元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

内緒話はバレないようにするのがマナー。

「で、どっちの時のだ?」

「まぁー間違いなく前回の四獣戦の時のだろ。いくらなんでも異世界の時じゃないだろうしな」

 繋がらないガラクタ携帯の代わりではないが、誰もいない廊下の窓際でスマホを弄り始める時一。背後の奴の言葉に適当な口調であるが、一応ちゃんと答えると簡単なメッセージを作成する。

「あの死神と一緒に行った時か」

「お前も知ってるが、あの時は直接的な接触は極力控えてた。レイが不用意に近寄ったのも理由だが、女の方はあの人から注意されてたからな」

 言われても近寄りたいとも思わなかったがな、と苦笑いすると作成したメッセージを送信する。

「ネコへか?」

「今日も試合らしいからな、貴重な調査の機会でもある。監視を続行しながら怪しい奴をリストしてもらう」

 どうせ魔力の所為で・・・・・・自制が利かない後輩が必ず暴れる。
 奴を探している大地も敢えて利用しているようだが、時一もまたそれを予想して可能な限り候補を減らすことに移っていた。

「自分で行ったらどうだ? 毎回コキ使うとネコの機嫌が悪くなって面倒だろう?」

「そうしたいが、学園側の目もある。学園全体を掌握する為に色々と垢を荒らしてやったからなぁー」

 変態方面はともかく、そっち方面で目立つ行動は避けたい。ここで学園側にこちら側の事情もしくは狙いを知られた場合、一番面倒になるのは避けられない。

「鷹宮姉さんにも警戒しないとな。あの人は何かと勘がいい」

「橘美咲は放置でいいのか? よく知らんがアレの方が専門なように見えるが」

「美咲ちゃんは別にいい。腕前は悪くないが、所詮は普通の一流に過ぎない。背後にいるのもどうせ国の…………まぁ、とにかく後回しで問題ない。厄介なのは鷹宮朱音だ」

 鷹宮が他と違うのは感じ取っていた。学園側を掌握した時点から集まるだけの素性に関する情報は手に入れて、一般の女性だと情報から纏まりはしたが……。

「魂と見た目の年齢が明らかにおかしい。例えるなら見た目は高校生だが、中身は成熟された大人だ」

「単におばさんって言ってるように聞こえるが……そうか」

 とても普通とは思えない、何度も磨かれたような魂の色・・・
 集まった短な経歴では説明が付かない事実。以上のことから時一は1年前からずっと警戒を怠ったことはなかった。

「警戒して損はない。少なくともアイツが自分の素性を話すまでは……ん」

 ふと顔を上げる。何を思ったかジッと青空を眺めると難しい顔で首を傾げた。

「マスター、どうしたよ?」

「いや、何か……変な気配が……漏れたような」

 不快に感じたように頬に手を当てる。肌に当たる風が何か嫌なものを感じたからだ。
 その後も気になるのか男と話をしながら、視線は空へ固定されていた。






「何を話してるのよ、あの2人……!」

 その2人の様子を廊下の陰から見ていたサイドテールの女子。
 2人の話にも出ていた橘美咲。クラスのアイドル的な存在でさらには何処かの機関から学園島に送られて来た諜報部員。大地を含めた能力者たちの調査が主な任務であり、僅かな違和感も調べるように指示されている。

「どうして時一君と江口えぐち君が……あの2人に接点なんてなかったはず」

 何気なく目を向けたらとんでもない光景を目にした気分だった。
 大変おかしな連中が多いクラスだが、一年も経てばそれなりの関係図は出来上がる。アイドル的なポジションを利用して、その関係図を完全に把握していた橘だが、この2人が一緒にいるところなど初めて見た。

「性格的にも馴れ合うようには思えないけど……」

 唯一共通していることがあるとすれば、2人とも何処のチームにも所属していないことだ。討伐での単独行動がどれだけ無謀なのかは、劣等生であっても分かっている常識だ。あの大地ですら1年の子であるが、一応チームを作って活動を始めたのだ。……その過剰な行動の所為でトラブルが起こしてしまったようだが。

「後でまた試合見学に行こうかしら。今のところ『龍の女の子』しか戦ってないけど」

 圧倒し過ぎて参考にもならない。正直2〜3回見ただけでうんざりしてやめようかとも思ったが、あのチームは色々と異常過ぎるメンツが揃っている。要注意人物である大地もいる以上は面倒でも見に行かないといけなかった。

「どっちにしても今はこっちが先ね……!」

 どういう関係にしろ話している会話は是非聞きたい。時一はともかく江口はクラスの中でも謎が多い男子の1人だ。何か掴めれるなら多少のリスクは背負ってもいい。

「……」

 バレないように能力を使用した橘は聴覚を強化する。かなり離れているが、照準範囲を時一達に合わせてたことで、途切れ途切れのノイズが徐々に声としてハッキリと聞こえ―――









『やっぱり―――巨乳こそがオッパイの神秘だ』

「なんの話をしてんのよっ! 気持ち悪いっ!」

 思わず取り出したメモ帳を床に叩き付けてしまった。
 有無言わず能力を切ると気持ち悪そうに体を摩っていた。







「マジで鬼だな」

「そうか? ただの本音だぞ? 可能ならあの子のモノもモミモミしたいぜ!」

「最悪なマスターだぜ。マジでコロ姉やルナ姉がいなくて良かった」

 途中から見られていることに気付いていた2人。能力の気配がした時点で会話を切り替えるつもりだったが、話題のチョイスを時一に任せたことを後になって後悔した不良こと江口亮太。

 面倒な相手であるのは分かっているが、見た目と違い意外と紳士な性格の為か、頭を掻きむしりそうになっている橘の姿が……大層不憫に見えて仕方なかった。

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