元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
アイドル女子との探り合い。
話は少し飛んで、あれから1週間が経った。
……いや、全然少しじゃないと思うが、【マスター・ブック】で限界まで融合した反動が大きく過ぎた。私生活には問題はなかったが、調子が戻るまでに1週間も掛かってしまった。
「初のモンスター戦も後ろで見ているだけでしたもんね」
「まだステータスがボロボロだからな。あのモードはまだキツかった」
「む……半分は私の所為ですが、もう半分はセンパイの自業自得ですよ?」
隣で一緒に歩いている後輩がため息を吐いている。俺以上に暴れた筈の麻衣だが、次の日には平然とした様子で学園生活を送っていた。後輩は人外だったか。
「何か視線に悪意を感じますが……」
「気のせいに決まってるだろう?」
聞いた話では着実にEクラスを掌握しているようで、1年の上位クラスどころか2年にまで後輩の名は広まりつつあった。後輩は支配者だったか。
「む、また不穏な気配を察知した気が……」
「風邪じゃないか? 体調には気を付けないとな」
とくに広まる要因となったのは、チームで利用した初心者用の討伐授業だ。 チームの1年たちには、学園側が管理している模擬戦場でモンスターと初戦闘を行った。当然用意されたモンスターは雑魚ばかりであるが、簡単に経験を積ませるにはちょうどよかった。
「本当に雑魚しか居ないんだ。それにお前がいるなら問題ないだろう」
「まぁ、その分目立たせてもらいましたがね」
目立ち過ぎな気もするが、本人は上を目指しているので寧ろノリノリだ。
「ククククッ! 問題児コースのEクラスに落としてくれた礼はきっちりしてやりますよ。次の討伐戦とランキング戦とやらは派手に行きますからねセンパーイ?」
「やはり根に持っていたか。止めはしないが、お前のステータスとスキルレベルも超過していることを忘れるなよ? ハッキリ言って学生レベルじゃ、たとえ1位の生徒会長でも勝ち目はない」
「ふふふ、いずれ1位の玉座も頂きますよ。何なら次席はセンパイに譲りましょうか?」
「2位は風紀委員長だろうが、役職が付きそうだから勘弁だな」
と言うか第1位と第2位の話をされも俺には興味がないんだ。強者を好む鷹宮じゃないんだから。
で、そんな俺たちが話ながら何をしているかと言うと。
「用意された物は以上でよろしいでしょうか」
「ああ、確認したよ。ありがとうサインはどっちに」
「こっちにお願いします」
教員に頼まれていた配達物を別の教員に引き渡す。
本来なら事務員か教員の仕事であるが、先週のペナルティーとしてこの1週間雑用を頼まれていた。
能力の確認をした次の日だ。
つまり後輩が暴れた所為で施設内部を壊れた次の日である。
内部の惨状に頭を抱えた警備員が上に報告すると言っていた通り、昼休みになったところで佐倉先生に呼び出された俺は、生徒指導室まで連行されていた。
「さて、言い訳を聞こうじゃないか幸村」
「佐倉先生……木刀は必要ですか?」
「心配ない。気にするな」
「いえ、心配というより不安なんですが」
もはや尋問どころか拷問の間違いじゃないか。
能力が帯びた木刀が繰り出されることはなかったが、施設内部を壊し過ぎたペナルティーとして雑用を任じられた。
「はぁ、何で私までこんなことを……」
「そもそもお前が原因だと理解してないのか? この頭は飾りなのか?」
「アタタタタ!? 頭がミシミシとぉぉぉぉ!?」
ちなみにペナルティーを受けるのは俺と後輩のみ。関係ない他の2人は免除されてホッとしたが、破壊の張本人は不満そうにこの1週間を過ごしていた。
「センパイが真面目に受けなかったらサボってましたよ」
「『サポート部』の仕事してポイントが付くんだ。世話になっていたから拒否するつもりはない」
と言うかそれで済んだだけマシだと思ってほしい。
佐倉先生は脅す感じで一方的に命じていたが、学年主任たちまで来ていたら面倒だったろうな。
「それも今日までだ。明日からは本格的にチームの活動を始めないとな」
「それは助かりますが、部活の方はいいんですか? あの変な先輩はともかく部長さんは良い人っぽいですよ?」
肉体の疲労が大きかった。ちょうど1年は基礎的な教育期間だったからそこまで問題はなかった。放課後も一緒に雑用している麻衣も不満満載であったが、とりあえず大人しくはしていた。
その際に『サポート部』のメンバーも紹介した。正直部長だけでいいと思ったが、俺が後輩を連れて来たと、興味を抱いた変人メンバーたちが顔を出して来て面倒だった。
その際、時一の奴も紹介しておいたが、変態オーラが見えているのか麻衣も引きつった顔で距離を置いていた。
「センパイ?」
「ま、元々言っていたことだ。偶に顔を出すと言っておいたし大丈夫だろ」
それにもうすぐ……騒がしいイベントが発生する。
部活は関係なく忙しくなるのは避けられないと、俺はやって来る騒動の予感を感じ取っていた。
「……」
ついでに隠れた視線も感じ取った俺は、そこで一度周囲の様子を気配のみで探る。
放課後なので部活やモンスター討伐で校舎には殆ど生徒がいない。実際に今歩いている俺たち以外には誰の姿も見えないが。
「そういえばモンスターの件で気になったんですが、あの先生が用意したウルフ。なんだか異世界のウルフに似ているというか……アレは」
「その話はまた今度にしよう」
実は周囲の察知や探知能力は麻衣よりも俺の方が上だ。
魔力単体なら麻衣の方が圧倒的であるが、隠密系の相手は苦手分野だった。
「どうしたんですか?」
「教室に忘れ物をした。先に帰ってろ」
そう言い残して離れて行く。隠れている視線が麻衣の方に残るのなら逆に隠れるつもりだったが。
隠れた視線は立ち去って行く俺に向いていた。
教室まで戻ったが、忘れ物なんて当然ない。
とりあえず自分の机に座って待つ。何もなければさっさと帰ろうとも思ったが。
「あ、幸村君?」
「橘か……どうした?」
「どうしたって、それはこっちのセリフだよ。放課後に1人残ったりして部活はいいの?」
「生憎と今はチームの方が優先……と言いたいが、今日まで先生の雑用でやっと解放されたところだ」
現れたのはクラスメイトの橘美咲。
2年や3年とも繋がりを持っているクラスのアイドル女子。男子からも当然人気があるが、意外と女子たちとも親しくしている。上手くコントロールして自分への敵意や悪意を流していた。
「あーそれは大変だったね。もし良かったら理由も訊いてもいい?」
「チームの1人に火力バカ居てな。訓練場を破壊したからペナルティーだと」
何気なく教室の外を探ると、隣の教室から気配がある。1人だけ隠れているようだが、誰か分からず何もして来る気配はない。
「え、壊れるのは普通じゃないかな?」
「内部の壁や床に天井。あと設備とかも壊したから先生でも許容し切れないだとさ。なにより全然活動していない俺じゃ学園の補助も厳しい」
能力関係で施設内部が壊れることはある。大半は規模は小さいものばかりだが、中には上位の能力者が実験やら失敗とかで派手にやってしまう事態もある。
「この学園は貢献者のチームには優遇だからね。1年の子じゃまだまだ危ないね」
「それはお互い様だろう。鷹宮も最近は大人しかったが、また何か狙っているようだしな?」
今度はこちらが訊いてみた。
少し困った苦笑顔した橘は、話そうとか悩みポンポンと軽く手を叩いているが、やがてちょっとした相談でもするように話てくれた。
「ほら? もうすぐ四獣が出てくる時期でしょう? 今回は朱音さんも本気で取ろうとしているみたいで……」
予想通りの返答である。鷹宮の強気な姿勢と何処まで高みを目指す性格を考えるなら、近々出て来るであろう四獣は絶好の獲物である。去年はあまり活躍出来なかった分、今年は本当に本気で挑むに違いない。
……いや、全然少しじゃないと思うが、【マスター・ブック】で限界まで融合した反動が大きく過ぎた。私生活には問題はなかったが、調子が戻るまでに1週間も掛かってしまった。
「初のモンスター戦も後ろで見ているだけでしたもんね」
「まだステータスがボロボロだからな。あのモードはまだキツかった」
「む……半分は私の所為ですが、もう半分はセンパイの自業自得ですよ?」
隣で一緒に歩いている後輩がため息を吐いている。俺以上に暴れた筈の麻衣だが、次の日には平然とした様子で学園生活を送っていた。後輩は人外だったか。
「何か視線に悪意を感じますが……」
「気のせいに決まってるだろう?」
聞いた話では着実にEクラスを掌握しているようで、1年の上位クラスどころか2年にまで後輩の名は広まりつつあった。後輩は支配者だったか。
「む、また不穏な気配を察知した気が……」
「風邪じゃないか? 体調には気を付けないとな」
とくに広まる要因となったのは、チームで利用した初心者用の討伐授業だ。 チームの1年たちには、学園側が管理している模擬戦場でモンスターと初戦闘を行った。当然用意されたモンスターは雑魚ばかりであるが、簡単に経験を積ませるにはちょうどよかった。
「本当に雑魚しか居ないんだ。それにお前がいるなら問題ないだろう」
「まぁ、その分目立たせてもらいましたがね」
目立ち過ぎな気もするが、本人は上を目指しているので寧ろノリノリだ。
「ククククッ! 問題児コースのEクラスに落としてくれた礼はきっちりしてやりますよ。次の討伐戦とランキング戦とやらは派手に行きますからねセンパーイ?」
「やはり根に持っていたか。止めはしないが、お前のステータスとスキルレベルも超過していることを忘れるなよ? ハッキリ言って学生レベルじゃ、たとえ1位の生徒会長でも勝ち目はない」
「ふふふ、いずれ1位の玉座も頂きますよ。何なら次席はセンパイに譲りましょうか?」
「2位は風紀委員長だろうが、役職が付きそうだから勘弁だな」
と言うか第1位と第2位の話をされも俺には興味がないんだ。強者を好む鷹宮じゃないんだから。
で、そんな俺たちが話ながら何をしているかと言うと。
「用意された物は以上でよろしいでしょうか」
「ああ、確認したよ。ありがとうサインはどっちに」
「こっちにお願いします」
教員に頼まれていた配達物を別の教員に引き渡す。
本来なら事務員か教員の仕事であるが、先週のペナルティーとしてこの1週間雑用を頼まれていた。
能力の確認をした次の日だ。
つまり後輩が暴れた所為で施設内部を壊れた次の日である。
内部の惨状に頭を抱えた警備員が上に報告すると言っていた通り、昼休みになったところで佐倉先生に呼び出された俺は、生徒指導室まで連行されていた。
「さて、言い訳を聞こうじゃないか幸村」
「佐倉先生……木刀は必要ですか?」
「心配ない。気にするな」
「いえ、心配というより不安なんですが」
もはや尋問どころか拷問の間違いじゃないか。
能力が帯びた木刀が繰り出されることはなかったが、施設内部を壊し過ぎたペナルティーとして雑用を任じられた。
「はぁ、何で私までこんなことを……」
「そもそもお前が原因だと理解してないのか? この頭は飾りなのか?」
「アタタタタ!? 頭がミシミシとぉぉぉぉ!?」
ちなみにペナルティーを受けるのは俺と後輩のみ。関係ない他の2人は免除されてホッとしたが、破壊の張本人は不満そうにこの1週間を過ごしていた。
「センパイが真面目に受けなかったらサボってましたよ」
「『サポート部』の仕事してポイントが付くんだ。世話になっていたから拒否するつもりはない」
と言うかそれで済んだだけマシだと思ってほしい。
佐倉先生は脅す感じで一方的に命じていたが、学年主任たちまで来ていたら面倒だったろうな。
「それも今日までだ。明日からは本格的にチームの活動を始めないとな」
「それは助かりますが、部活の方はいいんですか? あの変な先輩はともかく部長さんは良い人っぽいですよ?」
肉体の疲労が大きかった。ちょうど1年は基礎的な教育期間だったからそこまで問題はなかった。放課後も一緒に雑用している麻衣も不満満載であったが、とりあえず大人しくはしていた。
その際に『サポート部』のメンバーも紹介した。正直部長だけでいいと思ったが、俺が後輩を連れて来たと、興味を抱いた変人メンバーたちが顔を出して来て面倒だった。
その際、時一の奴も紹介しておいたが、変態オーラが見えているのか麻衣も引きつった顔で距離を置いていた。
「センパイ?」
「ま、元々言っていたことだ。偶に顔を出すと言っておいたし大丈夫だろ」
それにもうすぐ……騒がしいイベントが発生する。
部活は関係なく忙しくなるのは避けられないと、俺はやって来る騒動の予感を感じ取っていた。
「……」
ついでに隠れた視線も感じ取った俺は、そこで一度周囲の様子を気配のみで探る。
放課後なので部活やモンスター討伐で校舎には殆ど生徒がいない。実際に今歩いている俺たち以外には誰の姿も見えないが。
「そういえばモンスターの件で気になったんですが、あの先生が用意したウルフ。なんだか異世界のウルフに似ているというか……アレは」
「その話はまた今度にしよう」
実は周囲の察知や探知能力は麻衣よりも俺の方が上だ。
魔力単体なら麻衣の方が圧倒的であるが、隠密系の相手は苦手分野だった。
「どうしたんですか?」
「教室に忘れ物をした。先に帰ってろ」
そう言い残して離れて行く。隠れている視線が麻衣の方に残るのなら逆に隠れるつもりだったが。
隠れた視線は立ち去って行く俺に向いていた。
教室まで戻ったが、忘れ物なんて当然ない。
とりあえず自分の机に座って待つ。何もなければさっさと帰ろうとも思ったが。
「あ、幸村君?」
「橘か……どうした?」
「どうしたって、それはこっちのセリフだよ。放課後に1人残ったりして部活はいいの?」
「生憎と今はチームの方が優先……と言いたいが、今日まで先生の雑用でやっと解放されたところだ」
現れたのはクラスメイトの橘美咲。
2年や3年とも繋がりを持っているクラスのアイドル女子。男子からも当然人気があるが、意外と女子たちとも親しくしている。上手くコントロールして自分への敵意や悪意を流していた。
「あーそれは大変だったね。もし良かったら理由も訊いてもいい?」
「チームの1人に火力バカ居てな。訓練場を破壊したからペナルティーだと」
何気なく教室の外を探ると、隣の教室から気配がある。1人だけ隠れているようだが、誰か分からず何もして来る気配はない。
「え、壊れるのは普通じゃないかな?」
「内部の壁や床に天井。あと設備とかも壊したから先生でも許容し切れないだとさ。なにより全然活動していない俺じゃ学園の補助も厳しい」
能力関係で施設内部が壊れることはある。大半は規模は小さいものばかりだが、中には上位の能力者が実験やら失敗とかで派手にやってしまう事態もある。
「この学園は貢献者のチームには優遇だからね。1年の子じゃまだまだ危ないね」
「それはお互い様だろう。鷹宮も最近は大人しかったが、また何か狙っているようだしな?」
今度はこちらが訊いてみた。
少し困った苦笑顔した橘は、話そうとか悩みポンポンと軽く手を叩いているが、やがてちょっとした相談でもするように話てくれた。
「ほら? もうすぐ四獣が出てくる時期でしょう? 今回は朱音さんも本気で取ろうとしているみたいで……」
予想通りの返答である。鷹宮の強気な姿勢と何処まで高みを目指す性格を考えるなら、近々出て来るであろう四獣は絶好の獲物である。去年はあまり活躍出来なかった分、今年は本当に本気で挑むに違いない。
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