元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

彼が望む穏やかな日常は常に遠かった。

『四獣討伐戦』からしばらくした夏の始まり時期だ。
 予想外な襲撃の所為で無茶した俺こと幸村大地だが、2週間ほどの休暇を得て無事に復帰。筆記テストなど乗り越えて、久しぶりに穏やかな学園生活を送っていた。……筈だった。

「で、では、これより、ち、チーム対抗のランキング戦を、は、始める……!」

 審判員の教員の声が震えてるが、俺の所為じゃないと言いたい。

「か、覚悟はいいかっ!? こ、この寄生虫が!」

 そして同じく声を震わせる相手チームのリーダー男子その1。
 心なしか顔も真っ青であるが、視線だけはどうにか俺を固定しようと睨んでいるけど……。

「こ、後悔しても、もう遅いんだからねっ!?」

 後悔しているのはそっちではないだろうか。女子その1が涙目で叫んでるけど俺はスルーする。

「ちょちょちょ調子に乗るなひょっ!」

「おおおおおお前なんきゃ、オレだけでぇ……!」

 噛みまくりな男子その2その3。ていうか全然言えてないし、その3に至っては過呼吸気味じゃね? すぐにでも酸素マスクが必要そうだ。

「「ヒィ……!」」

 ちなみに残りの女子その2とその3は既に戦意喪失状態である。
 残った面々も目だけは俺の方を睨み付けているが、肝心の瞳が超震えており何度も左右に動いてる。間違いなく左右の圧力の所為だろうなぁ。

「ふふふふっ、さぁ! ぶっ潰してやりましょうか! このモブ先輩方々!」

 笑顔だけど機嫌が超悪い後輩が吠えてます。殺気が溢れる魔力から殺る気・・・満々なのがハッキリ伝わってくる。

 異世界では伝説の魔法職業である『魔導王』なんて呼ばれた可愛くない後輩―――小森麻衣。

「うん! けちょんけちょんにしようね! お兄ちゃん空も頑張るよ!」

 同じく不機嫌そうではないが、気合いマックスなのは俺の妹である幸村空。
 すっかり使い慣れた鉄製の槍を振り回して、体から微かにであるが電気が漏れ出ていた。

「2人とも私を置いてかないでよぉ〜。お兄さんを馬鹿にされて怒ってるのは一緒なんだから!」

 さらに隣でプンスカしてるのは、後輩である九重沙織。面識は少ないが、この中で一番まともそうだったのになぁ。
 やる気満々な空と並ぶと能力であるレイピアを軽く振るっていた。

 そんな面々に対して俺はというと……。

「どうしてこうなった?」

 深い溜息を吐いていた。
 いや、現実逃避とかではないが、理不尽な現実に少々打ちのめされた気分だ。

 本当にどうしてこうなってしまったのか。
 本来なら俺が深々と謝罪して上手く調整する予定だったのに……。

「売られた喧嘩……買わないとですねぇー?」

 可愛くない後輩はそれを許さない。
 コソコソと何かしてくるなら力でねじ伏せてやる。

 それが面倒な後輩こと麻衣の性格であった。



「誰も手は出さないでください。私だけで十分、お釣りが来ますよ」



 いや、それはもう過剰戦力なような気もするが……。
 なんて言っても素直に従うような子でないのは、よーく知っているので早々に諦める。

 勿論、諦めるというのは『穏便な解決』と『彼らのメンタルケア』であるのは……言う必要もないがな。


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