元勇者だけど可愛くない後輩に振り回されてます。
1年経てば美人と因縁だって生まれる。
そして、運命の日はやって来てしまう。
お約束とばかりにお泊まりに来た後輩がベットに忍び込んだり、張り合った妹まで便乗する騒ぎがあったが。
「紹介したい子がいるんですよ!」
「2人と同じ学校の子か? 寮暮らしなんだっけ?」
「うん、親との約束だって。一応お兄ちゃんも会ったことあるよ?」
「九重沙織かぁ……悪いが覚えがないな」
翌朝、今度は寝坊しなかった麻衣と妹と朝食を取っていると、2人から友達の紹介を受けていた。正確は俺の後輩であり家で会っているそうだが、正直覚えていなかった。
「その子をメンバーにするのはいいが、大丈夫なのか?」
「はい、信用出来ます。放課後に一緒に訓練場へ来てもらいます」
「それも構わないが、解放された能力はまだ内緒なのか?」
その子に異世界の事情を話すか話さないかよりも、寧ろそっちの方が気になるから把握して置きたいんだが。
麻衣どころか空にまで首を横に振られた。
「はい! 訓練までナイショです!」
「どうせならビックリさせたいからね!」
「はぁ、わざわざ場所を借り切ったんだから、頼むから騒動になるようなことは勘弁してくれよ?」
2人とも楽しそうな笑顔を向けてくる。……正直不安な気持ちの方が大きいんだが、場所は確保しているので、最悪の被害は避けられる筈だし……一応大丈夫か?
「あ、申請ありがとうございますね、センパイ。結構利用者が多くて難しいって聞きましたけど上手く取れたんですね」
「まぁ、そういう施設は無駄に多いからな。この島はさ」
その為にわざわざ佐倉先生に申請したんだ。
新学期の始めは利用者も多い訓練場。島には利用出来る施設は多数存在するが、無駄に広い島な為に利用される範囲は校舎周辺に集まってしまう。
が、事前に予約さえして置けば大丈夫なので、妹たちが受かった時点で予約自体は学園側に取っていた。
昨日、改めて先生に申請を求めたのは、『聞いてない』などと言われない為のさり気ない保険であったのだが……。
『ほぉ? 部活動以外で滅多に利用申請を求めなかったお前が?』
『確かに申請書はあるみたいだな。申請時期は随分前のようだが?』
『そういえば聞いたぞ? 1年の女子たちと組んだそうだが、それが何か関係しているのか? 片方は妹でもう片方は学年1位の素質者だそうらしいが? 柳先生が偉く興奮して話してたぞ?』
もの凄い食いつかれた上にニヤリとした目で覗き込まれた。
獣にでも見つめられてる感があって内心生きた心地がしなかった。
オマケに聞きたくもないトラブルなネタというか、爆弾的な存在まで知ってしまった。よりにもよってあの『ステータス』が見れるあの柳先生に捕捉されるとか。
「お前、目立つなって俺にアレほど言ったのに何やってんだ」
「はい?」
「惚けるな。聞いたぞ? 1年の受験者の中でダントツの1位の素質者だったそうだな?」
「――は、はいぃぃぃぃ!? なんですかそれ!?」
「わざとか? 教員の中で話のネタになってるぞ」
「全然! 身に覚えがないんですけど!? 面接の時だって目立たないようにしてたのに!」
あれ、知らんのか? あ、そういえば受かった際の評価とか成績的な物って見たことなかったけ? ……まさかあの先生、個人情報扱いの成績を俺に暴露したんじゃないだろうな?
「どういうことですか!? どういうことですか!? ちょっとセンパイ!?」
「うるさい」
余計なことを言ってしまったと後になって後悔した。
中々の焦り振りを見せる後輩に最初は面白いなぁ思わなくもなかったが、徐々に鬱陶しく感じるのはやはり愛がないからだろうか。
「お兄ちゃん。早く出ないとまた遅くなっちゃうよ?」
「そうだな。麻衣もいつまでも錯乱してないでさっさと行くぞ」
「錯乱してるのは誰の所為ですか!? ちょっとぉぉぉぉセンパイ!? その前にダントツ1位とかヤバい系の話の説明を! 説明をしてくださいよぉぉぉぉ!?」
騒がしい中でも余裕で学園に着くことは出来た。終始喧しかった麻衣が俺に縋り付いて来た所為で、周囲からあらぬ誤解が生まれていたが、後輩の叫びを流していた俺には知ることはなかった。
「1年と修羅場に入ったって聞いたが、本当か大地!?」
喧しさが時一に引き継がれたか教室に入ってしばらくすると、遅刻ギリギリな時一が突撃して来てそんなことを言い出した。……とりあえず近い顔を払った。
……たく、どうしてこいつは、こうも騒がしいんだ。何処か後輩に近いものを感じるな。
「う、そんな邪険にしなくてもいいのによぉー」
「男に迫られたら普通に嫌だって……あ」
なんて不貞腐れている大地を見ていると、その背後に現代の剣士……じゃなくて、クラスの大和撫子様がイラついた感じで立っていた。
「朝から煩いわね」
「へ? あ、鷹宮ね――」
「邪魔」
「あい!」
命じられるままに横に退がる時一。というかお前は犬か!
気持ち悪く興奮し頬を染めている犬を見て、俺は本格的にこいつとの付き合いを改めたくなった。
「幸村君。話があるんだけど」
「あ、ああ、もうすぐ授業だし昼休憩にでも――」
「チームの件、本当?」
直球来たぁー。しかも、授業直前で一方的に話し始めた。
一瞬お前もかと思ったが、こいつの場合は少し特殊であった。いや、本当に困った話で後輩にも話していないのだが、実は鷹宮は……。
「正式な手続きはまだだけど、チームを決めたのは事実だ」
「つまり『ランキング戦』にも本格的に参加する意思があるということよね?」
「た、確かに必然的に『ランキング戦』にも出ると思うが、まだそこまで……」
「以前の約束、忘れたとは言わせないわよ」
詰められた。顔を近付けた麗しい黒髪お嬢さんがいらっしゃる。時一だけでなく男子の大半が喜びそうなシチュエーションであろうが、瞳に刃が宿っているが見える俺には別の意味で刺激が強過ぎた。
『……』
気が付いたら騒ついていた教室が静まり返っている。
すっかり見せ物になっているのか、誰もが固唾を飲んで見守っていた。あと時一を筆頭に男子の大半から嫉妬と恨みの視線を向けられていた。
「前までの貴方には戦う意思自体がなかったから見逃したけど、もし『ランキング戦』に出ると言うなら約束は守ってもらうわ」
約束とはあの約束のことだろう。
一方的な約束事のような気もするが、口止め分も含まれている。
後悔するなら『サポート部』を通してこいつのチームに関わってしまったこと。
そして、こいつ――鷹宮朱音の正体に気付いてしまったことだ。
「私と勝負しなさい。負けたら潔く私のチームに入りなさい」
残念ながらこっちの話まで抑えるのは不可能だった。
一瞬にして騒つきが限界値を超えた教室内で、思わず耳を塞いだ俺の前で騒動の張本人は、不敵な笑みを浮かべてこちらを一瞥した後、自身の席へ戻って行った。
あの女……わざと教室で話したな。
余程前回の1件で根に持っていたのか、中々のストレートパンチを受けたことで俺の癒しだった教室は、悪夢の尋問部屋になり変わってしまった。
いや、訂正する。
教室どころか校内全体だった。
「センパイ、何か言い訳あるなら聞きますので、とりあえず事情の方を話してもらいましょうか? 朝の件も大変気になってしょうがありませんでしたが、昼食タイムになったら何故かセンパイと2年の鷹宮先輩という美人さんの話で持ち切りになっているではありませんか。……何したか聞こうじゃありませんか? このナンパセンパイ」
後輩が側に居る時点で安息の機会なんて俺にはなかった。『ナンパセンパイ』ってまた変な呼び方を……。
顔は満面な笑みなのに目が全然笑っていない。後輩の瞳に宿しているのは黒き闇だった。
「事情も何もない……って言ったら嘘になるが、お前が考えてるような話じゃない。鷹宮は同じクラスのエースなんだが、以前からチームに入るように言われていたんだ」
時刻は既に授業が終わっている放課後だった。
クラスどこか他クラスの連中まで騒ぎ聞きつけた野次馬みたいにやって来て、面倒だったからさっさと後輩たちと合流したのだが。
「ほら、やっぱり誤解だったんだって。空だってお兄さんのこと別にそんな風に思ってないでしょう?」
「う、うん、そうだね。……ごめんね? お兄ちゃん」
「いや、分かってくれたのならいい」
スカウトの話が着色されて広まった所為で、後輩どころか一緒にいる妹の空にまで冷たい目で見られている。黙って見られるとまた辛いものがあるが、その隣でフォローしてくれている同じ1年の子のお陰である程度誤解は解けつつあった。
同じ中学だったという九重沙織。
短めの黒髪をした空と同じ運動部。陸上部だったのか引き締まった足腰をしていた。
「こいつに比べたら全然マシだから」
「むか!? マシってなんですか!? マシって!? そもそもは誤解を招くようなことしたセンパイが悪いんじゃありませんか!」
どうにか面倒な誤解は解けた。……肝心の理由などはぼかしてしまったが、厄介な後輩がプンプンしてくれたお陰で話が逸れてくれた。
『ランキング戦』で鷹宮のチームと戦うのなら、やはり話す必要があるんだが、面倒が大きくなるの事実だった。
「結構大きな場所ですねぇー」
「本当にここで合ってるの?」
「す、すごーい……」
「ああ、少し待っていろ」
少し歩いて行くと目的の施設に到着した。
思ったよりも立派な研究施設のような作りが予想外だったのか、後輩を含めた3名は驚きの顔をしている中、俺は入り口の警備員の人に許可書を提出する。
2〜3注意事項を説明されると、入り口が開けられたので中に入って行く。
後ろから慌てて追いかけて来る気配を感じながら先に進んでいると、追い付いた後輩から質問を投げ掛けられた。
「校内の訓練場を貸し切って大丈夫だったんですか?」
「頑丈と言うだけの古い施設だからな。他の機能が少ないから利用者も少ないのを選んだ」
訓練場は校内だけでも十箇所以上。外部なら倍以上存在しているが、今回は校内の施設を利用することが出来た。
フロアは一般の体育館くらいの広さがあり、能力使用が想定されているので頑丈な作りになっている。それだけで十分助かるが、代わりに利用出来る機能は他よりも制限があった。
「まず武器類の種類が限られて本数も少ない。他の施設よりも能力者に対する安全機能が弱い。極め付けはただ広いと言うだけで練習機能もほぼないそうだ」
「ほぼって何かはあるんですか?」
「丸太とかで出来た人形」
「……ショボそうですね」
実際にジョボいし人気もない。大抵の攻撃系の能力なら1発で破壊出来るから意味ないのだ。
ま、だからこそ予約を取るのが簡単だったんだけどな。
お約束とばかりにお泊まりに来た後輩がベットに忍び込んだり、張り合った妹まで便乗する騒ぎがあったが。
「紹介したい子がいるんですよ!」
「2人と同じ学校の子か? 寮暮らしなんだっけ?」
「うん、親との約束だって。一応お兄ちゃんも会ったことあるよ?」
「九重沙織かぁ……悪いが覚えがないな」
翌朝、今度は寝坊しなかった麻衣と妹と朝食を取っていると、2人から友達の紹介を受けていた。正確は俺の後輩であり家で会っているそうだが、正直覚えていなかった。
「その子をメンバーにするのはいいが、大丈夫なのか?」
「はい、信用出来ます。放課後に一緒に訓練場へ来てもらいます」
「それも構わないが、解放された能力はまだ内緒なのか?」
その子に異世界の事情を話すか話さないかよりも、寧ろそっちの方が気になるから把握して置きたいんだが。
麻衣どころか空にまで首を横に振られた。
「はい! 訓練までナイショです!」
「どうせならビックリさせたいからね!」
「はぁ、わざわざ場所を借り切ったんだから、頼むから騒動になるようなことは勘弁してくれよ?」
2人とも楽しそうな笑顔を向けてくる。……正直不安な気持ちの方が大きいんだが、場所は確保しているので、最悪の被害は避けられる筈だし……一応大丈夫か?
「あ、申請ありがとうございますね、センパイ。結構利用者が多くて難しいって聞きましたけど上手く取れたんですね」
「まぁ、そういう施設は無駄に多いからな。この島はさ」
その為にわざわざ佐倉先生に申請したんだ。
新学期の始めは利用者も多い訓練場。島には利用出来る施設は多数存在するが、無駄に広い島な為に利用される範囲は校舎周辺に集まってしまう。
が、事前に予約さえして置けば大丈夫なので、妹たちが受かった時点で予約自体は学園側に取っていた。
昨日、改めて先生に申請を求めたのは、『聞いてない』などと言われない為のさり気ない保険であったのだが……。
『ほぉ? 部活動以外で滅多に利用申請を求めなかったお前が?』
『確かに申請書はあるみたいだな。申請時期は随分前のようだが?』
『そういえば聞いたぞ? 1年の女子たちと組んだそうだが、それが何か関係しているのか? 片方は妹でもう片方は学年1位の素質者だそうらしいが? 柳先生が偉く興奮して話してたぞ?』
もの凄い食いつかれた上にニヤリとした目で覗き込まれた。
獣にでも見つめられてる感があって内心生きた心地がしなかった。
オマケに聞きたくもないトラブルなネタというか、爆弾的な存在まで知ってしまった。よりにもよってあの『ステータス』が見れるあの柳先生に捕捉されるとか。
「お前、目立つなって俺にアレほど言ったのに何やってんだ」
「はい?」
「惚けるな。聞いたぞ? 1年の受験者の中でダントツの1位の素質者だったそうだな?」
「――は、はいぃぃぃぃ!? なんですかそれ!?」
「わざとか? 教員の中で話のネタになってるぞ」
「全然! 身に覚えがないんですけど!? 面接の時だって目立たないようにしてたのに!」
あれ、知らんのか? あ、そういえば受かった際の評価とか成績的な物って見たことなかったけ? ……まさかあの先生、個人情報扱いの成績を俺に暴露したんじゃないだろうな?
「どういうことですか!? どういうことですか!? ちょっとセンパイ!?」
「うるさい」
余計なことを言ってしまったと後になって後悔した。
中々の焦り振りを見せる後輩に最初は面白いなぁ思わなくもなかったが、徐々に鬱陶しく感じるのはやはり愛がないからだろうか。
「お兄ちゃん。早く出ないとまた遅くなっちゃうよ?」
「そうだな。麻衣もいつまでも錯乱してないでさっさと行くぞ」
「錯乱してるのは誰の所為ですか!? ちょっとぉぉぉぉセンパイ!? その前にダントツ1位とかヤバい系の話の説明を! 説明をしてくださいよぉぉぉぉ!?」
騒がしい中でも余裕で学園に着くことは出来た。終始喧しかった麻衣が俺に縋り付いて来た所為で、周囲からあらぬ誤解が生まれていたが、後輩の叫びを流していた俺には知ることはなかった。
「1年と修羅場に入ったって聞いたが、本当か大地!?」
喧しさが時一に引き継がれたか教室に入ってしばらくすると、遅刻ギリギリな時一が突撃して来てそんなことを言い出した。……とりあえず近い顔を払った。
……たく、どうしてこいつは、こうも騒がしいんだ。何処か後輩に近いものを感じるな。
「う、そんな邪険にしなくてもいいのによぉー」
「男に迫られたら普通に嫌だって……あ」
なんて不貞腐れている大地を見ていると、その背後に現代の剣士……じゃなくて、クラスの大和撫子様がイラついた感じで立っていた。
「朝から煩いわね」
「へ? あ、鷹宮ね――」
「邪魔」
「あい!」
命じられるままに横に退がる時一。というかお前は犬か!
気持ち悪く興奮し頬を染めている犬を見て、俺は本格的にこいつとの付き合いを改めたくなった。
「幸村君。話があるんだけど」
「あ、ああ、もうすぐ授業だし昼休憩にでも――」
「チームの件、本当?」
直球来たぁー。しかも、授業直前で一方的に話し始めた。
一瞬お前もかと思ったが、こいつの場合は少し特殊であった。いや、本当に困った話で後輩にも話していないのだが、実は鷹宮は……。
「正式な手続きはまだだけど、チームを決めたのは事実だ」
「つまり『ランキング戦』にも本格的に参加する意思があるということよね?」
「た、確かに必然的に『ランキング戦』にも出ると思うが、まだそこまで……」
「以前の約束、忘れたとは言わせないわよ」
詰められた。顔を近付けた麗しい黒髪お嬢さんがいらっしゃる。時一だけでなく男子の大半が喜びそうなシチュエーションであろうが、瞳に刃が宿っているが見える俺には別の意味で刺激が強過ぎた。
『……』
気が付いたら騒ついていた教室が静まり返っている。
すっかり見せ物になっているのか、誰もが固唾を飲んで見守っていた。あと時一を筆頭に男子の大半から嫉妬と恨みの視線を向けられていた。
「前までの貴方には戦う意思自体がなかったから見逃したけど、もし『ランキング戦』に出ると言うなら約束は守ってもらうわ」
約束とはあの約束のことだろう。
一方的な約束事のような気もするが、口止め分も含まれている。
後悔するなら『サポート部』を通してこいつのチームに関わってしまったこと。
そして、こいつ――鷹宮朱音の正体に気付いてしまったことだ。
「私と勝負しなさい。負けたら潔く私のチームに入りなさい」
残念ながらこっちの話まで抑えるのは不可能だった。
一瞬にして騒つきが限界値を超えた教室内で、思わず耳を塞いだ俺の前で騒動の張本人は、不敵な笑みを浮かべてこちらを一瞥した後、自身の席へ戻って行った。
あの女……わざと教室で話したな。
余程前回の1件で根に持っていたのか、中々のストレートパンチを受けたことで俺の癒しだった教室は、悪夢の尋問部屋になり変わってしまった。
いや、訂正する。
教室どころか校内全体だった。
「センパイ、何か言い訳あるなら聞きますので、とりあえず事情の方を話してもらいましょうか? 朝の件も大変気になってしょうがありませんでしたが、昼食タイムになったら何故かセンパイと2年の鷹宮先輩という美人さんの話で持ち切りになっているではありませんか。……何したか聞こうじゃありませんか? このナンパセンパイ」
後輩が側に居る時点で安息の機会なんて俺にはなかった。『ナンパセンパイ』ってまた変な呼び方を……。
顔は満面な笑みなのに目が全然笑っていない。後輩の瞳に宿しているのは黒き闇だった。
「事情も何もない……って言ったら嘘になるが、お前が考えてるような話じゃない。鷹宮は同じクラスのエースなんだが、以前からチームに入るように言われていたんだ」
時刻は既に授業が終わっている放課後だった。
クラスどこか他クラスの連中まで騒ぎ聞きつけた野次馬みたいにやって来て、面倒だったからさっさと後輩たちと合流したのだが。
「ほら、やっぱり誤解だったんだって。空だってお兄さんのこと別にそんな風に思ってないでしょう?」
「う、うん、そうだね。……ごめんね? お兄ちゃん」
「いや、分かってくれたのならいい」
スカウトの話が着色されて広まった所為で、後輩どころか一緒にいる妹の空にまで冷たい目で見られている。黙って見られるとまた辛いものがあるが、その隣でフォローしてくれている同じ1年の子のお陰である程度誤解は解けつつあった。
同じ中学だったという九重沙織。
短めの黒髪をした空と同じ運動部。陸上部だったのか引き締まった足腰をしていた。
「こいつに比べたら全然マシだから」
「むか!? マシってなんですか!? マシって!? そもそもは誤解を招くようなことしたセンパイが悪いんじゃありませんか!」
どうにか面倒な誤解は解けた。……肝心の理由などはぼかしてしまったが、厄介な後輩がプンプンしてくれたお陰で話が逸れてくれた。
『ランキング戦』で鷹宮のチームと戦うのなら、やはり話す必要があるんだが、面倒が大きくなるの事実だった。
「結構大きな場所ですねぇー」
「本当にここで合ってるの?」
「す、すごーい……」
「ああ、少し待っていろ」
少し歩いて行くと目的の施設に到着した。
思ったよりも立派な研究施設のような作りが予想外だったのか、後輩を含めた3名は驚きの顔をしている中、俺は入り口の警備員の人に許可書を提出する。
2〜3注意事項を説明されると、入り口が開けられたので中に入って行く。
後ろから慌てて追いかけて来る気配を感じながら先に進んでいると、追い付いた後輩から質問を投げ掛けられた。
「校内の訓練場を貸し切って大丈夫だったんですか?」
「頑丈と言うだけの古い施設だからな。他の機能が少ないから利用者も少ないのを選んだ」
訓練場は校内だけでも十箇所以上。外部なら倍以上存在しているが、今回は校内の施設を利用することが出来た。
フロアは一般の体育館くらいの広さがあり、能力使用が想定されているので頑丈な作りになっている。それだけで十分助かるが、代わりに利用出来る機能は他よりも制限があった。
「まず武器類の種類が限られて本数も少ない。他の施設よりも能力者に対する安全機能が弱い。極め付けはただ広いと言うだけで練習機能もほぼないそうだ」
「ほぼって何かはあるんですか?」
「丸太とかで出来た人形」
「……ショボそうですね」
実際にジョボいし人気もない。大抵の攻撃系の能力なら1発で破壊出来るから意味ないのだ。
ま、だからこそ予約を取るのが簡単だったんだけどな。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,659
-
1.6万
-
-
9,538
-
1.1万
-
-
9,329
-
2.3万
-
-
9,152
-
2.3万
コメント