元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

四神使いと元勇者 その1。

「やれやれ、こんなものですか。これならまだ幹部の連中の方がまだ手強かったですよ?」

 南エリアで暴れていた龍化した麻衣と獅子の決着は早々についた。
 最初は『四獣』の一角である獅子も健闘していたが、肉体以外は全盛期と変わらない『魔導王』の称号を持つ麻衣の前は、その辺りの子猫でしかなかった。
 憂さ晴らし代わりの遊び相手となってボロ雑巾になるまで遊び尽くされ、最後は龍のブレスで粉々に消し飛んだ。

「随分、派手にやってくれたな1年」

「はい? ……ああ、2年の人ですか」

 麻衣は転がっている琥珀色の核球を拾うと、背後から聞こえる堅苦しそうな声に振り返ると先輩と思われる学生が2人。まだゲート付近で待機している生徒たちの代表か、大柄の2年の男子生徒と小柄な女子生徒の2人が近付いて来た。

「南エリアの担当を任された2年Aクラス秋党だ。こっちは補佐の同じAクラスの松井」

「松井です、初めまして。あなたは1年の小森麻衣さんですよね? 生徒会に在籍しているのでよく噂は耳にしてますよ?」

「……どうも、初めまして」

 いったいどんな噂を耳にしているのか。……きっと事実に尾ひれが付いたものだろうと、麻衣は生まれた疑問を一瞬で端っこに弾いた。生憎とそれどころではなさそうだからだ。

 軽く挨拶をしている視界の隅で、戦闘を終えた空と沙織の緊張した様子に心の中で困ったように苦笑する。大した怪我もなく安心していたが、仕出かしたことと現れた2年の先輩たちの圧に押されていた。

(2人に任せると余計に拗れそうだし仕方ないかぁ。はぁ、センパイが居たら丸投げ出来るのに!)

「早速で悪いが、説明して貰おうか?」

「説明ですか?」

「惚けるな。幸村がいないが、奴も関わっているのだろう? あの三流役者がこそこそ動いているのは1年の頃からだからな」

「ぷっ、三流ですか? 確かに役者向きとは言えませんが」

 目標の四獣2体を目指して二手に分かれたが、まだ時間が掛かっているらしい。目の前の先輩との対話をどう流すか考えながら、麻衣はさりげなく大地と繋がっているパス・・・・・・・・に意識を向ける。
 契約魔法の一種であり、パスを通して相手の状態を繋がり具合でよって深く把握することが可能である。
 そして――

「!?」

「ん? どうした?」

 作り笑みを浮かべていた彼女の顔が凍り付いた。余裕そうな顔が一変して深刻そうなものに変化したことで、顔を合わせていた2年の2人から困惑気味な表情を向けられるが、彼女の心境はそれどころではなかった。

(――先輩・・? なんでそんなに消耗してるんですか? この程度の四獣相手に何をやってるんですが?)

 繋がれたパスによって彼女の大事な者の消耗状態が分かった。ただ疲れているだけなら彼女もここまで表情を変えたりはしないが、自分と違い魔力コントロールが高い大地からは極めて珍しい事態であった。
 いくら弱体化しているといえ、あの大地が苦戦する程のレベルとは思えないが、消耗している魔力の量が異常であった。





 ――10分ほど前に遡る。高笑いしながら燃え尽きた人形の残骸から『黒魔導師のリーチー』カードを拾い、とりあえずポケットにでもと仕舞っている最中であった。

『……』

 突如現れたそいつに困惑する俺だが、相手はこちらの戸惑いなどお構いなしに奇襲攻撃を仕掛けて来た。
 
「ぐっ!? がはっ!」

 ――しまった! 警戒していた炎の飛礫つぶてを腹で受けてしまった! 一瞬だが息が止まりそうになる!
 専用の槍や速度で誤魔化しているが、『槍使いランサー』のスタイルだと防御関係が非常に弱い。それを補う為に【心眼】などで動きを読んで攻撃を回避していたのだが。

『……』

「ッ! またっ!」

 不意打ちの一撃。奴の指らしき部分から再び炎の飛礫が飛んでくる! 弾丸クラスの速度なため全身の反射能力をフル回転させて回避するが。

 撃ち出されたタイミング、撃ち出された目標軌道、撃ち出された速度。
 全てに対応するだけの時間が足りな過ぎる! 頬を掠めた飛礫が後ろの岩壁を砕いた音を確認する暇もない。

『……』

 今度は背丈が同じくらいの炎の球体に変化したそいつへ槍先を構えた。

「水の一撃――【ウォーター・ランス】ッ!」

 先端から鋭い水の槍を撃ち出す。水系統は不得意な方であるが、これでとりあえず奴の炎の状態でも調べて見ようとしたが……。 

「あっさり蒸発するなよ」

『……』

 結論、球体に触れた途端、水蒸気になって消えました。ふざけてるのか、麻衣のように上位属性の氷系統なんて使えないから、これ以上確かめれないぞ?

「この火の塊が……精霊・・なのか? 攻撃も動きからも魔力の気配が全くしない」

『……』

 再び人型となった炎の塊の視線? を感じながら俺は持ち札から最善の一手を考える。

「勘弁してくれよ。精霊に勝った経験どころか、まともな戦闘だって皆無なんだぞ?」
 
 さて、どうする? もし本当に精霊なら仮に麻衣を呼んだとしても勝てるか分からないぞ? 異世界でも非常に珍しかった精霊は、魔王並みに情報が少なく厄介な相手なのだ。
 実体と非実体の存在である精霊には魔法が効かない。厳密にはほぼ効かないと言った方が正しいが、魔導の頂点に立つ麻衣であっても相性最悪な存在であった。

「『槍使いランサー』、『弓使いアーチャー』……」

 相手は炎の塊である。さっきのあっさり蒸発した水を見る限り、いつものような接近戦を得意とする近接系のジョブは危険だ。魔法が効かないので魔法系のジョブも当然不可だ。

「――融合せよ! 戦場に生きる戦士たちの絆よ!」

 ならばこの特殊職業の力で粉砕する!
 通常のジョブカードよりも膨大な魔力を消費して、2つのカードの力からあのカードを喚び出した。

「圧殺蹂躙せよ! ――『銃撃戦体ギガ・パンツァー』!」

 身体中に鎧のような魔導装甲を装備すると、両手に先端が槍のような大筒状のバズーカを構える。顔にはヘルメットのようなゴーグルが装着されており、奴の姿を捉えて情報が画面に出ていた。……異世界バージョンの超ハイテク技術である。

「装填――【ランスキャノン】」

 銃火器装備を召喚させる重戦スタイル。火力押しの特殊職業である『銃撃戦体』は、魔力消費がとても大きいが攻撃力が極めて高い。

「吹き飛べ! 【ファイア】ァァァァッーー!!」

『……』

 両手に構えている大筒のバズーカ『真国崩しの銃撃砲ハイブリット・カノン』から槍状のミサイルが発射!
 一歩たりとも動かずこちらの様子を見ている人型の炎へ、巨大な物質の塊をミサイルにして叩き込んだ!


 しかし、俺は計算違いをしていた。
 物質攻撃に近い槍のミサイルなら通じると踏んでいた奴の肉体は――、

『……』

「はぁ、はぁ……」

 一切の物理攻撃を通さなかった。
 まるで空気にでも突撃するかのように、ミサイルは奴の肉体を貫いただけで一切のダメージを与えていなかった。強烈な爆発を起こした物もあったが、一時的に奴の肉体を吹き飛ばしてもすぐに炎は形を作り元の姿へと戻っていた。

 試しにこのモードで魔法攻撃も仕掛けてみたが、やはり効き目はイマイチで無反応も飛礫を飛ばして来た。このモードだと重過ぎるから防御するしかないが、攻撃だけでなく防御も強いので問題なく防ぎ切ったが、決め手となる一手が効かず打つ手を見失ってしまった。

「物理攻撃も魔法攻撃もダメとか……どうしろと?」

『……』

「うっ! 本当にどうしろって言うんだ!?」

 返答がなかった代わりに大きめの飛礫を飛ばして来た。しっかりガードしていたのでダメージはないが、このスタイルは魔力や体力の消耗が激しい。長期戦に向かない為にそろそろ疲労から動きが鈍くなっていた。

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