元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

説明はいつも会話が多くて大変です。

ややこしい説明で遅れてしまいました。
全部入れたかったのですが、前半と後半に分けます。



「まず言っておくとオレの世界と君らの世界は時間の流れがまったく異なる。というか滅茶苦茶に入り組んでいるから、そのつもりで聞いてくれ」

 そんな前振りをしてくる。それが何を意味するか知らないが、一応俺たちは頷いて見せると龍崎も続けてくれた。

「よし、じゃあまず……話は『神々の戦い』から始める。正確な年代は不明だが、数千年以上前と思ってくれ」

「いきなり突飛な話な気がした」

「言ってるオレも同じ気持ちだが、とにかくそこからなんだ」

 つい言ってしまうと龍崎も同感だと頷きつつ、手で待つように促してくる。どうやら本当にそこからじゃないと説明が無理らしい。麻衣も空もジッと黙って聞いていた。

「神々の単語で予想は付くと思うが、神と呼ばれる存在はいる。大体は創造主とも呼ばれる世界を作り上げた連中だが、神と呼ばれても色んな種類がいる」

 用意した紙にペンで書き始める。大きな円を描いて中に神(創造主)とあり、その下の方に種類が書かれていく。

「神、女神、戦神、魔導神、精霊神……など複数に分かれている。その呼び名の通り創造主でも各々に役割が決められて、神その者もそのルールには逆らえない。神は絶対と言われがちだがな」

 戦神というワードに麻衣が微かに反応した。俺も内心気にはなったが、そこは一旦置いておく。
 龍崎は告げながらもう一つ円を描いた。こっちは若干トゲがあり、本題はこっちなのだと思った。

「役割については今回はそれほど関係ない。神にも種類があることを分かってほしい。そして……問題は創造主とは違うもう一つの存在だ」

 思い出したように苦い顔で言うと、大きな字でその名を円の中に書いた。

「『魔神』――神でありながら欲望という邪悪な力に堕ちた連中。君らにとって今回だけじゃない。転移されたと言う異世界の方も奴らが原因だ」

「は?」

 ふい言われて、いまいちピンとこなかった。
 鈍い方じゃないと思うが、俺だけじゃない。麻衣も空もボーと聞いて理解している様子ではなかった。

 確かに俺と麻衣は異世界に転移された。代々召喚された異世界人は成長凄まじいという理由だけで、俺は勇者になって麻衣は魔導王となった。利用された形だが魔王を倒して無事に帰還した。
 そのことは龍崎が別世界の住人だと言われた際に答えている。何か見抜かれている感じで、尋ねて来た時から隠しても意味がないと思ったのだ。

 だからこそおかしい。何故ならあの件の主犯はどう見ても……

「あの世界の原因は魔王。もしくは国のトップたち、王族の筈……」

「あの時も調査してたから間違いないそうだよ? 監視してたあの人の報告だと」

「あの人?」

 俺たちの答えを否定する人物がいる? いったい誰のことだ?
 その謎解きも龍崎本人から告げられた。

「実は聞いているんだ。君らのことは――零さんから・・・・・

「――っ、零さんと知り合いなのか?」

 その名前は俺にとっては衝撃過ぎて言葉を失ってしまうほどだった。どうにか詰まりそうになった息を呑み込んで聞き返すと龍崎はコクリと頷き返した。

「オレとは別世界の仲間だ。君とも顔見知りだと聞いていたから、本当なら一緒にここにいた筈だったんだが、途中で逸れてしまった」

「そ、そうなのか……」

「魔力抜きで最強クラスの異能使いだから、居てくれると大助かりなんだけど」

 あの零さんと知り合い。だとすれば俺たちの正体や異世界のことを知っていても不思議じゃない。驚きの話であるが、寧ろ納得がいく話だった。

「お兄ちゃん、零さんって?」

「誰のことですかセンパイ?」

 空は知らなくてもしょうがない。ただ、同じ世界にいた麻衣の場合は少し理由が異なる。王城で修業中で顔合わせの機会がなかったこともあるが、恩人である零さんから去り際に口止めされていた。学園に入学してすぐ、こちらの世界で一度再会したことも話していない。

「もしかして前に言ってた、異世界で戦いを教えてくれたって言う……」

「何を気にしているか知らないが、話を戻していいか?」

 何か思い出しかけた麻衣だが、タイミングよく龍崎がペースを戻してくれた。心なしかジト目でこっちを見ている。……なんかすみません。

「続けてくれ」

「……敵のことは話したな。問題は遥か昔にあったという『神々の戦い』。簡単に言うと神の連合軍と魔神軍の対決になるが、それがすべての引き金でもあった」

「どういうことだ?」

「戦いには勝利したそうだが、魔神は執念深く生き延びてた。しかも……」

「龍崎さん?」

 落ち込んでいるように見える彼に不安げな顔で空が尋ねる。短い間にすっかり親しそうに見えるなぁ、とかツッコミそうになるが空気を読んで堪えましょう。

「あーごめん。ちょっとオレも因縁があってね」

「因縁ですか?」

「魔神はオレの師匠の宿敵なんだ。『神々の戦い』に参加していた魔導神・・・である師匠とね」

 さらっと凄いことを言ったぞ。
『神々の戦い』って数千年前なんだよな?
 で、魔導神というのも参戦したらしいが、その人は龍崎の師匠? え?

「人外なのか?」

「複雑な事情があるんだ。それに最初に言ったが、世界の間の時間は激しく乱れてる」

「は?」

「つまり戦い自体は数千年前でも、別の世界じゃ年代が全然違う。その影響も……」

 紙に書いた魔神の文字をペンで突く。心底ウザそうな顔のところを見ると、その師匠だけが理由じゃなさそうだ。

「生き残った連中は世界を超えて散り散りになった。噂じゃ『滅びた世界』を拠点にしているそうだが……その内の一体が君らが送られた異世界の元凶なんだ」

「元凶ってあの世界の魔王問題はずっと昔からだって聞いたぞ? 魔王なんか殆ど天災扱いで倒してもまた新たな奴が出てたって……」

「言っただろう? 時間は滅茶苦茶なんだ。逃げた奴はその異世界の大昔にたどり着いてたんだ。で、死に際に面倒な呪いを残していったんだ」

 ここでやっと話が繋がった気がした。まだ不透明な部分があるが、死に際ということはとりあえずあの世界の魔神は既に倒れていたということか。そこだけは少し安心した。
 そして呪いというのは『魔王』ことだと思われるが、確かにあんな化け物が何度も誕生するような仕組みを残していたのなら、迷惑極まりない呪いだな。

「魔神って相当タチが悪い奴らだったのか……」

「他人ごとだと思わないことだ。この世界も既にターゲットにされてる。以前来ていた零さんからの報告によるとな」

「この世界も?」

 狙われている? だとすればあの巨大なマシンも?と考えが浮かぶ俺に龍崎は説明を続けた。

「先日現れた戦略兵器――『滅亡の侵略者《ドレッド・レイダー》』こそが奴らの差金だ。この世界に潜伏している『魔神の使者』が招きやがった。大暴れする前にオレが倒したけど、あれを呼び出したということは連中もかなり本気のようだ」

 また新しい単語が増える。滅亡って……あのマシンそんな凶悪な名前だったのか、話を聞く限り倒したらしいけど。それに使者とかこの話にはどれだけ裏があるんだ。

 ……そろそろ麻衣あたりが根を上げそうだぞ。少しずつ頭から煙が出ているし。

「オレと零さんは師匠の指示で到着前のレイダーを仕留めようとしたが、対魔法戦に特化しているアレの装甲は普通の魔法攻撃じゃ全然びくともしない。火力もバカにならず異常でその所為で零さんと逸れた。最終的に奥手を使ってなんとか倒したが、もしまだ来るようなら苦戦は免れない」

「まだ来るって……あんなとんでもないマシンが他にもいるのかよ」

「いる。そもそもアレは製作者の魔神が人員不足を補う為に作り上げたもの。大量生産を目標にしていくつかの世界でも確認されてる。滅ぼされた世界もあって、オレの世界にも出て来てかなりヤバかった」

 正直ふざけるなと言いたい。大量生産だと? あんな阿保みたいな魔力耐性が高くて頑丈で火力も飛んでいるのが何体も居たら……この世界なんて即終わるぞ。

「飛行型とか陸戦型とか種類は複数あるが、奴らには共通で魔法封印の『キャンセル』っていう機能が搭載されてる。発動中の魔法を封印したり、魔力に関係あるスキルを麻痺させる効果がある」

 言われて思い出す。あの会場全体を覆った衝撃の波を。電磁波のように赤い黒い電波が俺たちを飲み込んで発動していた能力を無効化させていた。普通に魔力で使っていたが、スキルも対象に含まれていたのか。

「この世界の能力者の力というのも魔力に近いようだからな。先日の影響を見た限りだと、奴らの『キャンセル』の対象にされるみたいだ」

「だからオレたちの能力も使えなくなっていたのか。で、その機械を使者って奴が」

「そう、呼び出した。使者とは魔神の手下のような者たち。魔神の命令に絶対服従な面倒な術者のことだが、今回の使者は特別厄介と言っていいだろうな。君らにとっても」

「つまり、こういうことですか?」

 それはどういう意味なのか聞こうとすると、知恵熱のような煙が落ち着いた麻衣が会話に入る。先回りして答えを導いて俺と龍崎を交互に見た。

「その使者こそが私とセンパイが送られた異世界の魔神の使者。さらに言うなら私たちをあの世界に送り込んだ――張本人」

「正解――正体はいまだに不明だが、あの暗黒島とやらで起きている現象と幸村君の入学時期を照らし合わせると……零さんからも注意された」

 送り込んだ張本人? つまりアレは……あの転移は王族たちの偶然の成功ではなくて奴らの仕組んだこと? じゃあなんで、

「もし本当ならなんで俺たちが選ばれたんだ? 当時の俺たちには能力も何も力なんてなかった。選ぶなら能力者だろう普通」

「君が言ったじゃないか、王族は何度も異世界人を召喚しては強制で訓練させてたって。新たな魔王が誕生する度にそうして別世界から呼び出したようだけど全部同じ世界だろう。そして馬鹿げた話ではあるが、それを導いていたのがこの世界にいた使者。どういう基準かは本人に聞かないと確かなことは言えないが……ロクな選び方ではなかっただろうな。わざと・・・能力者を外していたようだからな」

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