元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
四神使いと元勇者 その5(決着)。
今年の四獣討伐戦も無事に幕を閉じた。
討伐得点狙いの麻衣が荒らした南エリアと、四獣自体が現れなかった東エリアを除けば、基本的に大きな問題も起きず討伐は完了された。北エリアもEクラスの鷹宮が強制介入して来たが、そこは風紀委員会の副委員長が上手く抑えたようだ。
結果的に今回の討伐戦で1番危うかったのは、西エリアの灼熱区域であった。奇跡的に重傷者は出なかったが、Eクラスの彼女が介入して来なければ四獣の攻撃で被害が拡散していたに違いない。
「白岡さんがこっちに来てくれて、ホント助かったよ」
「気にしないで」
区域の担当を任されていたBクラスの花園が申し訳なさそうに礼を言う相手。大地が警戒している要注意人物の1人である白岡有希であった。小動物のような小柄な彼女は、暑さを感じない無表情な顔で感謝を口にする花園を見上げる。
本当に暑くないのか花園すら額に汗を流しているが、短めな返事をする白岡の方は微かな汗すら流してなかった。
「てっきり鷹宮さんの方に行ってると思ったよ」
「寒いの嫌いだから」
それだけの理由でよくチームからの離脱許可が下りたと、花園は苦笑いする。鷹宮の性格はある程度理解しているつもりだ。彼女なら白岡程の能力者を放置するような真似はしない筈だが……。
「彼女なら強引に連れて行きそうだけど」
「抜けるって言ったら諦めてくれた」
「そこまで嫌だったの!?」
そんなことを言われたら流石の彼女でも断念するしかないが、何もそこまで言って拒否するほどかと花園は訝しげる。
「うん、だから行かないと」
「え、ちょっ……白岡さん何処に行くつもり? そっちは出口じゃないよ?」
コクリと頷くと彼女は花園に背を向けて歩き出す。最初は島の外に出るのかと思ったが、彼女が進む先は島の奥。一瞬理解が出来ず目を点にしていた花園は、すぐ我に返って白岡を呼び止めようとするが……。
「ごめん、ちょっと急ぐ」
「っ……白岡さん!?」
まるで地面を爆発させるかのように地面を蹴った白岡がその場から跳び立つ。
吹き荒れた土煙が花園の視界を塞ぐ。咄嗟に小さな爆発を起こして土煙を払ったが、視界が晴れた先にはもう白岡の姿はなかった。
「万が一の保険って言ったくせに……ホントに何してるの」
空中で彼女はブツブツと呟いている。次第に落下しそうになるも、今度は空を蹴ることで高く前へ跳躍する。それを繰り返すことで無駄に広い島の内部を移動していた。
「彼やレイからは見守るだけでいいって言われたのに、調子に乗って近付くから悪い」
本当にそれだけで良かったのにと、彼女は無表情ながら不満そうに頬を膨らませる。
そもそも討伐自体を面倒だと思っていた彼女からしたら、この学園生活もとんだとばっちりでしかなかった。
「――ヴィットのバカ」
猫のようにのんびり寝転がって気分に任せて過ごしたい。巻き込まれただけの彼女にとって、それが数少ない願望であったが、バカ主人を放って置けない気持ちも少なからずある。
意外と寂しがり屋な白猫であった。
(あ、ダメだありゃ。大人しく凍らされた方がマシだったかも)
女性はロリから熟女まで全般オールOKな時一久にも、苦手な女性は存在した。
正直なところ彼にとって容姿はあまり関係ない。いや、出来れば容姿も良い方が嬉しいが。
中身の性格だけは、たとえ容赦が絶世の美女であってもお断りしたい。
特に目の前にいる先輩大好きで、小柄な貧乳で、魔力オバケで、火力バカで、金に目がない色気から程遠い性格をした少女などは超拒否であった。
「覚悟はいいですか! 精霊!」
(『魔導王』の参戦も予想はしていたが、このタイミングの参戦は正直キツい)
危うく氷漬けにされると焦る時一。物理耐性に魔法耐性も非常に高い精霊状態であるが、相手が『魔導王』なら話は全く別次元であった。
精霊の力を高めてどうにか檻を払えはしたが、さらに魔力を増大した麻衣の姿は、魔法破りに特化している時一でも攻略は容易ではなかった。
(いくら何でも仮初めの力じゃあの娘の魔法は受け切れない。せめて『シロ』を側に付けるべきだったか)
「【アバター・チェンジ】……来れ――『古代より伝わる魔導の開拓者……知恵の大賢者』」
木の杖を構えた麻衣の姿が変貌する。
能力を発動したことによって、『大賢者の王杖』の本来の主人の姿を象る。
精霊化した時一の視界に古びた魔法使いの帽子とローブを身に着けた1人の女性が現れた。
(エルフ!? いや、ハイエルフって奴か! 魂の色はそのままだから姿だけを変えたようだが……)
さっきまでの小柄な麻衣とは正反対の大人の美女である。
触れるどころか見るだけでも罪に思える神聖な雰囲気を纏っている。金色の瞳と尖った耳から種族を推測した彼の視界に、綺麗な黄緑色をした長い髪がふんわりと揺れて、黒のローブ越しでも分かる豊満な部位がフルと揺れた。……彼の視線がどっちに集中したかは言うまでもない。
(間違いない。…………アレはGだ!)
お陰で絆が重要な精霊化が弱くなってしまったが、彼は美味しいものが見られたと合掌したい気分であった。前置きで性格云々を言っていたが、やはり彼にとって容姿もまた重要だとここで訂正しよう。
「【多重詠唱】【マナ・バースト】【マナ・コントロール・フル】」
そして無防備とは言わないが、すっかり隙だらけなった精霊の前に、姿を変えた麻衣が『大賢者の王杖』を操作する。
最上級の詠唱補助に加えて、最上級の魔力強化のスキルを解放したことで彼女の体から魔力のオーラが可視化するほど噴火した。
「……」
そうして……『氷河を統べる姫王』の先端を精霊へと向けて、静かに魔法を唱えた。
「【フリーズ】」
『――ッ!?』
発動されたのはただの初級魔法。
だが、魔力のリミッターが半分近くまで外れた今の麻衣であれば、たとえ初級魔法であっても上級魔法に匹敵するレベルまで引き上がる。
精霊の足下一面が氷の世界となった。炎の脚まで氷が浸透すると、避けようとする彼の動きを封じて見せた。
(精霊の耐性が全く意味がない! これがアイツと同じ『魔導王』の恩恵か!)
逃げの手を封じられた彼は、ただ次の攻撃を待つしかない。いや、こちらから攻撃を仕掛けるのも出来なくはないが、あの莫大な量の魔力圧に対抗する攻撃手段は今の彼にはなかった。
「先輩!」
「分かってる。【マスター・ブック】」
(来る! 大地の融合スキルが! こっちの守りを固めないと!)
瞬時に判断した時一は精霊の力を操作して巨大な炎の壁を作り上げる。仮初めの力を借りている状態であるが、精霊使いの彼はその力を手足のように操り、最上級魔法にも耐えれる分厚い炎の壁をいち早く張り終えた。
「……」
障壁が展開されるのを見ながら、補充された魔力を利用した大地は【スキル・コンタクト】を再び使用する。手元に白い本を喚び出して中から3枚のカードを取り出した。
「『戦士』『剣士』『魔法使い』……【スキル・コンタクト】」
三種類の力が混ざり合う。
力が凝縮されると手元に剣のような形状をした光の杖が生まれる。……麻衣の魔力が込められたことで、精霊にも届く光の斬撃や魔弾を繰り出せれる。
「決めるぞ!」
「はい!」
(ああ、来い……!)
剣のように杖を振るって大地が光の斬撃波を繰り出す。
『氷の女王』に魔力を込めた麻衣が合わせて氷結の光線を発動する。
最後にタイミングを読み切った時一が精霊の力を操作した。
次の瞬間。
「【マジック・オブ・セイバー】ァァァァッッ!!」
「【フリーズ・ライト・オーバー】ッ!!」
(――【炎界楼壁】ッ!!)
結果、発動された三種類の技が衝突し合う。
調整を加えた時一の炎の障壁が2つの技を外に流そうとしたが、やはり威力を抑え切れない。
(…………これが異世界を乗り越えた者の力か)
やがて巨大な炎の障壁を撃ち崩した2人の攻撃が精霊化した時一に届く。
麻衣の氷結の光線が炎の装甲を凍らして崩すと、大地が放った光の斬撃が時一の奥まで斬り込んだ。
討伐得点狙いの麻衣が荒らした南エリアと、四獣自体が現れなかった東エリアを除けば、基本的に大きな問題も起きず討伐は完了された。北エリアもEクラスの鷹宮が強制介入して来たが、そこは風紀委員会の副委員長が上手く抑えたようだ。
結果的に今回の討伐戦で1番危うかったのは、西エリアの灼熱区域であった。奇跡的に重傷者は出なかったが、Eクラスの彼女が介入して来なければ四獣の攻撃で被害が拡散していたに違いない。
「白岡さんがこっちに来てくれて、ホント助かったよ」
「気にしないで」
区域の担当を任されていたBクラスの花園が申し訳なさそうに礼を言う相手。大地が警戒している要注意人物の1人である白岡有希であった。小動物のような小柄な彼女は、暑さを感じない無表情な顔で感謝を口にする花園を見上げる。
本当に暑くないのか花園すら額に汗を流しているが、短めな返事をする白岡の方は微かな汗すら流してなかった。
「てっきり鷹宮さんの方に行ってると思ったよ」
「寒いの嫌いだから」
それだけの理由でよくチームからの離脱許可が下りたと、花園は苦笑いする。鷹宮の性格はある程度理解しているつもりだ。彼女なら白岡程の能力者を放置するような真似はしない筈だが……。
「彼女なら強引に連れて行きそうだけど」
「抜けるって言ったら諦めてくれた」
「そこまで嫌だったの!?」
そんなことを言われたら流石の彼女でも断念するしかないが、何もそこまで言って拒否するほどかと花園は訝しげる。
「うん、だから行かないと」
「え、ちょっ……白岡さん何処に行くつもり? そっちは出口じゃないよ?」
コクリと頷くと彼女は花園に背を向けて歩き出す。最初は島の外に出るのかと思ったが、彼女が進む先は島の奥。一瞬理解が出来ず目を点にしていた花園は、すぐ我に返って白岡を呼び止めようとするが……。
「ごめん、ちょっと急ぐ」
「っ……白岡さん!?」
まるで地面を爆発させるかのように地面を蹴った白岡がその場から跳び立つ。
吹き荒れた土煙が花園の視界を塞ぐ。咄嗟に小さな爆発を起こして土煙を払ったが、視界が晴れた先にはもう白岡の姿はなかった。
「万が一の保険って言ったくせに……ホントに何してるの」
空中で彼女はブツブツと呟いている。次第に落下しそうになるも、今度は空を蹴ることで高く前へ跳躍する。それを繰り返すことで無駄に広い島の内部を移動していた。
「彼やレイからは見守るだけでいいって言われたのに、調子に乗って近付くから悪い」
本当にそれだけで良かったのにと、彼女は無表情ながら不満そうに頬を膨らませる。
そもそも討伐自体を面倒だと思っていた彼女からしたら、この学園生活もとんだとばっちりでしかなかった。
「――ヴィットのバカ」
猫のようにのんびり寝転がって気分に任せて過ごしたい。巻き込まれただけの彼女にとって、それが数少ない願望であったが、バカ主人を放って置けない気持ちも少なからずある。
意外と寂しがり屋な白猫であった。
(あ、ダメだありゃ。大人しく凍らされた方がマシだったかも)
女性はロリから熟女まで全般オールOKな時一久にも、苦手な女性は存在した。
正直なところ彼にとって容姿はあまり関係ない。いや、出来れば容姿も良い方が嬉しいが。
中身の性格だけは、たとえ容赦が絶世の美女であってもお断りしたい。
特に目の前にいる先輩大好きで、小柄な貧乳で、魔力オバケで、火力バカで、金に目がない色気から程遠い性格をした少女などは超拒否であった。
「覚悟はいいですか! 精霊!」
(『魔導王』の参戦も予想はしていたが、このタイミングの参戦は正直キツい)
危うく氷漬けにされると焦る時一。物理耐性に魔法耐性も非常に高い精霊状態であるが、相手が『魔導王』なら話は全く別次元であった。
精霊の力を高めてどうにか檻を払えはしたが、さらに魔力を増大した麻衣の姿は、魔法破りに特化している時一でも攻略は容易ではなかった。
(いくら何でも仮初めの力じゃあの娘の魔法は受け切れない。せめて『シロ』を側に付けるべきだったか)
「【アバター・チェンジ】……来れ――『古代より伝わる魔導の開拓者……知恵の大賢者』」
木の杖を構えた麻衣の姿が変貌する。
能力を発動したことによって、『大賢者の王杖』の本来の主人の姿を象る。
精霊化した時一の視界に古びた魔法使いの帽子とローブを身に着けた1人の女性が現れた。
(エルフ!? いや、ハイエルフって奴か! 魂の色はそのままだから姿だけを変えたようだが……)
さっきまでの小柄な麻衣とは正反対の大人の美女である。
触れるどころか見るだけでも罪に思える神聖な雰囲気を纏っている。金色の瞳と尖った耳から種族を推測した彼の視界に、綺麗な黄緑色をした長い髪がふんわりと揺れて、黒のローブ越しでも分かる豊満な部位がフルと揺れた。……彼の視線がどっちに集中したかは言うまでもない。
(間違いない。…………アレはGだ!)
お陰で絆が重要な精霊化が弱くなってしまったが、彼は美味しいものが見られたと合掌したい気分であった。前置きで性格云々を言っていたが、やはり彼にとって容姿もまた重要だとここで訂正しよう。
「【多重詠唱】【マナ・バースト】【マナ・コントロール・フル】」
そして無防備とは言わないが、すっかり隙だらけなった精霊の前に、姿を変えた麻衣が『大賢者の王杖』を操作する。
最上級の詠唱補助に加えて、最上級の魔力強化のスキルを解放したことで彼女の体から魔力のオーラが可視化するほど噴火した。
「……」
そうして……『氷河を統べる姫王』の先端を精霊へと向けて、静かに魔法を唱えた。
「【フリーズ】」
『――ッ!?』
発動されたのはただの初級魔法。
だが、魔力のリミッターが半分近くまで外れた今の麻衣であれば、たとえ初級魔法であっても上級魔法に匹敵するレベルまで引き上がる。
精霊の足下一面が氷の世界となった。炎の脚まで氷が浸透すると、避けようとする彼の動きを封じて見せた。
(精霊の耐性が全く意味がない! これがアイツと同じ『魔導王』の恩恵か!)
逃げの手を封じられた彼は、ただ次の攻撃を待つしかない。いや、こちらから攻撃を仕掛けるのも出来なくはないが、あの莫大な量の魔力圧に対抗する攻撃手段は今の彼にはなかった。
「先輩!」
「分かってる。【マスター・ブック】」
(来る! 大地の融合スキルが! こっちの守りを固めないと!)
瞬時に判断した時一は精霊の力を操作して巨大な炎の壁を作り上げる。仮初めの力を借りている状態であるが、精霊使いの彼はその力を手足のように操り、最上級魔法にも耐えれる分厚い炎の壁をいち早く張り終えた。
「……」
障壁が展開されるのを見ながら、補充された魔力を利用した大地は【スキル・コンタクト】を再び使用する。手元に白い本を喚び出して中から3枚のカードを取り出した。
「『戦士』『剣士』『魔法使い』……【スキル・コンタクト】」
三種類の力が混ざり合う。
力が凝縮されると手元に剣のような形状をした光の杖が生まれる。……麻衣の魔力が込められたことで、精霊にも届く光の斬撃や魔弾を繰り出せれる。
「決めるぞ!」
「はい!」
(ああ、来い……!)
剣のように杖を振るって大地が光の斬撃波を繰り出す。
『氷の女王』に魔力を込めた麻衣が合わせて氷結の光線を発動する。
最後にタイミングを読み切った時一が精霊の力を操作した。
次の瞬間。
「【マジック・オブ・セイバー】ァァァァッッ!!」
「【フリーズ・ライト・オーバー】ッ!!」
(――【炎界楼壁】ッ!!)
結果、発動された三種類の技が衝突し合う。
調整を加えた時一の炎の障壁が2つの技を外に流そうとしたが、やはり威力を抑え切れない。
(…………これが異世界を乗り越えた者の力か)
やがて巨大な炎の障壁を撃ち崩した2人の攻撃が精霊化した時一に届く。
麻衣の氷結の光線が炎の装甲を凍らして崩すと、大地が放った光の斬撃が時一の奥まで斬り込んだ。
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