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元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

四神使いと元勇者 その4。

「やれやれ、魔導師のカードまで失うとはな。……これで彼の手元には3枚のカードが揃ったわけか」

 大地と戦闘して見事に逃げ切った仮面の学生は、残っていた四獣が敗れたのを感じるも、最低限の目的は達成されたと笑みを浮かべる。実験体の予定だったワンダまで失ったのは惜しかったが、結果として重要対象である大地のデータを間近で取れた。

 なにより、暗黒のカードがまた1枚彼の元へ。口では惜しそうに言っているが、それがその者にとって大きな意味と先の楽しみでもある。

「あと4枚のカードも導けば、遂にあの試練が始ま――……なんだ? この反応は?」

 懐に入れていた4枚のカードの異変に気付いて取り出す。一応辺りを気にしつつ取り出したカードを眺めたところで、不審そうにした表情が消えて驚愕のものへと変わった。

「これは……! 共鳴しているのか?」

 大地の能力で喚び出されるジョブカードに似た黒きカード。
 持ち主であるその者は何もしていないのに対して、4枚全てが何かしらの反応を示していた。
 
「まるで主人を見つけたかような邪悪な歓喜を感じる! サンプルの因子・・・・・・・では大した反応をしなかったこいつらが!」

 鈍い動悸のような発光が感情を表して、絵柄から浮かび上がる血管のような魔力の管が本能を表現しているみたいだ。
 そう、言葉にするなら「早く出せ! 我らを主人の下に行かせろ!」と叫んでいるようだ。

「やはり私の考えは間違ってなかったと言うわけか。これなら残りの4枚を与える前に覚醒が見られるかもしれない」

 しかし、カードの叫びを理解しても要望通りに解き放つことはない。その者にとっては所詮は掘り出し物で実験の材料でしかないからだ。

「勇者が魔王の僕たちを引き寄せるか。本当に興味が尽きない男だね、幸村君」

 唯一の興味対象である彼だけが、その者にとっても貴重な素材。
 嬉しい意味で常に予想を裏切ってくれる。手元のカードが騒がしいのも無視して、楽しそうな軽い歩みで学園島へ帰還した。





『……っ!』

「逃すか!」

 寸前で飛んできた炎球に撃たれたが、俺が放った矢弾が奴の肩から片翼を撃ち抜いた。
 撃ち落とされた人型の炎精霊が降下する中、強烈な火の玉が直撃したダメージなど無視して、落下地点へ一気に駆け出す。

「『暗黒騎士アークナイト』、『剛炎鬼神レッドオーガ』、『黒魔導師リッチー』――【スキル・コンタクト】!」

 手元から黒きカード3枚が出現させる。放出している魔力を注ぎ込むとそれぞれが漆黒の粒子となる。禍々しい暗黒の刃が生成されて右腕に装着された。

「ハァァァァァ! 【ダークナイト・ブレイカー】ッッ!!」

 落下してくる精霊をしっかり捉えて勢いよく跳躍。
 炎精霊も両手から炎剣を出してくるが、俺が作り出した暗黒の刃は精霊の力を打ち消して斬り裂く! 迎え撃ってくる火の玉も避けてながら一太刀を浴びせた。

『……!?』

「ラッ!」

 炎剣ごと精霊を斬り裂いて空中で体を回転。
 追撃の斬撃を連続で浴びせて、刃が装着された腕でボロボロの精霊を真下へ叩き落とす。

「全火力だッ!!」

 さらに精霊が地面へ叩き付けられたところで、溜め込まれた最後の斬撃を真下へ放つ。赤黒い斬撃が刃から飛び出して、揺らめいているボロボロの炎へ浴びせた。
 直撃の寸前で巨大な火の盾が立ちはだかるが、赤黒い斬撃は火すら侵食させる暗黒の力が宿っている! 精霊だろうと関係ない!

『……!』

「手応え……ありだな」

 斬撃を放ち終えると少し離れた位置で着地する。何度も斬られた精霊は地面に落とされても健在のようだが、弱々しい全身の炎を見れば弱っているのは明らかだ。魔力に高い耐性がある精霊であっても、あの力の前では弱体化は避けられない。

「あと一撃与えれば……倒せる筈」

 さっき程までとは打って変わって弱り切った姿の精霊。
 未だに正体もその真意も不明であるが、向かって来る以上は敵でしかない。

「次で決着をつけるぞ! 精霊!」

『っ……!?』

 そして、慄いているように見える精霊へトドメの一撃を――

「……と、言いたいところだが……残念だ。どうやらここまでらしい」

 俺自身の嵐のような追撃も終わりを迎える。
 活動の限界時間タイムアップとなり『戦神バトルマスター』の黒銀の鎧が煙になって消滅すると、副作用の反動で全身の魔力と気力が抜け落ちて鉛のような感覚に襲われる。

「っ……だから、このモードは慣れないんだ。リスキーが尋常じゃないからな」

『……!』

 鎧が消滅した俺を見て炎の精霊も察したらしい。素早く手元から火の槍を作り出して、呆然と立ち尽くしている俺へ投げ付けた。心なしか加減されている気がするが、直撃すれば大火傷は確実である。

「ハハ、参ったな……」

 本当によく理解した一撃である。
 『戦神バトルマスター』だけでなく『魔王のスキル・・・・・・』まで頼った代償。
 その影響はとても大きく、迫ってくる一槍を躱せる余力も今の俺には残っていない。

 どうすることも出来ず、ただその場で立っているのがやっとな状態であった。







「【フリーズタイム】」

 だが、放たれた炎槍が俺の下に届くことはなかった。
 障壁のように前方に覆われた青白い霧の壁に打つかった瞬間、揺らめいていた炎槍が空中で停止した。

「ああ、こうなったか……」

『…………』

 その光景を唖然とした様子で見ている精霊が投げた姿勢で固まる。起きた事態が飲み込めてないのか、どう見ても隙だらけでまたとないチャンスであるが、動けない以前に俺には急ぎの案件がやって来てしまった。

「この馬鹿センパイが! いったい何してるんですか!」

 可愛くない後輩が見参。登場して早々失礼な叫びが洞窟内に響いて煩いからまずボリュームを落とせ。馬鹿とか火力馬鹿なお前には言われなくない!

「あー……とりあえず魔力を回復してくれないか? 出来れば肉体の強化も込みで」

「結構ピンチなくせに何言ってんのこのセンパイ!? ていうか魔力どころか体もなんかガタがきてますよね! 私の目は誤魔化せませんよ!」

 氷の女王様の杖を構えた麻衣が俺の言葉に憤慨していた。繋がっている俺とのパスから異常事態に気付いたんだろう。探知魔法を利用して龍の翼でここまで最速で駆け付けたようだ。……あとボリュームを落とせ、さっきから耳がキーンとする。

「センパイらしくない魔力だと思って急いで来て見れば、なんですかこの状況は!? あの妙に威厳があるようで全然ないような精霊も気になるけど、センパイの方がもっとずっと変ですよ!」

 キレた様子で色々と言われてるけど、さり気なくあっちの精霊をディスってない? 確かに異世界で遭遇した数少ない精霊と比べても……なんか違和感あるけど。威厳とかって魔法使いの麻衣には分かるんだっけ?

「まぁそういう時もあるさ。だってセンパイは先輩だから」

「誤魔化すならもっとまともな言い訳をしてくださいっ! 全然意味が分かりませんよ!?」

「ハハハハ、先輩がセンパイでセンパイ」

「もうアンタから氷漬けにしてやろうかコラッ!? 今なら1/1の等身大の氷像が出来上がりますが、よろしいですか? はい、よろしいですね!!」

 キレ過ぎて目が血走ってるな。ボリュームも増幅しっぱなし。
 龍の姿だと洞窟内は狭いので能力は解いているが、手には『氷河を統べる姫王プリンセス・エイジ』の氷色の宝石杖が握られている。
 名前の通り氷系統に特化された杖なので、俺の周りに包まれている霧を騒ぎながらも、きちんと操作コントロールして精霊の方も警戒して近付けないでいた。

「まぁいいからいいから、今は緊急事態だから、相手は精霊だから、来たならフォローよろ」

「なんか口調のいい加減ですよ!? ……もう! 分かりましたよ! 疲れてるからっていつもよりも雑な扱いしないでくださいね!」

 そして不満全開プラス不貞腐れた様子で頬を膨れせるも、非常に渋々な顔のまま新たな杖を召喚した。

「いちいち調整するの面倒なんで一気にいきますよ?」

「ああ、構わないから来い!」

「では」

 知恵の泉と呼ばれた賢者の王『大賢者の王杖ロード・ワイズマン』の大きな木の杖。
 片手で扱うには大きい杖だが、器用に振るうと立ち尽くす俺に向けて魔法を発動させた。

「満ちるは恵の雨――【キュアレイン】」

「繋げるは絆の源――【マナギフト】」

「膂力の糧となれ――【パワー・オール】」

 三種類の魔法が一気に掛けられる。
 瞬間、全身の鉛のような脱力感が緩和する。彼女の膨大な魔力量の一部が俺の中へ流れていき、疲れ切っている肉体にも気力が倍増して戻ってきた!

「ありがとう、助かった」

「もっと心の底から」

「さんきゅー」

「ハハハ、コノヤロウ。やっぱり氷漬けの刑に――」

 軽いジョークのつもりがイラッとしたらしい麻衣が何か言いかけたが、視界に広がった波のような爆炎が見事に邪魔していた。精霊が囲っていた【フリーズタイム】を燃やし尽くそうとしたが。

「黙れや、火ダルマ。【氷牢】【氷牢】【氷牢】!」

『ッ!?!?』

「吹き荒れろ氷雪の嵐――【フリーズテンペスト】!!」

『ッ!?!?!?』

 キレ気味の麻衣がぶつけた氷の檻と氷雪の嵐に逆襲をもろに受けた。
 分かり易いくらいの慌てっぷりで侵食してくる氷を溶かしていくが、三重に掛けた【氷牢】は非常にしつこい。氷雪の嵐の重ね掛けもあって相殺も間に合わず、徐々に侵食が進んでいる様子であった。

「……ここまで駆け付ける最中、センパイの魔力から非〜常に嫌な気配も感じたんですが? それについての説明は無しなんですか?」

「あれ? あっちは放置なのか?」

「今からトドメを刺しますよ! 危ないのでとりあえずセンパイは離れて……」

 言いかけたところでまた精霊の爆炎が麻衣のセリフをかき消した。
 薄暗い景色が真っ赤に染まる程の高熱の炎を爆発させる。閉じ込めていた氷結系統の魔法の全てを発生させた高熱の炎で爆散して、全身の炎が増した精霊が出て来たが。

「ふ、ふふふふふ……。あの燃やし精霊モヤシが……凍り漬け程度では満足しないと言うか? ――先輩・・

「どのみち次で決めるつもりだった。回復して貰ったし、トドメは一緒にやろうか」

「はぁ、場所がこんなところじゃなかったら、もっと威力のある殲滅系の魔法が使えるんですけどねー」

「使えたら困るんだよ」

 言いながら場所が洞窟でよかったかもと思った。じゃなかったらきっと被害を無視した麻衣の超火力魔法が大災害のように島を襲ったに違いない。
 俺が側にいたことも加減していた理由だろうが、島内部にも人がいることも使えない要因であった。

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