元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
大和撫子の邂逅は後輩の前であった。
鷹宮朱音は孤高の剣士。彼女は――『チカラ無き転生者』であった。
記憶がなかった彼女がそれを自覚したのは、中学2年の頃である。
彼女の世界が大きく変化した。
頭の中で大地震でも起きたような感覚であった。
予期しない反動で三日三晩、彼女は寝込んでしまったが、目覚めた頃には『孤高の剣士』の頃の記憶が戻っていた。
初めは疑心暗鬼な部分があり、幻覚にでも掛かったのかと思うこともあったが、何度も自問自答して記憶とも向き合ったことで、彼女は能力育成機関の『天輪学園』への入学を目指した。
理由は記憶を取り戻せても、力までは戻らなかったから。
『天輪学園』が取り戻せる切っ掛けになるかと考えた彼女は、能力を目覚めさせるカリキュラムに期待して入学を希望した。
そもそも能力者というものにも興味があり、別世界では『孤高』と呼ばれていたが、競い合いには燃える性格であった。
しかし、どうにか入学しても彼女の望むような結果は得られなかった。
目覚めた能力は興味深いモノだと思ったが、本来の力には程遠い劣化版な物であった。
やがて自身のクラスが最底辺だと気付くや、己の才能の無さに絶望以上に嫌気が差した。入学して早々、この学園生活に不満しかなくストレスまで抱えていた。
もはやモンスター討伐は、彼女にとってただのストレスの発散対象でしかなかった。
問題児なEクラスの中でも恐れ知らずの『大物喰い』となっていたが。
「やめておけ。それ以上の能力酷使は危険過ぎる」
冷め切っていた筈の彼女の心が一気に燃え上がる存在が現れた。
偶々クラスが同じで席が近いだけ、焦立ちしかなかった相手が知ったような顔で見下ろしていた。
「貴方には……関係ないでしょう」
「そうか? 息を切らしてピンチのようだが」
1年前に発生した大規模戦。虫型のモンスターの大量発生に1年と2年が共同で討伐に参加したが、上位種のモンスターは流石に無茶が過ぎた。
覚醒前はただの女子でしかなかった。限られた時間で肉体を鍛えれるだけ鍛えていたが、やはり短期間では無理があった。
能力が過剰に使った消耗で崩れていた彼女を見て、彼は冷静な口調で諭すように言うが、反発しか返ってこない。
「回数限界が分からないお前がじゃないだろう。肉体疲労がピークなくせに無茶したな」
「っ……貴方には関係ない!」
「普段はクールなのに妙なところで熱いんだな」
呆れた眼差しで見ていた視線が四方へ向く。見慣れない黒のジャケットを着ており腰からダガーのような短剣を取り出す。黙り出し次第に目付きが鋭くなると……
『シュー!』
「シッ」
――『光の一閃』。
彼の短剣が猛スピードで飛び出した虫に一閃を入れる。僅かに刃が光り輝いたように見えたが、さらに続けて出て来た虫の大群に飛び掛かる。
呆気に取られている彼女を無視して、次々と切り裂いていく。切り裂こうとする度に刃が発光する不思議な光景が見える。始めは気のせいかと思われたが、あの光は何かの現象である。
「あれだけ派手に暴れたら当然来るよな」
「もしかして魔力付与? 斬撃系のスキルが付与されてる?」
異世界の知識を持つ彼女だからこそ咄嗟に出た憶測かもしれないが、それは正解である。
幸村大地の『戦士』の専用武器『踏破した冒険者の証』の短剣に付与された【心刃】というスキルであった。
「貴方……ただの学生じゃなかったのね?」
「学生さ。お前と同じ能力持ちのな」
「違うわ。それはどう見ても能力の枠から外れた……っ!」
縦横無尽に周囲のモンスターを狩りまくる。慣れた感じに片手の短剣を逆手持ちして敵を切り裂き、頭部や腹を蹴り飛ばしていく。
明らかに実戦経験者の動き。
瞬間、彼女の脳裏にあり得ない筈のある可能性が過ぎった。
「まさか……」
「【ライト・クロス・ショット】!」
『ギィィィィ!』
彼女の視線の先で銃の構えをした彼が指先から十字の光線を放つ。
無数の虫のモンスターをかき消していき、飛んで来た上位種の1体を吹き飛ばしていた。
「『拳闘士』――解放せよ! 大地を砕く剛力の魂!」
そこからさらに加速する上位種の虫型モンスターと幸村大地の戦い。
幸村は真っ赤なガントレットを装着した姿に変えて戦う。離れていた為によく見えなかったが、何かを取り出して光らせたと思えば……彼の姿が変化していた。
「これで終わりだ【爆龍我・拳舞】!」
『ギィィィィ!?』
放たれた紅蓮の炎と音波の衝撃波が衝突に巻き込まれた鷹宮は、消耗もあり途中で意識が飛んでしまった。
意識が戻った頃には大規模戦は終わって医務室のベットの上であったが、彼女はアレを夢だとは思わなかった。
「あの力が魔法と関係するものなら……彼は……」
色々な疑問が頭の中で渦巻いていたが、まずは彼としっかり話をして洗いざらい白状させようと考えた。
最もその遭遇の際で相手の正体を勘付いたのは彼女だけではないが。
後輩の麻衣に報告こそしなかったが、大地はそれ以降、鷹宮に対する警戒度を何段も上げて避けるようにになった。当然のことであるが、チームの誘いも問答無用で拒否はしたが、何かと理由を付けて『サポート部』を通した誘いが何度もあった。
「以上が私と彼を引き抜こうとした切っ掛けかしら?」
「急展開過ぎて正直リアクションに困る内容ですが、一言だけ言わせてもらいます。……人間ですかあなたたちは」
ファンタジー過ぎて付いていけない、というのは1年生らしいまともな反応である。後ろの親友の2人も同じ感想だろうと思う。いきなり大規模戦とやらの話をされても困るのが普通なのだ。
しかし、返答した麻衣の心境は『何してくれたんだあのセンパイは!?』と毒を吐きたいものであった。
(何か隠してると思ったけど……しっかり見られてるじゃないですか!)
用事があると言った大地と分かれた麻衣は、外の公園兼訓練場スペースで親友の空と沙織の訓練の相手をしていた。
人の目があるので可能なら個室の場所を確保したいところであるが、前回の施設内部の破壊件で使用制限が掛けられている。そこまで重い罰ではないが、建物内部での能力の訓練は当分禁じられてしまった。
(は、半分は私の所為かもですが、もう半分は絶対センパイの所為ですからね!?)
諦めて運動場のような外の場所を利用することした1年たち。
最初は何もないと全員不満そうであったが、慣れてくると外でのトレーニングも悪くなかった。人の目があるので目立つタイプの能力は使えないが、身体の強化や武器の練習ならやっていても問題はない。
筈だったが。
「実力を隠して表舞台に顔を出そうとせず、誰とも組まなかった彼が『口約束』とやらで入学したばかりの貴女達とチームを組んだ。行動が遅い普段の彼からは想像も付かないほど俊敏だったわ」
(あのセンパイ……普段はカメさんか何かやってんですか? というかこの人もなんでもそこまでセンパイに意識を……)
「センパイに気でもあるんですか? 言っときますが、センパイにはこのクールでビューティーな後輩が……」
「貴女は異世界を信じる?」
言い訳があるとすれば彼女の先輩が何も教えなかったからだ。あと異世界での心理戦や駆け引きなどは、修業の際に精神面が数段鍛えられた大地が全部務めていた為に彼女はそこまで得意ではなかった。
だから不意に『異世界』の単語が出た際に、不覚にも顔が強張ったのは仕方がなかったことだと言わせて欲しい。
誰でもない自分に言い訳する麻衣だが、反応を見て微かに笑みを浮かべた鷹宮を見て、しまったと内心舌打ちをした。
記憶がなかった彼女がそれを自覚したのは、中学2年の頃である。
彼女の世界が大きく変化した。
頭の中で大地震でも起きたような感覚であった。
予期しない反動で三日三晩、彼女は寝込んでしまったが、目覚めた頃には『孤高の剣士』の頃の記憶が戻っていた。
初めは疑心暗鬼な部分があり、幻覚にでも掛かったのかと思うこともあったが、何度も自問自答して記憶とも向き合ったことで、彼女は能力育成機関の『天輪学園』への入学を目指した。
理由は記憶を取り戻せても、力までは戻らなかったから。
『天輪学園』が取り戻せる切っ掛けになるかと考えた彼女は、能力を目覚めさせるカリキュラムに期待して入学を希望した。
そもそも能力者というものにも興味があり、別世界では『孤高』と呼ばれていたが、競い合いには燃える性格であった。
しかし、どうにか入学しても彼女の望むような結果は得られなかった。
目覚めた能力は興味深いモノだと思ったが、本来の力には程遠い劣化版な物であった。
やがて自身のクラスが最底辺だと気付くや、己の才能の無さに絶望以上に嫌気が差した。入学して早々、この学園生活に不満しかなくストレスまで抱えていた。
もはやモンスター討伐は、彼女にとってただのストレスの発散対象でしかなかった。
問題児なEクラスの中でも恐れ知らずの『大物喰い』となっていたが。
「やめておけ。それ以上の能力酷使は危険過ぎる」
冷め切っていた筈の彼女の心が一気に燃え上がる存在が現れた。
偶々クラスが同じで席が近いだけ、焦立ちしかなかった相手が知ったような顔で見下ろしていた。
「貴方には……関係ないでしょう」
「そうか? 息を切らしてピンチのようだが」
1年前に発生した大規模戦。虫型のモンスターの大量発生に1年と2年が共同で討伐に参加したが、上位種のモンスターは流石に無茶が過ぎた。
覚醒前はただの女子でしかなかった。限られた時間で肉体を鍛えれるだけ鍛えていたが、やはり短期間では無理があった。
能力が過剰に使った消耗で崩れていた彼女を見て、彼は冷静な口調で諭すように言うが、反発しか返ってこない。
「回数限界が分からないお前がじゃないだろう。肉体疲労がピークなくせに無茶したな」
「っ……貴方には関係ない!」
「普段はクールなのに妙なところで熱いんだな」
呆れた眼差しで見ていた視線が四方へ向く。見慣れない黒のジャケットを着ており腰からダガーのような短剣を取り出す。黙り出し次第に目付きが鋭くなると……
『シュー!』
「シッ」
――『光の一閃』。
彼の短剣が猛スピードで飛び出した虫に一閃を入れる。僅かに刃が光り輝いたように見えたが、さらに続けて出て来た虫の大群に飛び掛かる。
呆気に取られている彼女を無視して、次々と切り裂いていく。切り裂こうとする度に刃が発光する不思議な光景が見える。始めは気のせいかと思われたが、あの光は何かの現象である。
「あれだけ派手に暴れたら当然来るよな」
「もしかして魔力付与? 斬撃系のスキルが付与されてる?」
異世界の知識を持つ彼女だからこそ咄嗟に出た憶測かもしれないが、それは正解である。
幸村大地の『戦士』の専用武器『踏破した冒険者の証』の短剣に付与された【心刃】というスキルであった。
「貴方……ただの学生じゃなかったのね?」
「学生さ。お前と同じ能力持ちのな」
「違うわ。それはどう見ても能力の枠から外れた……っ!」
縦横無尽に周囲のモンスターを狩りまくる。慣れた感じに片手の短剣を逆手持ちして敵を切り裂き、頭部や腹を蹴り飛ばしていく。
明らかに実戦経験者の動き。
瞬間、彼女の脳裏にあり得ない筈のある可能性が過ぎった。
「まさか……」
「【ライト・クロス・ショット】!」
『ギィィィィ!』
彼女の視線の先で銃の構えをした彼が指先から十字の光線を放つ。
無数の虫のモンスターをかき消していき、飛んで来た上位種の1体を吹き飛ばしていた。
「『拳闘士』――解放せよ! 大地を砕く剛力の魂!」
そこからさらに加速する上位種の虫型モンスターと幸村大地の戦い。
幸村は真っ赤なガントレットを装着した姿に変えて戦う。離れていた為によく見えなかったが、何かを取り出して光らせたと思えば……彼の姿が変化していた。
「これで終わりだ【爆龍我・拳舞】!」
『ギィィィィ!?』
放たれた紅蓮の炎と音波の衝撃波が衝突に巻き込まれた鷹宮は、消耗もあり途中で意識が飛んでしまった。
意識が戻った頃には大規模戦は終わって医務室のベットの上であったが、彼女はアレを夢だとは思わなかった。
「あの力が魔法と関係するものなら……彼は……」
色々な疑問が頭の中で渦巻いていたが、まずは彼としっかり話をして洗いざらい白状させようと考えた。
最もその遭遇の際で相手の正体を勘付いたのは彼女だけではないが。
後輩の麻衣に報告こそしなかったが、大地はそれ以降、鷹宮に対する警戒度を何段も上げて避けるようにになった。当然のことであるが、チームの誘いも問答無用で拒否はしたが、何かと理由を付けて『サポート部』を通した誘いが何度もあった。
「以上が私と彼を引き抜こうとした切っ掛けかしら?」
「急展開過ぎて正直リアクションに困る内容ですが、一言だけ言わせてもらいます。……人間ですかあなたたちは」
ファンタジー過ぎて付いていけない、というのは1年生らしいまともな反応である。後ろの親友の2人も同じ感想だろうと思う。いきなり大規模戦とやらの話をされても困るのが普通なのだ。
しかし、返答した麻衣の心境は『何してくれたんだあのセンパイは!?』と毒を吐きたいものであった。
(何か隠してると思ったけど……しっかり見られてるじゃないですか!)
用事があると言った大地と分かれた麻衣は、外の公園兼訓練場スペースで親友の空と沙織の訓練の相手をしていた。
人の目があるので可能なら個室の場所を確保したいところであるが、前回の施設内部の破壊件で使用制限が掛けられている。そこまで重い罰ではないが、建物内部での能力の訓練は当分禁じられてしまった。
(は、半分は私の所為かもですが、もう半分は絶対センパイの所為ですからね!?)
諦めて運動場のような外の場所を利用することした1年たち。
最初は何もないと全員不満そうであったが、慣れてくると外でのトレーニングも悪くなかった。人の目があるので目立つタイプの能力は使えないが、身体の強化や武器の練習ならやっていても問題はない。
筈だったが。
「実力を隠して表舞台に顔を出そうとせず、誰とも組まなかった彼が『口約束』とやらで入学したばかりの貴女達とチームを組んだ。行動が遅い普段の彼からは想像も付かないほど俊敏だったわ」
(あのセンパイ……普段はカメさんか何かやってんですか? というかこの人もなんでもそこまでセンパイに意識を……)
「センパイに気でもあるんですか? 言っときますが、センパイにはこのクールでビューティーな後輩が……」
「貴女は異世界を信じる?」
言い訳があるとすれば彼女の先輩が何も教えなかったからだ。あと異世界での心理戦や駆け引きなどは、修業の際に精神面が数段鍛えられた大地が全部務めていた為に彼女はそこまで得意ではなかった。
だから不意に『異世界』の単語が出た際に、不覚にも顔が強張ったのは仕方がなかったことだと言わせて欲しい。
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