【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

1. 私、一千万円で身売りする事になりました。・その4

 
「伊織っ! わざわざ出向いてやったというのに、この私にコンビニ弁当を食べさせる気か!? あんな添加物まみれの毒を、私に食べろと言うのか!」

 一矢が怒り出した。

「しょうがないでしょおおお――――っ! 今、この店の存続危機なのよ! 一矢のお弁当を作る暇が無いんだってば! ゴメンって連絡入れたじゃない! やむを得ない事情なの!」

「存続危機にやむを得ない事情って・・・・どうしたのだ。まさか・・・・最近伊織がグリーンバンブーの焼き場を担当していると聞いたが・・・・あまりの不味さにとうとうこの店に客が来なくなったのか・・・・」

 青ざめた顔で一矢が言った。

「失礼ねぇ! 違うわよ、大馬鹿者!」

「私に向かって大馬鹿とはなんだ。聞き捨てならないな」

「だから、無理だって言っているの!」

 一体誰が毎日毎日早起きして、一矢の日替わり弁当を作っていると思っているのよ。
 まあ、味は悪くない、とか感想寄こすなんて、性格最悪でひねくれ過ぎでしょ! それ、一矢の誉め言葉だって解っているし!
 気にいらない時は、はっきり『不味かった』と遠慮も無く言うのよ。毎日お弁当の感想がメールで送られてくるから、ヤツの味や好みはしっかり把握したけどね。それが解って欲しいから、わざわざ『感想』とかいうタイトルでメール送ってくるんだ。面倒くさい男。でも好き。ああー!

「一体、何が無理なのだ。理由を説明しないか」

「実は・・・・お母さんのせいで借金一千万円も背負っちゃったのよ! 返す当てがないから、店を売るしか無いって・・・・さっきお父さんが言われたところよ。そこへ、一矢が来たってワケ」

「それはまた・・・・間の悪い時に・・・・」

 流石の一矢も悪いと思ったのか、押し黙った。

「そういう訳だから、ごめんね。今日はお弁当用意できない――」

「それは出来ない相談だ。毎日私が弁当を買ってやるという約束は約束だろう」私の台詞をブッた斬り、一矢はにっこり笑った。「私はここの弁当を、唯一楽しみに毎日仕事を頑張っているのだ。日替わり弁当――今日のメニューは何か、昼になるまでワクワクが止まらないのだ。それが無くなるのは仕事に差し障って非常に困る。中松だって同じ気持ちだろう」

 今、彼が言った中松というのは彼の付き人の事だ。運転手兼マネージャー兼雑用係。黒子みたいなものね。
 ちなみに中松道弘(なかまつみちひろ)は、幼い頃から一矢の面倒を見ていて、何というか忠誠心が凄い。一矢と私が小学生くらいの頃、死にかけている彼を拾ったのがきっかけでボディーガードとして雇う事が決まってから、金魚の糞みたいに一矢に付きまとって――もとい執事的な事をさせられて――いる。

 一矢の家はお金持ちだけどお姉さまたち(一矢には腹違いのお姉さまが二人いる)との確執とか色々あって複雑だから、事情をよく知っている幼馴染の私と中松にしか彼は心を赦していない。高慢ちきでとんでもなく偉そう、嫌味で性格最悪にひねくれている上に意地悪だから、一矢は同じ学校に通う同級生に――本人は認めないが――幼少期に嫌がらせ(というか虐め)をされていた。目撃して何度か追い払ったり庇ったりした事がある。以来、懐かれて(?)しまった。だからきっと、いや多分、友達は私しかいない・・・・ハズ。


 中松が私の作るお弁当を一矢のように楽しみにしているとは思えないが、彼なら一矢に同意を求められたら『その通りです、一矢様』と言うに違いない。ヤツは、忠犬ハチ公ならぬ忠犬中松だから。

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