元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
四神使いと元勇者 その3。
こちらの世界で身に付けた『戦神』は、【マスター・ブック】の調査中に判明した『隠れジョブ』だったが、それまでは基本職の感覚を取り戻そうと、空いた時間に島へ訪れてはモンスターを狩りまくっていた。
「はぁ……」
散らばって倒れているゴブリンの群れを見ながら、『槍使い』の俺は槍を地面に刺しながら一息を吐いていた。1年には人気がないエリアだから他に人も居ない。スキルや魔法関係を誤魔化す必要がないから楽ではあるが、問題は生息しているモンスターのレベルであった。
「弱過ぎる。やっぱりここじゃダメか?」
誰も誘わずソロで挑んでいる為に安全を考慮していたが、雑魚ばかりの下層のみに絞っている所為か能力自体に特に変化が見えない。少しずつジョブにも慣れ始めてはいるが、飛躍的な進化の兆しが見え隠れしていた。
「思い切って奥まで行った方がいいか? いや、万が一手に負えない相手が出て来たら1人だと厳しいか」
以前、森の中で遭遇して取り逃がした仮面の学生のことも気になっていたから、そちらの方も調べていたが、やはりと言うか全く手掛かりがなく、唯一残っていたのは使用した幹部のカードだけだ。休憩中に取り出したカードの絵柄に写っている、禍々しい大剣を持った黒き騎士を眺めていた。
「魔剣使いの暗黒騎士『アークナイト』か。こいつも厄介だったが、まさかカード化してるとはな」
仮面の学生が使用した『アークナイト』のカード。かつての奴ほどの力はなかったが、魔剣に宿っていたスキルが健在だった為に手こずった。最後は剣スキルで斬り飛ばしたが、肝心の奴は姿を消していた。可能な限り探し回って見たが、慣れない島の内部、時間も限られており断念するしかなかった。
「麻衣の報告して意見でも求めるか? アイツの魔法ならもしかしたら――」
トラブルメイカーで火力バカな後輩であるが、一応は最強の魔法使いの称号持ちである『魔導王』なんだ。そう、火力しか能がない攻撃魔法オタクで、貧乳を隠す為に妙な幻覚魔法を覚えたあの麻衣なら…………
「やっぱりやめてこうかな。ヘタしたら来年待たずに島に乗り込んで来そうだし」
「確かにあの子ならやり兼ねないな。魔法に長けている子だけど、お前一筋なあの暴走癖だから新たな問題を呼び寄せて、さらに場を荒らしそうだ」
「俺一筋と言う部分はともかく、あの暴走癖は事実だからなぁ。相談したくてもどうしても抵抗があって…………え?」
何故か横から後輩をよくご理解したセリフが飛んで来たから、思わず悩みを打ち明けるように返答してしまったが、……なんで横から声がするんだ? しかもこの声、なんか聞き慣れている気が……。
ハッとして振り返った先で立っていたのは、呆れた顔をした見知った男性。向こうの世界と似たような私服姿をしており、見覚えのあるジャケット姿に思わず目を見開いてしまった。
「無事に帰還したと聞いてやって来てみれば……何してるんだ? 大地」
「れ、零さん?」
それは絶対こっちのセリフだと思った。別世界の人の筈がなんでもない風にまた会いに来たのだ。
「ちょっとした調査のついでだったが、そんな状態のお前を放置するのも目覚めが悪いか」
そして、再び零さんに指導して貰ったお陰で『戦神』の道筋を見つけることが出来た。色々とリスクが大きいジョブであるが、活かせれば『勇者ジョブ』にだって匹敵する凄い可能性を秘めた力だった。
(こ、この痛みは……!)
打ち込まれた拳は炎の精霊化した時一に痛烈なダメージを与えた。さらに洞窟の壁まで叩き付けられて、苦悶する彼は隙だらけであったが。
「……っ」
(何故だ? 何故攻めて来ない? どう見てもチャンスだろ?)
新たに黒銀の鎧姿となった大地は拳を振り抜いたまま攻めようとしない。何か痛みを堪えるような顔をしており、フラフラとした足取りで今にも倒れそうに見えるのが不思議だ。
「ふぅ……」
しばらくして乱れていた息の方を整えると、フラつきながら冷え切った瞳を炎の姿をした時一に向けた。
そして。
「【リミットブレイク】――強制発動」
何かのスキルを発動させた途端、全身から血のような魔力が溢れ出る。既に魔力は空に近かった筈、いったい何が起きているのか時一もすぐには理解出来なかった。
(――待て? リミットと言ったか? まさか瀕死かそれに近い状態で発動出来るスキルか!?)
「【瞬速レベルⅣ】! 【火炎殺しレベルⅡ】! 【チャージ・バスターレベルⅢ】!」
今度は修羅の如き気迫を纏った大地が攻め出す。さらに何段も加速した動きに困惑しつつも対応しようとする時一であるが、振り抜いた横薙ぎの手刀を腕でガードしたことで異変に気付いた。
『グッ!?』
手刀の衝撃に耐え切れず粉々になる炎の腕。普通ならダメージゼロですぐに再生するところが、先ほどの胸元に受けた痛みと同様に重い激痛が彼の腕に響いた。
「ラァッ!」
不覚にも受けた腕の方の感覚が麻痺してしまい、続けて腹に打ち込まれた蹴りをまともに受けてしまう。通常の蹴りよりも明らかに重く痛覚を刺激する一撃。衝撃で後退りつつ腹をさすっているが、事態が読み込めず頭の中で疑問が次々と浮かんでいた。
(痛覚が増してダイレクトにオレに通ってるだと!? これもスキルなのか!? さっきまで防戦一方が精々だったのが、いったい何が起きてる!? あの黒銀の姿が関係しているのか!?)
「【拳舞】! 【ナックル・スマッシュ】! オオオオオオオォォォォ!!」
『っ……!』
そこから嵐のような連打が襲い掛かってくる。うち何発かは躱せれたが、拳の嵐は止まること知らず、一発一発が小さな爆弾のように彼の肉体へダメージを与えていく。打ち込む度に彼の拳の方が焼けてしまう筈だが、黒銀の籠手と【火炎殺し】の効果か精霊の炎は相殺されていた。
(でも痛覚がない筈がないんだ! まさか遮断しているのか? 後先のことを考えてないのか!?)
どちらにせよ、このまま押し切られる流れはマズいと感じた。背中にある炎の翼を広げて一旦上空へ退避しようとするが。
(分析の必要がある! 打ち込まれた箇所を【アナライズ】して能力の正体を――)
「『魔法使い』! 『弓使い』! 【スキル・コンタクト】!!」
逃さんと言った鋭い眼光で空へ逃げる時一を睨むと、両手から赤と黒の2色の光を出した大地が新たなスキルを発動させる。鈍く輝いている2色は混ざり合って赤黒い弓となり、大地が力強く弦を引くと『赤黒い雷の矢』が生み出された。
(ッ……そうか! そういうことか!)
と、そこで違和感の正体に気付いたが、信じ難いと驚愕のあまり目を剥いた。本当に信じられないが、仮説が事実なら魔力耐性が強い精霊の肉体がダメージを負った原因も分かってしまうのだ。
つまり、彼の力の正体は……
(魔力じゃない瘴気だ! 大地の魔力の中にレイの世界の魔獣と同じ瘴気の力が混じって――)
「【カース・ブラック・ダースト】ォォォォッッ!」
「っ……【劫火滅殺】ッ!」
溜め込まれた弓から『赤黒い雷の矢弾』が放たれる。咄嗟に躱そうと翼を振るわせかけたが、凄まじい速度を迫って来る矢弾を見て、今からでは間に合わないと即断する。寸前で迎撃しようと手のひらから引き出した火炎の球を放った。
「はぁ……」
散らばって倒れているゴブリンの群れを見ながら、『槍使い』の俺は槍を地面に刺しながら一息を吐いていた。1年には人気がないエリアだから他に人も居ない。スキルや魔法関係を誤魔化す必要がないから楽ではあるが、問題は生息しているモンスターのレベルであった。
「弱過ぎる。やっぱりここじゃダメか?」
誰も誘わずソロで挑んでいる為に安全を考慮していたが、雑魚ばかりの下層のみに絞っている所為か能力自体に特に変化が見えない。少しずつジョブにも慣れ始めてはいるが、飛躍的な進化の兆しが見え隠れしていた。
「思い切って奥まで行った方がいいか? いや、万が一手に負えない相手が出て来たら1人だと厳しいか」
以前、森の中で遭遇して取り逃がした仮面の学生のことも気になっていたから、そちらの方も調べていたが、やはりと言うか全く手掛かりがなく、唯一残っていたのは使用した幹部のカードだけだ。休憩中に取り出したカードの絵柄に写っている、禍々しい大剣を持った黒き騎士を眺めていた。
「魔剣使いの暗黒騎士『アークナイト』か。こいつも厄介だったが、まさかカード化してるとはな」
仮面の学生が使用した『アークナイト』のカード。かつての奴ほどの力はなかったが、魔剣に宿っていたスキルが健在だった為に手こずった。最後は剣スキルで斬り飛ばしたが、肝心の奴は姿を消していた。可能な限り探し回って見たが、慣れない島の内部、時間も限られており断念するしかなかった。
「麻衣の報告して意見でも求めるか? アイツの魔法ならもしかしたら――」
トラブルメイカーで火力バカな後輩であるが、一応は最強の魔法使いの称号持ちである『魔導王』なんだ。そう、火力しか能がない攻撃魔法オタクで、貧乳を隠す為に妙な幻覚魔法を覚えたあの麻衣なら…………
「やっぱりやめてこうかな。ヘタしたら来年待たずに島に乗り込んで来そうだし」
「確かにあの子ならやり兼ねないな。魔法に長けている子だけど、お前一筋なあの暴走癖だから新たな問題を呼び寄せて、さらに場を荒らしそうだ」
「俺一筋と言う部分はともかく、あの暴走癖は事実だからなぁ。相談したくてもどうしても抵抗があって…………え?」
何故か横から後輩をよくご理解したセリフが飛んで来たから、思わず悩みを打ち明けるように返答してしまったが、……なんで横から声がするんだ? しかもこの声、なんか聞き慣れている気が……。
ハッとして振り返った先で立っていたのは、呆れた顔をした見知った男性。向こうの世界と似たような私服姿をしており、見覚えのあるジャケット姿に思わず目を見開いてしまった。
「無事に帰還したと聞いてやって来てみれば……何してるんだ? 大地」
「れ、零さん?」
それは絶対こっちのセリフだと思った。別世界の人の筈がなんでもない風にまた会いに来たのだ。
「ちょっとした調査のついでだったが、そんな状態のお前を放置するのも目覚めが悪いか」
そして、再び零さんに指導して貰ったお陰で『戦神』の道筋を見つけることが出来た。色々とリスクが大きいジョブであるが、活かせれば『勇者ジョブ』にだって匹敵する凄い可能性を秘めた力だった。
(こ、この痛みは……!)
打ち込まれた拳は炎の精霊化した時一に痛烈なダメージを与えた。さらに洞窟の壁まで叩き付けられて、苦悶する彼は隙だらけであったが。
「……っ」
(何故だ? 何故攻めて来ない? どう見てもチャンスだろ?)
新たに黒銀の鎧姿となった大地は拳を振り抜いたまま攻めようとしない。何か痛みを堪えるような顔をしており、フラフラとした足取りで今にも倒れそうに見えるのが不思議だ。
「ふぅ……」
しばらくして乱れていた息の方を整えると、フラつきながら冷え切った瞳を炎の姿をした時一に向けた。
そして。
「【リミットブレイク】――強制発動」
何かのスキルを発動させた途端、全身から血のような魔力が溢れ出る。既に魔力は空に近かった筈、いったい何が起きているのか時一もすぐには理解出来なかった。
(――待て? リミットと言ったか? まさか瀕死かそれに近い状態で発動出来るスキルか!?)
「【瞬速レベルⅣ】! 【火炎殺しレベルⅡ】! 【チャージ・バスターレベルⅢ】!」
今度は修羅の如き気迫を纏った大地が攻め出す。さらに何段も加速した動きに困惑しつつも対応しようとする時一であるが、振り抜いた横薙ぎの手刀を腕でガードしたことで異変に気付いた。
『グッ!?』
手刀の衝撃に耐え切れず粉々になる炎の腕。普通ならダメージゼロですぐに再生するところが、先ほどの胸元に受けた痛みと同様に重い激痛が彼の腕に響いた。
「ラァッ!」
不覚にも受けた腕の方の感覚が麻痺してしまい、続けて腹に打ち込まれた蹴りをまともに受けてしまう。通常の蹴りよりも明らかに重く痛覚を刺激する一撃。衝撃で後退りつつ腹をさすっているが、事態が読み込めず頭の中で疑問が次々と浮かんでいた。
(痛覚が増してダイレクトにオレに通ってるだと!? これもスキルなのか!? さっきまで防戦一方が精々だったのが、いったい何が起きてる!? あの黒銀の姿が関係しているのか!?)
「【拳舞】! 【ナックル・スマッシュ】! オオオオオオオォォォォ!!」
『っ……!』
そこから嵐のような連打が襲い掛かってくる。うち何発かは躱せれたが、拳の嵐は止まること知らず、一発一発が小さな爆弾のように彼の肉体へダメージを与えていく。打ち込む度に彼の拳の方が焼けてしまう筈だが、黒銀の籠手と【火炎殺し】の効果か精霊の炎は相殺されていた。
(でも痛覚がない筈がないんだ! まさか遮断しているのか? 後先のことを考えてないのか!?)
どちらにせよ、このまま押し切られる流れはマズいと感じた。背中にある炎の翼を広げて一旦上空へ退避しようとするが。
(分析の必要がある! 打ち込まれた箇所を【アナライズ】して能力の正体を――)
「『魔法使い』! 『弓使い』! 【スキル・コンタクト】!!」
逃さんと言った鋭い眼光で空へ逃げる時一を睨むと、両手から赤と黒の2色の光を出した大地が新たなスキルを発動させる。鈍く輝いている2色は混ざり合って赤黒い弓となり、大地が力強く弦を引くと『赤黒い雷の矢』が生み出された。
(ッ……そうか! そういうことか!)
と、そこで違和感の正体に気付いたが、信じ難いと驚愕のあまり目を剥いた。本当に信じられないが、仮説が事実なら魔力耐性が強い精霊の肉体がダメージを負った原因も分かってしまうのだ。
つまり、彼の力の正体は……
(魔力じゃない瘴気だ! 大地の魔力の中にレイの世界の魔獣と同じ瘴気の力が混じって――)
「【カース・ブラック・ダースト】ォォォォッッ!」
「っ……【劫火滅殺】ッ!」
溜め込まれた弓から『赤黒い雷の矢弾』が放たれる。咄嗟に躱そうと翼を振るわせかけたが、凄まじい速度を迫って来る矢弾を見て、今からでは間に合わないと即断する。寸前で迎撃しようと手のひらから引き出した火炎の球を放った。
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