どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第五章 幸せを願うということ 9

「ねぇ課長、この中におススメの素敵な人いませんかね。荻野副社長は敵が多そうだから彼以外で」

「ん? そーだなぁ。社長とかどうだ?」

「どこの社長ですか?」

 何しろ今日は大掛かりなパーティだ。来賓のなかには様々な社長がいる。キョロキョロと見回す紫織に、室井は笑う。

「なに言ってるんだよ。うちの社長だよ。鏡原社長」
「は? やだ課長、何を言っているんですか。見る目ないなぁー。あれはダメですよ、性格悪そうだし」

「あれってお前、社長に向かってそれはないだろう?」

 話の途中だというのに、紫織は「あ、陽子さんだ」 と、小さく手を振りながら行ってしまった。

「まったく」
 やれやれとため息をつきながら、室井は呟いた。

 いつもそうだ。
 紫織は鏡原社長の話になると、うんざりしたような顔をして逃げてしまう。

 確かに彼は荻野副社長のように口が上手いわけじゃない。
 どちらかといえばいつ憮然とした表情をしていて不機嫌そうに見えるので、紫織のように大人しい女の子からすれば、同い年とはいっても近寄りがたい感じがするのかもしれない。

 おまけに紫織は、会社の真ん前で彼が女性に平手打ちをされたその場に居合わせてしまった。ショックを受けて当然だろうと思う。

 あの日、紫織は見たことないほど不機嫌そうな顔をして席に戻り、『最低』と吐き捨てるように言っていた。
『なんだ、どうした?』
『いま会社の前で、鏡原社長が綺麗な女の子に泣きながら平手打ちをされていたんです』

『ええ?』
『課長だから言いますけど、その女の子、ポロポロ泣いていて、よほど酷い別れ方をしたんですよ。社長ってクズですね』

『おいおい。なにか事情があるかもしれないし、わざわざ会社に押しかけてそんなことをするなんて、その女の子もおかしくないか?』

『そんなことを言ってると、課長まで最低に見えてきますよ』
 けんもほろろに睨まれた。

 実際、光琉に聞いた話でも問題のある女の子だったらしい。
 でもそれを紫織に言ったところで、彼の印象を変えることはないだろう。

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