どうにもならない社長の秘密
第八章 どうにもならない社長の事情 1
それから数日後。
光琉は首を傾げていた。
目の前で鏡原社長がそわそわと階下を見下ろしている。
そして「ハァ」っと深いため息をつき、考え込み、彼はまたそわそわと階下を見下ろす。
怪訝そうに眉をひそめているのは光琉だけではない。副社長の荻野も、光琉の隣で同じように首を傾げていた。
クルリと彼に背中を向けた荻野が、こそこそと光琉に聞いた。
「どうかしたの?」
「さぁ、どうしたんでしょうねぇ?」
振り返った先では、右に行ったり左に行ったりしながら、相変わらずため息をついている鏡原社長がいて、彼はしばらくそんなことを繰り返していたが、ふいに慌てたように廊下を走って行った。
「お? どこに行ったんだ?」
荻野と光琉は、早速彼が階下を見下ろしていた場所に立った。
キョロキョロと探していると、二階を歩いている彼の姿が見えた。
「あ……。いましたねぇ」
鏡原社長が足早に向かう先に、女性の人影が見える。それは――。
「ウフフ、やっぱり紫織さんだ」クスクスと光琉が笑う。
「え? 宗一郎、なに? どうかしたの?」
「さぁ? 紫織さんに急ぐ用事でもあるんじゃないですか?」
うれしそうに微笑んだ光琉は、クルッと荻野に向き直った。
「副社長。もしかして副社長って、ものすごーく鈍感?」
怪しむように目を細めて、光琉は荻野を睨む。
「な、なに?」
「私が副社長にあげた誕生日のプレゼント。ちゃんと見てくれました? あれって手作りの特別バージョンだってわかってます?」
「え?」
荻野も宗一郎と同じ日に誕生日プレゼントのチョコレートをもらっている。毎年の恒例のように何人かがプレゼントをくれるが、どれも開けてはいなかった。実を言うと冷蔵庫にそのまま入れてある。
光琉からもらったチョコレートも実はまだ、開けてもいない。
「えっと」
ポリポリと頭をかくようにして誤魔化した。
「――やっぱり。もう知らないっ」
「え?! ちょ、ちょっと光琉ちゃん? いや、宗一郎のと同じものじゃないの? いや宗一郎の次と言うべきか」
「社長には市販のものです!」
「え? あ、そう? え? ちょっと待って。え? だって光琉ちゃん、宗一郎のこと」
クルッと振り返った光琉は、口を尖らせてキッと荻野を睨んだ。
「もう百回くらい言っていますよね? 私は社長を尊敬していますけど、それだけですって! 副社長なんか知らないっ!」
光琉はプリプリと頬を膨らませて自分の席につくと、ツンと澄ましてパソコンに向かった。
「光琉ちゃん……」
荻野は慌てて自分の執務室に戻ると、急いで冷蔵庫を開けて光琉からのプレゼントの包みを開けた。
真っ赤な紙袋から中の包みを取り出して箱を開けてみると、大きなハートの形のチョコレートが一枚あって、そこにはピンクの文字で『LOVE』と描かれていた。
「え?! ええ?」
ポン、とパソコンが軽い音を立てた。
ポップアップメッセージには元木光琉の名前だ。焦りながら開封ボタンを押すと。
『ちゃんと見ましたか? 中身 光琉』
『見た! 見たよ光琉ちゃん ごめん気づくのが遅くて 荻野』
『でも、副社長は紫織さんのことが好きなんですもんね? あきらめます 光琉』
バシッっと机を叩いた荻野は、慌てて部屋を飛び出して、光琉の元へ行った。
「光琉ちゃん、今夜、食事でもどう?」
「どうしようかなぁー」
「ごめん、本当にごめん、マジで誤解してた」
クスクスと光琉が笑い出す。
「しょーがないなぁー その代り、フレンチのフルコースでよろしくです」
「了解」
光琉は首を傾げていた。
目の前で鏡原社長がそわそわと階下を見下ろしている。
そして「ハァ」っと深いため息をつき、考え込み、彼はまたそわそわと階下を見下ろす。
怪訝そうに眉をひそめているのは光琉だけではない。副社長の荻野も、光琉の隣で同じように首を傾げていた。
クルリと彼に背中を向けた荻野が、こそこそと光琉に聞いた。
「どうかしたの?」
「さぁ、どうしたんでしょうねぇ?」
振り返った先では、右に行ったり左に行ったりしながら、相変わらずため息をついている鏡原社長がいて、彼はしばらくそんなことを繰り返していたが、ふいに慌てたように廊下を走って行った。
「お? どこに行ったんだ?」
荻野と光琉は、早速彼が階下を見下ろしていた場所に立った。
キョロキョロと探していると、二階を歩いている彼の姿が見えた。
「あ……。いましたねぇ」
鏡原社長が足早に向かう先に、女性の人影が見える。それは――。
「ウフフ、やっぱり紫織さんだ」クスクスと光琉が笑う。
「え? 宗一郎、なに? どうかしたの?」
「さぁ? 紫織さんに急ぐ用事でもあるんじゃないですか?」
うれしそうに微笑んだ光琉は、クルッと荻野に向き直った。
「副社長。もしかして副社長って、ものすごーく鈍感?」
怪しむように目を細めて、光琉は荻野を睨む。
「な、なに?」
「私が副社長にあげた誕生日のプレゼント。ちゃんと見てくれました? あれって手作りの特別バージョンだってわかってます?」
「え?」
荻野も宗一郎と同じ日に誕生日プレゼントのチョコレートをもらっている。毎年の恒例のように何人かがプレゼントをくれるが、どれも開けてはいなかった。実を言うと冷蔵庫にそのまま入れてある。
光琉からもらったチョコレートも実はまだ、開けてもいない。
「えっと」
ポリポリと頭をかくようにして誤魔化した。
「――やっぱり。もう知らないっ」
「え?! ちょ、ちょっと光琉ちゃん? いや、宗一郎のと同じものじゃないの? いや宗一郎の次と言うべきか」
「社長には市販のものです!」
「え? あ、そう? え? ちょっと待って。え? だって光琉ちゃん、宗一郎のこと」
クルッと振り返った光琉は、口を尖らせてキッと荻野を睨んだ。
「もう百回くらい言っていますよね? 私は社長を尊敬していますけど、それだけですって! 副社長なんか知らないっ!」
光琉はプリプリと頬を膨らませて自分の席につくと、ツンと澄ましてパソコンに向かった。
「光琉ちゃん……」
荻野は慌てて自分の執務室に戻ると、急いで冷蔵庫を開けて光琉からのプレゼントの包みを開けた。
真っ赤な紙袋から中の包みを取り出して箱を開けてみると、大きなハートの形のチョコレートが一枚あって、そこにはピンクの文字で『LOVE』と描かれていた。
「え?! ええ?」
ポン、とパソコンが軽い音を立てた。
ポップアップメッセージには元木光琉の名前だ。焦りながら開封ボタンを押すと。
『ちゃんと見ましたか? 中身 光琉』
『見た! 見たよ光琉ちゃん ごめん気づくのが遅くて 荻野』
『でも、副社長は紫織さんのことが好きなんですもんね? あきらめます 光琉』
バシッっと机を叩いた荻野は、慌てて部屋を飛び出して、光琉の元へ行った。
「光琉ちゃん、今夜、食事でもどう?」
「どうしようかなぁー」
「ごめん、本当にごめん、マジで誤解してた」
クスクスと光琉が笑い出す。
「しょーがないなぁー その代り、フレンチのフルコースでよろしくです」
「了解」
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