【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

2.ニセ嫁修行、始めました。・その4

 
「よかったな、いおちゃん。イチの事、ずーっと好きだったもんなあ」

「なっ・・・・ギンさん! ななな、なんでそれをっ!?」

「いおちゃんがイチを好きな事なんか、みんな知ってるよ」


「あ“――――っ、嘘――――っ!?」


 ばれてーら。なんでーだ。

「朝から甲斐甲斐しく、毎日毎日嬉しそうにイチの為に手の込んだ弁当作ってりゃ、誰でも解るって。ほんで、どっちからプロポった? イチから? いおちゃんから?」

「あ。い、一応、一矢から・・・・」

 あれはプロポーズと言っていいのだろうか。ギンさんは私と一矢が偽装結婚することまでは知らないようだ。言うと怒りだして『今すぐやめろ』と言い出しかねないから、黙っておくことにした。これでも私を実の娘のように可愛がってくれているからね。一矢の事も息子同然みたいな扱いで、お金持ちだからって特別扱いしない。まあ、うちの連中はみんな一矢に対してそうだけど。全員『イチ』か『イチ君』って一矢の事を呼ぶからね。一矢様なんて誰も呼ばない。


「良かったなぁ! 俺が元気なうちに産休取れよー!」


 バーン、と背中をはたかれた。ギンさん・・・・それって一矢と・・・・キャ――――! ま、まままって、こ、こここ、心の準備がまだっ! ワタシハジメテナンデス・・・・。

「いおちゃん、イチにプロポーズされて嬉しいのは解るが、肉、コゲるぞ」

「ああああーっ! し、しまった!」

 鉄板の上に置いたステーキ肉が焦げる前に、ギンさんの方がさっと取り上げてくれた。「まだまだ修行が足りんなぁ、若者よ」ニヤリと笑われた。

「き、気を付けます!」


 いけない、いけない!


 よく焼きのオーダーだったから、助かった。このオーダーはチヨおばあちゃんだ。近所のお婆ちゃんで週に一回店に来てくれる。五十年も通ってくれている大常連の一人で、御年七十歳になる。
 チヨおばあちゃんはよく焼きステーキ、かけるソースは多め、サラダは多め、みそ汁とご飯は少な目。お客様の特徴や好みは、三回以上来店してくれて特殊な希望があれば覚えられるのだけれど、のほほんとしている割に、お母さんはこれらの事をたった一回で覚えちゃうからこれだけは凄いと認めている。でもそれ以外は最低。借金女王が身内にいたら迷惑だし、縁談にも響くということ、先日身を持って体験したばかりだ。

「はあーい、よく焼きステーキ上がったよ!」

 カウンターによく焼きでソースを多めにかけたステーキに、少な目に盛ったご飯を置いた。するとホールが取りに来るので、すかさず熱々のみそ汁を入れる。チヨおばあちゃんの分だから、みそ汁は少な目だ。
 お母さんは自宅(といっても二階)で謹慎させているから、今日のホール担当は高校三年生の弟の琥太郎。今日は土曜日で高校が休みだから手伝いに入らせている。

「1番テーブルのチヨ婆ちゃんの分だね。オーケー」

 琥太郎は手際よくチヨお婆ちゃんのオーダーを銀トレイに乗せ、大股でホールを歩き出来上がったばかりの注文品をテーブルに並べた。チヨお婆ちゃんの嬉しそうな顔をカウンター越しにちらりと見て、私も嬉しくなる。ステーキ焦がさなくて本当に良かった。

「2番、コロッケ、グリル、チャップ大で」

 続いて次のオーダーが読み上げられた。
 琥太郎がチヨお婆ちゃんのオーダーを持って行ったついでに、次のお客様の注文を聞いてきた。コロッケとは、コロッケ定食の事で、グリルはグリルチキン定食、チャップ大はポークチャップ定食でご飯大盛の事。私は焼き場なのでグリルチキンとポークチャップを担当する。グリルチキンは専用のグリルで焼いたチキンを、仕上げにミックスハーブとケチャップとガーリックバターのソースと混ぜたもので味付けし、ポークチャップは分厚い豚肉を良く焼いてケチャップで味付けしたものよ。どれを食べても、とっても美味しいの!



「はいっ」



 全員で大きな掛け声を上げた。連携プレーで今日も忙しいグリーンバンブーのキッチン業務を乗り切るのだ――




 

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