【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです

さぶれ(旧さぶれちゃん)

1. 私、一千万円で身売りする事になりました。・その1

 



「借金一千万円――――っ!?」




 寝耳に水。晴天の霹靂。その他様々な思いつく限りの類似ことわざ達が私――緑林伊織(みどりばやしいおり)の脳内を駆け巡った。
 ここは都内某所にある老舗洋食店、グリーンバンブー。創業百年を迎える木造の店は古く小さいが昔ながらの趣(おもむき)があり、三代目を継ぐ私の父――緑林一平(みどりばやしいっぺい)とその嫁であり私の母でもある美佐江(みさえ)が、本日の仕込みを始める午前八時半頃より、その店内で家族会議――といっても弟や妹たちは学校があるから私と両親だけ――を開いて私に頭を下げた所で、驚きの事実に大声を上げてしまったところだ。

「まあちゃんが困っていたから、力を貸してあげたくて・・・・」

「伊織、内密にしていてスマン! どうしてもという美佐江の頼みを断れなくて・・・・」

 話によるとお母さんの同級生(まあちゃん)の旦那がラーメン店を開業するにあたり、母に連帯保証人になって欲しいと頼んで来たのだ。家族(というか私)に相談すると大反対されると思った母は困っている同級生を見捨てられず、私に黙って父にだけは相談して保証人になったんだとか。
 しかし同級生が逃げたと発覚し、どうしようもなくなったので遂に私にゲロった(告白した)というワケ。

「バカじゃないのっ! 勝手にそんな保証人なんか引き受けて!!」

「だって伊織に相談したら、反対するだろっ。俺の愛する美佐江が困っていたんだ! 美佐江を助けたとい思うのは当然で仕方がないだろう!!」

 父の逆ギレに私は更に逆ギレで返した。


「こうなる事が解ってるんだから、反対するのはあったりまえでしょおおおおお――――っ!!」


 私の雷に、二人はしゅんとなった。
 はあああー。もう! お父さんは昔からお母さんに甘すぎる!
 のほほんとしてお人よしのお母さん。お父さんが一目惚れして猛アタックして結婚し、グリーンバンブーの看板娘として、美人で愛想のいいお母さんはあっと言う間に人気になったのだけれど、その裏で困ったことが起きるようになった。
 訳の分からないものを常連のお客様に売りつけられても、可愛そうだからと言って断らずにアホみたいな金額を支払ってしまうお母さん。今に始まった事では無く、家族は何時も振り回されっぱなしなの。
 親切というか最早このレベルは病気――のお母さんを『やっぱり俺の惚れた女は違う、優しいなあ』と意味不明な事を言って何でも赦してしまう父。
 そんな事を繰り返すものだから、騙される事この上ない。何時しか私が目を光らせるようになり、印鑑を押す契約・保証人関係は絶対に私を通すようにあれだけ固く誓わせたというのに!!

「同級生のまあちゃんが逃げちゃうなんて、思わなかったのよおー」

「一回くらい思え! つーか疑え! いつもいつも騙されてちゃってさあ! 尻ぬぐいする私の身にもなってよ!!」

「だあってええー」

「だってじゃない! 母親のくせにベソかくな!」

 もう!
 お母さんがこんな調子だから、私が何時も苦労するのよっ!

「伊織! これ以上美佐江をいじめないでくれ!」

 しくしく泣いているお母さんの前に立ちはだかるお父さん。かー。まとめて殴ってやろうか!?

「何で私がお母さんをいじめている事になっているのよ! 二人とも、もっとしっかりしてよ!!」

 胃に穴が開くわ!

「スマンったらスマーン!!」

 お父さんに土下座された。そんな一銭にもならぬ土下座ですむかーい!
 謝る気があるなら、お金作って持ってこーい!

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