どうにもならない社長の秘密

白亜凛

第五章 幸せを願うということ 4

 栞里との出会いはパーティだった。
 ホームページの作成に携わったショップのオープニングパーティーだったと思う。

 そこで彼女を見かけた時、微かに心が動いた。

 ――紫織、何故だかわかるか?
 ほんの少しだけ似ていたんだよ、お前に。

 長くて細い髪の質とか、微笑んだ時の口元が。似ていると思ったんだ。

 しかも名前が『しおり』
 それだけで、その偶然にすがろうとした。

 馬鹿だよなぁ。
 あの女を抱きながら、乱れた髪や喘ぐ口元に、俺はお前の面影を探したんだ。そして。

『――紫織、紫織』
 お前の名前を呼びながら、全然似ていないことに気づくんだ。
 なにひとつ似ていないことに絶望して、打ちひしがれた。

 何を血迷っていたんだろうな、俺は。
 馬鹿としか言いようがない。

「はぁ」
 魂が体から抜けていくような深いため息をついた時。
「宗一郎」と呼ぶ声がして、振り返ると荻野がいた。

「反応、良かったな」
 一瞬なんの話かわからなかった。

「やっぱり彼の曲はいいな、どこか哀愁があって」
 それがいま終わったプレゼンの話だとわかるまでに、ほんの数秒だが時間がかかった。

 それだけ思いにふけっていたのだろう。

「ああ、そうだな」

 会場は明るくなり、ざわざわと賑わい始める。
「鏡原社長」
「ああ、モリ社長、今日はありがとうございます」

 仕事の話の合間に、モリが「美人が多いですねぇ『SSg』は。鏡原社長の好みですか?」と笑った。

「特にあの着物美人、彼女はゲストですか?」
 彼の視線の先を見れば、予想通り紫織がいた。

「ああ、彼女はうちの社員です」
「楚々として、本当に綺麗だ。うん、実にいい」

「あ、あはは。まあそうですね。つい最近転職してきた女性なんですが、婚約者がいるそうで」

 ――え? なにを言ってるんだ、俺は。

「そうですか。それは残念だ」

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