冷たい部長の甘い素顔【コミカライズ連載中】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第25話 ずるい

「部長……」

この体勢なら、部長の顔を見ることなく喋れる。

「なんだ?」

部長の胸から、声が直接響く。

「ずるいです」

ほんと、ずるい。

「何が?」

「私ばっかり、ドキドキさせられて、部長はいつも平気な顔して、ずるいです」

私は、部長の顔が見えないのをいい事に、思っている事を吐き出した。

「俺が、爽といて、ドキドキしないと思ってるのか?」

そう言うと、部長は、私の頭を腕で包み込むように、私の耳を部長の胸に押し当てた。

部長の心臓の音が聞こえる。

私と同じくらいドキドキと響く音。

部長も私にドキドキしてるの?

私は、部長の胸から頭を離して、部長の顔を見上げた。

「何で?」

「くくっ、
  『何で?』は、ないだろ?」

部長は苦笑しながら、ウィスキーを口に含む。

「だって……」

部長は、いつも冷静で、冷徹で、落ち着いていて……

なのに、なんで……

「俺だって、好きな女が隣にいれば、ドキドキするに決まってる」

「え?」

今、なんて?

「ほんとに、鈍いヤツ」

部長は、笑って、私の頭をくしゃりと撫でた。

「俺は、爽が好きだよ。」

うそ……

私は驚いて、固まってしまった。

「爽は?」

部長が真っ直ぐに私を見つめる。

「……私?」

「俺の事、嫌いか?」

私はぶんぶんと首を横に振った。

嫌いじゃない。

そりゃあ、初めは、厳しそうだし、怖そうだと思ったけど、話してみたら、全然違った。

優しいし、意外と楽しい。

でも、胸の奥がキュンと締め付けられてるみたいで、苦しい。

「……じゃあ、好きか?」

好き?

私が?

部長を?

どう……なのかな。

私は、心の中で自問自答する。

でも……

うん……

私は、きっと……


大いに考え、迷った私は、顔を上げて、こくんと頷いた。


そっか。
私、部長の事、好きなんだ。

自分でそう認めてしまうと、全てが腑に落ちる。

胸が苦しい理由も、ドキドキが止まらない理由も。

私はそのまま、再び部長に寄り掛かる。

ふふっ
温かい。

すると、部長は私の肩をぎゅっと抱いてくれた。

なんだか、すごく幸せな気分。


おかしいな。

ついこの間まで、2度と恋なんてしないって思ってたのに。

部長といて、こんな幸せな気分になるなんて。




その後、部長はまたタクシーで家まで送ってくれた。

タクシーの中で、部長は、ぎゅっと肩を抱き寄せてくれる。そして、右手は、部長の右手で握ったり、撫でたり。もう、全てが幸せだった。

タクシーが、私のマンションの前に着くと、部長も降りて、私を抱きしめたてくれる。

「ほんとは帰したくないけど……。爽とは、将来を見据えて、ちゃんと地に足のついた付き合いをしたいと思ってるから、ゆっくり行こう」

そう言うと、部長は、私の額にちゅっと優しくキスをする。

「おやすみ、爽」

耳元で優しくささやかれて、たかが「おやすみ」なのに、胸の奥がキュンと締め付けられて、何か特別な思いが届く。

「おやすみ……なさい」

私が答えると、部長は微笑んで、私の頭をくしゃりと撫で、またタクシーで帰っていった。


私、部長と……


私は、ふわふわとした幸せな気分で部屋に入り、幸せの余韻に浸る。

このふわふわは、お酒に酔ってるわけじゃない。

できればこのまま、ずっと部長のことを思っていたい。

そんな風に思ったけれど、昨日までの寝不足のせいで、すぐに眠りに落ち、久しぶりにぐっすりと朝まで眠った。


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