元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
四神使いと元勇者 その2。
「はぁ……はぁ……!」
人気がなくモンスターもいないただ広いだけの草原の中、疲労困憊の俺は全身から汗を流して今にも倒れそうであったが。
「どうした? もう終わりか?」
「い、いえ! まだやれ――ゲホッ!?」
尋ねられて思わず叫ぶが肺が重く息が切れてしまう。魔力が消耗して思考が鈍くなり、全身が鉛のように重く感じる。軽い筈の聖剣まで重く感じてしまい、フラつきながら両手で握り締めていた。
「そうは見えないがな」
そんな限界ギリギリの俺を見ていた男は、黒い刀を片手で回しながら小首を傾げる。既に2時間近く模擬戦の相手をしてくれているが、息どころか汗1つかいておらず、足底を滑らして芝生の感触を確かめていた。
「続けるなら遠慮しない」
言いながら軽い動作で地を蹴ると、男の姿が間近まで迫る。まるで風にでもなったみたいだ。なんでもない風に持っていた黒い刃で俺の両眼を――、
「――はっ!!」
「お、持たせたか」
寸前で顔と刃の間に聖剣を入り込めた。盾代わりにして刃を受け流すと、後退しつつ横薙ぎから光の斬撃を飛ばすが。
「緩い」
あっさりとした一刀両断。至近距離から迫っていた斬撃に対して、男は慣れた感じで片手の黒刀を振るうと斬撃を切り裂いて左右に流した。僅かな隙すら見せない男の対応の早さに唖然としていると。
「ガッ!?」
「よそ見とは余裕だな?」
脇腹を狙った重い蹴りに視界が大きくグラついた。しっかり捉えていた筈の男の急接近に気付かず、横腹に受けた蹴りによって俺の体は横に飛ばされる。転がりながら衝撃を抑えてなんとか上体を起こしたが、今の一撃で集中の糸まで途切れてしまった。
「隙だらけだ。ひと突きしてやろうか?」
「――ッ! 【ライト・クロス・ショット】!」
突きの構えから飛びかかって来る男を見て、反射的に指先から十字の光線を放つ。相手の動きを乱す牽制にでもなればと放った一撃であるが、光線を見た男は構えていた刀を寸前で戻した。壁のように刃を回転させて光線の攻撃をなぎ払ってみせた。
「次はどうする?」
「っ……【ソード・ダンス】!」
再び男に急接近を許された。剣撃に特化したスキルで対応しようとするが、男は余裕の動作で俺が繰り出す剣撃を全て弾いていく。……いや、
「中途半端な剣技ほど脆い型はないな」
「……うっ!?」
既に攻守自体が逆転している。押し戻そうと繰り出した俺の剣撃を弾いた男の刃が鋭く俺の四肢を狙って来る。聖剣を盾か代わりにして堪えているが、動きについて行けず攻め手に回ることが出来ない。
「がぁ!?」
右の太腿に焼けるような鋭い痛みが……剣の防御が間に合わなかった所為で、黒刀のひと突きを太腿に受けてしまった。さらに右手首、左肩、右脇腹……と順に剣撃を浴びせられ、武器である聖剣まで手から弾かれて――、
「アウトだ、大地」
「く、くそ……」
意識を刈り取る強烈な拳を腹部に受けた。
「戦士にとって大事なことってなんだと思う?」
異世界転移から修業を開始して1年以上が経ち、第一の目標であった『勇者』のジョブを手にした頃だ。
王城の大臣たちはどうせ無理だと鼻で笑っていたが、取得した途端、あっさり手のひらを返してすり寄って来て非常に面倒だった。王女さんの一喝でだいぶ抑えられたが、国王も王子もあちら寄りだったので度々面倒ごとが向こうからやって来る。今では、依頼や修業を理由に王城から抜け出す毎日であるが。
「クイズじゃないぞ? ちょっとした確認だ」
お陰で目の前の人と出会えた上、稽古まで付けて貰えるようになった。実際『勇者』になってから力が扱え切れず、戦え辛かったので稽古は非常に助かった。基本職から急に伝説クラスの職に変えたんだから、しょうがないと最初は割り切っていたが、全然慣れずもう三ヶ月が経とうとしていた。
男の人との稽古を始まってから1週間が経とうとしているが、それでも変化は殆どなかった。
気絶から目覚めた俺が黒刀で受けた精神ダメージを休ませていると、芝生で寝転がっていたその人が問い掛けてきた。殺傷能力がない黒刀のお陰で怪我自体はないが、その分精神へのダメージが大きく乗し掛かる疲労で体まだ言うことを利かなかった。……ぼんやりとしていた思考はだいぶ回復していたから、思い付いたものを次々と口にしてみたが。
「知識ですかね? あと訓練とか技術とか」
「まぁ間違ってはいないが、それだけで戦えるのか?」
「でも、それぐらいしか……初めてモンスターと戦った時も、訓練とスキルを覚えていたお陰で勝てましたし」
「それを含めてこの世界の弊害かもな。強いスキルとジョブの訓練をすれば済むと思っている」
困ったように顔をして男は立ち上がる。すると手から黒い球体……『異能』と呼ばれるそれから黒刀を取り出すと、未だに倒れて動けない俺の首元へ剣先を向けた。
「別世界の住人でしかないお前には、この世界はさぞ現実離れしたものだろう。向こう側もそれを分かっている上で敢えて楽な方法を教えたんだろうが……『勇者』のままだとそれは許されないらしいな」
「つまり基本職のままなら大丈夫だけど、『勇者ジョブ』だと今の俺だとダメってことですか?」
「ま、そうなるな」
剣先を突き付けたまま男は溜息混じり答える。
しかし、こうして言われても何がダメなのか俺には理解が出来なかった。異世界生活からもう1年が経っているが、まさかジョブのことで躓くとは思わなかった。
「分からないよな。そりゃそうだが、オレがこの世界に居られる時間には限りがある」
突き付けていた剣先を離すと、男は距離を取って「起きろ」と言うようにクイと首を動かす。……気が付いたら鉛のようだった体の負荷が無くなっていた。
「来いッ!」
起き上がると転がっている聖剣の方へ手を伸ばす。意識を向けると聖剣は輝きを見せて地面から俺の手元へ飛んで来た。
「やる気はあるようだな。……なら続けるぞ?」
黒刀を構えた途端、今度は気配まで消える。冷たい瞳が俺の心臓を捉えている錯覚を覚えて、背筋が凍り付いた気がした。
「――決して折れない戦う心。残り数日で教えてやるよ」
この時、後輩と別行動をしていて、本当に助かったと心の底から思った。向こうは向こうで新たな魔法職と杖を手に入れようとしており、こちらに構ってくる余裕なんてある筈なかったが。
「殺意の刃を見せてやる」
俺達とは別世界からやって来た零さんの指導の内容は、とても現代っ娘な麻衣には教えられなかった。
「はぁ、はぁ……ぐっ」
(はぁ、期待外れだ。本当にこんなものなのか? お前の力は?)
実に呆気ないものである。魔力や気力の消耗でフラつく大地を見ていた時一は、内心残念気味に溜め息を吐いていた。槍のままでは勝てないと感じてバズーカを構えた時は、彼も内心ビックリしていたが、炎の精霊化の状態である今の彼には物理攻撃も通じない。こちらが攻撃した際のカウンターでなら通じるかもしれないが、そんな僅かな隙を今の大地が突けれるとはとても思えなかった。
(レイはまぁまぁ評価していたようだが、オレからしたらまだまだ甘い。これじゃあの因子に勝てな――)
「――結集せよ……」
失望にも近いものだと感じた直後、フラフラしていた大地が何か呟いた。と、纏っていた銃火器装備が光の粒子となって消える。元の制服姿の彼の手元に【マスター・ブック】が鈍く光っていた。
「魂まで繋がった六つの戦士たちよ!」
六つの光が彼と同化すると、彼の全身に黒銀の鎧が装着されて……。
「ガァアアアアアアアッッ!」
『――ッ!』
まるで獣のような雄叫びを上げた瞬間、倍以上に増した脚力で地面を蹴って、時一が察知反応するよりも速く懐に入り込んで、黒銀の籠手で覆われた拳を打ち込もうとしていた。
(速いが間に合わないと思ったか? この間合いなら十分受け流せれるぞ)
しかし、急な接近を許されても、時一の精神は落ち着いたものだった。瞬時に同化している精霊の力を操って、これまでと同じように物理攻撃を流そうと……
『!?』
――した瞬間、溝辺りに打ち込まれた拳の衝撃と重い激痛が彼の平静を打ち崩した。
いったい何が起きたか、理解出来なかった時一はそのまま後ろへ殴り飛ばされると、洞窟の岩壁に激突。数秒遅れて衝撃が全身を巡ったか、壁に叩き付けられた直後、肺に溜まっていた息と共に吐血を起こしていた。
人気がなくモンスターもいないただ広いだけの草原の中、疲労困憊の俺は全身から汗を流して今にも倒れそうであったが。
「どうした? もう終わりか?」
「い、いえ! まだやれ――ゲホッ!?」
尋ねられて思わず叫ぶが肺が重く息が切れてしまう。魔力が消耗して思考が鈍くなり、全身が鉛のように重く感じる。軽い筈の聖剣まで重く感じてしまい、フラつきながら両手で握り締めていた。
「そうは見えないがな」
そんな限界ギリギリの俺を見ていた男は、黒い刀を片手で回しながら小首を傾げる。既に2時間近く模擬戦の相手をしてくれているが、息どころか汗1つかいておらず、足底を滑らして芝生の感触を確かめていた。
「続けるなら遠慮しない」
言いながら軽い動作で地を蹴ると、男の姿が間近まで迫る。まるで風にでもなったみたいだ。なんでもない風に持っていた黒い刃で俺の両眼を――、
「――はっ!!」
「お、持たせたか」
寸前で顔と刃の間に聖剣を入り込めた。盾代わりにして刃を受け流すと、後退しつつ横薙ぎから光の斬撃を飛ばすが。
「緩い」
あっさりとした一刀両断。至近距離から迫っていた斬撃に対して、男は慣れた感じで片手の黒刀を振るうと斬撃を切り裂いて左右に流した。僅かな隙すら見せない男の対応の早さに唖然としていると。
「ガッ!?」
「よそ見とは余裕だな?」
脇腹を狙った重い蹴りに視界が大きくグラついた。しっかり捉えていた筈の男の急接近に気付かず、横腹に受けた蹴りによって俺の体は横に飛ばされる。転がりながら衝撃を抑えてなんとか上体を起こしたが、今の一撃で集中の糸まで途切れてしまった。
「隙だらけだ。ひと突きしてやろうか?」
「――ッ! 【ライト・クロス・ショット】!」
突きの構えから飛びかかって来る男を見て、反射的に指先から十字の光線を放つ。相手の動きを乱す牽制にでもなればと放った一撃であるが、光線を見た男は構えていた刀を寸前で戻した。壁のように刃を回転させて光線の攻撃をなぎ払ってみせた。
「次はどうする?」
「っ……【ソード・ダンス】!」
再び男に急接近を許された。剣撃に特化したスキルで対応しようとするが、男は余裕の動作で俺が繰り出す剣撃を全て弾いていく。……いや、
「中途半端な剣技ほど脆い型はないな」
「……うっ!?」
既に攻守自体が逆転している。押し戻そうと繰り出した俺の剣撃を弾いた男の刃が鋭く俺の四肢を狙って来る。聖剣を盾か代わりにして堪えているが、動きについて行けず攻め手に回ることが出来ない。
「がぁ!?」
右の太腿に焼けるような鋭い痛みが……剣の防御が間に合わなかった所為で、黒刀のひと突きを太腿に受けてしまった。さらに右手首、左肩、右脇腹……と順に剣撃を浴びせられ、武器である聖剣まで手から弾かれて――、
「アウトだ、大地」
「く、くそ……」
意識を刈り取る強烈な拳を腹部に受けた。
「戦士にとって大事なことってなんだと思う?」
異世界転移から修業を開始して1年以上が経ち、第一の目標であった『勇者』のジョブを手にした頃だ。
王城の大臣たちはどうせ無理だと鼻で笑っていたが、取得した途端、あっさり手のひらを返してすり寄って来て非常に面倒だった。王女さんの一喝でだいぶ抑えられたが、国王も王子もあちら寄りだったので度々面倒ごとが向こうからやって来る。今では、依頼や修業を理由に王城から抜け出す毎日であるが。
「クイズじゃないぞ? ちょっとした確認だ」
お陰で目の前の人と出会えた上、稽古まで付けて貰えるようになった。実際『勇者』になってから力が扱え切れず、戦え辛かったので稽古は非常に助かった。基本職から急に伝説クラスの職に変えたんだから、しょうがないと最初は割り切っていたが、全然慣れずもう三ヶ月が経とうとしていた。
男の人との稽古を始まってから1週間が経とうとしているが、それでも変化は殆どなかった。
気絶から目覚めた俺が黒刀で受けた精神ダメージを休ませていると、芝生で寝転がっていたその人が問い掛けてきた。殺傷能力がない黒刀のお陰で怪我自体はないが、その分精神へのダメージが大きく乗し掛かる疲労で体まだ言うことを利かなかった。……ぼんやりとしていた思考はだいぶ回復していたから、思い付いたものを次々と口にしてみたが。
「知識ですかね? あと訓練とか技術とか」
「まぁ間違ってはいないが、それだけで戦えるのか?」
「でも、それぐらいしか……初めてモンスターと戦った時も、訓練とスキルを覚えていたお陰で勝てましたし」
「それを含めてこの世界の弊害かもな。強いスキルとジョブの訓練をすれば済むと思っている」
困ったように顔をして男は立ち上がる。すると手から黒い球体……『異能』と呼ばれるそれから黒刀を取り出すと、未だに倒れて動けない俺の首元へ剣先を向けた。
「別世界の住人でしかないお前には、この世界はさぞ現実離れしたものだろう。向こう側もそれを分かっている上で敢えて楽な方法を教えたんだろうが……『勇者』のままだとそれは許されないらしいな」
「つまり基本職のままなら大丈夫だけど、『勇者ジョブ』だと今の俺だとダメってことですか?」
「ま、そうなるな」
剣先を突き付けたまま男は溜息混じり答える。
しかし、こうして言われても何がダメなのか俺には理解が出来なかった。異世界生活からもう1年が経っているが、まさかジョブのことで躓くとは思わなかった。
「分からないよな。そりゃそうだが、オレがこの世界に居られる時間には限りがある」
突き付けていた剣先を離すと、男は距離を取って「起きろ」と言うようにクイと首を動かす。……気が付いたら鉛のようだった体の負荷が無くなっていた。
「来いッ!」
起き上がると転がっている聖剣の方へ手を伸ばす。意識を向けると聖剣は輝きを見せて地面から俺の手元へ飛んで来た。
「やる気はあるようだな。……なら続けるぞ?」
黒刀を構えた途端、今度は気配まで消える。冷たい瞳が俺の心臓を捉えている錯覚を覚えて、背筋が凍り付いた気がした。
「――決して折れない戦う心。残り数日で教えてやるよ」
この時、後輩と別行動をしていて、本当に助かったと心の底から思った。向こうは向こうで新たな魔法職と杖を手に入れようとしており、こちらに構ってくる余裕なんてある筈なかったが。
「殺意の刃を見せてやる」
俺達とは別世界からやって来た零さんの指導の内容は、とても現代っ娘な麻衣には教えられなかった。
「はぁ、はぁ……ぐっ」
(はぁ、期待外れだ。本当にこんなものなのか? お前の力は?)
実に呆気ないものである。魔力や気力の消耗でフラつく大地を見ていた時一は、内心残念気味に溜め息を吐いていた。槍のままでは勝てないと感じてバズーカを構えた時は、彼も内心ビックリしていたが、炎の精霊化の状態である今の彼には物理攻撃も通じない。こちらが攻撃した際のカウンターでなら通じるかもしれないが、そんな僅かな隙を今の大地が突けれるとはとても思えなかった。
(レイはまぁまぁ評価していたようだが、オレからしたらまだまだ甘い。これじゃあの因子に勝てな――)
「――結集せよ……」
失望にも近いものだと感じた直後、フラフラしていた大地が何か呟いた。と、纏っていた銃火器装備が光の粒子となって消える。元の制服姿の彼の手元に【マスター・ブック】が鈍く光っていた。
「魂まで繋がった六つの戦士たちよ!」
六つの光が彼と同化すると、彼の全身に黒銀の鎧が装着されて……。
「ガァアアアアアアアッッ!」
『――ッ!』
まるで獣のような雄叫びを上げた瞬間、倍以上に増した脚力で地面を蹴って、時一が察知反応するよりも速く懐に入り込んで、黒銀の籠手で覆われた拳を打ち込もうとしていた。
(速いが間に合わないと思ったか? この間合いなら十分受け流せれるぞ)
しかし、急な接近を許されても、時一の精神は落ち着いたものだった。瞬時に同化している精霊の力を操って、これまでと同じように物理攻撃を流そうと……
『!?』
――した瞬間、溝辺りに打ち込まれた拳の衝撃と重い激痛が彼の平静を打ち崩した。
いったい何が起きたか、理解出来なかった時一はそのまま後ろへ殴り飛ばされると、洞窟の岩壁に激突。数秒遅れて衝撃が全身を巡ったか、壁に叩き付けられた直後、肺に溜まっていた息と共に吐血を起こしていた。
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