方ないさ」
言っても数人だけだが、最後の戦いの時点で別れは告げている。こっちに戻った時点で諦めもついていたから、そこまでショックではなかった。
「まぁ人たちと言いつつ、センパイの場合は王女とか魔王の娘とかでしょう? 私に内緒で随分と親しくしていたようですしぃ〜?」
「え、何それ? 空は聞いてないよお兄ちゃん?」
なんて後輩の茶化しもあったが、とりあえず龍崎の話はまだ続く。
「相手は間違いなく実験を台無しにされて恨んでいる。魔神の倒したのは零さんだけど奴からしたら君も十分関係者だからな」
「恨んでるなら何故すぐに俺たちを襲わなかったんだ? 帰還してすぐなら倒せたかもしれないのに」
「そっちの後輩さんが居たからかな? オレから見ても凄まじい魔力量を保有してる。正直羨ましいくらいだ」
「えへんですね!」
凄まじい魔力量と言われて嬉しく思ったか、真っ平ら胸を突き出して偉そうにする後輩。
「あんまり褒めないでくれ。すぐ調子に乗って仕出かすから」
「仕出かすってなんですか! ちゃんと褒めてくださいよぉ! 褒めたらその分嬉しいことがありますから!」
いやないだろう。迷惑行為が追加されるだけにしか思えない。
なんて雑談が増えた頃には夜も遅くなり、龍崎も悪いと言って連絡先を交換したのち部屋を後にした。制服もそうだが、スマホなんて何処から用意したのか何気なく尋ねたところ、
「オレもあまりよく知らないが、この世界にも色々と裏があるってことさ」
なんか薄笑い顔でそう言われた。そのスマホ入手の際に何があったというのか、訊いてみたい気がしたが、寒気がしたのでここは大人しく遠慮することにした。
なんだか衝撃的な説明会であったが、なんとか無事に終わりを迎えたのだった。
その深夜のことだった。
「早速呼び出されるとは思わなかった」
「悪いな。けどあの場ではどうしても話せなかった。それに君もまだ話したいことがあるんじゃないか?」
真夜中に急に龍崎から連絡があって、俺は1人でマンションの屋上に来ていた。普段は入れない場所であるが、龍崎が手を回していたのだろう。待っていた彼は謝りながら2人で話したかったと告げて、俺も同意するように頷いた。
「零さんから俺の能力は訊いてるか?」
「知ってる。倒したという魔王幹部とやらのカードを持っていることも、それを利用した強引な強化を使っていることも」
『戦神』のことか、あれ自体は基本職カードの融合であるが、その際に俺の中に何故か宿っている『魔王の力』まで混ざってくるのだ。
どうして宿っているか不明であるが、その力のお陰で幹部たちのカードも利用出来るらしい。零さんからは使用控えるように言われていたが、この間の四獣戦で結構使ってしまい力の侵食がかなり進行してしまった。
「魔王とは魔神の力によって生み出された存在。そういうことでいいんだよな?」
「そういう認識で合ってる」
「モンスターを異常種にする『パニックエラー』も?」
「魔神の力を薄めたもので間違いない。魔物にとって魔神の力は毒物というより薬物に近いからな」
「あのマシンも同じ」
「そうだな、同じだ」
ここまではいい。予想通りの回答だ。
問題は次の問いである。
「なら――俺たちは? 俺たちの力は何が原因だ?」
「……」
即答はなかった。沈黙した龍崎は無表情で俺を見ている。
龍崎の説明を聞いた際に浮かんだ疑問とは、俺や麻衣の異世界の力――さらに言うと能力者たちの力の正体。
魔力に似ている力を消費して能力を使う。諸説では大昔にいた天然系の能力者たちが技術を広げて今に至っていると言われているが、魔神の話を聞いて少なからず不安が過った。
「その質問を答える前にオレたちが隠している任務を伝えたい」
唐突に龍崎は話を切り出す。無表情のままでジッとこちらを見据えて告げてきた。
「オレたちの任務は師匠の力の回収。『神々の戦い』の際に敵側の攻撃で魔導神である師匠は負傷した。その際、連中は師匠の魔力因子を奪い取って逃走して、その力を利用して色々な実験をした」
「魔力の因子?」
「君と会った零さんも同じ任務を受けていた。最終的には君に全てを委ねて任務を放棄したが、先日の彼女の様子を見て……少し危うく感じてる」
「麻衣のことかが? 出会ってたことは零さんに内緒にしろと言われたが、なんでそこまで麻衣を警戒する?」
言いながら言葉の端から不満を溢れているのが分かる。生意気な後輩であるが、アイツだってあの魔力に散々苦労してきた。『魔導王』になったことである程度安定したように見えるが、感情によって魔力が暴れそうになる。そんな彼女を零さんたちは何を危惧しているのか、しっかり聞かないとどうしても気が済まなかった。
「後輩思いの良い先輩ところ悪いが――小森麻衣には注意しろ。あれに背中を預けると命が危ないぞ」
「……!」
一瞬だが、キレそうになった。龍崎は何を言った? 麻衣を注意しろだと?
それでは本当に危険人物扱いじゃないか、俺は無意識に殺気が発し始めたが、龍崎は止まらない。
「彼女は君以上に厄介なものを抱えてる。場合によって使者よりも危険な存在になるかもしれない。使者は彼女を狙う可能性があるから今後はガードも忘れるな」
「待てよ……」
「可能ならレイダーの戦いにも引き離したいが、刺激して覚醒されても困る。不安はあるが、君に任せるしかない。零さんもそう結論付けたのかもしれない」
「待てって言ってんだッ!」
らしくなく声が荒げてしまう。けど止まれる気がしない。焦りが合わさって興奮を
淡々と言っている龍崎にとうとう我慢が出来なくなった。
「だからどういう意味だ! いい加減質問に答えろ! 確かに麻衣はトラブルを呼び込む天才だが、そこまで言うほどか! 守れとか引き離したいとか……」
「君のように魔王の力を隠しているだけじゃないんだ。彼女の場合はオレの師匠の力もある。『戦神』の力を宿している君よりもずっと濃い力が……」
「――は?」
今なんて言った? 麻衣の中に魔王の力が? なんのことだ?
俺はただ俺たちの力の正体が知りたいだけだが、龍崎は何を考えて俺にそう伝えたんだ? 本当に『戦神』が何か関わっていたのか?
「予想しての問いじゃなかったのか? なら答えよう。――その通りだ」
何故そこで龍崎の師匠が出て、しかも『戦神』の単語が出てくるのかと呆然とする俺に……夜よりも冷たい目をした龍崎がハッキリと答えた。
「君らのいた異世界とここの世界は『戦神』が管理している世界だ。そこを死にかけた魔神が干渉して師匠から掠め取った魔力因子と自分の力を組み合わせて――魔王を生み出した。魔王の正体は魔神の力であるが、その一部には魔導神の力も混じってる」
理解が追い付いた気がした。龍崎や零さんが麻衣を危惧している理由。それが魔王だけじゃないと分かり、魔導神が繋がっているのだと察したところで……
「そして君の後輩は――君のように『戦神』の恩恵や魔王の力だけじゃない。『魔導王』――魔導神の力を色濃く宿している。残っていた因子の全てが彼女の中にあるんだ」
彼らの任務の本当の意味が分かってしまった。
マシンや使者よりも危険視しており、刺激させたくないということは……
「オレたちの任務は師匠の魔力回収。つまり小森麻衣の中に宿っている魔力も同じだ。零さんは君を信じて彼女を見逃したが、オレはあの人のように君らを特別視したりしない。もしまだ暴走する可能性があるなら、オレはどんな手を使ってでも彼女を止めないといけない」
「……っ」
鋭い目付きでこちらを捉える。俺以上の鋭利な刃物のような殺気を乗せて、静かな恐怖が俺の体を硬直させた。
「もし今回の騒動の末、戦神、魔王、魔導神の因子を所持する君らが世界を脅かす存在だと、危険な存在だと判断したら――命までは取らない。ただ、その因子だけは絶対に取り除かせてもらう」
死刑を告げる裁判官のように龍崎は言う。拒否など一切許さない雰囲気でただ静かに俺が頷くのを待っていた。
『作者コメント』
どうにか説明会プラス深夜のこっそり説明会も終わりました! ややこしい続きで結構疲れました! もう十分喋った気分です!
ここで補足説明です(本編では書き切れそうになく、こちらに書きました)。
刃と零の任務は魔神が送り込んでいる機械兵の破壊と麻衣と大地に宿っている別世界の因子の回収です。
本来は異世界にいる最中に零と協力者のヴィットが回収して、代わりに魔王や魔神の魂を倒す予定したが、後輩の為に一生懸命強くなろうとしている大地に我慢出来ず零が介入。鍛えた上に影ながら何度も露払いして、こっそりと魔神の魂を破壊することに成功。2人を無害扱いにして見逃した。
その後、元の世界に帰還した大地が困っていることを魔導神のジークを通じて知り、ジークの力で再び再開を果たす。戦神の力を引き出しやすくしたが、複数の因子が混ざっている彼と麻衣が心配になり、潜入中のヴィットにこれでもかと念押しをして帰って行った。
ちなみに宿している因子の数と種類について。
幸村大地
『戦神の因子』(異世界で職業の力を手にした際と能力者学園で能力を手に入れた時)
『魔王の因子』(異世界の最終決戦で死に際の魔王に埋め込まれる)
小森麻衣
『戦神の因子』(異世界で職業の力を手にした際と能力者学園で能力を手に入れた時)
『魔王の因子』(魔王が残した武器をこっそり持ち帰って取り込んだのが原因)
『魔導神の因子』(修業中に儀式と言われて王族側に因子の石を何度も取り込まされていた)
刃たちが危険視しているのは魔王の因子のみで、暴走さえしなければ強引に取り除くつもりはない。
ただ、麻衣の方は戦闘中に何度も感情的に暴れることがあり、放置は危険なのではと監視役のヴィットから聞かされていた。
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