元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
調子に乗った後輩を叱るのは先輩の役目だった。
ここまで非常に長かったが、以上が始めの回想シーンまでの出来事であった。
いや、本当に困った展開でしかないが、後輩の奴は超が付くほど調子に乗っていた。
「イッエー! 私は風になるぅぜですよーー!!」
「いい加減にしろお前! いちいち羽ばたくな!」
先から飛び回っている龍化した麻衣の所為で、土煙が辺り一面を酷いことにしていた。
一応施設なので掃除もしているようだが、何せこの広さと龍化した調子に乗った麻衣だ。勢いよく翼を広げる度に埃が宙を舞っていた。
「っ! 目を開けてられないな。砂漠かここは!」
流石の俺もイラッとした。頭から土煙を被ったので制服どころか服の中も埃まみれ。アイツ……洗濯のことも全く考えてないような? いい加減にしないと俺もキレるぞ?
しかし、俺の方はまだマシであった。なんとか薄めで辺りの被害を確認しようと視線を巡らせたところで、なんともコメントし難い光景が目に入ってきた。
「ちょっと麻衣ぃぃぃ!? 突風はヤメてぇぇーー!? ああー!? スカートがぁぁぁ!?」
「う〜!? 目にゴミがぁ……お兄ちゃんどこぉ〜?」
そういえば確認が終わったから2人ともスカートに戻っていたのか。
2人ともスパッツを履いてて助かったと言いたいが、上に広がり過ぎて黒のスパッツどころかヘソまで完全オープンに見えてる景色は……
いくらなんでも誰もお見せできませんね。
そして後輩よ。お前はそろそろ――
「大人しくしろ。――『バインド』ッ!」
上空に飛ぶバカ龍へ手を向けて、戦士職が扱える拘束魔法の1つである『バインド』を発動させた。
「クハハハハハ! バカですかセンパイは! その程度の拘束魔法でこの最強の魔法使いを拘束出来るとでも!?」
しかし、初級魔法で距離が遠いほど拘束力が弱い。それを知っている後輩が高笑いして鼻を鳴らしていたが。
「ああ、知ってる」
「――にゃ!?」
ニヤリと笑みで返した俺はそれを拘束した。
途端、慌てて目を閉じた麻衣がゴシゴシと手で目元を拭う。一時的に飛行状態も穏やかになり舞っていた土煙も弱まった。
「な、何が……!」
「よく考えたら、それだけ目が大きいならゴミも入り易いだろう?」
「な!? 土煙を固める為に『バインド』を使ったんですか!? って、そんな機能もあったんですか!?」
これだから火力バカは困るんだ。『バインド』は指定した対象の動きを止める魔法であるが、指定した対象に対してこちらがマニュアル操作で行えば、何気ない空間の一部も固定することが出来た。
あとは飛んでいるバカの目元にある埃を固めて直撃させるだけ。
普通ならこれだけの土煙でも目を開けてられないが、龍化している耐性か平気そうにしていたから結構大きめの塊にして打つけてやった。
「じゃあ、俺も――『弓使い』」
【マスター・ブック】から『弓使い』のジョブカードを取り出した。白き龍とは別の意味で懐かしい気持ちになる格好が描かれているが、今は気にしている場合ではない。
真っ白なページに挟み込んでカードをセットすると、本に魔力を込めて能力を発動させた。
「――解放せよ! 孤高に生きる狩人の魂!」
唱えたことで【マスター・ブック】が光をなって俺を飲み込む。
一瞬のうちに服装が懐かしい森や草原をイメージした皮の軽装備となる。羽根付きの茶色の帽子まで被っていると何処かカッコ付けていると思われるが、この帽子にもしっかりと意味がある。
なんだが外野が騒がしい気もするが、それも後回しだ。
そして、手元には『緑色の木弓』を持っていた。
これまた懐かしい1品で慣れている俺は、弦を引いて上空で停滞している龍に狙いを定めると。
強く弦を引いていくうちに、周囲の風が弓へと収束されて始めた。
「え? それは……!? 森精霊があげた!」
やっと目が落ち着いた麻衣も戸惑った様子だったが、『弓使い』となった俺の姿と緑色の弓を見たところで、戸惑いの顔が焦り顔へと一転した。
「【風神】!」
「なんで体勢が……!?」
溜め込まれた風が極太の光の矢となって放たれた。
すかさず麻衣も白きブレスを放とうとしたが、風を吸い込まれた影響で飛行が甘くなっている。気付かなかった麻衣は空中であっさり傾いてしまい、矢の迎撃どころではなかった。
「このっ!」
しかし、やはり怪物姿は伊達ではなかった。
ブレスも回避も無理だと即決したところで矢を迎える体勢に入っていた。
……言っている俺も訳が分からなかったが、要するに体で受け止めた麻衣は、極太の矢を抱き締めていた。
「うっ……りゃ!」
なんとも気の抜ける掛け声を出して、抱き締めていた光の矢を腕力だけで砕いて見せる。
若干息を切らして疲れた感じであるが、乱れていた息が整うと得意げな笑みを浮かべていた。
「ど、どうですか!」
「すごいなー」
「全然そうは聞こえませんが!」
何を思ったか不貞腐れた様子で地上に降りて来る。
するとサイズも変化して20メートルくらいから大人2人分くらいのサイズまで小さくなった。
それでも十分大きいが、さっきまでの巨体に比べたら全然小さい方であった。
「サイズを小さくしたか」
「こっちの方が動き易いんですよ! あとサイズが大きいと小回りが利かないし、なんだか体力の消費が激しい気がします!」
見た目から燃費が悪そうな気はしたが、疲れた感じの麻衣を見る限り当たりだったか。
「それにその弓使いのセンパイを相手に空中戦なんてバカがすることです。あの弓の前じゃ飛行タイプなんていい的じゃないですか」
「ま、やり易いの事実だがな」
そこで『弓使い』のモードを解くと、手元に【マスター・ブック】が戻って来た。まだ時間切れではないが、後輩の頭が冷えたのならもう必要ない。
「なぁーに戻してるんですかぁ? まだまだこれからですよ? セ・ン・パ・イ?」
訂正する。全く懲りてなかったか。
「はぁ……流石に【風神】を喰らえば懲りると思ったが」
「フフフフン! 全然ですよぉ〜?」
そうかそうか……。
向こうの世界でも度々あったが、この後輩は一度調子に乗ってしまうと中々折れない。忘れていたわけではなかったが、流石に何度も説教とお仕置きをすれば本人も懲りてくれると思ったのにな。
「はぁ残念だ。本当に残念だ」
「何が残念なんですか?」
顔に手を当てて俯く俺を見て、ドラゴン顔であるが怪訝な顔をする麻衣。
深い溜息を溢しながら俺は【マスター・ブック】からカードを数枚取り出した。
「あ」
「どうしたの空?」
「あちゃー……お兄ちゃんがキレた」
「……え?」
そんな俺の様子を見て妹の空が気が付いたらしい。俺と同じように顔に手を当てて困った様子で隣の九重さんと話しているが。
「あれセンパイ? そのカードは……」
「『戦士』『剣士』……」
そんなことを気にせず、俺は『戦士』とさらに『剣士』のカードをセットして……
「わ、分かりましたよ!? どうせジョブカードを融合させるつもりですね!? 『侍』のジョブにでもチャンジするつもりでしょうが、侍スキルは全部知ってま――」
「『魔法使い』『拳闘士』……
「あ、あれ……!?」
さらに追加して『魔法使い』のカードと『拳闘士』のカードもセットする。この2つも合わせると『忍者』の特殊ジョブになるが、俺はさらにカードを追加した。
「『槍使い』『弓使い』……」
「も、もしかしてセンパイ……?」
基本職業カードを全てセットしたのを見た後輩は、恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
察しがいいなと言いたくなるが、生憎と彼女の考えとは少し違っていた。
「残念ながら『勇者』の力は復活していない」
セット完了した本を閉じて魔力を込め出す。ほっと感じの麻衣であるが、俺がニヤリと笑みを向けた途端、凍り付いたように固まった。
「その代わり……新しい特殊ジョブを手にしたけどな!」
悪いがもう手加減するつもりはない。
【マスター・ブック】から六つの光が出てくると俺は本を高々と掲げた。
「――結集せよ! 魂まで繋がった六つの戦士たちよ!」
そして、光となった本も消える。
六つの光が俺と同化すると、俺の姿を一瞬にして変えた。
いや、本当に困った展開でしかないが、後輩の奴は超が付くほど調子に乗っていた。
「イッエー! 私は風になるぅぜですよーー!!」
「いい加減にしろお前! いちいち羽ばたくな!」
先から飛び回っている龍化した麻衣の所為で、土煙が辺り一面を酷いことにしていた。
一応施設なので掃除もしているようだが、何せこの広さと龍化した調子に乗った麻衣だ。勢いよく翼を広げる度に埃が宙を舞っていた。
「っ! 目を開けてられないな。砂漠かここは!」
流石の俺もイラッとした。頭から土煙を被ったので制服どころか服の中も埃まみれ。アイツ……洗濯のことも全く考えてないような? いい加減にしないと俺もキレるぞ?
しかし、俺の方はまだマシであった。なんとか薄めで辺りの被害を確認しようと視線を巡らせたところで、なんともコメントし難い光景が目に入ってきた。
「ちょっと麻衣ぃぃぃ!? 突風はヤメてぇぇーー!? ああー!? スカートがぁぁぁ!?」
「う〜!? 目にゴミがぁ……お兄ちゃんどこぉ〜?」
そういえば確認が終わったから2人ともスカートに戻っていたのか。
2人ともスパッツを履いてて助かったと言いたいが、上に広がり過ぎて黒のスパッツどころかヘソまで完全オープンに見えてる景色は……
いくらなんでも誰もお見せできませんね。
そして後輩よ。お前はそろそろ――
「大人しくしろ。――『バインド』ッ!」
上空に飛ぶバカ龍へ手を向けて、戦士職が扱える拘束魔法の1つである『バインド』を発動させた。
「クハハハハハ! バカですかセンパイは! その程度の拘束魔法でこの最強の魔法使いを拘束出来るとでも!?」
しかし、初級魔法で距離が遠いほど拘束力が弱い。それを知っている後輩が高笑いして鼻を鳴らしていたが。
「ああ、知ってる」
「――にゃ!?」
ニヤリと笑みで返した俺はそれを拘束した。
途端、慌てて目を閉じた麻衣がゴシゴシと手で目元を拭う。一時的に飛行状態も穏やかになり舞っていた土煙も弱まった。
「な、何が……!」
「よく考えたら、それだけ目が大きいならゴミも入り易いだろう?」
「な!? 土煙を固める為に『バインド』を使ったんですか!? って、そんな機能もあったんですか!?」
これだから火力バカは困るんだ。『バインド』は指定した対象の動きを止める魔法であるが、指定した対象に対してこちらがマニュアル操作で行えば、何気ない空間の一部も固定することが出来た。
あとは飛んでいるバカの目元にある埃を固めて直撃させるだけ。
普通ならこれだけの土煙でも目を開けてられないが、龍化している耐性か平気そうにしていたから結構大きめの塊にして打つけてやった。
「じゃあ、俺も――『弓使い』」
【マスター・ブック】から『弓使い』のジョブカードを取り出した。白き龍とは別の意味で懐かしい気持ちになる格好が描かれているが、今は気にしている場合ではない。
真っ白なページに挟み込んでカードをセットすると、本に魔力を込めて能力を発動させた。
「――解放せよ! 孤高に生きる狩人の魂!」
唱えたことで【マスター・ブック】が光をなって俺を飲み込む。
一瞬のうちに服装が懐かしい森や草原をイメージした皮の軽装備となる。羽根付きの茶色の帽子まで被っていると何処かカッコ付けていると思われるが、この帽子にもしっかりと意味がある。
なんだが外野が騒がしい気もするが、それも後回しだ。
そして、手元には『緑色の木弓』を持っていた。
これまた懐かしい1品で慣れている俺は、弦を引いて上空で停滞している龍に狙いを定めると。
強く弦を引いていくうちに、周囲の風が弓へと収束されて始めた。
「え? それは……!? 森精霊があげた!」
やっと目が落ち着いた麻衣も戸惑った様子だったが、『弓使い』となった俺の姿と緑色の弓を見たところで、戸惑いの顔が焦り顔へと一転した。
「【風神】!」
「なんで体勢が……!?」
溜め込まれた風が極太の光の矢となって放たれた。
すかさず麻衣も白きブレスを放とうとしたが、風を吸い込まれた影響で飛行が甘くなっている。気付かなかった麻衣は空中であっさり傾いてしまい、矢の迎撃どころではなかった。
「このっ!」
しかし、やはり怪物姿は伊達ではなかった。
ブレスも回避も無理だと即決したところで矢を迎える体勢に入っていた。
……言っている俺も訳が分からなかったが、要するに体で受け止めた麻衣は、極太の矢を抱き締めていた。
「うっ……りゃ!」
なんとも気の抜ける掛け声を出して、抱き締めていた光の矢を腕力だけで砕いて見せる。
若干息を切らして疲れた感じであるが、乱れていた息が整うと得意げな笑みを浮かべていた。
「ど、どうですか!」
「すごいなー」
「全然そうは聞こえませんが!」
何を思ったか不貞腐れた様子で地上に降りて来る。
するとサイズも変化して20メートルくらいから大人2人分くらいのサイズまで小さくなった。
それでも十分大きいが、さっきまでの巨体に比べたら全然小さい方であった。
「サイズを小さくしたか」
「こっちの方が動き易いんですよ! あとサイズが大きいと小回りが利かないし、なんだか体力の消費が激しい気がします!」
見た目から燃費が悪そうな気はしたが、疲れた感じの麻衣を見る限り当たりだったか。
「それにその弓使いのセンパイを相手に空中戦なんてバカがすることです。あの弓の前じゃ飛行タイプなんていい的じゃないですか」
「ま、やり易いの事実だがな」
そこで『弓使い』のモードを解くと、手元に【マスター・ブック】が戻って来た。まだ時間切れではないが、後輩の頭が冷えたのならもう必要ない。
「なぁーに戻してるんですかぁ? まだまだこれからですよ? セ・ン・パ・イ?」
訂正する。全く懲りてなかったか。
「はぁ……流石に【風神】を喰らえば懲りると思ったが」
「フフフフン! 全然ですよぉ〜?」
そうかそうか……。
向こうの世界でも度々あったが、この後輩は一度調子に乗ってしまうと中々折れない。忘れていたわけではなかったが、流石に何度も説教とお仕置きをすれば本人も懲りてくれると思ったのにな。
「はぁ残念だ。本当に残念だ」
「何が残念なんですか?」
顔に手を当てて俯く俺を見て、ドラゴン顔であるが怪訝な顔をする麻衣。
深い溜息を溢しながら俺は【マスター・ブック】からカードを数枚取り出した。
「あ」
「どうしたの空?」
「あちゃー……お兄ちゃんがキレた」
「……え?」
そんな俺の様子を見て妹の空が気が付いたらしい。俺と同じように顔に手を当てて困った様子で隣の九重さんと話しているが。
「あれセンパイ? そのカードは……」
「『戦士』『剣士』……」
そんなことを気にせず、俺は『戦士』とさらに『剣士』のカードをセットして……
「わ、分かりましたよ!? どうせジョブカードを融合させるつもりですね!? 『侍』のジョブにでもチャンジするつもりでしょうが、侍スキルは全部知ってま――」
「『魔法使い』『拳闘士』……
「あ、あれ……!?」
さらに追加して『魔法使い』のカードと『拳闘士』のカードもセットする。この2つも合わせると『忍者』の特殊ジョブになるが、俺はさらにカードを追加した。
「『槍使い』『弓使い』……」
「も、もしかしてセンパイ……?」
基本職業カードを全てセットしたのを見た後輩は、恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
察しがいいなと言いたくなるが、生憎と彼女の考えとは少し違っていた。
「残念ながら『勇者』の力は復活していない」
セット完了した本を閉じて魔力を込め出す。ほっと感じの麻衣であるが、俺がニヤリと笑みを向けた途端、凍り付いたように固まった。
「その代わり……新しい特殊ジョブを手にしたけどな!」
悪いがもう手加減するつもりはない。
【マスター・ブック】から六つの光が出てくると俺は本を高々と掲げた。
「――結集せよ! 魂まで繋がった六つの戦士たちよ!」
そして、光となった本も消える。
六つの光が俺と同化すると、俺の姿を一瞬にして変えた。
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