【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

8.ニセ嫁、旦那様(ニセ)の為に、腕を振るって愛妻弁当を作ります。・その6

 朝八時。一矢が何時ものブリオーニのスーツに着替え、身支度を整えて出来立てのお弁当を運んでいる私の前に現れた。


 きゃああーぁん。一矢本当にカッコイイ。
 もう、ニセでも嫁なんだと思うと、顔がにやけちゃうわ。

 あ、でもこんなフニャけた顔をしていたら、またクソに文句言われるから、しゃんとしておかなきゃ。

「伊織、弁当を忘れず作ってくれたのだな」

        ・・・・・
「ええ。勿論よ。旦那様の為(ニセだけど)に作りました」

 にっこり笑ってやった。

「あー」ゴホン、ゴホン、ウェッホン、と一矢がそわそわしながら咳ばらいを何度もした。「う、うむ。愛妻弁当というのも悪くないな。よし、貰おう」

 何時もは使い捨てのお弁当箱(プラ容器)なんだけど、そういうものがなかったから、ゴージャスなお膳みたいなものにお弁当を詰めた。こんなのしか屋敷にはなかったので、お弁当というより重箱に入れたとんかつ御膳みたいになってしまったのよ。重箱だから風呂敷に包んだ。大層なお弁当だ。とにかくそれを渡そうと、手を前に出した。

「大きくて持ち運び難いけど、大丈夫?」

「あー、いい、構わん」

 受け渡しの際、一矢に手が触れてしまった。

「あっ、ご、ごめんなさい」

 愛妻弁当と言われたのがダメージ大きかったのだと思う。何だか恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。ぱっと手を戻して、俯いた。

「あー、その、なんだ・・・・」

 一矢も折角セットした銀髪が乱れるくらい、頭の後ろをぼりぼりと掻いている。「弁当、楽しみにしている。明日もまた私の為に作ってくれ」

「は、はい・・・・」


 何だこの空気。恥ずかしいよぉー。


「では、伊織。行ってくる」

「あ、はい! 行ってらっしゃい、旦那様(ニセ)!!」

 笑顔で手を振って見送った。

「伊織も修業を頑張るのだぞ。期待している」

 リムレスフレームの眼鏡の角度を整え、キリッとした姿勢になった一矢は、中松に自分の持っていた恐らく重要書類であったりとか、様々入っている鞄の方を託し、風呂敷に包んだお弁当の方を大事そうに抱えて出て行った。


 ・・・・よっぽど、お弁当が好きなのね。

 ふふ。

 明日は旦那様(ニセ)のリクエストを聞いて、もっと喜んで貰えるお弁当を作ろーっと!




 そして、一矢を会社に送り届けて戻ってきた鬼松にボロクソにしごかれるニセ嫁であった。ちーん。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品