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元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。

ルド@

始まる北エリアの戦い、そして……。

「鷹宮キサマ! オレの邪魔する気か! カニよりも先にキサマを氷漬けにするぞ!」

「それはこっちのセリフよ! 邪魔するなら貴方から斬るわよ松井君!」

「ちょっとお2人さーん!? こんな時まで喧嘩しないでくれよ! 今まさにカニの奴が泡ブレスを噴いてんだけど!?」

『キィィィィィ!』

 雪が降っている北エリアは極寒地区。氷タイプのモンスターが多く海系やゴーレム系などの種類がおり、吹雪などの影響も当然受けない。
 ただし、ゲート付近なのでそこまで吹雪いておらず、温度もそこまで下がっていない普通の冬より少し寒いくらいである。それだけなら灼熱地区よりもマシに思えるが、こちらはこちらで舐めていると危険なエリアである。

『キィィィィ!』

「また来るぞ! 飛来する前に全部割るんだ!」

 カニ型の巨大なモンスター『シュラ』は口元から泡のブレスを吐くと、風紀委員会の副会長で鬼とも呼ばれる松井桃矢が全員に指示を飛ばす。
 泡なので玉の速度はシャボン玉と大して変わらないが、飛び道具を使える能力者たちは一斉に飛んでくる泡に狙いを定めていた。

 そして、矢、火の玉、石の弾丸などがふわふわと飛来する泡を撃ち落とした。
 途端、一斉に爆発を起こす泡の数々。無数の爆裂音と衝撃がモンスターを囲っていた能力者たちを押し返す。

「凍らなくて爆発する泡ブレスとか……! 前よりも厄介になってないか!?」

「だよな!? やっぱり上位種か異常種とか……もしかして」

「『パニックエラー』で異常種になったってことか!?」

 囲っている男子の1人が叫ぶとガードする他の男子たちも疑問を叫び合う。全員考えたくはなかったようだが、出現しているカニのモンスターの戦闘力や能力は、明らかに中層レベルのモンスターそれを凌駕している気がした。

 従わせていた雑魚のモンスターたちは、問題なく仕留めて残りの数も少ない。
 なのに残っている目の前のカニの怪物だけは、ある程度慣れている筈の2年の彼らですら苦戦を余儀なくされていた。

 しかし、このモンスターを相手する2年生の中には、お構いなしに突撃する猛者が2人は確実に混ざっていた。

この程度で・・・・異常種? 馬鹿なことを言わないで」

 男子たちの会話を鼻で笑うと、握っていた一刀を横に振るう鷹宮。
 振るわれた剣から光の斬撃が飛び出して、右側のハサミの腕に直撃すると。

『キィィィィ!』

「ほら、大した強度じゃないわ」

 大きく装甲も分厚いハサミの腕の一部に亀裂が走る。
 驚いたようにカニは僅かに後退するが、背後の男がそれを許さない。

「オイ、オレを無視するとはいい度胸だ」

 背丈くらいある氷の金棒を片手で持つ桃矢が呟く。小柄な体格の彼が持つと余計に大きく見えるが、彼はなんでもない風に肩へ乗せていた。
 言葉の意味など分からないカニは、彼の気配を感じて振り返ろうとしたが、片手で振り抜いた金棒の強烈な一撃が小さな脚数本を叩き壊した。

『キィィィィ!?』

「脚が数本折れたくらいで大袈裟だな。次は頭を割ってやるよ!」

 呻くカニと歓声を上げる仲間たち。続け様に大きな頭部を粉砕してやろうと金棒を振り上げたが。

「ハッ!」

「っ……鷹宮!」

 再び飛ばす斬撃を放った鷹宮の攻撃を受けたカニが大きく横に崩れる。振り下ろした金棒が逸れて慌てる桃矢だが、仕掛けたのが問題児の鷹宮だと気付くとすぐさま睨み付けた。

「邪魔をするなと……!」

「こっちのセリフだと言ったでしょう!」

「大人しく露払いでもしていろ!」

「氷使いなら灼熱エリアに行ってなさいよ!」

「どう考えても苦手だと言うのが分からんのかキサマは!?」

 斬られて殴られて苦しむカニは放置状態。
 今にも激突しそうな2人に他の面々は頭を抱えてしまう。

「藤原君は行かないの? 朱音さんが松井君と仲良さそうだよ?」

「……僕のことを単純な奴だとか思ってない? いくら僕でもあれで嫉妬するほど馬鹿じゃないから」

 一応鷹宮のメンバーも参加しているが、リーダーの暴走癖には付いていけないと知らん顔している。鷹宮を狙っている貪欲な藤原ですら、黙々と散らばっている雑魚を武器であるチェーンソーで狩っていた。戦闘系の能力者ではない橘はそのフォローをしている。

 他者たちよりも割と余裕がある橘は、カニの見ながら冷静に状況を分析していた。

(それにしても本当強化されてるわ。これも『パニックエラー』の異常種変化ってところ? 発生し始めてから結構経つけど、共通点がモンスターだけで情報が少ない)

 未だに謎が多い現象であるが、幸いなことに大きな被害まで発展はしていない。
 現にリーダーの鷹宮と副委員長の松井の暴走コンビだけで、中層クラスで強化されたカニを圧倒していた。





 そうして各地で行われる四獣戦。少々イレギュラーな事態も起きているが、どうにか2年たちが健闘している。苦戦しているエリアもあるが、最悪の事態までには発展していない。

 そして、最後に残っている東エリアはといえば……。
 
「見当たらないだと?」

「はい、下級モンスターの群れが出て来ているんですが、肝心の四獣『ワンダ』が何処にも……」

 『暗黒島』に入ってすぐのゲートの外に設置しているテント。医務室と情報共有の為に用意されてあり、緊急用の為に3年の生徒会と風紀委員が待機していたが。

「こんなこと今まであったか?」

「い、いえ、私の聞いた限りでは……」

 通信係の報告を受けた生徒会長が訝しげな顔をして、報告した生徒に聞き返していた。聞かれた生徒は固まってしまい、まともに返答も出来ていないが。

「……どう思う?」

「ん〜……さぁ?」

「はぁ、そうか」

 一応同席している風紀委員長の彼女に尋ねるが、特に考えてないのかのんびりとした様子で返答……と言えない回答に頭痛で頭を押さえていた。







「妙だな。……彼がいない」

 そして、四獣を通して・・・・・・見ていた者は、ターゲットの1人が見当たらないことに小首を傾げている。もう1人のターゲットである1年は龍化して、配下である獅子の相手をしていた。

「やはり『ワンダ』を送るべきだったか? 実験の為にと残していたが」

『シャァァァァ』

 背後には紫色の蛇モンスター、四獣の一体である『ワンダ』がガードで控えている。
 本来なら従うような蛇ではないが、既にその者に存在の一部を書き換えられている為、忠実な僕となっている。たとえ実験台になろうとも抵抗など微塵もなかった。

 しかし、その者の意識はもはや蛇にはない。
 各地で暴れている四獣たちの意識に入り込んで彼の姿を探っているが、影も形もなくやはり何処にも見当たらない。気配すらその者には感じ取れなかった。

「いったい彼は何処に……」

 場所は人気のない巨大な洞窟の中、暗黒の魔法陣を展開させながらその者は身を潜めている。守らせている四獣の蛇の存在も大きく、近辺のモンスターたちも近寄ろうとしなかった。

 だから何が起きても外部の者たちは気付かない。
 その者も警戒はしているが、安全圏だと完全に油断していた。 



「ここだ」



 蛇やその者の気配察知を掻い潜り背後に忍び寄ると、幸村大地は言ってみせる。
 その者が振り返るよりも速く、『戦士ウォリアー』の短剣で背中から突き刺した。

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