元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
強過ぎる闇の力には必ず重い代償が伴う。
「もぐもぐ! むぐぐぐ! もぐもぐ! ムカカカ!」
「食べてるか膨れてるかやっぱ食べたいのかイラつくかどれか1つにしろよ」
「モガガガガガガガガガ!」
「何言ってんか分んねぇよ……」
「マイちゃんは器用だねぇーお兄ちゃん」
「器用って言うかこれ?」
「美味しいでーす」
空と九重さんは美味しそうに食してる、大変良い顔だ。
それに比べて後輩は酷い。品がないし、わざと牙見せてガツガツ食べてる。ご飯何杯目だよ。
「ガツガツガツガツガツ!」
「いい加減しないとマジで食費取るぞコラ?」
「ガツガツガ……!? ―――パクパクパク……」
「いや、食い方変えたらいいって話じゃないぞ?」
食い意地の悪い後輩を持つと
なんて騒いだ後、俺たちはついでに宿題も済ませて解散する。麻衣の奴は最後までぶつくさしていたが、連戦続きでさすがに疲れたか今回はこっちに泊まらず自分の部屋に戻って行った。
「くっ……」
自室に戻った俺は片腕を押さえる。
空にバレないように声を抑えて、隣の部屋に住んでいる麻衣には特にバレないように。
「はぁはぁ……参ったな」
震える手で机の引き出しから注射器と中身のカプセルを取り出した。他にも沢山のカプセルが置いてある。
その中には透明な魔石に入っており、注射器にハメて針が付いてない先端を押さえている腕に当てた。
「はぁ、どうにか保つか?」
そして抜き取り赤黒く濁り切ったカプセルを注射器から外して用意した布に丸める。開けた引き出しとは別の引き出しを開けると、同じように布で覆ったのが沢山あった。
「……濃度が増してる。のんびりしてると取り返しが付かないな」
収納し鍵を掛ける。隠すにしては甘い方法であるが、あんまりスキルや魔法を頼ったりすると麻衣にバレる危険があった。
「魔王幹部の力……何の代償もなく使えるわけがないか」
ベットに横になって疲れたように目を閉じる。眠っている筈だが、ちっとも眠れている気がしない。
幹部連中の力を取り込んだ影響か回復した筈の俺の肉体は、着実に魔族のそれに近付いていた。
『逃すなっー!』
懐かしい景色である。これは―――あの異世界だ。
『殺せ! 亡き者にしろッ!』
『あの異世界人をこれ以上進ませるなァ!』
俺はそうだ。走っている。
息が切れるほど走って先陣を切っていた。
『誰が……逃げるかよ!』
手にしているのは懐かしい聖剣。
そう、ちょうど『勇者』を取得した直後だ。
魔王幹部の1人を潜んでいる拠点の城を俺は1人で駆け上がっている。
王国から部隊は何組が来ていたが、殆どが下の方で足止めをくらっている。頭の良い幹部らしく中々攻めることが出来なかった。
『どっけぇええええ!』
『グアアアアッ!?』
燃え上がる聖剣を力任せて振るう。すると辺りの敵が火の海に飲まれて一本の道が生まれた。
『来たか!』
『見つけたぞ!』
潜んでいたのは暗黒騎士を名乗る騎士型のモンスター。デュラハンに見えるが、頭はしっかり付いてる。禍々しい暗黒のオーラを纏った魔王の幹部だ。
『おおおおおおおォォォォォ!』
『フゥゥゥゥゥゥ!』
奴が所持している黒き大剣と俺の聖剣が激突。
今までの敵ならこの一振りで盾ごと叩っ切れる筈だが……やはりこいつは別格だ。
『力任せか? 生ぬるい!』
『ぐっ!』
力を流されて押し返された。ちょうど配下が駆け上がって来て俺はあっいう間に囲まれてしまった。こっちの味方は誰も来ていない。
『誰も手を出すな! この小僧はオレの獲物だ!』
『誰が小僧だ……!』
舐めるな! と一々叫ばず剣を振るう。鋭利な風の刃を奴に向かって飛ばしたが。
『貴様のような戦いの素人のことだ!』
今度は剣も使わず蹴り上げて風の刃を叩き折った。……全然効いていない。
『ジョブに頼り過ぎだ。肝心の使い手がこれでは伝説のジョブも泣けるな』
『ゲホッ!』
剣の技量が完全に負けていた。幸い手足を斬られることはなかったが、利き腕の肩を斬られた所為で剣を思うように振れない。脚もやられてしまい奴からしたら格好の的だった。
『貴様ら異世界の者は確実に殺すことが決まりだ。悪いが、その首は取って行くぞ』
『ふ、ふざけん、な!』
全く手も足も出ないとはこのことだ。
基本ジョブから特殊ジョブを通ってやっと伝説まで上り詰めたっていうのに……!
『ふざけているのはそちらだ。何て体たらくだ情けない。こんな奴が我々の宿敵かもしれない相手だとは……あの方に何て報告したらいいんだ? これなら多少手を抜いてギリギリで勝った方がまだあの方の退屈も紛らわせたものを』
勝手なことを言うなと言いたい! だが、全身打ちのめされて痛みで声が出せない!
初めての幹部戦がこんなにも難儀だったなんて……
いや、ここで俺が犠牲になれば、まだ王城で訓練してる麻衣も警戒してくれるか?
一緒に来たそうにしていたのを王族連中に止められて無理だったが、かえって良かったのかもしれない。……もしかしたらアイツらも今の俺じゃ無理だと考えてたのかもしれないな。勇者になったけど全然言うこと聞いてないから仲悪いままだし。
死ぬのは嫌だが、動けない以上もう俺に何が出来る?
潔く諦めるのもまた後輩の為になるんじゃないかとこの時はそう思った。
置いてかれる奴の気持ちなんて考えず、ただどう自分を生かして死ぬか考えるなんて……
『諦めてどうすんだ馬鹿が』
そう、馬鹿の考え方だと頷きそうになった。
『な、なんだ貴様は!』
「……え?」
ところで、俺は呆けた顔で顔を上げた。
飽きたのか騎士の奴が俺の首を取ろうと剣を振り下ろした瞬間だった。
『何って―――ただの助っ人だ』
奴とは同じ、いやそれ以上か?
全部が真っ黒な槍を構えた黒っぽいジャケット姿のその人は、呆れた眼差しを俺に向けた。あの大剣を平然と槍で防いでるけど、騎士の体格は俺たちの2倍以上はあってパワーも尋常ではないんだけど?
『足りないな。ちっとも足りない―――覚悟が』
片手のみで防いでいる槍で相手を大剣ごと押し返した。
クルクル振り回すと地面に叩き付けて、騎士を無視して俺の方に顔を向けた。
『勇者の力が万能だと思ったか? 勘違いするなそれは所詮飾りだ。どれだけ着飾っても使う者が素人じゃ意味がない』
騎士の奴が再度何者かと叫んでいるが、男は尚も無視している。業を煮やした騎士がかけて来る中でも男は俺の方を見続けて、鋭い視線が……
『勇者だって完璧じゃない。何故ならそれが……』
ゆっくりと無のような冷たさを宿して、迫って来た騎士を軽く一瞥すると―――
『汚れ切った。この世界のそのもの』
真っ黒な線が無数に見えた気がした。
直後、騎士の体の至る所から亀裂走って激痛から体を押さえて悲鳴を上げた。
何度も槍を振るったのか、……速過ぎて何も見えなかった。
『教えてやるよ。戦士の覚悟を』
そうして、あの人は暗黒騎士を倒してくれた。本来は倒すところまで介入してはならないらしいが、初回のみ手を貸してくれた。
異能使いと言う泉零さんとの最初の出会いであった。
その後、王国にバレない程度に彼は素人同然な俺を鍛えてくれた。色々と強引なやり方はあったが、俺にとってあの人は戦いの師であり恩人だ。
それは帰還後でもそうだ。何処で聞き付けたのか、あの人はこの島にやって来て悩んでいる俺にアドバイスして共に戦ってくれた。全基本職のカードの融合と魔王幹部のカードの使い方もその時に気付いた。
「懐かしい夢だ」
ただ、その代償は想像以上に重たかった。
夢から目覚めた俺は無意識の手帳を召喚して、その中にあるカードを取り出した。
「何故作ってもいない幹部らのカードがある? 奴の正体は……あの世界の術師ということか? 俺の能力は本当に偶然の物なのか?」
謎が多いこの暗黒のカード。零さんも危険だから使用はなるべく控えろと言ってたけど、その性能はとても高く未知の存在だったあの炎の塊にも通じた。
「俺だって控えたいけど周りは放ってくれないんだよ……」
これも言い訳でしかないが、言わずにはいられない。また再会した時に色々と言われるだろうが。
少し早いが朝だと分かり、深いため息を溢しながら起き上がることにした。
「食べてるか膨れてるかやっぱ食べたいのかイラつくかどれか1つにしろよ」
「モガガガガガガガガガ!」
「何言ってんか分んねぇよ……」
「マイちゃんは器用だねぇーお兄ちゃん」
「器用って言うかこれ?」
「美味しいでーす」
空と九重さんは美味しそうに食してる、大変良い顔だ。
それに比べて後輩は酷い。品がないし、わざと牙見せてガツガツ食べてる。ご飯何杯目だよ。
「ガツガツガツガツガツ!」
「いい加減しないとマジで食費取るぞコラ?」
「ガツガツガ……!? ―――パクパクパク……」
「いや、食い方変えたらいいって話じゃないぞ?」
食い意地の悪い後輩を持つと
なんて騒いだ後、俺たちはついでに宿題も済ませて解散する。麻衣の奴は最後までぶつくさしていたが、連戦続きでさすがに疲れたか今回はこっちに泊まらず自分の部屋に戻って行った。
「くっ……」
自室に戻った俺は片腕を押さえる。
空にバレないように声を抑えて、隣の部屋に住んでいる麻衣には特にバレないように。
「はぁはぁ……参ったな」
震える手で机の引き出しから注射器と中身のカプセルを取り出した。他にも沢山のカプセルが置いてある。
その中には透明な魔石に入っており、注射器にハメて針が付いてない先端を押さえている腕に当てた。
「はぁ、どうにか保つか?」
そして抜き取り赤黒く濁り切ったカプセルを注射器から外して用意した布に丸める。開けた引き出しとは別の引き出しを開けると、同じように布で覆ったのが沢山あった。
「……濃度が増してる。のんびりしてると取り返しが付かないな」
収納し鍵を掛ける。隠すにしては甘い方法であるが、あんまりスキルや魔法を頼ったりすると麻衣にバレる危険があった。
「魔王幹部の力……何の代償もなく使えるわけがないか」
ベットに横になって疲れたように目を閉じる。眠っている筈だが、ちっとも眠れている気がしない。
幹部連中の力を取り込んだ影響か回復した筈の俺の肉体は、着実に魔族のそれに近付いていた。
『逃すなっー!』
懐かしい景色である。これは―――あの異世界だ。
『殺せ! 亡き者にしろッ!』
『あの異世界人をこれ以上進ませるなァ!』
俺はそうだ。走っている。
息が切れるほど走って先陣を切っていた。
『誰が……逃げるかよ!』
手にしているのは懐かしい聖剣。
そう、ちょうど『勇者』を取得した直後だ。
魔王幹部の1人を潜んでいる拠点の城を俺は1人で駆け上がっている。
王国から部隊は何組が来ていたが、殆どが下の方で足止めをくらっている。頭の良い幹部らしく中々攻めることが出来なかった。
『どっけぇええええ!』
『グアアアアッ!?』
燃え上がる聖剣を力任せて振るう。すると辺りの敵が火の海に飲まれて一本の道が生まれた。
『来たか!』
『見つけたぞ!』
潜んでいたのは暗黒騎士を名乗る騎士型のモンスター。デュラハンに見えるが、頭はしっかり付いてる。禍々しい暗黒のオーラを纏った魔王の幹部だ。
『おおおおおおおォォォォォ!』
『フゥゥゥゥゥゥ!』
奴が所持している黒き大剣と俺の聖剣が激突。
今までの敵ならこの一振りで盾ごと叩っ切れる筈だが……やはりこいつは別格だ。
『力任せか? 生ぬるい!』
『ぐっ!』
力を流されて押し返された。ちょうど配下が駆け上がって来て俺はあっいう間に囲まれてしまった。こっちの味方は誰も来ていない。
『誰も手を出すな! この小僧はオレの獲物だ!』
『誰が小僧だ……!』
舐めるな! と一々叫ばず剣を振るう。鋭利な風の刃を奴に向かって飛ばしたが。
『貴様のような戦いの素人のことだ!』
今度は剣も使わず蹴り上げて風の刃を叩き折った。……全然効いていない。
『ジョブに頼り過ぎだ。肝心の使い手がこれでは伝説のジョブも泣けるな』
『ゲホッ!』
剣の技量が完全に負けていた。幸い手足を斬られることはなかったが、利き腕の肩を斬られた所為で剣を思うように振れない。脚もやられてしまい奴からしたら格好の的だった。
『貴様ら異世界の者は確実に殺すことが決まりだ。悪いが、その首は取って行くぞ』
『ふ、ふざけん、な!』
全く手も足も出ないとはこのことだ。
基本ジョブから特殊ジョブを通ってやっと伝説まで上り詰めたっていうのに……!
『ふざけているのはそちらだ。何て体たらくだ情けない。こんな奴が我々の宿敵かもしれない相手だとは……あの方に何て報告したらいいんだ? これなら多少手を抜いてギリギリで勝った方がまだあの方の退屈も紛らわせたものを』
勝手なことを言うなと言いたい! だが、全身打ちのめされて痛みで声が出せない!
初めての幹部戦がこんなにも難儀だったなんて……
いや、ここで俺が犠牲になれば、まだ王城で訓練してる麻衣も警戒してくれるか?
一緒に来たそうにしていたのを王族連中に止められて無理だったが、かえって良かったのかもしれない。……もしかしたらアイツらも今の俺じゃ無理だと考えてたのかもしれないな。勇者になったけど全然言うこと聞いてないから仲悪いままだし。
死ぬのは嫌だが、動けない以上もう俺に何が出来る?
潔く諦めるのもまた後輩の為になるんじゃないかとこの時はそう思った。
置いてかれる奴の気持ちなんて考えず、ただどう自分を生かして死ぬか考えるなんて……
『諦めてどうすんだ馬鹿が』
そう、馬鹿の考え方だと頷きそうになった。
『な、なんだ貴様は!』
「……え?」
ところで、俺は呆けた顔で顔を上げた。
飽きたのか騎士の奴が俺の首を取ろうと剣を振り下ろした瞬間だった。
『何って―――ただの助っ人だ』
奴とは同じ、いやそれ以上か?
全部が真っ黒な槍を構えた黒っぽいジャケット姿のその人は、呆れた眼差しを俺に向けた。あの大剣を平然と槍で防いでるけど、騎士の体格は俺たちの2倍以上はあってパワーも尋常ではないんだけど?
『足りないな。ちっとも足りない―――覚悟が』
片手のみで防いでいる槍で相手を大剣ごと押し返した。
クルクル振り回すと地面に叩き付けて、騎士を無視して俺の方に顔を向けた。
『勇者の力が万能だと思ったか? 勘違いするなそれは所詮飾りだ。どれだけ着飾っても使う者が素人じゃ意味がない』
騎士の奴が再度何者かと叫んでいるが、男は尚も無視している。業を煮やした騎士がかけて来る中でも男は俺の方を見続けて、鋭い視線が……
『勇者だって完璧じゃない。何故ならそれが……』
ゆっくりと無のような冷たさを宿して、迫って来た騎士を軽く一瞥すると―――
『汚れ切った。この世界のそのもの』
真っ黒な線が無数に見えた気がした。
直後、騎士の体の至る所から亀裂走って激痛から体を押さえて悲鳴を上げた。
何度も槍を振るったのか、……速過ぎて何も見えなかった。
『教えてやるよ。戦士の覚悟を』
そうして、あの人は暗黒騎士を倒してくれた。本来は倒すところまで介入してはならないらしいが、初回のみ手を貸してくれた。
異能使いと言う泉零さんとの最初の出会いであった。
その後、王国にバレない程度に彼は素人同然な俺を鍛えてくれた。色々と強引なやり方はあったが、俺にとってあの人は戦いの師であり恩人だ。
それは帰還後でもそうだ。何処で聞き付けたのか、あの人はこの島にやって来て悩んでいる俺にアドバイスして共に戦ってくれた。全基本職のカードの融合と魔王幹部のカードの使い方もその時に気付いた。
「懐かしい夢だ」
ただ、その代償は想像以上に重たかった。
夢から目覚めた俺は無意識の手帳を召喚して、その中にあるカードを取り出した。
「何故作ってもいない幹部らのカードがある? 奴の正体は……あの世界の術師ということか? 俺の能力は本当に偶然の物なのか?」
謎が多いこの暗黒のカード。零さんも危険だから使用はなるべく控えろと言ってたけど、その性能はとても高く未知の存在だったあの炎の塊にも通じた。
「俺だって控えたいけど周りは放ってくれないんだよ……」
これも言い訳でしかないが、言わずにはいられない。また再会した時に色々と言われるだろうが。
少し早いが朝だと分かり、深いため息を溢しながら起き上がることにした。
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