元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
学園の上下関係は時に事態を悪化させる。
時一とのやり取りで鬱気味になっていたが、ある意味面倒な試合が放課後に控えている。
空たちとも合流した俺はそのまま試合場へ向かう。途中スレ違う生徒たちから来るいろいろな視線の所為で……1年たちが揃って不機嫌となった。
「鬱陶しいですねぇー……吹き飛ばしてやりましょうか」
「やめなさい」
訂正、後輩は平常運転だ。
「お兄ちゃん……」
「可愛く寄ってきてもダメだから」
背中の槍を触っちゃダメ! お兄ちゃんとの約束だよ?
「お兄さん……」
「君もか九重さんや!」
大人しい子かと思ったのに、すっかり麻衣の影響を受けてる!
「頼むから今日は大人しくしてくれよ? 今日一番面倒なAクラスのトップチームとの試合なんだから」
そう、Aクラスチームのトップ。つまり2年最強チームであり、今回一番抗議が煩かった元凶でもある連中だ。もしくはプライドの塊連中。
「まさかトップが動くとはと思ったが、多分業を煮やしたってところだろうな」
「要するに思い通りならなくてイライラが爆発したってことですよね? ガキですか?」
コラ、女の子が唾吐きそうな顔をしない。いや、気持ちは分かるし他の2人の嫌そうな顔も理解出来るけども!
「まぁ、それで上手く決着が付ければこの面倒な試合ラッシュも終わるんだから! もう少しポジディブに考えようって! な?」
いや、ぶっちゃけそれで終わる気が全然しないし、寧ろ悪化する予感すらするけども。麻衣のことだから絶対器用な加減なんてしないだろうし、相手が元凶なら寧ろボコボコにしてやろうと張り切りそうで……
「そうですね。センパイの言う通り奴等を確実に仕留めれば、このメンドクサイ問題も解決しそうですね。鬱陶しい見学者たちの前に晒して上げましょうかぁー」
ですね。容赦なく相手の精神を粉砕する気満々だ。
……ついでに他の生徒たちを恐怖で震わせる気だよ、この子。
そんな感じでやる気を引き上げてしまった1年たち(主に麻衣)を引き連れて、人が集まりつつある練習、模擬戦が行える試合場へ足を踏み入れた。
「で、なんでこうなったんですかね?」
「知らんよ。俺に言われても」
ホント、向こう側の人たちには困ったもんだよ。
入った時点から睨んで来て何かあるだろうなぁ、と予想はしてたけど……
「いいですか? あの子たちに任せちゃって」
「仕方ないだろう。あちら側の要望なんだ」
俺と麻衣は試合場の外側へ待機している。俺はともかく麻衣がいるからおかしいって思うだろう? 俺もだよ。
「では、これよりチーム『勇者の後輩たち』とチーム『テンペスト』の試合を始めます。両者前へ」
審判役の教員に言われて試合場に入っていた空と九重が前に出る。あちらのチームもエースである秋党の奴と松井姉が前に出てくる。何故、こんな試合図になったかと言うともう予想は付いていると思うが、向こう側の理不尽な要望というか抗議が原因である。
『ずっとその1年ばかりに試合させて恥ずかしくない『私は全然構いませんよ? さっさとやりましょう?』のk――っ! とにかくだ! いくらなんでも連戦は認めん! だから幸村! いい加減1年ばかり頼ってないでお前が出たr『じゃあ空がやる! だって空も幸村だし!』どうな――ってオイ、なんでそうなる!』
流石に麻衣相手では勝機がないと秋党も理解していたらしい。あと出始めている噂(ほぼ事実)の所為で立場が危ういのだろう。一番の原因というか責任者?でもある俺を引っ張り出そうとしたが、なんか代わりに空が出させてしまった。あと九重さんも。
「ま、ソラちゃん1人じゃ万が一がありそうですし、タッグ戦は寧ろ好都合でした」
けど、化け物クラスの麻衣でもない1年相手に2年トップ2人掛かりとは……もうはやプライドとか関係なくない? 世間体をどうにかしたいから麻衣戦を強引に取り除いたのに代わりに別の1年と2年のトップが試合とか。呆れた気配があちらこちらからするのは気のせいじゃないだろうな。
「ホントあちらの人たちはバカなんですか? こんな試合、傍から見たら意地の悪い先輩が後輩イジメしてるようにしか見えませんよ?」
「いや、アイツらも普段はそんなにバカじゃないんだが……」
確信はないが、あちら側からは焦っている雰囲気がある。それに度々視線が外に移っている。周囲の視線を気にするならあっちこっちに向くだろうが、奴らが視線は何故か一方向のみ。だとすれば、視線の先にあるのがその理由なんだろうが……。
「3年……生徒会か」
見覚えのある顔がチラホラ。まぁ、学園のトップ兼まとめ役の3年の生徒会連中なら忘れる筈もない。今回の話し合いの際にもまとめ役として出ていたし。
「なんで3年の人たちを気にするんですかね?」
「……自分らが1年の頃、当時2年だった3年のあの人たちにいつもヘコヘコだったからかもな」
「はい?」
「挑んだんだよ。当時の3年に匹敵すると言われたあの生徒会の2年チームによ。今回みたいにな」
増長というか絶対的な自信しかなかったんだろうなぁ。ちょうど今と同じ夏頃である。四獣戦で予想以上に活躍した連中は、調子に乗って2年の生徒会チームに挑んだわけだが……見事に惨敗した。
「以後、厳しく叱られたか知らないが、アイツらも大人しくなってな。その原因かも知れないが、あの松井姉が生徒会に入って今は副会長をしている」
別に1年から選ばれることなんて普通のことだし、生徒会から推薦を貰えるくらい松井姉の実績や人柄も知られていた。いずれ入ってもおかしくないと思ったが、その前に決闘が行われて松井姉も敗北している。……なんとなく察したのか、眉を寄せた麻衣が小さく頷いた。
「なるほど、人質ですか」
「おい、言い方……と言いたいが、そうかもなぁ。あの2人付き合ってないが、秋党の方が松井姉に惚れてるって噂がある。もし事実なら一度ケンカを売った3年には逆らえないだろう」
秋党も普段は松井姉ほどではないが、リーダーシップのある真面目な男だ。けどAクラスのトップとしてプライドも高いのか這い上がって来る者を極端に嫌い、上から見下ろす者も蹴落とそうとするタイプだ。Bクラスともよく衝突しているが、あそこは松井弟と書記を務めている花園がいるからどうにか均衡を保っている感じだ。
「ついでに言うが、この噂は時一経由だ。アイツは色恋沙汰を面白がって集めるタイプだからな」
「その所為で余計にモテないんじゃないですか?」
呆れた様子で麻衣が首を傾げる。そうこうしていると試合の方の準備が終わったようだ。
「それでは試合! 始め!」
話している間に試合が始まった。
冷静に武器を構える空と九重とは違い、秋党と松井姉はもうこれでもかと本気の形相である。まだ若干焦りが見えるところからして、後がないのは明らか。……生徒会の会長あたりから何か言われたか?
「センパイの話を聞いて少々可哀想にも思えましたが、今回もそのケンカを売ったツケでしかありません」
そう、アイツらは後悔することになるだろう。
これ以上恥を晒したくないのなら話し合いに応じるべきだった。
「本当に後がないならこれで終いにした方がアイツらの為か……」
「念の為に補助は付与済みです。それに……」
「ああ、貸しておいて正解だったな」
懐から能力で生み出される白い手帳を取り出した。中には数枚のカードが入っているが、あの2枚だけ無くなっている。何処かは……言う必要もない。
「『槍使い』――解放せよ! 先陣を駆ける先兵の魂!」
「『剣士』――解放せよ! 全てを討ち払う剣闘の魂!」
試合が始まった途端、2人は教えていた手順でカードを起動させた。
魔力は予めチャージさせていたので問題なく起動する。カードに込めれていた魔力が光となって彼女らを包み込み纏っていた。
俺の時のように服装や武器は変わっていないが、そのステータスはしっかりと体に染み込んでいるのが分かる。つまり彼女らは現在、当時の俺と同じレベルの槍使いと剣士になったと言うことだ。麻衣の身体強化の付与もあるからそれ以上かも知れないが……
「やっぱり過剰戦力だと思うか?」
「良いじゃないですか? あちらも遠慮がないようですし、多少の大人気なさも可愛いものでは?」
可愛いかどうかはコメントに困るが、遠慮がないのは同意だな。
どうせ後々になって俺も試合しろとか言われそうだが、とりあえず2人の安全が第一に考えたのは正解だろう。
なんて呑気に考えていた俺だが、事態はそれどころではなくなる。
試合場の誰も予想なんて出来なかった。それは俺も麻衣だ。
約十分後、まさかあんな形で試合が台無しになるとは夢にも思わなかった。
空たちとも合流した俺はそのまま試合場へ向かう。途中スレ違う生徒たちから来るいろいろな視線の所為で……1年たちが揃って不機嫌となった。
「鬱陶しいですねぇー……吹き飛ばしてやりましょうか」
「やめなさい」
訂正、後輩は平常運転だ。
「お兄ちゃん……」
「可愛く寄ってきてもダメだから」
背中の槍を触っちゃダメ! お兄ちゃんとの約束だよ?
「お兄さん……」
「君もか九重さんや!」
大人しい子かと思ったのに、すっかり麻衣の影響を受けてる!
「頼むから今日は大人しくしてくれよ? 今日一番面倒なAクラスのトップチームとの試合なんだから」
そう、Aクラスチームのトップ。つまり2年最強チームであり、今回一番抗議が煩かった元凶でもある連中だ。もしくはプライドの塊連中。
「まさかトップが動くとはと思ったが、多分業を煮やしたってところだろうな」
「要するに思い通りならなくてイライラが爆発したってことですよね? ガキですか?」
コラ、女の子が唾吐きそうな顔をしない。いや、気持ちは分かるし他の2人の嫌そうな顔も理解出来るけども!
「まぁ、それで上手く決着が付ければこの面倒な試合ラッシュも終わるんだから! もう少しポジディブに考えようって! な?」
いや、ぶっちゃけそれで終わる気が全然しないし、寧ろ悪化する予感すらするけども。麻衣のことだから絶対器用な加減なんてしないだろうし、相手が元凶なら寧ろボコボコにしてやろうと張り切りそうで……
「そうですね。センパイの言う通り奴等を確実に仕留めれば、このメンドクサイ問題も解決しそうですね。鬱陶しい見学者たちの前に晒して上げましょうかぁー」
ですね。容赦なく相手の精神を粉砕する気満々だ。
……ついでに他の生徒たちを恐怖で震わせる気だよ、この子。
そんな感じでやる気を引き上げてしまった1年たち(主に麻衣)を引き連れて、人が集まりつつある練習、模擬戦が行える試合場へ足を踏み入れた。
「で、なんでこうなったんですかね?」
「知らんよ。俺に言われても」
ホント、向こう側の人たちには困ったもんだよ。
入った時点から睨んで来て何かあるだろうなぁ、と予想はしてたけど……
「いいですか? あの子たちに任せちゃって」
「仕方ないだろう。あちら側の要望なんだ」
俺と麻衣は試合場の外側へ待機している。俺はともかく麻衣がいるからおかしいって思うだろう? 俺もだよ。
「では、これよりチーム『勇者の後輩たち』とチーム『テンペスト』の試合を始めます。両者前へ」
審判役の教員に言われて試合場に入っていた空と九重が前に出る。あちらのチームもエースである秋党の奴と松井姉が前に出てくる。何故、こんな試合図になったかと言うともう予想は付いていると思うが、向こう側の理不尽な要望というか抗議が原因である。
『ずっとその1年ばかりに試合させて恥ずかしくない『私は全然構いませんよ? さっさとやりましょう?』のk――っ! とにかくだ! いくらなんでも連戦は認めん! だから幸村! いい加減1年ばかり頼ってないでお前が出たr『じゃあ空がやる! だって空も幸村だし!』どうな――ってオイ、なんでそうなる!』
流石に麻衣相手では勝機がないと秋党も理解していたらしい。あと出始めている噂(ほぼ事実)の所為で立場が危ういのだろう。一番の原因というか責任者?でもある俺を引っ張り出そうとしたが、なんか代わりに空が出させてしまった。あと九重さんも。
「ま、ソラちゃん1人じゃ万が一がありそうですし、タッグ戦は寧ろ好都合でした」
けど、化け物クラスの麻衣でもない1年相手に2年トップ2人掛かりとは……もうはやプライドとか関係なくない? 世間体をどうにかしたいから麻衣戦を強引に取り除いたのに代わりに別の1年と2年のトップが試合とか。呆れた気配があちらこちらからするのは気のせいじゃないだろうな。
「ホントあちらの人たちはバカなんですか? こんな試合、傍から見たら意地の悪い先輩が後輩イジメしてるようにしか見えませんよ?」
「いや、アイツらも普段はそんなにバカじゃないんだが……」
確信はないが、あちら側からは焦っている雰囲気がある。それに度々視線が外に移っている。周囲の視線を気にするならあっちこっちに向くだろうが、奴らが視線は何故か一方向のみ。だとすれば、視線の先にあるのがその理由なんだろうが……。
「3年……生徒会か」
見覚えのある顔がチラホラ。まぁ、学園のトップ兼まとめ役の3年の生徒会連中なら忘れる筈もない。今回の話し合いの際にもまとめ役として出ていたし。
「なんで3年の人たちを気にするんですかね?」
「……自分らが1年の頃、当時2年だった3年のあの人たちにいつもヘコヘコだったからかもな」
「はい?」
「挑んだんだよ。当時の3年に匹敵すると言われたあの生徒会の2年チームによ。今回みたいにな」
増長というか絶対的な自信しかなかったんだろうなぁ。ちょうど今と同じ夏頃である。四獣戦で予想以上に活躍した連中は、調子に乗って2年の生徒会チームに挑んだわけだが……見事に惨敗した。
「以後、厳しく叱られたか知らないが、アイツらも大人しくなってな。その原因かも知れないが、あの松井姉が生徒会に入って今は副会長をしている」
別に1年から選ばれることなんて普通のことだし、生徒会から推薦を貰えるくらい松井姉の実績や人柄も知られていた。いずれ入ってもおかしくないと思ったが、その前に決闘が行われて松井姉も敗北している。……なんとなく察したのか、眉を寄せた麻衣が小さく頷いた。
「なるほど、人質ですか」
「おい、言い方……と言いたいが、そうかもなぁ。あの2人付き合ってないが、秋党の方が松井姉に惚れてるって噂がある。もし事実なら一度ケンカを売った3年には逆らえないだろう」
秋党も普段は松井姉ほどではないが、リーダーシップのある真面目な男だ。けどAクラスのトップとしてプライドも高いのか這い上がって来る者を極端に嫌い、上から見下ろす者も蹴落とそうとするタイプだ。Bクラスともよく衝突しているが、あそこは松井弟と書記を務めている花園がいるからどうにか均衡を保っている感じだ。
「ついでに言うが、この噂は時一経由だ。アイツは色恋沙汰を面白がって集めるタイプだからな」
「その所為で余計にモテないんじゃないですか?」
呆れた様子で麻衣が首を傾げる。そうこうしていると試合の方の準備が終わったようだ。
「それでは試合! 始め!」
話している間に試合が始まった。
冷静に武器を構える空と九重とは違い、秋党と松井姉はもうこれでもかと本気の形相である。まだ若干焦りが見えるところからして、後がないのは明らか。……生徒会の会長あたりから何か言われたか?
「センパイの話を聞いて少々可哀想にも思えましたが、今回もそのケンカを売ったツケでしかありません」
そう、アイツらは後悔することになるだろう。
これ以上恥を晒したくないのなら話し合いに応じるべきだった。
「本当に後がないならこれで終いにした方がアイツらの為か……」
「念の為に補助は付与済みです。それに……」
「ああ、貸しておいて正解だったな」
懐から能力で生み出される白い手帳を取り出した。中には数枚のカードが入っているが、あの2枚だけ無くなっている。何処かは……言う必要もない。
「『槍使い』――解放せよ! 先陣を駆ける先兵の魂!」
「『剣士』――解放せよ! 全てを討ち払う剣闘の魂!」
試合が始まった途端、2人は教えていた手順でカードを起動させた。
魔力は予めチャージさせていたので問題なく起動する。カードに込めれていた魔力が光となって彼女らを包み込み纏っていた。
俺の時のように服装や武器は変わっていないが、そのステータスはしっかりと体に染み込んでいるのが分かる。つまり彼女らは現在、当時の俺と同じレベルの槍使いと剣士になったと言うことだ。麻衣の身体強化の付与もあるからそれ以上かも知れないが……
「やっぱり過剰戦力だと思うか?」
「良いじゃないですか? あちらも遠慮がないようですし、多少の大人気なさも可愛いものでは?」
可愛いかどうかはコメントに困るが、遠慮がないのは同意だな。
どうせ後々になって俺も試合しろとか言われそうだが、とりあえず2人の安全が第一に考えたのは正解だろう。
なんて呑気に考えていた俺だが、事態はそれどころではなくなる。
試合場の誰も予想なんて出来なかった。それは俺も麻衣だ。
約十分後、まさかあんな形で試合が台無しになるとは夢にも思わなかった。
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