【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

8.ニセ嫁、旦那様(ニセ)の為に、腕を振るって愛妻弁当を作ります。・その2

 
「私はこの耳ではっきりと中松の意地悪な囁きを聞いたし、不気味な顔で笑っていたでしょ! 見たもの! この目でしかと!」

「証拠はあるのですか?」

「しょ・・・・証拠!? 私が聞いたって言っているのよ!」

「これはこれは」鼻で笑われた。「証拠も無いのに、人聞きの悪い事をおっしゃらないでいただきたいものです」



 があああー!


 ああーっ、今すぐドラゴンになりたい!
 強いドラゴンになって暴れて口から炎出して、この男の涼しい顔を歪めてやりたいっ!!
 頭も焦がしてハゲにしてやりたいわぁーっ!

 でもそんなの出来ないから、こうなったら土下座よぉー!
 見てらっしゃい、鬼松!


 アンタが言ったその台詞、私に囁いたって認めさせて、今までの数々の無礼、大変申し訳ございませんでした、伊織様ーって、土下座で謝らせてやるんだから――っ!


 でもこの鬼に今は叶わないから、修業を積んで絶対討ち取るわ!
 鬼退治よ、鬼退治!!


 今日は桃太郎の気分になった。
 嫌味が飛んで来たら、桃太郎の歌でも心の中で歌ってやりすごそう。

「今日は何をすればいいの」

 つっけんどんに言った。中松は私がキャンキャン吠える様子なんか気にもせず、先ずはテープの上を美しく歩いて下さい、と返してきた。
 私はコルセットを装着した状態でお腹に力を入れ、ひとつ深呼吸をして、いざ勝負、と喝を入れ、歩き出した。


「立ち姿がなっておりませんよ!」


 歩き出した途端、中松の叱責が飛んできた。
 びしっ、とムチで叩かれている姿が目に浮かび、鋭い音まで聞こえてきそうな気がした。

 さらにもう一歩踏み出すと、


「歩く姿はもっとエレガントに! 先日もお伝えした筈です!」


 びしーっっ。さっきより厳しく、ことさら大きな声が飛んできた。
 お腹に力を入れてもう一歩踏み出すと、


「背筋が曲がっていますよ! もっとしゃんとしてくださいっ」


 慌てて背筋を伸ばした。もう、どうやって歩いていいのか解らない。
 たった数メートルの白い線の上を一回歩いただけで、へとへとになってしまった。
 中松の叱責は昨日より酷いものだ。

 肩で息をする私に一瞥をくれた中松は、無情にも言い放った。「もう一度最初からやり直してください」

「はい」

 一矢の為だ。頑張らなきゃ。
 鬼に負けるもんか!

 キッと空を睨み、一度深呼吸。ぐっとお腹に力を入れ、背筋を伸ばして息を止め、テープの上を歩いた。

「やればできるじゃねえか」

 んっ、と思って鬼松を見ると、「姿勢が崩れてますよっ」と早くも叱責が飛んできた。

 慌てて姿勢を戻し、テープの上を歩いた。



 今、絶対、羊の皮取っ払っていた!
 聞いたもの。中松の悪魔の囁き!


 見てらっしゃい。この私がいつか化けの皮を剥いでやるわ!
 鬼退治、してやるんだからっ!!



 

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