【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

11.ニセ嫁の大ピンチに駆けつける執事が、実は本物の鬼だった件。・その2

 



 ガアン!



 何かを激しくぶつけた音がして、続いて入り口の方で扉がバアン、と派手な音と共に開いた。




「伊織様――っ!!」



      ・・・・・・
 恐らく扉を何らかの方法でこじあけた中松が、こちらへ飛び込んで来た。私の悲惨な様子を見て、一瞬で何が行われているのか理解したのだろう。彼はさっと動いて先ずは撮影している杏香さんをバチーン、と派手な音と共に平手打ちで張り飛ばし、私にのしかかろうとしている男の背後にあっという間に回り込み、首を絞めた。

「く、くるひっ・・・・」

「死んで侘びろや、コラ」

 物凄い力で中松に首を絞められた男は、あっという間に泡を吹いて気絶・・・・(だよね? 死んでないよね!?)してしまった。
 続いて私の腕を押さえつけていた方の男には、馬乗りになって重厚なパンチを何発か浴びせた。蹲った所で、すかさず股間を蹴り上げる。見るからに痛そうで、悲惨な状態だ。目の前の惨劇に、思わず顔をしかめた。
 男は声なき悲鳴を上げ、もんどりうってその場に倒れ込んだ。

「一矢様の一番大切なお方を、しかも無抵抗に震える女性をこんな無情に傷つけるなんて、いい度胸してんなぁ、お前」

 中松は胸ポケットからサバイバルナイフを取り出し、スッと抜いて杏香さんの鼻の前に突きつけた。

「伊織様はなあ、俺の命の恩人なんだ! これ以上手ぇ出したら、本気でブッ殺すぞ? お前みたいな汚れた女が、軽々しく触れていい女性じゃねえから。そこの手下みたいにボコられて侘びるか、それともその薄汚い金のかかった整形面を切り刻んだ代償で払うか、どっちがいい? どっちにしろ、全・く・足・り・ね・え・け・ど・な」

 わざとゆっくり言って、目じりあたりで止めたナイフを左右に揺らし、杏香さんの恐怖を煽る。
 これ・・・・中松だよね?
 なんかキャラが・・・・。おかしくない? 完全に羊が取っ払われて、鬼になっている。
 修行の鬼とはまた違う、本気モードの鬼なんだ。これが、この男の本性・・・・。

 私は中松の変貌ぶりに強く驚いてしまい、襲われていたショックも忘れ、呆然と成り行きを見るしかできなかった。

「決めた」中松が笑いもせずに言った。「先ずは目を抉ってやる」

 躊躇せずナイフを突き立てようと振り上げた。中松がその腕を振り下ろす。あと数ミリ動けば目に刺さるという所でピッタリナイフを止めた。中松によって無理やり目をこじ開けられていた杏香さんは、その目に涙をいっぱい溜めて震えていた。


「怖ぇだろ? 伊織様も泣いて震えていた筈だ。それをお前は非人道的で無常な事を言って、男に襲わせたんだろ。本当にクズ女だな。最低な事しやがって。本気で刺し殺してやろうか、あぁ!? 伊織様や一矢様の為なら、俺は別にムショ入りなんか全然怖くねえぞっ!」


 獰猛な中松が一喝して、再びナイフを振り下ろした。

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