元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
それぞれの策略が交差していた。
暴走した麻衣と大地の『異世界帰り組』が対峙していた同時刻。
利用している訓練施設から少し離れた場所で、ジッと見張っていた女子はスマホで連絡を取っていた。
「朱音さんの言う通りだったよ。さっそく動き出したみたい」
『ありがとう橘さん。やはり貴女に任せて正解だったわ』
「本当に中まで入らなくていいの? 警備も緩そうだし行こうと思えば行けるけど?」
『彼を甘く見ては駄目よ。橘さんの潜伏スキルを低く見てる訳じゃないけど、彼の察知能力もズバ抜けてるから』
「幸村君って何気に勘が鋭いもんね。バレることが前提なら入れるかもって話だよ」
「……貴女なら出来るの?」
「多分無理かな。言ってみただけよ」
肩を竦める橘美咲。
大地のクラスメイトの女子であり、彼が警戒している5人のクラメイトの1人だ。
赤っぽい茶髪のサイドテールとアイドルような容姿。男子から人気が高く女子からも信頼がある中心の1人でもあった。
そして、大地を引き抜こうとする鷹宮朱音がリーダーをしているチームのメンバー。
大地同様に彼女の裏の顔を見抜いた鷹宮は、その特殊な技術を称賛して彼女をメンバーに加えた。
しかし、特殊な立場でもある橘は、彼女のスカウトを拒否した。
理由は『打倒Aクラス』と『学園最強』を目指している大物喰いの鷹宮朱音だ。
彼女が均衡の輪を乱すことに躊躇いがないのは、入学してすぐに『モンスターの島』やAクラスとBクラスに単独で挑んだのを見れば明らかである。
チームを組めば嫌でも余計な競争に巻き込まれてしまう。ハイリスクしかない誘いに乗るメリットなんて一切なかった。
『彼が動くかどうかを確かめたかっただけだから、もう引き上げていいわ。わざわざ探ってくれて助かったわ』
「ううん、いいよ。こっちもちょっど良かったから」
デメリットしかなかった誘いだったが、彼女は鷹宮のチームに入った。……奇遇と言うべきか互いの目的は形は違うが同じだった。
鷹宮との電話を切ると、施設を一瞥した橘はその場から立ち去る。
しかし、使用したスマホをポケットに入れず、操作して何処かへ連絡を取ろうとする。歩きながらの電話は注意されそうだが、誰ともすれ違わなかったために呼び止められることはなかった。
「特定監視対象の『幸村大地』に動きがありました。まだ把握し切れていませんが、協力者の鷹宮朱音に関する追加報告もあります」
電話が繋がると彼女は平坦な口調で話し出す。
無意識に顔から表情が消えて、淡々と上司である相手へ報告事項を述べていた。
「怖いね。アレはオレでも遠慮したいかな」
その様子を物陰から見ていた時一久は、苦笑顔の頬を指でポリポリしていた。
クラスアイドルの裏の顔を見たらそんな顔も仕方ない。決して覗きをしていた訳ではないが、エライものを見てしまったと若干後悔した。
「工作員ってところか。ホントうちのクラスって変わり者が多い」
変わり者扱いで済むレベルではないと思うが、立ち去って行く橘の背中を見送った。……揺れる短めのスカートやお尻を凝視していたが。
「なるほど……安産型か。フリフリ揺れるスカートってなんか興奮するな!」
真顔でコクリと頷く。下ネタ嫌いな女子も居ないので、時一のセクハラ的な視線は健在だった。
「やはりうちのクラスの女子レベルは高いよな」
滅多に見せない真剣顔で何を言っているのか。
鼻歌を混じりにスマホを開くと、保存されている盗撮……ではなくクラス女子たちの写真を眺めていた。
「クールな黒髪女子。スラっとした美脚と高級に整った美乳持ちのランクSな剣士さま」
風に髪を揺れる鷹宮朱音の写真。外でとった物のようだが、制服姿で味気ないと若干不満そうにしつつ次の写真に移す。
さっきまでフルフリ揺れて行ったお尻の本体である橘美咲だ。……同じく外で撮った写真で私服なのは納得できるが、何故か顔よりも谷間が覗いている胸元がアップした写真だった。
時一は何処まで本能に忠実であった。
「尻尾のような髪をしたアイドル女子。クラスの巨乳ランクでも上位の1人で愛らしい女子だけど……あの顔を見たらなぁ」
なんとも言い難い顔で次の写真に移す。
いったい何枚あるのか、次々とクラスメイトどころか他所の女子たちの写真まで出てくる。
全部外で撮った写真ばかり、……偶に体育の授業か体操着姿の女子たちや指定水着の際の写真まで混ざっているが。
「だいぶ溜まったし、今度コレクションの整理でもするか」
うんうんと満足そうに頷いている。やっていることは盗撮魔と変わらないと思うが、時一は秘蔵ファイルを閉じる。
しばらく、ボーとしていると何か思い出したか、ハッとした顔で施設の方へ振り向いた。
「っといけない。大事なことを忘れてた」
覗き込むように施設を見つめる。訓練施設な為に外部から中の様子は分からない筈だが、時一は理解したかのような顔で片手を地面に付いた。
「正直専門外だが、なんとかなるか?」
何かを念じるように目を瞑る。余程集中しているのか、辺りの音が消えて地面に触れている手のひらへ力が流れ始めるを感じる。
それは、施設で能力を全開で使っている彼の力。
時一は外部から遮断された筈の施設内部での彼の力を引き寄せると、手のひらに留めて情報を読み取っていく。
「【インストール】――発動。コピー対象――【マスター・ブック】」
自然と口から出てくる単語は当然初耳であるが、彼は読み取った情報を素に理解した途端。
流れ込んだ力は形となる。
起き上がった彼の手には、透明な本が出現する。
「ま、こんなところか」
透明なのに中が見えないのは不思議な物だが、時一は開くと差し込んであるカードを取り出した。
モンスターが生息する島――『暗黒島』
学園島の倍の広さはある島で、場所ごとに環境も異なる為に春夏秋冬を過ごすことも可能な特殊な島であった。
当然もっと過酷な環境とモンスターも付いてくるので、内部に入れるのは能力者のみ。
さらに場所ごとに制限も付いている為、学生で入れるエリアは意外と少なかったりする。
条件付きで大人のプロと同じ危険エリアにも入れるが、それが可能な学生はと言えば総合ランキングの一桁レベルの上位者かチーム。
生徒会や風紀委員会といったしっかりとした立場がある組織だけであった。
「さぁ……始めようか」
そして、その者はランキングの上位者ではない。
生徒会などの組織も所属して居らず、なんでもない学生であった。
『グルルルル……』
『キィィィィ……』
『シャァァァァ……』
『……』
しかし、ただの学生に対して集められたモンスターたちは従順である。
中でも別格である4体の巨大なモンスターたちは、まるで王にでも従うかのように首を垂れていた。
「では頼むぞ、四獣たちよ。精々派手に暴れてくれ」
――特定危険区域である『暗黒島』は、一定の期間毎に環境やモンスターが関連した騒動が毎年起きている。
去年は『パニックエラー』という未確認の事態が起きていたが、それを除けば何も変化はなかった為、何が起きるのかは毎年の時期によって把握は出来ていた。
「さぁ、どうするか見させて貰うか――勇者に魔導王よ」
そして、間も無く『学園島』へ進行を始める四獣たちを利用したその者は、薄気味悪い笑みを浮かべて、来たるべきその日を待ち望んでいた。
利用している訓練施設から少し離れた場所で、ジッと見張っていた女子はスマホで連絡を取っていた。
「朱音さんの言う通りだったよ。さっそく動き出したみたい」
『ありがとう橘さん。やはり貴女に任せて正解だったわ』
「本当に中まで入らなくていいの? 警備も緩そうだし行こうと思えば行けるけど?」
『彼を甘く見ては駄目よ。橘さんの潜伏スキルを低く見てる訳じゃないけど、彼の察知能力もズバ抜けてるから』
「幸村君って何気に勘が鋭いもんね。バレることが前提なら入れるかもって話だよ」
「……貴女なら出来るの?」
「多分無理かな。言ってみただけよ」
肩を竦める橘美咲。
大地のクラスメイトの女子であり、彼が警戒している5人のクラメイトの1人だ。
赤っぽい茶髪のサイドテールとアイドルような容姿。男子から人気が高く女子からも信頼がある中心の1人でもあった。
そして、大地を引き抜こうとする鷹宮朱音がリーダーをしているチームのメンバー。
大地同様に彼女の裏の顔を見抜いた鷹宮は、その特殊な技術を称賛して彼女をメンバーに加えた。
しかし、特殊な立場でもある橘は、彼女のスカウトを拒否した。
理由は『打倒Aクラス』と『学園最強』を目指している大物喰いの鷹宮朱音だ。
彼女が均衡の輪を乱すことに躊躇いがないのは、入学してすぐに『モンスターの島』やAクラスとBクラスに単独で挑んだのを見れば明らかである。
チームを組めば嫌でも余計な競争に巻き込まれてしまう。ハイリスクしかない誘いに乗るメリットなんて一切なかった。
『彼が動くかどうかを確かめたかっただけだから、もう引き上げていいわ。わざわざ探ってくれて助かったわ』
「ううん、いいよ。こっちもちょっど良かったから」
デメリットしかなかった誘いだったが、彼女は鷹宮のチームに入った。……奇遇と言うべきか互いの目的は形は違うが同じだった。
鷹宮との電話を切ると、施設を一瞥した橘はその場から立ち去る。
しかし、使用したスマホをポケットに入れず、操作して何処かへ連絡を取ろうとする。歩きながらの電話は注意されそうだが、誰ともすれ違わなかったために呼び止められることはなかった。
「特定監視対象の『幸村大地』に動きがありました。まだ把握し切れていませんが、協力者の鷹宮朱音に関する追加報告もあります」
電話が繋がると彼女は平坦な口調で話し出す。
無意識に顔から表情が消えて、淡々と上司である相手へ報告事項を述べていた。
「怖いね。アレはオレでも遠慮したいかな」
その様子を物陰から見ていた時一久は、苦笑顔の頬を指でポリポリしていた。
クラスアイドルの裏の顔を見たらそんな顔も仕方ない。決して覗きをしていた訳ではないが、エライものを見てしまったと若干後悔した。
「工作員ってところか。ホントうちのクラスって変わり者が多い」
変わり者扱いで済むレベルではないと思うが、立ち去って行く橘の背中を見送った。……揺れる短めのスカートやお尻を凝視していたが。
「なるほど……安産型か。フリフリ揺れるスカートってなんか興奮するな!」
真顔でコクリと頷く。下ネタ嫌いな女子も居ないので、時一のセクハラ的な視線は健在だった。
「やはりうちのクラスの女子レベルは高いよな」
滅多に見せない真剣顔で何を言っているのか。
鼻歌を混じりにスマホを開くと、保存されている盗撮……ではなくクラス女子たちの写真を眺めていた。
「クールな黒髪女子。スラっとした美脚と高級に整った美乳持ちのランクSな剣士さま」
風に髪を揺れる鷹宮朱音の写真。外でとった物のようだが、制服姿で味気ないと若干不満そうにしつつ次の写真に移す。
さっきまでフルフリ揺れて行ったお尻の本体である橘美咲だ。……同じく外で撮った写真で私服なのは納得できるが、何故か顔よりも谷間が覗いている胸元がアップした写真だった。
時一は何処まで本能に忠実であった。
「尻尾のような髪をしたアイドル女子。クラスの巨乳ランクでも上位の1人で愛らしい女子だけど……あの顔を見たらなぁ」
なんとも言い難い顔で次の写真に移す。
いったい何枚あるのか、次々とクラスメイトどころか他所の女子たちの写真まで出てくる。
全部外で撮った写真ばかり、……偶に体育の授業か体操着姿の女子たちや指定水着の際の写真まで混ざっているが。
「だいぶ溜まったし、今度コレクションの整理でもするか」
うんうんと満足そうに頷いている。やっていることは盗撮魔と変わらないと思うが、時一は秘蔵ファイルを閉じる。
しばらく、ボーとしていると何か思い出したか、ハッとした顔で施設の方へ振り向いた。
「っといけない。大事なことを忘れてた」
覗き込むように施設を見つめる。訓練施設な為に外部から中の様子は分からない筈だが、時一は理解したかのような顔で片手を地面に付いた。
「正直専門外だが、なんとかなるか?」
何かを念じるように目を瞑る。余程集中しているのか、辺りの音が消えて地面に触れている手のひらへ力が流れ始めるを感じる。
それは、施設で能力を全開で使っている彼の力。
時一は外部から遮断された筈の施設内部での彼の力を引き寄せると、手のひらに留めて情報を読み取っていく。
「【インストール】――発動。コピー対象――【マスター・ブック】」
自然と口から出てくる単語は当然初耳であるが、彼は読み取った情報を素に理解した途端。
流れ込んだ力は形となる。
起き上がった彼の手には、透明な本が出現する。
「ま、こんなところか」
透明なのに中が見えないのは不思議な物だが、時一は開くと差し込んであるカードを取り出した。
モンスターが生息する島――『暗黒島』
学園島の倍の広さはある島で、場所ごとに環境も異なる為に春夏秋冬を過ごすことも可能な特殊な島であった。
当然もっと過酷な環境とモンスターも付いてくるので、内部に入れるのは能力者のみ。
さらに場所ごとに制限も付いている為、学生で入れるエリアは意外と少なかったりする。
条件付きで大人のプロと同じ危険エリアにも入れるが、それが可能な学生はと言えば総合ランキングの一桁レベルの上位者かチーム。
生徒会や風紀委員会といったしっかりとした立場がある組織だけであった。
「さぁ……始めようか」
そして、その者はランキングの上位者ではない。
生徒会などの組織も所属して居らず、なんでもない学生であった。
『グルルルル……』
『キィィィィ……』
『シャァァァァ……』
『……』
しかし、ただの学生に対して集められたモンスターたちは従順である。
中でも別格である4体の巨大なモンスターたちは、まるで王にでも従うかのように首を垂れていた。
「では頼むぞ、四獣たちよ。精々派手に暴れてくれ」
――特定危険区域である『暗黒島』は、一定の期間毎に環境やモンスターが関連した騒動が毎年起きている。
去年は『パニックエラー』という未確認の事態が起きていたが、それを除けば何も変化はなかった為、何が起きるのかは毎年の時期によって把握は出来ていた。
「さぁ、どうするか見させて貰うか――勇者に魔導王よ」
そして、間も無く『学園島』へ進行を始める四獣たちを利用したその者は、薄気味悪い笑みを浮かべて、来たるべきその日を待ち望んでいた。
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